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4章 なんでこのようなことに?
10話S ライバル登場、届かない想い
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昼休みの教室は、いつものように賑やかだった。窓から差し込む陽光が机を照らし、みんなの笑い声やお弁当の匂いが混じり合っている。基本的に私は聞き役に徹していた。入りたそうにしていた女の子に声をかけて結構大所帯になってしまった。
そうしないと、この子たちだけ優越感に浸られたらたまったものではなかったから。
「綿津見、いる?」
廊下から、誰かが綾さんを呼ぶ声が響いた。
私はちらりと綾さんを見た。彼女は参考書を開いたまま、弁当を静かに食べている。休憩時間も、いつもこうして勉強に充てているんだろうな。
アルバイトが忙しいから、隙間時間を無駄にしたくないんだろう。私も昔、スケジュールが詰まりに詰まっていた頃は、似たようなことをしていたから、なんとなく気持ちがわかる。
そういうときは集中力が高まっていて、周囲の声なんて耳に入りにくい。だから、綾さん自身も気づいてないみたいだった。噂の「基本無視してる」って、こういうことなんだね。
あまりの集中力の高さで、他のことに目を向けていないだけなのに、周りからは無視してるように見えるんだ。
綾さんが反応がないので、ドア近くの男子生徒が教室に入ってきて、もう一度呼んだ。
その瞬間、教室の空気が少し変わった。みんなの視線が一斉に綾さんへ、そして廊下へと集まる。私は、そっと周囲のクラスメイトに声をかけた。
「ねえ、綿津見さんを呼び出したの、誰か知ってる? みんな、びっくりしてるみたいだけど」
「栞ちゃん、知らないの?」
「最近転入してきたんだから、知るわけないじゃん」
「あ、そうか……」
「現サッカー部主将の上野君だよ。春の大会で怪我して入院してた子」
「彼を狙ってる女子が多くて、学校の中でもトップ5に入るイケメンだよね」
……なんでそんな言い回しをするんだろう。もっと普通に言ってくれればいいのに。会話はすぐに綾さんへと移っていった。
「やっぱり男って顔で選ぶよね?」
「綿津見さん、顔だけはいいから」
その一言に、ちょっとカチンときた。
「よく知らないのに悪口言っても、自分が損するだけだよ」
でも、みんなは止まらない。
「だってさ、この間、栞ちゃんが誘ってくれたのに、当日ドタキャンで連絡なしってひどくない?」
「私たちはいいけど、謝りすらないってありえないよね」
……しまった。私が本当のことを言ってなかったのが、ここに来て仇になった。犯人は、もう大体わかってる。毎回、この子から話が始まってるんだよね。あのカラオケの場所変更も、きっとこの子が主導したんだろう。どうしようかな、と思っているうちに、綾さんが教室に戻ってきた。
「告白かな」
「だよね」
女子たちの囁きが聞こえてきた。まあ、十中八九、そういう流れだろう。サッカーの練習の誘いってわけにはいかないし。私は席を立って、綾さんのほうへ歩み寄った。
「綿津見さん、元気?」
「栞か。何か用?」
周りがざわついた。
「栞ちゃんを呼び捨てって、どういうつもり?」なんて声も聞こえてくる。
マジでどうでもいい。みんなだって、呼び捨てにしたいのなら、すればいいのに。
「今の、サッカー部主将の上野君だよね。何だったの?」
「あぁ、そっか。どこかで会ったと思ったのは、サッカー部でか」
……誰かわからなくて会話してたの?本当に他人に興味がないんだよね。
「サッカーの話だったの?」
「サッカー部だってことは、栞から聞いて、改めて思い出したよ。何の用かは知らない」
「うん、ありがとう」
最低限の情報だけ聞いて、私は自分の席に戻った。まだ残っていたクラスメイトたちに、軽く言った。
「誰かわかってなかったみたい。何の理由かも、思いつかないみたいね」
「そうなんだ。それだけのために行ったの?」
「うん、そうだよ。みんなも気になってるでしょ」
……半分嘘で半分本当。みんなのためじゃなくて、私のため。少しでも、綾さんの声が聞きたかっただけ。綾さんの透き通る声が好きだから。本当はあの時の、初めて会った時の声とかがいいんだけど。多分無理だよね。
放課後校舎裏に向かった。やっぱり、告白といえば、校舎裏が相場だよね。
