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〈5 錯綜クインテット〉
ep71 HeySiri! 友達のつくり方を教えて?②
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ちなちゃんと朝まで恋バナしちゃお。きゃー、絶対楽しい! 篠原くんの恥ずかしい秘密もこの際握ってやるんだ。あっ、篠原くんの色気に惑わされて、流されちゃだめだよってちなちゃんに注意しておかないと。篠原くんだって、男の子なのだ。油断してはいけない。
「津田さん!」
「は、はいっ!」
急に大きな声で名前を呼ばれて、心臓が飛び出るかと思った。
やべぇ、先生の話全然聞いてなかった。えぇっと、何の話ししてたんだっけ……。
先生が野球部エースの太一先輩が好きで……先生がマネージャーやってて……太一先輩が野球部員全員と寝てたって話?
……………………太一先輩、すっげぇぇ!!!!
「女の友情なんてね、イイオトコを前にしたらクズみたいなものよ。友情や絆なんてクソ寒いこと言ってないで、好きな男が出来たら友情を足蹴にしてでも掴み取りなさい。情にほだされてはダメ。女の最も強大な敵は女なんだから!」
最終下校の予鈴が鳴った。
「さぁ、今日の授業はおしまい。起立」
先生の号令で立ち上がる。
「礼!」
「ありがとうございました」
先生に促されて、相談室を後にした。
後ろでぱたんと扉が閉まってから気づく。
あれ……わたし、友達の作り方を聞いてたんじゃなかったっけ……?
先生、どうやって友達ってつくるんですか! 先生!!
それから数日が経ち、学校にもだいぶ慣れてきた。
困ったことと言えば、休み時間が暇すぎるということだろうか。西田くんは竹内くんと話していたほうが楽しそうだし、ここ最近の篠原くんは、教室を開けがちになっている。きっと、ちなちゃんのところにいるんだと思う。仲が良いことこの上なしだ。
そんな中、わたしは休み時間中、自分の席で漫画アプリを開いて過ごしている。一緒に過ごせるような女の子の友達はまだいない。平和で寂しい学校生活だ。
いじめられていた頃に比べたら、一人ですごしていたほうがずっとマシなんだけど、実はそんなわたしにも気になっている女の子が一人いる。
休み時間になると、いつも教室で絵を描いている子だ。名前は安藤さんと言うらしい。わたしも絵を描くの好きだし、ぜひお友達になりたいと思っている。だけどなんて声をかけたらいいのかわかんないし、なかなか勇気が出ないものだ。そもそも話しかけてもいいんだろうか。迷惑じゃないだろうか。
「もしかして、安藤さんと仲良くなりたいの?」
ある日、篠原くんがわたしに話しかけてきた。学校で篠原くんに話しかけられると、反射的にびくっとしてしまう。でも、どうやらわたしが気にしすぎているだけで、意外にも篠原くんがわたしみたいな三軍の女子に話しかける光景は珍しくないらしい。実際、篠原くんがわたしに話しかけていても、周囲は全く気にも留めていない。
「なんでわかったんですか?」
「授業中もずっと安藤さんの事を見ていたから、友達になりたいのかなって」
片思いを指摘されてるみたいで、めちゃくちゃ恥ずかしくなった。わたし、そんなに見てたかな。
「その、話しかける勇気が……」
「俺が手伝おうか?」
手伝う?
