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46 誕生日プレゼント
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今日に限って誰もいない。
絵里は「旦那が今日帰ってくるから」って言って、本日はきっちりお休み。
美優ちゃんは実家に帰る日で、学校からそのまま直帰コース。
せっかくの誕生日なんだけど、こうなるとさすがに「まあ、仕方ないかぁ」って自分に言い聞かせるしかない。
本当は分かってる。
絵里とまた遊ぶようになるまでは、一人で過ごすのが普通だった。
一人で過ごす誕生日なんて、何度も通ってきたはずなのに、今は、さみしいとか思ってる自分がいて、こんな風に感じる自分に苦笑してしまった。
私自身も、ついさっきまで普通に仕事していたわけなんだけどね。
キーボードを打つ手をふと止めて、「あ、誕生日か」と意識した瞬間から、部屋の静けさが急に大きくなった気がした。
この家って、やっぱり広いなって思う。
いつもは絵里が手伝いに来たり、美優ちゃんが来たりして、けっこうにぎやかなのに。
誰もいない家に一人でいると、やっぱり少しさみしく感じてしまう。
中古物件だけど、新築だったら億ション級なんだろうなぁってたまに思う。
5LDKなんて、本来は独り身が持つ部屋数じゃない。
まあ、仕事部屋もあるしね。
「誕生日祝えなくてごめんね。明日みんなで一緒に祝うから、楽しみにしててね」って、絵里が電話で謝ってたっけ。
「別にいいよ。それに今日は、美優ちゃんが実家に帰る日だけど、私の誕生日だから泊ってくれるし」なんて、言っちゃったんだよね、私が。
実際には、美優ちゃんは私の誕生日なんて知らないんだけど。
ちょっとだけいたずらして、二人の怒ったような、困ったような顔が見たかった。
そう考えたら、この状況になるのも自業自得かなぁって思う。
素直に言ってたら、美優ちゃん、本当に泊まりに来てくれた可能性だってあったのに。
後10分で、私の誕生日が終わる。
壁掛け時計の秒針が一つ動くたびに、胸の奥がじわじわと冷えていく気がした。
ケーキもろうそくもないリビングで、私はソファに沈み込んだまま、スマホの画面と時計を交互に眺めていた。
誰からも新しい通知は来ない。
さっきまであんなにうるさく感じていた空調の音も、今はやけに遠くに聞こえる。
残り3分ってところで、玄関のほうからカチャッと金属が触れる音がした。
え、何。
一瞬、空耳かと思って息を止める。
耳だけ玄関の方向に向けるみたいに、全身がそっちに意識を引っ張られる。
一瞬泥棒って身を構える。
ゆっくりとリビングルームの扉が開いた。
そこに立っていたのは、今まさに「会いたいな」と心の中で何度も繰り返していた女の子だった。
暗い廊下の向こうから漏れる明かりを背負って、少し息を切らせながら、こっちを見ている。
一瞬、本気で幻でも見てるのかと思った。
「はぁ、はぁ……間に合いました」
「え?」
「ぎりぎり間に合いました」
「なにが?」
「もぅ。綾さんの誕生日です」
「え……なんで知って」
私は頭の中が追いつかなくて、とりあえずうなずくことしかできなかった。
「え……えっと、綾さん」
「な、何?」
「誕生日おめでとうございます」
「あっ、う……うん」
祝ってもらいたい気持ちはずっとあったのに、あまりにも突然すぎて、現状をちゃんと飲み込めていなかった。
美優ちゃんが小さくステップを踏むみたいに一歩近づいてきた。
そっと私の首に腕を回すと、そのままいきなりキスをしてきた。
唇が離れたとき、そこには耳まで真っ赤にしてうつむく美優ちゃんがいた。
「お祝いにはなりませんか?」
「そんなことない。……ありがとう」
混乱で頭の中ぐちゃぐちゃなのに、その一言だけはなんとか絞り出せた。
その瞬間、零時の時報が、PCから軽い効果音みたいに流れてきた。
「あれ、なんで?」
「絵里さんから連絡があって、明日のことをそうだんされたんです。私は何のことだろうって思って聞き返したら……今日、誕生日だって知って。無我夢中で来ました」
すごく嬉しかった。
でも、その次に頭に浮かんだのは「親御さんは?」ってことだった。
事情を話したら車を出してもらえたらしい。
そこまでさせてしまったんだと思ったら、本当に悪いことをしたなぁって胸がきゅっとなった。
そのあと、ちょっとだけ怒られてしまったのも、正直言い返せなかった。
美優ちゃんからもらったキスは、誕生日プレゼントとしては、きっと普通の人から見たら特別でもなんでもないのかもしれない。
でも、私にとっては、美優ちゃんが初めてくれたキスで。
それだけで、今までのどの誕生日よりも特別で、最高の贈り物だと思った。
一緒の布団に入って、美優ちゃんのぬくもりをすぐそばで感じながら眠りについたとき、