私が着く頃には上野君は待っていた。私は隠れそうな場所を見つけ、そこで身を隠していた。掃除当番のゴミ捨てが遠い場所だったせいか、綾さんは少し遅れて校舎裏に着いた。
急いで来たのが、歩き方ですぐにわかった。真面目だなぁ。隠れて聞き耳を立てる。上野君は、綾さんの顔だけじゃなく、あの試合での活躍に引かれたって言ってる。確かに、綾さんはあの日、すごく輝いてた。楽しそうにサッカーをやってる姿、すごくよくわかる。それにしても、綾さんの断り方が……「自分からやめたほうがいい」って、何だろう?新手の断り文句? 相変わらず、綾さんの感性は独特だ。
でも、上野君は上手いな。「サッカーの練習相手ならどう?」って、綾さんのツボを突いてる。サッカーの話になると、綾さんは本当に輝くんだよね。ある意味、サッカーバカだ。
結局、練習仲間になることになったみたい。私は、今日は仕事がないので、帰ろうと思ったら、サッカーボールがあったので少しだけやってみた。
綾さんの真似をしてリフティングしようとしたら、ボールが変な方向に飛んでいってしまった。
「こんなの、どこが面白いんだろ」
愚痴りながらボールを追いかけると、向こうに綾さんが立っていた。綾さんは、飛んできたボールをそのまま、両足で挟み込み、かかとで蹴り上げて背中から頭上を越させ、膝の上でリフティングして、ぴたりと掴んだ。
流れるような動作に、私は、思わず拍手してしまった。
「凄い! どうやったの?」
「あぁ、栞か。普通にヒールリフトしてリフティングしただけだよ」
「上手い人がやると、ボールが自在に動くんだね」
「まあ、リフティングはともかく、ヒールリフトは練習が必要だからね」
先ほどのボールを挟む技の名前らしい。
「サッカーは好き?」
答えはわかってるけど、一応聞いてみた。
「ん? 好きじゃないなら、やらないって」
そりゃそうだよね。
「サッカーやってる人が、好きなの?」
もう一度、確認した。
「あぁ、先ほどの話ね。聞いてたでしょ。断ったって。彼とは練習仲間になるのかな?」
「ふ~ん、そう。じゃあね」
……やっぱり、綾さんはわかってなかった。上野君は、そうやって接触回数を増やそうとしてるのに。
心理学で聞いたことある、単純接触効果ってやつだよね。同じ人を何度も見ると、好感度が上がるって。なんか、気に入らない。私は、少し苛立った気持ちを抱えたまま、マンションに戻った。
胸の奥に、小さな棘が刺さったような感覚が、ずっと残っていた。
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そうしないと、この子たちだけ優越感に浸られたらたまったものではなかったから。
「綿津見、いる?」
廊下から、誰かが綾さんを呼ぶ声が響いた。
私はちらりと綾さんを見た。彼女は参考書を開いたまま、弁当を静かに食べている。休憩時間も、いつもこうして勉強に充てているんだろうな。
アルバイトが忙しいから、隙間時間を無駄にしたくないんだろう。私も昔、スケジュールが詰まりに詰まっていた頃は、似たようなことをしていたから、なんとなく気持ちがわかる。
そういうときは集中力が高まっていて、周囲の声なんて耳に入りにくい。だから、綾さん自身も気づいてないみたいだった。噂の「基本無視してる」って、こういうことなんだね。
あまりの集中力の高さで、他のことに目を向けていないだけなのに、周りからは無視してるように見えるんだ。
綾さんが反応がないので、ドア近くの男子生徒が教室に入ってきて、もう一度呼んだ。
その瞬間、教室の空気が少し変わった。みんなの視線が一斉に綾さんへ、そして廊下へと集まる。私は、そっと周囲のクラスメイトに声をかけた。
「ねえ、綿津見さんを呼び出したの、誰か知ってる? みんな、びっくりしてるみたいだけど」
「栞ちゃん、知らないの?」
「最近転入してきたんだから、知るわけないじゃん」
「あ、そうか……」
「現サッカー部主将の上野君だよ。春の大会で怪我して入院してた子」
「彼を狙ってる女子が多くて、学校の中でもトップ5に入るイケメンだよね」
……なんでそんな言い回しをするんだろう。もっと普通に言ってくれればいいのに。会話はすぐに綾さんへと移っていった。
「やっぱり男って顔で選ぶよね?」
「綿津見さん、顔だけはいいから」
その一言に、ちょっとカチンときた。
「よく知らないのに悪口言っても、自分が損するだけだよ」
でも、みんなは止まらない。
