腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】

Alanhart

文字の大きさ
142 / 149
〈5 錯綜クインテット〉

ep97 終わりにしよう。①

しおりを挟む
 ついばむような口付けを交わした後、稚奈は咲乃の手を引いてベッドまで導いた。ベッドに腰をおろし横になると、咲乃と再びキスを交わす。

 稚奈にとっての初めてに胸をときめかせて、期待と緊張の含んだ目をして咲乃を見つめた。咲乃は、躊躇いと困惑が混ざったような、複雑な顔をして目を伏せる。長い睫毛が美しい瞳に陰をかける、その悩まし気な表情もまた魅入られるほどに美しかった。

「優しくなんて出来ないけれど、それでもいいの?」

 念を押すように咲乃が尋ねると、稚奈は幸せそうに微笑んだ。

「篠原くんなら、いいよ」

 咲乃は苦々し気に眉を顰めると、次の瞬間には顔から表情を消し、瞳に冷ややかさが宿った。

 稚奈の首筋に、口付けを落とす。ちゅっと小さく口接音を立てながら、ついばむようなキスをする。咲乃が言うほど乱暴ではない口付けに、稚奈はたまらなく高揚した。

「……っ……んっ」

 咲乃が口付けるたびに、稚奈の身体は小さく震えた。身体の芯から、甘い高まりとともに、ほのかな熱が静かにくすぶる。疼くような熱を持て余し、稚奈が視線でキスをねだると、咲乃は噛みつくような口付けをして稚奈の要望に応えた。
 徐々に上がって行く息に、奪うようなキスを繰り返しながら、咲乃の指が、稚奈のブラウスのボタンにかかる。その時、玄関のチャイムが鳴った。
 咲乃が稚奈から身体を離すと、稚奈も身体を起こし自身の服の乱れを直した。

「……稚奈、見てくるから、少しだけ待っててね」

 咲乃に視線で促され、稚奈は不満に思いながらもしぶしぶ部屋を出た。今日は両親とも仕事に行っていて、いつもならこんな早くには帰ってこない。
 きっと郵便か何かだろう。そう、軽い気持ちで玄関を開くと、外に立っていたのは、愛らしい花柄の傘を差した山口彩美だった。




*

 彩美は、空から垂れる雨粒を頬に感じると、今朝の天気予報を見て忍ばせていた折り畳み傘を開いた。ほどなくして、ぽつりぽつりと降り始めた雨は、雨脚を長くして広げた傘に激しく降り注ぐようになった。

 彩美は、稚奈の家に訪れていた。咲乃の頼みごとを果たしに来たのだ。
 咲乃の頼み事とは、合唱コンクールの後に稚奈の家へ行くこと。稚奈の家に行って何をしてほしいかまでは指示されていない。
 なぜ、咲乃がそんなことを頼むのかわからなかったが、彩美には望むところだった。稚奈には、言わなければいけないことが沢山ある。稚奈の怪我のことや、嫌がらせのこと、そして咲乃のことも。彩美は、稚奈と直接対決するつもりで、稚奈の家に訪れていた。

 一度深呼吸をしてから稚奈の家のインターホンを押す。チャイムが鳴った長い余韻の後、玄関のドアが開いた。

「山口さん、どうしたの?」

 明らかに困惑した様子の稚奈に、彩美はにこりと愛想良く笑った。

「こんにちは、本田さん。今日は本田さんとお話がしたくて来たの。上がってもいい?」

「……悪いけど、今日はお友達が来てるから、お話は明日にしよ?」

 稚奈は申し訳なさそうに眉を下げて謝った。

 彩美は、稚奈の様子に少しだけ落ち着きがないことに気付いた。先程から、ちらちらと後ろを気にしている。どうやら、先に来ているお友達のことが気になっているらしい。明らかに彩美を、早く帰らせたがっていた。

