それを愛と呼ぶのだろう

稲葉鈴

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21.友へと招待状をしたためる

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 翌日目が覚めたのは、昼前である。夜会の翌日はこうなることが多い。

 朝食兼昼食はしっかりと取って、執事が自分宛てに届いていたと持ってきた手紙に目を通す。それから、三日後の我が家主催の夜会の招待客の一覧もだ。前日でいいとは思うが、念のために。

「父上、一人追加してもよろしいでしょうか」
「構わんがね」

 自分以外の家族も、朝食兼の昼食であった。その席で、父に確認を取った。来るかどうかは分からないが、ケルッコにも招待状をしたためる。なんのかんので、会えていないのだ。メルヴィ嬢を、ちゃんと紹介しておきたいじゃないか。

 今日のキースキ伯爵家の夜会にも、明日のルミヤルヴィ侯爵家の夜会にも、ケルッコは参加していない。自分が参加するのであるから、マーサロ侯爵家のケルッコが参加する必要はないのだ。



 女性と違って男にはそれほど、礼装の種類はない。必要ない、と言い換えた方がいいだろう。王宮や侯爵家以上へ伺う時の燕尾服、伯爵家以下の夜会であれば、タキシードで済む。それぞれ三着もあれば、着まわすことが出来る。ポケットチーフにボウタイ、カフス。この辺りを変えれば、印象も変わる、というわけだ。

 昨日のクレーモア子爵家に参加した際のタキシードは黒に近いグレーのものを選んだが、さて。今日のキースキ伯爵家へのタキシードはどれにするべきか。

 自分は職務上、それなりに有している方だとは思う。この時期は、連日夜会にお茶会であるからして。

 しかし好んで所有している各々方と比べると、まあ貧相なワードローブである。楽で良いのだが。

「本日はそちらのオフホワイトになされませ」
「濃い色の方が良くないか」
「本日はキースキ伯爵家でございましょう。淡い色の方を彼の家は好まれます」
「ではそうしようか」

 母付きのメイドがするりと部屋に入ってきて、共にワードローブを覗き込む。毎年、この時期には世話になっている。

 彼女はその間にハンカチーフとボウタイ、カフスボタンを選んでいく。ハンカチーフは淡いオレンジ、タイはベストと同じ淡いグレー、カフスボタンは家紋入りの焦げ茶色。まあ、そつのない組み合わせだ。ハンカチーフだけが、自分にしては派手ではあるが。

 特に母上から呼び出されることもなく、陽が傾くころに屋敷を出てメルヴィ嬢を迎えに行く。

「いつもとは、少し趣が違いますね」
「今日お伺いするキースキ伯爵家は武門の家系です。ですので、淡い色を好むのです」
「どうしてですか?」
「汚れが目立つからですよ」

 この身に汚れなどついていない、潔白である。そういう証明になるからである。

 ご招待くださったコスティ・キースキ伯爵令息は、音楽会にはいらしていなかったように思う。王宮騎士団に出仕されているので、たまにお会いする。殿下方の警護の件であったり、食堂であったり。職務中でなければ、親しく雑談もさせていただいている。あの音楽会の日はまあいいが、誰かから話を聞いて呼びつけてきたのだろう。もしくは誰かに頼まれて自分に招待状を送ってきたのかもしれない。

 そっと、メルヴィ嬢が本日の装いを見下ろした。淡い黄色のカクテルドレスである。今日もよく似合っている。自分のハンカチーフの色とは合わなかったが許して欲しい。あまり黄色系のハンカチーフは持っていないのだ。今後は合わせて調達するだろうが。

 ちなみにご自身たちが好むだけなので、あまりこちらの服装に何かを言ったりはしない。よほどの時は、お伝えされるかもしれないが。

「たしかコスティ先輩の姉上は、女性騎士だったはずですよ」

 本日夜会に参加されているかどうかなどは知らないが、王女殿下方の護衛をされていた記憶がある。ハンナマリ第一王女とともにミエト国に行かれた記憶はないので、国内に居られるはずだ。

 馬車は昨日に引き続き、ゆっくりと走る。空は少しずつ暮れていっている。昨日は主催側であったから早めに行って待機をしたが、今日は急な招待客である。開始より遅く行っても問題はない。何なら夕食を食べてから行って、顔だけ出して帰る、というのもありではある。複数の夜会に招待されてしまい、どれにも出席をしないといけない手合はそうしている。自分もやったことがある。

 何なら昨日、ルミヤルヴィ侯爵令息が似たような事を行っていた。開始前にはいらしたが、乾杯の後すぐに帰宅された。この時期、侯爵家の次期当主は忙しかろう。

「来年以降は、夜会などが続く用でしたら、当家にお泊り頂くことになるでしょうね」
「そうですね。迎えに来ていただくのが、少し心苦しいですし」
「両親も兄夫婦もおりますし、母に長く仕えてくれているメイドに衣装の相談も出来ますから、本当は今年こそ来ていただいた方が良いのかもしれませんが」

 流石にまだ婚約のお披露目式も行っていない状態で、屋敷に泊まってもらうのは気が引ける。フィルップラ候子が似たような事をやっているので問題はない気もするが、あそこは両家の……いや、侯爵家の方は事後報告だったと聞いているな。

「婚約のお披露目のお式の後も、夜会は続かれるのでしょうか?」
「夜会も続きますが、結婚式が続きますので」
「どこかで相談の時間を、設けていただけると」
「そうですね。その方がよろしいでしょうね」

 それでメルヴィ嬢の気持ちが落ち着くのであれば、母上と兄上の奥方に相談しておこう。実際にお二人に会えるのは明日の昼間以降になるだろうから、一旦御者に言伝ておけばよかろう。

 さてキースキ伯爵家は広い。

 現伯爵家当主のみが生活する場ではなく、王都並びにその近郊で勤務する者の寮も兼ねているからだ。

 しかし我が家などと比べて違うのは、前庭がない、という点だ。庭を作るのであれば、そこを鍛錬の場をしたい、として、前庭をなくした。無論広い馬車止めなどはあり、そこに申し訳程度に植栽がある。庭師の努力の跡が見て取れる。

 また王城に近い方の貴族街にはあるが、門の近くでもある。有事の際にすぐに門の守りを固められるように、という大事な任務も勿論あるが、一番は声である。鍛錬の声が周囲に響いて迷惑をかけることを考えた、そんな広さを有しているのである。

 門から入って、左側に大きな建物が二つ。音楽会を執り行ったケッロサルミ侯爵家では、あれは講堂であったがこちらでは武道館である。二つともだ。

 本日のダンスパーティの会場は、その内の大きい方となる。

 その武道館の向かい側、私達から見て右側には、とても大きい建物群がある。あれは本館ではない。本館を取り巻くように立っているのが、一族の寮である。と、以前先輩から聞いたのだ。

 馬車を下りてダンスパーティの会場へと向かう道すがら、そんなことをメルヴィ嬢へとお話した。彼女は驚いているのか、頷くだけである。まあ、知っていても、実際に見ると大きいのであるから、気持ちは分かる。

「招待状を拝見いたします」
「こちらを」

 入り口の前には、列が出来ている。そこに、揃いの騎士服を着た一団が、緊張した面持ちで招待状の確認に来ている。年若いところからして、慣れていないだけであろう。探せばきっと、彼等より手慣れたもの達もいるだろうが。

「ご案内いたします」

 私の名前と、招待者の名前の確認である。招待客のリストとの照合というよりは、招待者のリストと照合し、入場する入り口が異なるようだった。キースキ伯爵家はおそらく現在王都にいるものも多いだろうか、そうなっているのだろう。
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