百合短編集

南條 綾

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63 聖夜は、まだ終わらない

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 聖夜の街は、息を吐くたびに白く溶けていく。
イルミネーションの光が雪に反射して、まるで地面まで星が降りてきたみたいだった。

 私は、瑠偉と手を繋いで、駅前から少し離れた裏通りのカフェに向かっている。
瑠偉は私の隣で少し早足で、コートの襟を立てて頬を赤く染めていた。
時々、私の手をぎゅっと握り直す。そのたびに、胸の奥が熱くなる。

「寒くない?」瑠偉が小声で聞いてきた。

「平気だよ。瑠偉の手、あったかいから」

 そう答えると、瑠偉は恥ずかしそうに目を伏せた。
まつ毛に雪が少し乗っているから、指で払ってあげたい衝動がわいてきた。そんなことしたら危ない人だよ。
私はただ、自分の心をごまかすように、もう少し強く手を握り返しちゃった。


 カフェは古いビルの二階にあって、階段を上がるたびに木の軋む音がした。
扉を開けると、店内はふわりと暖かい。ジャズのレコードが小さく流れていて、窓の外の白さまで柔らかく見える気がする。高校生の私たちにとっては少しだけ背伸びしたようなお店。

 窓際の二人掛けの席に座ると、外の雪がよく見えて綺麗だった。

「今日は……来てくれて、ありがとう」

 瑠偉がメニューを見ながら呟く。

「瑠偉が誘ってくれたんだから、当たり前でしょ」

 私は笑って、ホットチョコレートを注文した。瑠偉は、ミルクティー。
飲み物が運ばれてきて、しばらくは窓の外を見ていた。
雪が少し強くなってきた。人通りもまばらで、街が静かになっていく。
なんだか、イルミネーションと雪が降っていって宝石箱の中を見ているみたい。

「ねえ、綾、クリスマスイブに、私なんかと過ごして……いいの?」

 その声は小さくて、震えていた。
私はゆっくりとびっくりした目で瑠偉の方を向いてしまった。
その瞬間瑠偉は、少しびくっとなって椅子を少しひいたみたいに、木のコスリ音が私の耳に聞こえてきた

「瑠偉なんかって、何?」

私がそう言ったら、瑠偉は目を伏せたまま、唇を噛んでいた。

「だって、私……綾に比べて、なんにも特別なところなくて……」

 私はため息をついて、テーブルの下で瑠偉の膝に手を置いた。
このまま言わせたら、走り去っていく気がして、逃げないよって、言葉より先に伝えたくて捕まえちゃった。

「瑠偉は瑠偉で、私にはそれが全部特別なんだよ」

 瑠偉が顔を上げる。瞳が少し潤んでいた。

「去年の今頃は、一人でコンビニのチキン食べてたんだよ? 今年は瑠偉と一緒にいられる。それだけで、もう十分すぎるくらい幸せ」

 瑠偉は黙って、私の手を握ってきた。指が絡まって、離れなくなった。しばらくして、カフェを出た。雪は本格的に降り始めていて、街灯の光が白い粒を浮かび上がらせている。

「どこか行きたいところ、ある?」

 私が聞くと、瑠偉は少し考えてから、小さく首を振った。

「どこでもいい。綾と一緒にいられたら」

 その言葉に、私は瑠偉を引き寄せて肩を抱いた。
コートの生地越しに体温が伝わってくる。触れたところから、心まであったまっていくみたいだった。
公園の方へ歩いた。ベンチには雪が積もっていて、誰もいない。
私達は、街灯の下に立って、瑠偉を見た。

「瑠偉」

 名前を呼ぶと、瑠偉が顔を上げた。
私はそっと頬に手を当てて、唇を重ねた。冷たい空気の中で、瑠偉の唇だけが熱かった。
最初は軽く触れるだけだったのに、瑠偉が私のコートを掴んできた瞬間、もっと深くキスした。
雪が降り続ける中、どれくらい時間が経ったかわからない。
離れた時、瑠偉の頬が真っ赤で、息が白く混じり合っていた。

「綾……大好き」

 瑠偉が震える声で言った。私も、同じ言葉を返した。
その後、公園の奥にある小さな展望台まで歩いた。
街が一望できて、イルミネーションが宝石みたいに輝いている。
肩を寄せ合って、雪を見下ろす。

「来年も、再来年も……ずっとこうやって、一緒にいたい」

 私が言うと、瑠偉は私の腕に顔を埋めた。

「うん……ずっと」

 雪は止む気配なく降り続いていた。
でも、私たちにはそれが心地よかった。
この夜が、少しでも長く続けばいいと思って。
時計が零時を回る頃、瑠偉を送るために駅に向かった。
改札の前で、もう一度抱きしめる。

「メリークリスマス、瑠偉」

「綾も……メリークリスマス」

 瑠偉は少し泣きそうな顔で笑った。そして、電車が来るまで、私の手を離さなかった。電車が去ってからも、私はしばらく改札の前で立ち尽くしていた。手のひらに残る瑠偉の温もりが、この冬を越えてずっと続いていくような気がした。

聖夜は、まだ終わっていない。
明日は聖夜本番今度は私が誘ってみよう。
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