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31.婚約のお披露目式は本館の応接室で
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婚約のお披露目式は昼間行う。お茶の時間だ。午前中の場合もあれば午後の場合もある。
今回は、本日我が家では夜会もあるため、午前中の開催とさせていただいた。それから昼食をともにし、女性陣はメルヴィ嬢の衣装についてお話をされる流れである。特に、皆々様方から贈られた反物をご覧いただく必要がある。
男性陣は特に、やることもない。
婚約のお披露目式は、男性側の家で行うのが一般的であるため、夜会の準備もあるのに我が家の使用人たちには迷惑をかける運びとなった。
我が家にある別棟は夜会用の小講堂が一つと、それから客室棟である。本日の夜会はそちらの小講堂で行われるため、婚約のお披露目式は中庭か本館か客室棟の談話室で行うか、である。
兄の時の婚約のお披露目式は中庭であったというから、今回は本館を使用することとした。母がそう決めた。本館にある、中庭が望める応接室に準備をしていく。
実働は使用人で、指示を出すのは母だ。兄の奥方がそれを隣で見て学んでいる。自分にはもはや口を出す権利はないので、自室かさもなければ玄関脇の応接室で待機していろと命じられてしまった。
暇をしている父と兄と一緒に、玄関わきの応接室で時間をつぶすこととした。その間に、領地について久し振りに話を聞く。数字の上では把握しているので、二人の話にはついていくことは出来た。ただまあ出来ただけであり、上の空である自覚があったので、助言を求められたがお断りした。
「さしものお前でも、浮つくのだな」
「なにを当たり前のことを仰る。そうでもなければわざわざ父上に頭を下げて、クラミ子爵家からの喧嘩を買ってはいただきません」
「お前から頼まれていなくても、あれは買ったがね」
実際のところ、そちらに頭は下げていない。父としても面白くなかっただろうから、あちらの言い値で買い取ったであろう。その結果、ルミヤルヴィ侯爵家とのお話合いになってしまった点は、頭を下げたが。
「ただ」
これは内緒の話ですよ、と、言い置いて、二人にこっそり告げる。
「これが兄上方の言う愛と同じものである、という自信はありません。ただクラミ子爵家から喧嘩を売られて、腹正しく思っているだけかもしれない」
「そんなわけあるか。私は家のことを侮辱されたと取って腹が立ったがね、お前はメルヴィ嬢が今後社交界で居場所がなくなったらよろしくないと怒っていたじゃないか」
「パーヴァリ。それを世間では愛と呼ぶのだよ。相手のことを想うのが、愛でいいんだ」
愛の形というものは、人によって違っていいと、父も兄も言う。良いのだろうか。
「別に私達に、というより、お前にとってもどうでもいい事なんだよ、パーヴァリ。メルヴィ嬢が、お前の婚約者が、奥方が、それがお前からの愛であると受け取れば、それは愛だ」
ああそうか。それでよいのか。それで、あるならば。
「メルヴィ嬢は、私に愛されている、と仰っておりましたね」
彼女を尊重したいと思うこと。
彼女をエスコートすること。
彼女のために、彼女の手からは少し遠い所にある砂糖壺を取ってあげること。
彼女のためにこうして婚約のお披露目式を行うこと。
それらの、そうした方が良い、と思ったことを積み重ねること。それを愛と呼ぶのであれば、それはきっと愛なのであろう。
さて、そろそろ時間であるはずだ。
婚約のお披露目式をするための部屋は整ったようで、母とそれから兄の奥方が私達の待機している玄関わきの応接室へとやってきた。
「間もなく、リューディアお嬢様ご夫妻がお着きになります」
母たちがお茶を飲んで一息ついたころ、執事がそのように伝えに来た。母と兄の奥方にはここで休んでもらっておいて、自分が姉夫婦を迎えに行くことにする。
「あら、まあ」
「なんでしょう」
到着した馬車から、姉が、キュラコスキ伯爵令息にエスコートされて、満面の笑みの姉が下りてくる。彼女は、私を頭のてっぺんから靴のつま先まで眺めて。
「つまらない男だと思っていたけれど、お前。いい顔をするようになったじゃない」
ふふ、と、姉が私を見上げて笑う。やれやれ、なんという。
「本日は、私の婚約のお披露目式にご足労、ありがとうございます」
「姉ですもの、当然よ。お前にはちゃんと、幸せになって欲しいもの」
ねえあなた、だなんて、姉はキュラコスキ伯爵令息にしなだれかかる。はいはい、仲のよろしい事で。
「本日は本館の応接室を使用します」
「そう」
「父上たちは、あちらの応接室にいますよ」
「ああ、ご挨拶させていただこうか」
そこから先は、執事が引き取ってくれたので、お願いした。