ああ、私は幸せで満たされてるって何度も心の中でかみしめていた。
絵里は「旦那が今日帰ってくるから」って言って、本日はきっちりお休み。
美優ちゃんは実家に帰る日で、学校からそのまま直帰コース。
せっかくの誕生日なんだけど、こうなるとさすがに「まあ、仕方ないかぁ」って自分に言い聞かせるしかない。
本当は分かってる。
絵里とまた遊ぶようになるまでは、一人で過ごすのが普通だった。
一人で過ごす誕生日なんて、何度も通ってきたはずなのに、今は、さみしいとか思ってる自分がいて、こんな風に感じる自分に苦笑してしまった。
私自身も、ついさっきまで普通に仕事していたわけなんだけどね。
キーボードを打つ手をふと止めて、「あ、誕生日か」と意識した瞬間から、部屋の静けさが急に大きくなった気がした。
この家って、やっぱり広いなって思う。
いつもは絵里が手伝いに来たり、美優ちゃんが来たりして、けっこうにぎやかなのに。
誰もいない家に一人でいると、やっぱり少しさみしく感じてしまう。
中古物件だけど、新築だったら億ション級なんだろうなぁってたまに思う。
5LDKなんて、本来は独り身が持つ部屋数じゃない。
まあ、仕事部屋もあるしね。
「誕生日祝えなくてごめんね。明日みんなで一緒に祝うから、楽しみにしててね」って、絵里が電話で謝ってたっけ。
「別にいいよ。それに今日は、美優ちゃんが実家に帰る日だけど、私の誕生日だから泊ってくれるし」なんて、言っちゃったんだよね、私が。
実際には、美優ちゃんは私の誕生日なんて知らないんだけど。
ちょっとだけいたずらして、二人の怒ったような、困ったような顔が見たかった。
そう考えたら、この状況になるのも自業自得かなぁって思う。
素直に言ってたら、美優ちゃん、本当に泊まりに来てくれた可能性だってあったのに。
後10分で、私の誕生日が終わる。
壁掛け時計の秒針が一つ動くたびに、胸の奥がじわじわと冷えていく気がした。
ケーキもろうそくもないリビングで、私はソファに沈み込んだまま、スマホの画面と時計を交互に眺めていた。
誰からも新しい通知は来ない。
さっきまであんなにうるさく感じていた空調の音も、今はやけに遠くに聞こえる。
残り3分ってところで、玄関のほうからカチャッと金属が触れる音がした。
え、何。
一瞬、空耳かと思って息を止める。
耳だけ玄関の方向に向けるみたいに、全身がそっちに意識を引っ張られる。
一瞬泥棒って身を構える。
ゆっくりとリビングルームの扉が開いた。
そこに立っていたのは、今まさに「会いたいな」と心の中で何度も繰り返していた女の子だった。
暗い廊下の向こうから漏れる明かりを背負って、少し息を切らせながら、こっちを見ている。
一瞬、本気で幻でも見てるのかと思った。
「はぁ、はぁ……間に合いました」
「え?」
「ぎりぎり間に合いました」
「なにが?」
「もぅ。綾さんの誕生日です」
「え……なんで知って」
私は頭の中が追いつかなくて、とりあえずうなずくことしかできなかった。
「え……えっと、綾さん」
「な、何?」
「誕生日おめでとうございます」
「あっ、う……うん」
祝ってもらいたい気持ちはずっとあったのに、あまりにも突然すぎて、現状をちゃんと飲み込めていなかった。
美優ちゃんが小さくステップを踏むみたいに一歩近づいてきた。
そっと私の首に腕を回すと、そのままいきなりキスをしてきた。
唇が離れたとき、そこには耳まで真っ赤にしてうつむく美優ちゃんがいた。
「お祝いにはなりませんか?」
「そんなことない。……ありがとう」
混乱で頭の中ぐちゃぐちゃなのに、その一言だけはなんとか絞り出せた。
その瞬間、零時の時報が、PCから軽い効果音みたいに流れてきた。
「あれ、なんで?」
「絵里さんから連絡があって、明日のことをそうだんされたんです。私は何のことだろうって思って聞き返したら……今日、誕生日だって知って。無我夢中で来ました」
すごく嬉しかった。
でも、その次に頭に浮かんだのは「親御さんは?」ってことだった。
事情を話したら車を出してもらえたらしい。
そこまでさせてしまったんだと思ったら、本当に悪いことをしたなぁって胸がきゅっとなった。
そのあと、ちょっとだけ怒られてしまったのも、正直言い返せなかった。
美優ちゃんからもらったキスは、誕生日プレゼントとしては、きっと普通の人から見たら特別でもなんでもないのかもしれない。
でも、私にとっては、美優ちゃんが初めてくれたキスで。
それだけで、今までのどの誕生日よりも特別で、最高の贈り物だと思った。
一緒の布団に入って、美優ちゃんのぬくもりをすぐそばで感じながら眠りについたとき、
ああ、私は幸せで満たされてるって何度も心の中でかみしめていた。
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