百合短編集

南條 綾

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20 小さな桜と太陽

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 朝、ランドセルを背負って家を出るとき、胸の中が少しドキドキする。
それは学校に行くのがこわいからじゃない。
学校にはゆずちゃんがいるからだ。

 ゆずちゃんは、わたしの隣の席の女の子。
髪がふわふわしていて、いつもお花の形のピンをつけている。
笑うとね、ほっぺが少し赤くなって、太陽みたいに明るい。
その顔を見ると、胸がきゅんとなって、ことばが出て来なくなっちゃう。

 授業の途中、ゆずちゃんの消しゴムが転がってきた。

「ゆずちゃん、落としたよ」
 わたしはすぐに手を伸ばして拾い上げて渡した。
ゆずちゃんが小さく笑って「ありがとう」と言ってくれた。
その声を聞いた瞬間、胸の奥がじんわり熱くなっちゃった。
どうしてだろう。たったそれだけなのに、
心の中が春みたいにふわ~~って暖かくて、明るくなっていくの。

 休み時間、ゆずちゃんが走ってきた。
「綾ちゃん、一緒に遊ぼう」
その声を聞くだけで、体の中がぱっと元気になる。
いつも元気だけど、もっともっと元気になる。

 ゆずちゃんが、わたしの手をぎゅっと握ってきた。
その手はあたたかくて、やわらかくて、ずっとつないでいたくなる。
つながってる? っていうのかな。
もうね、ぐわ~って感じになっちゃうの。

 二人で校庭のブランコに行った。
ぎい、ぎいと音をたてながら、ゆずちゃんがこいで、わたしもとなりでこぐ。
風がスカートをふくらませて、空がどこまでも青い。
ゆずちゃんの髪が光に透けて、花びらみたいにきらきらしていた。

「綾ちゃんの髪、さくらみたいだね」
そう言われて、顔が熱くなった。
さくらとは、四月に咲くピンクのきれいな木なんだよ。
かわいい木で私も大好き。
でもすぐになくなっちゃうのが少し残念。

「ゆずちゃんのほうが、太陽みたいだよ」
小さな声で言ったら、ゆずちゃんが目をまんまるにして笑った。

「じゃあ、わたしたち、花とたいようだね」
その言葉が嬉しくて、わたしも笑った。
その時の風の匂い、今でも覚えている。

 放課後。
「綾ちゃん、うちで遊ぼう」
うれしくて、思わず大きくうなずいた。

手をつないで歩くと、ゆずちゃんの手がぽかぽかして、心まであたたかくなる。
玄関を開けた瞬間、甘いお菓子のにおいがふわっと広がった。
お母さんが笑って「いらっしゃい」と迎えてくれる。
その声がやさしくて、胸がくすぐったくなった。

 ゆずちゃんの部屋は、ぬいぐるみがいっぱい。
くまさんもうさぎさんも、まるでおしゃべりしているみたいだった。

 二人でお人形あそびをしていたら、「この子ね、綾ちゃんのこと大好きなんだって」ゆずちゃんが、ふいに言ってきた。

 わたしは笑って、「ほんとに?」と聞き返した。
すると、ゆずちゃんは自分の人形を、わたしの人形にそっと近づけた。
人形のくちびるが、ちゅって小さな音を立てる。

「ほら、ちゅーだよ」

 その言葉と同時に、胸がどきんと跳ねた。
ゆずちゃんが小さな声で言った。
「わたしね、綾ちゃんがいると、毎日がたのしいの」
その言葉がやさしく胸の中に入ってきた。
勇気を出して、わたしも言った。
「わたしも、ゆずちゃんがいないと、さびしいよ」

 ゆずちゃんが笑って、わたしをぎゅっと抱きしめた。
お花のにおいがして、胸がじんわり温かくなる。
涙が出そうだったけど、こらえた。
うれしくて、胸がいっぱいだった。

 それから毎日、わたしたちは手をつないで登校した。
休み時間はブランコ。帰り道は、ランドセルをぶつけあいながら笑った。
雨の日は、一つの傘をさして帰った。

 ゆずちゃんが「ぬれちゃうよ」って、傘をわたしのほうに寄せてくれる。
そのたびに、胸の奥がくすぐったくてうれしかった。

 わたしは思う。
ゆずちゃんの笑顔は、わたしのいちばんの宝物だ。
いつか大人になっても、この気持ちはきっと変わらない。
ゆずちゃん、ありがとう。だいすき。
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