すれ違いざま、姉の夫は自分におめでとう、と告げた。そう言えばこの人からのご紹介だったな、とふと思い出す。まあ、どうでもよろしい。
今回は、本日我が家では夜会もあるため、午前中の開催とさせていただいた。それから昼食をともにし、女性陣はメルヴィ嬢の衣装についてお話をされる流れである。特に、皆々様方から贈られた反物をご覧いただく必要がある。
男性陣は特に、やることもない。
婚約のお披露目式は、男性側の家で行うのが一般的であるため、夜会の準備もあるのに我が家の使用人たちには迷惑をかける運びとなった。
我が家にある別棟は夜会用の小講堂が一つと、それから客室棟である。本日の夜会はそちらの小講堂で行われるため、婚約のお披露目式は中庭か本館か客室棟の談話室で行うか、である。
兄の時の婚約のお披露目式は中庭であったというから、今回は本館を使用することとした。母がそう決めた。本館にある、中庭が望める応接室に準備をしていく。
実働は使用人で、指示を出すのは母だ。兄の奥方がそれを隣で見て学んでいる。自分にはもはや口を出す権利はないので、自室かさもなければ玄関脇の応接室で待機していろと命じられてしまった。
暇をしている父と兄と一緒に、玄関わきの応接室で時間をつぶすこととした。その間に、領地について久し振りに話を聞く。数字の上では把握しているので、二人の話にはついていくことは出来た。ただまあ出来ただけであり、上の空である自覚があったので、助言を求められたがお断りした。
「さしものお前でも、浮つくのだな」
「なにを当たり前のことを仰る。そうでもなければわざわざ父上に頭を下げて、クラミ子爵家からの喧嘩を買ってはいただきません」
「お前から頼まれていなくても、あれは買ったがね」
実際のところ、そちらに頭は下げていない。父としても面白くなかっただろうから、あちらの言い値で買い取ったであろう。その結果、ルミヤルヴィ侯爵家とのお話合いになってしまった点は、頭を下げたが。
「ただ」
これは内緒の話ですよ、と、言い置いて、二人にこっそり告げる。
「これが兄上方の言う愛と同じものである、という自信はありません。ただクラミ子爵家から喧嘩を売られて、腹正しく思っているだけかもしれない」
「そんなわけあるか。私は家のことを侮辱されたと取って腹が立ったがね、お前はメルヴィ嬢が今後社交界で居場所がなくなったらよろしくないと怒っていたじゃないか」
「パーヴァリ。それを世間では愛と呼ぶのだよ。相手のことを想うのが、愛でいいんだ」
愛の形というものは、人によって違っていいと、父も兄も言う。良いのだろうか。
「別に私達に、というより、お前にとってもどうでもいい事なんだよ、パーヴァリ。メルヴィ嬢が、お前の婚約者が、奥方が、それがお前からの愛であると受け取れば、それは愛だ」
ああそうか。それでよいのか。それで、あるならば。
「メルヴィ嬢は、私に愛されている、と仰っておりましたね」
彼女を尊重したいと思うこと。
彼女をエスコートすること。
彼女のために、彼女の手からは少し遠い所にある砂糖壺を取ってあげること。
彼女のためにこうして婚約のお披露目式を行うこと。
それらの、そうした方が良い、と思ったことを積み重ねること。それを愛と呼ぶのであれば、それはきっと愛なのであろう。
さて、そろそろ時間であるはずだ。
婚約のお披露目式をするための部屋は整ったようで、母とそれから兄の奥方が私達の待機している玄関わきの応接室へとやってきた。
「間もなく、リューディアお嬢様ご夫妻がお着きになります」
母たちがお茶を飲んで一息ついたころ、執事がそのように伝えに来た。母と兄の奥方にはここで休んでもらっておいて、自分が姉夫婦を迎えに行くことにする。
「あら、まあ」
「なんでしょう」
到着した馬車から、姉が、キュラコスキ伯爵令息にエスコートされて、満面の笑みの姉が下りてくる。彼女は、私を頭のてっぺんから靴のつま先まで眺めて。
「つまらない男だと思っていたけれど、お前。いい顔をするようになったじゃない」
ふふ、と、姉が私を見上げて笑う。やれやれ、なんという。
「本日は、私の婚約のお披露目式にご足労、ありがとうございます」
「姉ですもの、当然よ。お前にはちゃんと、幸せになって欲しいもの」
ねえあなた、だなんて、姉はキュラコスキ伯爵令息にしなだれかかる。はいはい、仲のよろしい事で。
「本日は本館の応接室を使用します」
「そう」
「父上たちは、あちらの応接室にいますよ」
「ああ、ご挨拶させていただこうか」
そこから先は、執事が引き取ってくれたので、お願いした。
すれ違いざま、姉の夫は自分におめでとう、と告げた。そう言えばこの人からのご紹介だったな、とふと思い出す。まあ、どうでもよろしい。
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