授業が終わると、篠原くんは絵を描いている安藤さんの席に近づいた。
あんな、大人しそうな子に篠原くんが話しかけたら、安藤さん倒れるんじゃないかと心配していたのだが、案外打ち解け合っている様子でびっくりする。
篠原くんが戻ってくると、「午後の体育の授業、ペア組んでくれるって」と教えてくれた。
*
体育の授業は、校庭で陸上競技だ。種目は、短距離走やハードル、走り幅跳びなどの選択種目から好きなものを選ぶ。
篠原くんや神谷くんは、短距離走を選んだようだ。たとえ篠原くんに彼女がいても、片思いをしていたい健気でたくましい女子たちは、みんなそっちに固まっている。
わたしと安藤さんは、あまり走らなくていい走り幅跳びを選択した。二人ペアになって、お互いの記録を取る。最初は会話もギクシャクしていたが、少しずつ話すようになった。
「なんで学校ってさ、何かとペア組ませたがるんだろうね。空気の読み方とか、人との会話の仕方を教えてくれるような授業なんてないのに、そこだけ個人の責任なのおかしくない?」
思っていた通り、安藤さんとはものすごく気が合った。安藤さんも、ずっと体育の授業はペアを組む相手がいなくてしんどい思いをしていたのだろう。自分も絵を描くのが好きだと伝えると、安藤さんはすごく喜んでくれた。休み時間になったら、お互い描いた絵を見せ合おうという話になった。
休み時間の間に、安藤さんと好きな漫画やアニメの話をしながら、自由帳に絵を描いて過ごした。安藤さんは、少年漫画を好んで読むと教えてくれた。ちなみにBLも嗜むという。
オタクは、守備範囲が同じだと友達になるのは早い。すっかり安藤さんとは打ち解け合い、いろんな話が出来るようになった。初めて友達が出来て(篠原くんのおかげだけど)すごく嬉しかった。これからは、篠原くんや西田くんを煩わせることがない。肩身の狭い思いをして学校生活を送ることもないのだ。
「ちょっとトイレ行ってくるね」
「いってら~」
トイレを済ませて教室を戻ろうとしたところで、山口さんと鉢合わせた。一瞬どきっとしたけど、きっと山口さんはわたしのことなんて覚えていないはず。大丈夫、大丈夫。落ち着いて素通りしよう。
「あんた確か、篠原くんのお見舞いの時に本田さんといた子だよね?」
「は、はぇ……」
横を通り過ぎようとしたところで、山口さんに呼び止められて情けない声をして立ち止まった。背の高くてスタイルのいい山口さんの顔を見上げる。
ひぃぃぃ顔、怖ぁ……。美少女だけど、圧、凄ぉ……。
山口さんは品定めするように、目を細めてわたしのことをまじまじと見た。
「ね、そうだよね、確か。篠原くんと同じクラスだったんだ?」
同じクラスであることも知られている!
心臓が速くなって、嫌な汗が体中から吹き出る。篠原くんとは何の関係もなく、穏やかで平穏な学校生活を過ごしたかったのに。
「篠原くんと本田さんがいつから付き合ってるのか、あんた知ってるよね? どっちが先に告白したのかとか、どういうシチュエーションだったのか聞いてない?」
「し……、しりません……」
山口さんに怯え切って震えていると、山口さんは使えないと言いたげなシラけた顔をした。
「本田さんに伝えてくれない? 篠原くんにまとわり付いてるの、目障りだって」
山口さんはニコッと愛想笑いを浮かべると、そのまま通り過ぎた。
わたしは、ただ情けなく震えた。怖くて仕方がなかった。友達ができて、篠原くんや西田くんがいて、教室の中があまりに平和だったからゆるみ切っていたのだ。
今思い出した。学校が、どんなに過酷なところだったかを。
「……あ……あの」
声が震えていた。でも、言わなきゃ。ちなちゃんを守らなきゃ。
山口さんが、苛立たし気に振り向いた。
「なに?」
「山口さんがそんなことを言う権利なんて、あ、あるんでしょうか……」
「は?」
山口さんの目が鋭く吊り上がった。怖い、けど、逃げるわけにはいかない。
「や、山口さんが篠原くんのこと好きなのはわかります。でっ……でもっ、だ、だからってちなちゃんを責めるのはおかしいと思うんです。だ、だって、ちなちゃんを選んだのは篠原くんだし、篠原くんにとってちなちゃんは大切の人で……、ふ、二人の関係に、他人が私的な感情で文句を言うのって、ち、違うと思いますっ!」
言っちゃった……。恐る恐る山口さんの顔を見上げる。山口さんは、鬼のような形相でわたしのことを睨んでいた。
「は……なに偉そうなこと言ってんの……?」
ギッっとすごい目つきで睨まれた。間合い詰め寄られ、慌てて後ろに後退する。山口さんの顔が怖くて、わたしの目から涙があふれた。
「ブタが生意気なこと言ってんじゃねぇよ!」
わたしに掴みかかろうとするように、山口さんの手が伸びた――。
「彩美ー?」
伸びた手が、ぴたりと止まった。
たまたま通りがかったのだろうか、それとも山口さんのことを探していたのだろうか。山口さんに負けないくらい可愛い女の子が、呆れた顔をして山口さんに近づいた。
「何やってんの、もう。授業始まっちゃうよー」
「だっ、だって愛花ぁ……この子がぁ……」
「はいはい、また関係ない子ビビらせてー」
女の子が山口さんに近づくと、途端に山口さんが涙目になって、女の子の胸にすがりついた。女の子は困った子供を扱うように、山口さんの頭を撫でつつ溜息をついている。
「ゴメンねー、この子今ナイーブだからさぁ。ほら彩美、さっさと行こ」
わたしに愛想笑いを浮かべて、女の子は山口さんを連れて行ってしまった。
「怖かった……」
わたしは拍子抜けして、力が抜けてへなへなと床にへたり込んだ。
「津田さん!」
「は、はいっ!」
急に大きな声で名前を呼ばれて、心臓が飛び出るかと思った。
やべぇ、先生の話全然聞いてなかった。えぇっと、何の話ししてたんだっけ……。
先生が野球部エースの太一先輩が好きで……先生がマネージャーやってて……太一先輩が野球部員全員と寝てたって話?
