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30.婚約の贈り物
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ルミヤルヴィ侯爵家の夜会の日は、クレーモア子爵家にメルヴィ嬢をお送りし、クレーモア子爵にルミヤルヴィ侯爵家の夜会であったことをお伝えして、自分はメラルティン伯爵家へと帰宅した。それなりに早めに夜会を退出させていただいたので、夜ではあるがまあまだそこまで更けてはいない。
メルヴィ嬢が諸々の寝支度を整えても、夜半にはなるまい。
帰宅した自分は執事に両親が戻っているかと問うた。まだ帰宅していなかったので先に風呂に入らせてもらった。寝支度が整っても帰って来なければ、伝言をしたためればよろしかろうと一息ついている間にご帰宅された。夜会の夜は、そんなものである。
ルミヤルヴィ侯爵家の夜会についてかいつまんで説明をすると、父はルミヤルヴィ侯爵と同じように、額を覆ってため息を吐かれた。私も同じ気持ちである。
「大事にはなりましたが、前侯爵夫人がメルヴィ嬢に同情を寄せられましたので、まあ問題はありませんでしょう」
「お前たちはもう大丈夫であろうな。私と侯爵だけが、まあ、何か強い酒でも開けるか」
「よろしくお願いいたします」
「いい、いい。お前たちに不備がないと証明できたのだから、あとはこちらの面子の話だ」
果たしてそれは酒を飲みながらする話なのだろうかという疑問があるが、それはきっと、派閥の上に立つものと、それを長く友として支えてきた実績のあるものにしか分からぬ話なのであろう。
なので一旦、そちらは置いておくとして。
「母上に、お願いが」
「あら殊勝なこと」
「メルヴィ嬢に、メルラ石のついたラリエットを贈りましたでしょう。本日とても助けていただきましたエンホ伯爵令息夫人が、長らく探し求めていたとかで」
販路を求められる程度には探されていたらしい。何があったのかの仔細をお話して、取り扱いのある商人を紹介して貰えないかと伺う。自分は領地の方に伝手はないので。
「そうねえ」
「他にも何人かの方から、同様の打診がですね」
あれが割合高価な石である、という認識はある。領の外にあまり流通していないのも存じ上げている。
「あなたはなんて答えたの」
「即答しかねるので、両親に相談してから、と」
「どうしましょうかしらねえ」
「お茶会でも開いて、招待してあげたらどうだ。領内の商会を教える分には問題なかろう」
そんなに、領の外に出すのが嫌なのだろうか。首をひねる自分に、母はふ、と息を吹き出すように笑う。
「割れやすいから、大粒を求められると困るのよ。メルヴィさんにお贈りしたようなものなら、お譲りできるのですけれどね」
「ああ、それは伝えたように思います」
宝石が好きな女性なら、自分より詳しかろうと言っていないかもしれない。先輩方に言ってもな、と思って、お伝え忘れているかもしれないが。
「でも、そうね。一度私が会ってお話してみてからでも、よろしいわよね」
メルヴィさんともまだ、お茶もしていないのだしと、母上はころころと笑われた。その辺りは自分に出来ることはないので、完全にお任せしてしまおう。
お茶会の招待状についても、自分の名前で出すよりも母の名前で出した方がよろしかろうから、母にお願いをする。勿論、明日の内に先輩方にはその旨を自分がお知らせするとして。
「今日はもう休みます。流石にいささか疲れました」
「そうだろうな。おやすみ」
「おやすみなさい」
まだ戻って来ない兄夫婦を待たずに、その日、私は就寝した。
翌日兄夫婦に聞いた所、お二人は可哀想な弟の話をご友人方にばらまいてきたという。特にメルヴィ嬢の、お茶会で紹介されただけなのに、我が家の方に婚約者を横からとるとは、と抗議文が来たあたりに、女性陣はいたく憤慨されたとか。
「よほど、婚約のお披露目式は大事なものなのですね」
「ええとても。
あれは嫁入り先のお家で行うものでしょう。どれだけ準備をして下さっているかで、どれほど望んでいただけているのかを確認するものなのです」
「それをしていただけないだなんて、望まれていない、というお話になってしまうんですよ」
母と兄の奥方の話に、頷いておく。父と兄も同じように頷いていたところ、あまり理解していないようである。
母にせよ兄の奥方にせよ、幼い時からの婚約者であり、この家のことについてはよく知っているし、姑にもよく知られているから、メルヴィ嬢よりは嫁いでくるのに抵抗はなかったのではないだろうか。