「だってさ、この間、栞ちゃんが誘ってくれたのに、当日ドタキャンで連絡なしってひどくない?」
「私たちはいいけど、謝りすらないってありえないよね」
……しまった。私が本当のことを言ってなかったのが、ここに来て仇になった。犯人は、もう大体わかってる。毎回、この子から話が始まってるんだよね。あのカラオケの場所変更も、きっとこの子が主導したんだろう。どうしようかな、と思っているうちに、綾さんが教室に戻ってきた。
「告白かな」
「だよね」
女子たちの囁きが聞こえてきた。まあ、十中八九、そういう流れだろう。サッカーの練習の誘いってわけにはいかないし。私は席を立って、綾さんのほうへ歩み寄った。
「綿津見さん、元気?」
「栞か。何か用?」
周りがざわついた。
「栞ちゃんを呼び捨てって、どういうつもり?」なんて声も聞こえてくる。
マジでどうでもいい。みんなだって、呼び捨てにしたいのなら、すればいいのに。
「今の、サッカー部主将の上野君だよね。何だったの?」
「あぁ、そっか。どこかで会ったと思ったのは、サッカー部でか」
……誰かわからなくて会話してたの?本当に他人に興味がないんだよね。
「サッカーの話だったの?」
「サッカー部だってことは、栞から聞いて、改めて思い出したよ。何の用かは知らない」
「うん、ありがとう」
最低限の情報だけ聞いて、私は自分の席に戻った。まだ残っていたクラスメイトたちに、軽く言った。
「誰かわかってなかったみたい。何の理由かも、思いつかないみたいね」
「そうなんだ。それだけのために行ったの?」
「うん、そうだよ。みんなも気になってるでしょ」
……半分嘘で半分本当。みんなのためじゃなくて、私のため。少しでも、綾さんの声が聞きたかっただけ。綾さんの透き通る声が好きだから。本当はあの時の、初めて会った時の声とかがいいんだけど。多分無理だよね。
放課後校舎裏に向かった。やっぱり、告白といえば、校舎裏が相場だよね。
私が着く頃には上野君は待っていた。私は隠れそうな場所を見つけ、そこで身を隠していた。掃除当番のゴミ捨てが遠い場所だったせいか、綾さんは少し遅れて校舎裏に着いた。
急いで来たのが、歩き方ですぐにわかった。真面目だなぁ。隠れて聞き耳を立てる。上野君は、綾さんの顔だけじゃなく、あの試合での活躍に引かれたって言ってる。確かに、綾さんはあの日、すごく輝いてた。楽しそうにサッカーをやってる姿、すごくよくわかる。それにしても、綾さんの断り方が……「自分からやめたほうがいい」って、何だろう?新手の断り文句? 相変わらず、綾さんの感性は独特だ。
でも、上野君は上手いな。「サッカーの練習相手ならどう?」って、綾さんのツボを突いてる。サッカーの話になると、綾さんは本当に輝くんだよね。ある意味、サッカーバカだ。
結局、練習仲間になることになったみたい。私は、今日は仕事がないので、帰ろうと思ったら、サッカーボールがあったので少しだけやってみた。
綾さんの真似をしてリフティングしようとしたら、ボールが変な方向に飛んでいってしまった。
「こんなの、どこが面白いんだろ」
愚痴りながらボールを追いかけると、向こうに綾さんが立っていた。綾さんは、飛んできたボールをそのまま、両足で挟み込み、かかとで蹴り上げて背中から頭上を越させ、膝の上でリフティングして、ぴたりと掴んだ。
流れるような動作に、私は、思わず拍手してしまった。
「凄い! どうやったの?」
「あぁ、栞か。普通にヒールリフトしてリフティングしただけだよ」
「上手い人がやると、ボールが自在に動くんだね」
「まあ、リフティングはともかく、ヒールリフトは練習が必要だからね」
先ほどのボールを挟む技の名前らしい。
「サッカーは好き?」
答えはわかってるけど、一応聞いてみた。
「ん? 好きじゃないなら、やらないって」
そりゃそうだよね。
「サッカーやってる人が、好きなの?」
もう一度、確認した。
「あぁ、先ほどの話ね。聞いてたでしょ。断ったって。彼とは練習仲間になるのかな?」
「ふ~ん、そう。じゃあね」
……やっぱり、綾さんはわかってなかった。上野君は、そうやって接触回数を増やそうとしてるのに。
心理学で聞いたことある、単純接触効果ってやつだよね。同じ人を何度も見ると、好感度が上がるって。なんか、気に入らない。私は、少し苛立った気持ちを抱えたまま、マンションに戻った。
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