上 下
152 / 159
Chapter2〈4 クラスの王様〉

ep58 ④

しおりを挟む
「どんなに必死になって足掻いたって、お前がやってきた事実は変わらない。へらへら笑ってる腹の底で何考えてるか知ってんだよ。お前がどんなに汚い奴かって。なぁ。傷つけてみろよ前みたいにさ」

 何度も、何度も、何度も。恨み言を吐かれるたびに、衝撃が来る。歯を食いしばって、必死に意識をつなぎとめる。鼻から温かいものが滴った。

 不快だった。繰り返される顔への打撃も。立とうとしても崩れる足も、口の中にたまる鉄の味も、聞こえもしない悠真の恨み言も。そして、僅かに震える彼の手も。全てが不快で不快で仕方なかった。

「お前みたいな奴が、凡人みてーな振りしてんじゃねぇよ篠原ァ゛!!」
 
 突然、バイクのエンジン音が響き渡る。数個のヘッドライトが、悠真や村上達を照らした。

「やべぇ、裏から逃げるぞ!」

 咄嗟に誰かが叫んだ。村上たちが、散り散りになって走りはじめる。日下の足が止まった。悠真が来ていない。

「なにやってんだ、悠真!」

 呆然とした顔で咲乃を見つめ、その場を動かない悠真に、日下がしびれを切らして叫んだ。やっと気付いた悠真も、日下と共に裏口に向かって走って行った。

 力尽きてくずおれる咲乃の横を、数台のバイクが通り過ぎる。バイクは、悠真たちを追い駆け走り去って行った。

「やっべー、バレなくてよかったぁ」

 騒ぎが遠のくのを見計らってから、廃車の中から人が現れた。地面に倒れている咲乃の元へ近づく。咲乃に近い背丈をした少年は、スマホのライトで咲乃を照らした。

「おーい、生きてっかー?」

 煩わし気に咲乃が顔を上げると、フラッシュが焚かれた。

「いやー、いい絵が取れたぜ。これは傑作で間違いなしだな!」

「……そういうのはやめろって言ったよね?」

 咲乃が少年を睨むと、少年は今さっき撮った写真を画像フォルダーに保存した。

「んな怖い顔すんなって。美少年がボロボロになってる姿つーのは、一部に需要があるんだぜ?」

 スマホのブルーライトで照らされた顔は、さも満足そうにニヤつかせている。

「お前なんかに助けを求めなきゃよかった」

 人選ミスだと吐き捨てる咲乃に、神谷はニヤついた顔のまま手を差し伸べた。

「助けてやったんだから、多少の褒美ぐらい許せよ」

 咲乃は溜息をついて、神谷の手を握り返して立ち上がった。

 再びバイクのエンジン音が近づいてきて、5台のバイクが咲乃たちを囲うように停まる。ヘッドライトの強烈な明るさが、咲乃の目に突き刺さった。

「サンキュー、兄貴。助かったぜ!」

 神谷は、バイクから降りた長身のシルエットに向かって手を振った。神谷が兄貴と呼んだその人物は、神谷に向かって軽く手を挙げて挨拶を返すと、気の毒な顔をして咲乃をみた。

「わりーな、遅くなって。こいつが、合図するまで出てくんなって言うからよ」

 赤く髪を染めた高校の学ランを着崩した青年が、腕を組んで神谷を睨みつけている。

「いえ、あれで良かったんです。助けていただいて、ありがとうございました」

 咲乃が頭を下げると、青年は気まずそうに頭の後ろを掻いた。

「そーか? お前が良いならいいけど。お前ら、さっさと後ろ乗れや。バイクがうるせぇって通報されても厄介だから。病院に連れてってやる」

 離れたところで、青年の仲間が西田に肩を貸している。

 咲乃はようやく安心して、改めて青年に礼を言った。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

秘密の男の娘〜僕らは可愛いアイドルちゃん〜 (匂わせBL)(完結)

Oj
BL / 完結 24h.ポイント:560pt お気に入り:8

屋烏の愛

BL / 完結 24h.ポイント:553pt お気に入り:11

邪霊駆除承ります萬探偵事務所【シャドウバン】

ホラー / 連載中 24h.ポイント:3,791pt お気に入り:15

腕の折れた死体

ミステリー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

待ち遠しかった卒業パーティー

恋愛 / 完結 24h.ポイント:9,175pt お気に入り:1,301

炎のトワイライト・アイ〜二つの人格を持つ少年~

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:8

異世界に行く方法をためしてみた結果

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:6

無慈悲な改造を施され捜査員は甘く嬲られる

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:12

女装人間

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:234pt お気に入り:12

理由なき悪意

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

処理中です...