まあ、単なる憶測であるが。特に兄の奥方に関しては、子供の頃からたまにお会いしていた方である、という気安さもこちらにあるのかもしれない。
その日は方々へと手紙を書いた一日であった。メルラ石に関することであるとか、もしかしたら噂を聞いてしまったかもしれないヒエッカランタ卿へ釈明の手紙であるとか。直属の上司であるヒエッカランタ卿へ連絡しておけば、殿下方には伝わるであろう。
それから、ヒエッカランタ卿とフィルップラ候子と、殿下から婚約のお祝いの品が届いた。自分宛であったので一旦開封をした。流石に、中に目を通さないわけにはいかないからだ。
フィルップラ候子からは、ご婚約者であるアハマニエミ伯爵令嬢の姉上が数年前に大流行させた青いドレスの、反物であった。当時母と姉と、兄の奥方が揃って誂えていた、あれである。
メルヴィ嬢も喜ばれるであろうか。これはメイドに頼んで、包み直して貰った。
殿下からは、ヒーデンマー侯爵家の特産品である貝殻のボタンをたくさんいただいた。これを使って揃いで何か仕立てるとよろしいと手紙付きである。これもまた、メイドに頼んで包み直してもらった。
ヒエッカランタ卿からは、フフタ伯爵令嬢にちゃんと相談したのだという一筆が付いたお手紙であった。そのお手紙はいらない、という思いと、ちゃんと相談していただけたことに対する安堵がないまぜになった微妙な気持ちである。
こちらも反物であった。女性が好みそうな、とても細かいレースである。
自分が手を触れる類のものではないな、と判断し、メイドに包み直してもらう。ところでこの手紙は、いやこの手紙も一緒にメルヴィ嬢に見ていただこう。
一息ついていたら、今度は先程メルラ石について母がお茶会を予定しているそうだ、とご連絡さしあげた先輩方からお返事が届いた。お返事とともに、お祝いの品が届く。
皆様の奥方にいわく、子爵家のご令嬢であればドレスが足りないはずであると。メラルティン伯爵家であれば何とかは出来るであろうが、クラミ子爵家関連の噂は彼女について回るであろうから、領地の特産で染めた反物を、贈らせていただく、と。
とても、ありがたいお話である。
これは自分一人がお礼のお返事を書いてよろしいものではないので、明日、メルヴィ嬢にも一筆添えていただいてから、お返事を送らせていただくことにした。無論、あて名書きなどはこちらで終わらせておく。
今日やるべきところは、そんなところだろうか。
メルヴィ嬢が諸々の寝支度を整えても、夜半にはなるまい。
帰宅した自分は執事に両親が戻っているかと問うた。まだ帰宅していなかったので先に風呂に入らせてもらった。寝支度が整っても帰って来なければ、伝言をしたためればよろしかろうと一息ついている間にご帰宅された。夜会の夜は、そんなものである。
ルミヤルヴィ侯爵家の夜会についてかいつまんで説明をすると、父はルミヤルヴィ侯爵と同じように、額を覆ってため息を吐かれた。私も同じ気持ちである。
「大事にはなりましたが、前侯爵夫人がメルヴィ嬢に同情を寄せられましたので、まあ問題はありませんでしょう」
「お前たちはもう大丈夫であろうな。私と侯爵だけが、まあ、何か強い酒でも開けるか」
「よろしくお願いいたします」
「いい、いい。お前たちに不備がないと証明できたのだから、あとはこちらの面子の話だ」
果たしてそれは酒を飲みながらする話なのだろうかという疑問があるが、それはきっと、派閥の上に立つものと、それを長く友として支えてきた実績のあるものにしか分からぬ話なのであろう。
なので一旦、そちらは置いておくとして。
「母上に、お願いが」
「あら殊勝なこと」
「メルヴィ嬢に、メルラ石のついたラリエットを贈りましたでしょう。本日とても助けていただきましたエンホ伯爵令息夫人が、長らく探し求めていたとかで」
販路を求められる程度には探されていたらしい。何があったのかの仔細をお話して、取り扱いのある商人を紹介して貰えないかと伺う。自分は領地の方に伝手はないので。
「そうねえ」
「他にも何人かの方から、同様の打診がですね」
あれが割合高価な石である、という認識はある。領の外にあまり流通していないのも存じ上げている。
「あなたはなんて答えたの」
「即答しかねるので、両親に相談してから、と」
「どうしましょうかしらねえ」
「お茶会でも開いて、招待してあげたらどうだ。領内の商会を教える分には問題なかろう」
そんなに、領の外に出すのが嫌なのだろうか。首をひねる自分に、母はふ、と息を吹き出すように笑う。