 彩美は何も気付かないふりをして、悲しい顔でしゅんとしてみせた。

「でも、本田さんに怪我させちゃったこと、謝りたいし……。少しだけでいいから、話したいの。ね、お願い!」

 彩美が食い下がると、本田稚奈の顔が僅かにひきつったのが分かった。

「稚奈、怪我はもう大丈夫だよ? 痛みもないし、お医者さんにも、普通に歩いて大丈夫って言われてるし」

 うすら笑いを浮かべながら言う稚奈に、彩美はぱっと表情を輝かせた。

「そうなんだ、よかったぁ! ずっと心配してたの。足首の怪我、とても痛そうだったから……」

足を引っかけられたあのときのことは、稚奈、怒ってないから大丈夫。心配してくれてありがと」

「ううん、こちらこそ。本田さんが元気で良かった」

 お互いに、愛想笑いを顔中に貼り付けて微笑み合う。稚奈の目の奥が、これで話が終わったから早く帰れと訴えているが、彩美は、こんなところで帰るつもりは微塵もなかった。

「それでね、私、本田さんに聞きたいことがあるんだけど」

「……聞きたいこと?」

 全く帰る気のない彩美に、ほのかにしびれを切らした稚奈は、少しこわばった笑みを浮かべた。

「大したことじゃないの。ただ、どうして本田さん、自分でわざと・・・転んだくせに、芦輪さんに嘘をつかせた・・・・・・のかなぁって」

「……え?」

 彩美の言葉に、稚奈の目の奥に剣がさした。彩美は気付かないふりをして、不思議そうに人差し指を唇につける。

「私ね、芦輪さんに聞いちゃったの。どうして私のせいにしたの? って。そしたら芦輪さんね、本田さんに命令されたって言ってたの」

「何言ってるの? 稚奈がそんなこと、実生ちゃんにさせるわけないじゃん」

 稚奈の表情が、見る間に固いものに変わる。彩美はその表情の変化を心の底から楽しみながら、首を傾げた。

「芦輪さん本人が言ってたから、間違いないと思うけどぉ……。もしかして、芦輪さん嘘ついてたのかなぁ? 芦輪さんって、本当は本田さんのこと、嫌いみたいだもんね?」

「……いい加減にしてよ。実生ちゃんが稚奈のこと嫌いなわけないでしょ!? 実生ちゃんのこと悪く言わないで!」

 稚奈が叫ぶ。彩美は口元に微笑を湛えたまま、冷たく稚奈を見据えた。

「でも私、知ってるもん。芦輪さんが、篠原のことで本田さんに嫉妬してたって。本田さんに嫌がらせしてるところ、私見ちゃったし」

「そんなわけない! 実生ちゃんは稚奈が篠原くんと付き合ってること話した時、すごく喜んでくれたもん!」

 彩美が冷ややかに言うと、稚奈は怒った顔をして彩美に詰めよった。彩美はスマホを掲げ、稚奈のノートを破る実生の映像を稚奈に見せる。

 びりびりに稚奈のノートを破り捨てる、仲良しの友人の姿に、稚奈は顔色を青くして後退った。

「……うそ……そんな……実生ちゃんが……」

 ショックを受けたように両手で口元をおおい、動画にくぎ付けになっている稚奈に、彩美は冷ややかな視線を向ける。ここまでは稚奈の演技だ。芦輪にノートを破かせたのが稚奈であることは、もう分かっている。

「でね、この時に芦輪さんに聞いたの。なんでこんなことをしたのって。そしたら、今までのいやがらせは本田さんに命令されたてやったことなんだって」

「……うそだよ、そんな……。稚奈、そんなことしないもん。実生ちゃんが……嘘ついてるんだ……」

 心からショックを受けたように、稚奈が泣きそうな顔で視線を落とす。何も知らなければ、稚奈が本当のことを言っているように見えただろう。しかし彩美には、稚奈の反応はどれも想定していたものそのままだった。
 稚奈は絶対に、自分が命令してやらせたなんて認めないし、最後まで自分が被害者であることを貫き通すだろう。もし彩美が稚奈の立場だったら、彩美も全く同じことをしたはずだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! *全28話完結 *辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 *他誌にも掲載中です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

処理中です...