百合短編集

南條 綾

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79 銀髪のリボンと、青い瞳の約束

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 今日は、特別な日だ。朝から胸がざわざわして、どうにも落ち着かない。宿舎の小さな鏡の前で、何度も銀色の髪を梳いてはため息をついた。

 長い銀髪は、朝の柔らかな光を浴びると雪みたいに輝いて、ちょっと自慢でもあり、昔はコンプレックスでもあった。田舎の村では「雪女みたい」ってからかわれたりして嫌だったけど、今は……この髪を、アーリアが「綺麗」って言ってくれるから、大好きになった。

 ピンクのリボンでゆるくツインテールにまとめて、今日は少し冒険して淡いグレーのワンピースにした。スカート丈は膝上くらいで、動きやすくて可愛いと思った。首元には小さな青い石のペンダント。アーリアが前に「似合うよ」って言ってくれた物だった。

 アーリアはあの、魔法学院で一番優秀で、みんなが憧れる人。金色の明るいハニーブロンドの髪を、いつもさらりと下ろしてる。少しウェーブがかかってて、陽に当たると蜂蜜みたいに透き通って見える。瞳は深い青で、冷静で知的な雰囲気なのに、私にだけは柔らかく微笑んでくれてると思う。

 出会いは、学院の図書館だった。私が古い魔導書を高い棚から引っ張り出そうとして、バランスを崩して落としちゃったとき。慌てて拾おうとしたら、横からスッと手が伸びてきて、本を受け止めてくれた。

「大丈夫?」

 その声が優しくて、顔を上げたらそこにアーリアが立ってた。金髪が少し揺れて、青い瞳が心配そうに私を見ている。

「……ありがとうございます」

 声が震えちゃって、顔が熱くなった。それが始まりだった。

 それから、図書館で隣に座るようになって、休日に王都の街を一緒に歩くようになって、授業の合間に魔法の話をしたり、本の感想を言い合ったり。そして今日、初めての「デート」だと思いたい。

 待ち合わせは、王都中央広場の大きな噴水の前、午後二時。私は三十分以上前に着いてしまって、噴水のふちに座って足をぶらぶらさせながら待っていた。

 春の陽射しが暖かくて、花壇の花々が鮮やかに咲き乱れている。子供たちが笑いながら走り回っていて、街は賑やかだ。でも、私の心臓だけはドキドキが止まらなかった。

 アーリアはどんな服で来るんだろう。いつも学院の制服姿しか知らないから、プライベートの彼女が全然想像できない。きっと、すごく可愛いんだろうな……。

「アヤ」

 後ろから突然声をかけられて、びくっと振り返る。そこに立っていたアーリアは……本当に、息を呑むほど綺麗だった。

 白いブラウスに淡い水色のロングスカート。金髪はハーフアップにしてあって、残りの髪が肩に優しくおろしている。耳元には小さなパールのピアス。いつもより柔らかい感じだった。

「ご、ごめん! 待たせた?」

「ううん、私が早すぎただけ。……アーリア…すごく可愛い……」

 思わず本音が漏れて、慌てて口を押さえる。アーリアは一瞬目を丸くして、それからくすっと笑った。

「ありがとう。アヤも、そのワンピースすごく似合ってる。銀髪にピンクのリボン、可愛い」

 照れて視線を逸らすけど、心の中はもう幸せでいっぱいだった。

「じゃあ、行こうか。今日はどこに行きたい?」

 彼女が私の隣に並んで、優しく聞いてくる。

「えっと……アーリアと一緒なら、どこでもいいよ」

 本当の本音だった。アーリアは少し困ったような、でも嬉しそうな顔をして微笑んだ。

「じゃあ、まずは街を散歩して、私のお気に入りのカフェに行こう。老舗で、すごく落ち着くところなんだ」

「うん、楽しみ!」

 二人で並んで歩き始める。王都の石畳は少しでこぼこで歩きにくいけど、アーリアが自然に私の手を握ってくれたから、安心して歩けた。その手はすごく温かくて、少し震えてるみたいだった。

……もしかして、アーリアも緊張してる?