「割れやすいから、大粒を求められると困るのよ。メルヴィさんにお贈りしたようなものなら、お譲りできるのですけれどね」
「ああ、それは伝えたように思います」
宝石が好きな女性なら、自分より詳しかろうと言っていないかもしれない。先輩方に言ってもな、と思って、お伝え忘れているかもしれないが。
「でも、そうね。一度私が会ってお話してみてからでも、よろしいわよね」
メルヴィさんともまだ、お茶もしていないのだしと、母上はころころと笑われた。その辺りは自分に出来ることはないので、完全にお任せしてしまおう。
お茶会の招待状についても、自分の名前で出すよりも母の名前で出した方がよろしかろうから、母にお願いをする。勿論、明日の内に先輩方にはその旨を自分がお知らせするとして。
「今日はもう休みます。流石にいささか疲れました」
「そうだろうな。おやすみ」
「おやすみなさい」
まだ戻って来ない兄夫婦を待たずに、その日、私は就寝した。
翌日兄夫婦に聞いた所、お二人は可哀想な弟の話をご友人方にばらまいてきたという。特にメルヴィ嬢の、お茶会で紹介されただけなのに、我が家の方に婚約者を横からとるとは、と抗議文が来たあたりに、女性陣はいたく憤慨されたとか。
「よほど、婚約のお披露目式は大事なものなのですね」
「ええとても。
あれは嫁入り先のお家で行うものでしょう。どれだけ準備をして下さっているかで、どれほど望んでいただけているのかを確認するものなのです」
「それをしていただけないだなんて、望まれていない、というお話になってしまうんですよ」
母と兄の奥方の話に、頷いておく。父と兄も同じように頷いていたところ、あまり理解していないようである。
母にせよ兄の奥方にせよ、幼い時からの婚約者であり、この家のことについてはよく知っているし、姑にもよく知られているから、メルヴィ嬢よりは嫁いでくるのに抵抗はなかったのではないだろうか。
まあ、単なる憶測であるが。特に兄の奥方に関しては、子供の頃からたまにお会いしていた方である、という気安さもこちらにあるのかもしれない。
その日は方々へと手紙を書いた一日であった。メルラ石に関することであるとか、もしかしたら噂を聞いてしまったかもしれないヒエッカランタ卿へ釈明の手紙であるとか。直属の上司であるヒエッカランタ卿へ連絡しておけば、殿下方には伝わるであろう。
それから、ヒエッカランタ卿とフィルップラ候子と、殿下から婚約のお祝いの品が届いた。自分宛であったので一旦開封をした。流石に、中に目を通さないわけにはいかないからだ。
フィルップラ候子からは、ご婚約者であるアハマニエミ伯爵令嬢の姉上が数年前に大流行させた青いドレスの、反物であった。当時母と姉と、兄の奥方が揃って誂えていた、あれである。
メルヴィ嬢も喜ばれるであろうか。これはメイドに頼んで、包み直して貰った。
殿下からは、ヒーデンマー侯爵家の特産品である貝殻のボタンをたくさんいただいた。これを使って揃いで何か仕立てるとよろしいと手紙付きである。これもまた、メイドに頼んで包み直してもらった。
ヒエッカランタ卿からは、フフタ伯爵令嬢にちゃんと相談したのだという一筆が付いたお手紙であった。そのお手紙はいらない、という思いと、ちゃんと相談していただけたことに対する安堵がないまぜになった微妙な気持ちである。
こちらも反物であった。女性が好みそうな、とても細かいレースである。
自分が手を触れる類のものではないな、と判断し、メイドに包み直してもらう。ところでこの手紙は、いやこの手紙も一緒にメルヴィ嬢に見ていただこう。
一息ついていたら、今度は先程メルラ石について母がお茶会を予定しているそうだ、とご連絡さしあげた先輩方からお返事が届いた。お返事とともに、お祝いの品が届く。
皆様の奥方にいわく、子爵家のご令嬢であればドレスが足りないはずであると。メラルティン伯爵家であれば何とかは出来るであろうが、クラミ子爵家関連の噂は彼女について回るであろうから、領地の特産で染めた反物を、贈らせていただく、と。
とても、ありがたいお話である。
これは自分一人がお礼のお返事を書いてよろしいものではないので、明日、メルヴィ嬢にも一筆添えていただいてから、お返事を送らせていただくことにした。無論、あて名書きなどはこちらで終わらせておく。
今日やるべきところは、そんなところだろうか。
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