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「女の友情なんてね、イイオトコを前にしたらクズみたいなものよ。友情や絆なんてクソ寒いこと言ってないで、好きな男が出来たら友情を足蹴にしてでも掴み取りなさい。情にほだされてはダメ。女の最も強大な敵は女なんだから!」
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「さぁ、今日の授業はおしまい。起立」
先生の号令で立ち上がる。
「礼!」
「ありがとうございました」
先生に促されて、相談室を後にした。
後ろでぱたんと扉が閉まってから気づく。
あれ……わたし、友達の作り方を聞いてたんじゃなかったっけ……?
先生、どうやって友達ってつくるんですか! 先生!!
それから数日が経ち、学校にもだいぶ慣れてきた。
困ったことと言えば、休み時間が暇すぎるということだろうか。西田くんは竹内くんと話していたほうが楽しそうだし、ここ最近の篠原くんは、教室を開けがちになっている。きっと、ちなちゃんのところにいるんだと思う。仲が良いことこの上なしだ。
そんな中、わたしは休み時間中、自分の席で漫画アプリを開いて過ごしている。一緒に過ごせるような女の子の友達はまだいない。平和で寂しい学校生活だ。
いじめられていた頃に比べたら、一人ですごしていたほうがずっとマシなんだけど、実はそんなわたしにも気になっている女の子が一人いる。
休み時間になると、いつも教室で絵を描いている子だ。名前は安藤さんと言うらしい。わたしも絵を描くの好きだし、ぜひお友達になりたいと思っている。だけどなんて声をかけたらいいのかわかんないし、なかなか勇気が出ないものだ。そもそも話しかけてもいいんだろうか。迷惑じゃないだろうか。
「もしかして、安藤さんと仲良くなりたいの?」
ある日、篠原くんがわたしに話しかけてきた。学校で篠原くんに話しかけられると、反射的にびくっとしてしまう。でも、どうやらわたしが気にしすぎているだけで、意外にも篠原くんがわたしみたいな三軍の女子に話しかける光景は珍しくないらしい。実際、篠原くんがわたしに話しかけていても、周囲は全く気にも留めていない。
「なんでわかったんですか?」
「授業中もずっと安藤さんの事を見ていたから、友達になりたいのかなって」
片思いを指摘されてるみたいで、めちゃくちゃ恥ずかしくなった。わたし、そんなに見てたかな。
「その、話しかける勇気が……」
「俺が手伝おうか?」
手伝う?