カフェは広場の奥まった路地にあった。レンガ造りの小さな建物で、入り口に手書きの看板。店内に入ると、甘いお菓子の香りとハーブの香りが混ざって、ほっとする。

「いらっしゃい」

優しそうなおばあさんが迎えてくれる。私たちは窓際の二人席に座った。外には通りを行き交う人たちがよく見えて、なんだか世界に二人だけみたいな気分だった。

「ここ、入学したての頃によく来てたの。一人で本読んだりして」

 アーリアがメニューを見ながら教えてくれた。

「へえ……そんな寂しい時期があったんだ」

「うん。王都に出てきたばかりで、人が多くて戸惑ったし、友達もいなくて……」

 少し遠い目をするアーリアを見て、胸がぎゅっと締め付けられる。

「でも、今は私がいるよ。これからは、ずっと一緒にいよう」

 思わず言ったら、アーリアが顔を上げて、私をじっと見て……それから、優しく微笑んだ。

「……ありがとう、アヤ」

 その瞳が、少し潤んで見えた気がした。

 注文したのはアーリアおすすめのローズヒップティーと、フルーツたっぷりのタルト。ゆっくりお茶を飲みながら、学院のこと、魔法のこと、好きな本のこと、なんでもない話をたくさんした。時間があっという間に過ぎていく。

「ねえ、アヤ」

 突然アーリアが少し真剣な声で言った。

「なに?」

「今日、誘ってくれてありがとう。私……実は朝からずっと緊張してた」

「え、私も! 昨夜ほとんど眠れなかったもん!」

 二人で顔を見合わせて、くすくす笑った。

 カフェを出た後は、街の雑貨屋を何軒も回った。小さなアクセサリー屋で、私が青い石のヘアピンを見つめてたら、こっそり買ってくれた。

「これ、アヤの銀髪に絶対似合うと思って」

 プレゼントされて、びっくりして、それからすごく嬉しくて。

「ありがとう……大事にするね」

 アーリアの金髪を指で少し触りながら、私も小さなリボンのブローチをプレゼントした。

「これ、…金髪に似合うかなって」

 アーリアがぱっと顔を明るくして、すぐにブラウスに付けてくれた。

 夕方近くになって、川沿いの遊歩道を歩いた。夕陽が水面に反射して、きらきら光っている。

「今日は、ほんとに楽しかった」

 アーリアが静かに言った。

「うん、私も。アーリアと過ごす時間、夢みたい」

 少し黙って歩いて、それから立ち止まった。

「アヤ」

「ん?」

 振り返ると、アーリアが真っ直ぐ私を見てた。

「私……アヤのことが、好きです。大好き」

 突然の告白に、頭が真っ白になった。

「え……えっと……」

 言葉が出てこなくて、ただアーリアの金髪が夕陽に輝くのを見つめる。彼女は、少し不安そうに目を伏せた。

「ごめん、急に……嫌だったら……」

「違う! 私も……私も、アーリアのことが大好きだよ! 図書館で初めて会った時から、ずっと……」

 やっと絞り出した言葉に、アーリアの顔がぱっと明るくなった。

「ほんと……?」

「うん、ほんとに。アーリアの金髪が綺麗だなって思ったのが最初で、それから笑顔とか、声とか、全部好きになって……」

 アーリアが、そっと私の手を両手で包んだ。

「嬉しい……私も、アヤの銀髪に一目惚れしたみたいに、気になってた」

 二人で照れくさそうに笑って、それから手を強く握り合った。夕陽が、私たちを優しくオレンジに染めていた。
その後も手を繋いだまま、ゆっくり宿舎まで戻った。門の前で別れ際、アーリアが名残惜しそうに言った。

「また、すぐに会おうね」

「うん、約束。今度は私が誘うね」

 アーリアがにこっと笑って、それから……私の頬に、そっと唇を寄せた。温かくて、柔らかくて、びっくりして固まっちゃった。

「じゃあ、おやすみ」

 恥ずかしそうに微笑んで、アーリアは宿舎の中へ消えていった。

 私はその場に立ち尽くして、頬に残る感触を何度も確かめた。銀髪が風に揺れて、夕陽の残光を浴びている。今日は、ほんとに夢のような一日だった。
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