【百合】Liebe

南條 綾

文字の大きさ
20 / 36
4章 なんでこのようなことに?

11話 あの時の感覚が私を襲う

しおりを挟む
 久しぶりに、バイトの予定がなく、部活に集中できる日だった。女子サッカー部のグラウンドは、夕方の柔らかな陽光に包まれていた。

 土の匂いが少し湿り気を帯び、風がピッチを優しく撫でていく。ミニゲームの合間にストレッチをしながら、私は仲間たちの動きを眺めていた。最近、みんなの動きが少しずつ良くなっている気がする。でも、まだどこか噛み合わない。それでも、今日はサッカーができる。それだけで、胸の奥が静かに熱を帯びていた。

 急に、顧問の先生に呼ばれた。「あの時みたいに帰れって言われるのかな」と思ったけど違った。

「綿津見、お前を少し貸してくれと男子部から打診があったが、どうする?」

 私は一瞬、考えた。でも、答えはすぐに決まった。

「先生が行けというのなら行きます。相手がだれであれ、サッカーですので」

 先生は少し私の顔を見て、考え込んだあと、頷いた。

「なら、少し行ってこい。そっちの方が思いっきりできるかもしれないしな」

 ちょうどミニゲームの後半に入るタイミングだった。キャプテンが私の肩を叩いて、小声で言った。

「あの時の仕返しかもしれないから、気をつけなさい」

仕返しってないと思う。私は軽く首を振った。もしあったとしても、どうでもいいと思った。誰であれ、サッカーができる。それだけで十分。男子部のグラウンドに足を踏み入れると、上野君が待っていた。

「よく来たな、綿津見」

「まさか部活中に呼ばれるとは思わなかった」

 男子部員たちがちらちらとこちらを見ている。何か囁き合っているけど、気にしない。男子部の顧問にも挨拶をして、すぐに準備を始めた。

 今日は攻撃5人、守備5人の練習試合形式らしい。審判は上野君がやるという。私は攻撃チームに振り分けられた。最初は、いつものように違和感があった。オフサイドラインを意識して、最高のタイミングで飛び出したつもりだった。

 笛が鳴った。オフサイド?私のイメージと、味方のイメージが合っていない。次は飛び出さずにボールを受け取って、保持する。マークが少し外れた瞬間を見てパスを出したけど、味方が追いつけず、パスミスになってしまった。

「周囲を見ろよ!」

「反対側、フリーだったぞ!」

 仲間から声が飛ぶ。もちろん、反対側は見えていた。でも、そこにパスを出したら、すぐにカットされる罠のような気がした。通っても、そこで攻撃の芽が摘まれる。チーム練習だから、一人で切り込みすぎるのも違う。私は手伝いに来ているだけ。

 それに、男子のフィジカルは圧倒的だ。無理に突っ込めば、簡単に潰される。そんなやり取りを、かれこれ10回ほど繰り返した頃だった。

 私がボールを持ってパスを出そうとした瞬間、上野君が急にホイッスルを鳴らした。

「シビ、そのパスじゃ今度は遅え! お前らも動き出しが遅いから、パスミスになるんだろうが。少し変われ」

 上野君がピッチに入った瞬間、グラウンドの空気が変わった。まるでピシッと張り詰めた糸が走ったように、緊張感が一気に高まる。校舎裏で会った時の、柔らかい雰囲気とはまるで別人だった。上野君の号令で、練習形態が変わった。

 攻撃陣は私と上野君の2人だけ。守備陣は3人。変則的な2on3。私はボールを持って、相手陣地へ攻め入る。相手は、私に1人、上野君に1人、そして私たちの間にパスカットを狙う1人がポジションしていた。
フォローの動きも含めると、常に数的劣勢は当たり前だった。私は抜けるのを我慢して、タイミングを計った。目の前の一人を抜いても、パスが通らなければ意味がない。何度もフェイントを繰り返す。抜けそうで抜けない、相手を誘う動き。そして、チャンスが来た。今だ。目の前の守備を一瞬で抜き去る。

 同時に、タイミングよく前に出てきた上野君のマークがパスカットを狙って前に出る。右側からもう一人が寄ってくる。左側は空いているけど、そこにパスしてもすぐに取られる。なら私は、思い切りのいいパスを出した。通らなかったら意味がない。でも、通れば次も生きるパスをした。

 そんな掛けの一本。パスを出した瞬間、私はゴールに向かって全速力で走り出した。来た。私が走った先に、ボールが来た。

 本当に、完璧な軌道で、こんなタイミングは初めてだった。転がってきたボールを、ノートラップで振り抜く。足がボールに吸い付くような感触が最高だった。ネットが揺れた。決まった瞬間、嘘みたいだと思った。完璧なパス。完璧なシュート。サッカーをやってきた中で、初めて味わう感覚だった。胸の奥から、熱いものが駆け上がってきた。

 物心つく前に見た、あのCMの記憶。選手たちが笑顔でボールを繋ぎ、ゴールを喜び合う姿。あの時の感動が、身体中に蘇った。

 この後は、私が攻めで上野君が守備の2on2。初めて、抜けずに終わった。部活が終わり、グラウンドを後にしながら、私は静かに息を吐いた。とても、楽しかった。

 充実していた。サッカーが、こんなに心地よいものだったって、久しぶりに思い出した気がした。

 最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

 第9回キャラ文芸大賞 参加中!なので投票してくれると嬉しいです

「応援したい」と感じていただけましたら、ぜひ♡とフォローをしていただけると、とても嬉しいです。

 皆さんの応援が、次の話の励みになります!これからもよろしくお願いいたします。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

【完結】【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて

千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、夫・拓馬と娘の結と共に平穏な暮らしを送っていた。 そんな彼女の前に現れた、カフェ店員の千春。 夫婦仲は良好。別れる理由なんてどこにもない。 それでも――千春との時間は、日常の中でそっと息を潜め、やがて大きな存在へと変わっていく。 ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。 ハッピーエンドになるのでご安心ください。

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...