百合短編集

南條 綾

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81 膝の上の永遠

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 私の膝の上に、彼女はそっと頭を預けてきた。

「……重くない?」

 小さな声。いつもの少し掠れたトーンが、今日はやけに近くて柔らかい。

「全然。むしろ軽すぎて不安になるくらい」

 私は自然と指を彼女の髪に滑らせた。さらさらとした黒髪が指の間をすり抜けて、まるで水みたいに流れ落ちる。彼女は目を閉じたまま、ほんの少しだけ唇の端を上げた。

 この距離感が、最近やけに心地よい。

 最初はただの偶然だった。配信後の打ち上げで、酔った勢いでソファに並んで座って、疲れ果てた彼女が私の肩にもたれかってきた。あのときも同じように「重くない?」って聞いてきたっけ。私は冗談めかして「むしろ乗っててくれ」って返したら、彼女、顔を真っ赤にしてそのまま固まってた。

 それから何度か、同じようなことが続いた。

 肩→腕→太もも→そして今は、膝枕。

 段階を踏むように、少しずつ境界線が溶けていった気がする。

 彼女の吐息が私の太ももの内側に当たるたび、ぞわっと甘い電流が走る。こんなところでこんな気持ちになるなんて、ちょっと自分でも情けないと思う。でも止められないから仕方ないよね。

「……綾の匂い、好き」

 唐突に呟かれた言葉に、私の手が一瞬止まる。

「え、今なんて?」

「聞こえてたでしょ」

 彼女は目を閉じたまま、意地悪っぽく小さく笑う。ずるい。こっちは心臓がうるさいのに、向こうは平然としてるみたいで。不意打ちはよくないと思う。

「私だって……美都の香り、好きだけど」

 声に出した瞬間、恥ずかしさが一気に押し寄せてきて、思わず彼女の髪をぎゅっと握ってしまう。

「痛っ……って、嘘。もっと強くてもいいよ」

「……本当に?」

「うん。綾に壊されたいくらいには、思ってる」

 その一言で、何かが決定的に切れた。

 私はゆっくりと彼女の髪をかき上げて、耳元に唇を寄せる。熱い吐息が彼女の耳たぶを撫でる距離まで。

「じゃあ……壊してあげよっか」

 彼女の体が、びくんと小さく跳ねた。

 そのまま私は彼女のあごを軽く持ち上げて、ゆっくり顔を近づける。目が合う。ちょっと潤んで、ちょっと怯えて、でもすごく期待してるような瞳だった。

「いいよね?」

 最後の確認。

 彼女は答えの代わりに、そっと目を閉じた。

 それが合図だった。

 最初は、触れるだけの羽みたいに軽いキス。でも次の瞬間、理性がほどけていって、角度を変える。唇が重なり直して、深く、もっと深く。

 彼女の唇は柔らかくて、少し震えていて、甘いリップの味がした。舌先が触れ合うと、彼女が小さく「あっ……」って声を漏らして、私の太ももに指を食い込ませてくる。

 痛いくらいの力が、逆にすごく愛おしい。

 キスを続けながら、私は彼女の背中に手を回して、ぎゅっと抱き寄せた。膝の上にいるはずなのに、もっと近くに、もっと深く、もっと全部欲しくなる。息が苦しくなるまで、どれくらい時間が経っただろう。

 ようやく唇を離すと、彼女は目を潤ませて、頬を真っ赤にして、荒い息をついていた。

「……やばい、頭くらくらする」

「私も」

「綾のせいだからね? 責任取ってよ」

「責任って……何を?」

 彼女は少し意地悪そうな笑みを浮かべて、私の耳元で囁いた。

「今夜は……ずっと、このまま膝枕してて」

「……それだけ?」

「ううん」

 彼女は私の首に腕を回して、ゆっくりと体を起こす。そして私の耳たぶを軽く甘噛みしながら、吐息混じりに続けた。

「朝まで、私のこと……離さないで」

 その言葉に、私はもう何も考えられなくなった。

 ただただ、彼女を抱きしめて、髪を撫でて、頬にキスして、首筋に唇を這わせて――膝の上にいる最愛の女の子を、今夜は絶対に手放さないと、心に誓った。

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