授業が終わると、篠原くんは絵を描いている安藤さんの席に近づいた。
あんな、大人しそうな子に篠原くんが話しかけたら、安藤さん倒れるんじゃないかと心配していたのだが、案外打ち解け合っている様子でびっくりする。
篠原くんが戻ってくると、「午後の体育の授業、ペア組んでくれるって」と教えてくれた。
*
体育の授業は、校庭で陸上競技だ。種目は、短距離走やハードル、走り幅跳びなどの選択種目から好きなものを選ぶ。
篠原くんや神谷くんは、短距離走を選んだようだ。たとえ篠原くんに彼女がいても、片思いをしていたい健気でたくましい女子たちは、みんなそっちに固まっている。
わたしと安藤さんは、あまり走らなくていい走り幅跳びを選択した。二人ペアになって、お互いの記録を取る。最初は会話もギクシャクしていたが、少しずつ話すようになった。
「なんで学校ってさ、何かとペア組ませたがるんだろうね。空気の読み方とか、人との会話の仕方を教えてくれるような授業なんてないのに、そこだけ個人の責任なのおかしくない?」
思っていた通り、安藤さんとはものすごく気が合った。安藤さんも、ずっと体育の授業はペアを組む相手がいなくてしんどい思いをしていたのだろう。自分も絵を描くのが好きだと伝えると、安藤さんはすごく喜んでくれた。休み時間になったら、お互い描いた絵を見せ合おうという話になった。
休み時間の間に、安藤さんと好きな漫画やアニメの話をしながら、自由帳に絵を描いて過ごした。安藤さんは、少年漫画を好んで読むと教えてくれた。ちなみにBLも嗜むという。
オタクは、守備範囲が同じだと友達になるのは早い。すっかり安藤さんとは打ち解け合い、いろんな話が出来るようになった。初めて友達が出来て(篠原くんのおかげだけど)すごく嬉しかった。これからは、篠原くんや西田くんを煩わせることがない。肩身の狭い思いをして学校生活を送ることもないのだ。
「ちょっとトイレ行ってくるね」
「いってら~」
トイレを済ませて教室を戻ろうとしたところで、山口さんと鉢合わせた。一瞬どきっとしたけど、きっと山口さんはわたしのことなんて覚えていないはず。大丈夫、大丈夫。落ち着いて素通りしよう。
「あんた確か、篠原くんのお見舞いの時に本田さんといた子だよね?」
「は、はぇ……」
横を通り過ぎようとしたところで、山口さんに呼び止められて情けない声をして立ち止まった。背の高くてスタイルのいい山口さんの顔を見上げる。
ひぃぃぃ顔、怖ぁ……。美少女だけど、圧、凄ぉ……。
山口さんは品定めするように、目を細めてわたしのことをまじまじと見た。
「ね、そうだよね、確か。篠原くんと同じクラスだったんだ?」
同じクラスであることも知られている!
心臓が速くなって、嫌な汗が体中から吹き出る。篠原くんとは何の関係もなく、穏やかで平穏な学校生活を過ごしたかったのに。
「篠原くんと本田さんがいつから付き合ってるのか、あんた知ってるよね? どっちが先に告白したのかとか、どういうシチュエーションだったのか聞いてない?」
「し……、しりません……」
山口さんに怯え切って震えていると、山口さんは使えないと言いたげなシラけた顔をした。
「本田さんに伝えてくれない? 篠原くんにまとわり付いてるの、目障りだって」
山口さんはニコッと愛想笑いを浮かべると、そのまま通り過ぎた。
わたしは、ただ情けなく震えた。怖くて仕方がなかった。友達ができて、篠原くんや西田くんがいて、教室の中があまりに平和だったからゆるみ切っていたのだ。
今思い出した。学校が、どんなに過酷なところだったかを。
「……あ……あの」
声が震えていた。でも、言わなきゃ。ちなちゃんを守らなきゃ。
山口さんが、苛立たし気に振り向いた。
「なに?」
「山口さんがそんなことを言う権利なんて、あ、あるんでしょうか……」
「は?」
山口さんの目が鋭く吊り上がった。怖い、けど、逃げるわけにはいかない。
「や、山口さんが篠原くんのこと好きなのはわかります。でっ……でもっ、だ、だからってちなちゃんを責めるのはおかしいと思うんです。だ、だって、ちなちゃんを選んだのは篠原くんだし、篠原くんにとってちなちゃんは大切の人で……、ふ、二人の関係に、他人が私的な感情で文句を言うのって、ち、違うと思いますっ!」
言っちゃった……。恐る恐る山口さんの顔を見上げる。山口さんは、鬼のような形相でわたしのことを睨んでいた。
「は……なに偉そうなこと言ってんの……?」
ギッっとすごい目つきで睨まれた。間合い詰め寄られ、慌てて後ろに後退する。山口さんの顔が怖くて、わたしの目から涙があふれた。
「ブタが生意気なこと言ってんじゃねぇよ!」
わたしに掴みかかろうとするように、山口さんの手が伸びた――。
「彩美ー?」
伸びた手が、ぴたりと止まった。
たまたま通りがかったのだろうか、それとも山口さんのことを探していたのだろうか。山口さんに負けないくらい可愛い女の子が、呆れた顔をして山口さんに近づいた。
「何やってんの、もう。授業始まっちゃうよー」
「だっ、だって愛花ぁ……この子がぁ……」
「はいはい、また関係ない子ビビらせてー」
女の子が山口さんに近づくと、途端に山口さんが涙目になって、女の子の胸にすがりついた。女の子は困った子供を扱うように、山口さんの頭を撫でつつ溜息をついている。
「ゴメンねー、この子今ナイーブだからさぁ。ほら彩美、さっさと行こ」
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