【百合】Liebe

南條 綾

文字の大きさ
21 / 36
4章 なんでこのようなことに?

12話A サッカー談義

しおりを挟む
 あの練習から数日後の昼休憩時間だった。教室はいつものように賑やかで、弁当の匂いが漂っている。
窓から差し込む柔らかな陽光が、机の上を優しく照らしていた。

 私は窓際の席で、静かに弁当を広げていた。
卵焼きを箸でつまみながら、午後の授業の予習を頭の中で進めている。
隙間時間は、こうして有効に使わないと。バイトが忙しい分、勉強の時間は自分で作るしかない。

 突然、教室のドアが開いた。
「綿津見、いるか?」

 聞き覚えのある声。上野君だった。

 男子サッカー部の主将が、なぜか私のクラスの教室に立っている。クラスメイトたちの視線が一斉に集まるのがわかった。ざわつく声が、少しずつ大きくなっていく。誰かが小声で「上野君だ……」と呟くのが聞こえた。

 私は弁当を食べながら、顔を上げた。

「昼休み時間だと思うんだけど、どうしたの?」

 上野君は、少し照れたような笑みを浮かべて、教室に入ってきた。周りの視線を浴びながらも、堂々と私の席の近くまで歩いてくる。

「ここで一緒に食べないか?」

「ここは、私のクラスの教室だけど」

「頼んでも来てくれそうにないしな」

 確かに、そうかもしれない。行く用事もないから。私は特に何も言わず、弁当を食べ続けた。

「別に構わないけど」

 上野君は、私の隣の空いた席に腰を下ろした。クラスメイトたちの視線が、さらに熱を帯びる。女子たちの間で、ひそひそ話が始まるのがわかった。私はそのまま、鶏のから揚げを口に運んだ。上野君が、私の弁当をちらりと見て、言った。

「その卵焼き、おいしそうだな」

「そう」

「もしよかったら、くれ。食べさせてもらってもいいぞ」

「ほしいのなら、持っていけばいい」

 上野君は一瞬、目を丸くした。

「本当にクールだよな。普通、こういうこと言ったら何か言うと思うんだけど」

「なにか」

 何を期待しているのか、わからない。上野君は、くすっと笑った。

「何か、って来たか。こりゃ一本取られたな」

 私は弁当を食べ続け、予習と復習を頭の中で進めていた。でも、上野君はまだ帰らない。弁当を食べ終わっても、席に座ったまま、私の横顔を時々見ながら、何か考え込んでいるようだった。結局、昼休憩の最後まで、教室に残っていた。チャイムが鳴って、上野君が立ち上がる頃には、私は少しだけ、不思議な気分だった。何も話さず、何でそこにいるのかわからない。

 次の日も、上野君はやってきた。かばんを持って、自分の弁当を広げている。昨日と同じ席に座って、自然に話しかけてくる。

 昼ごはんを食べ終わると、すぐにサッカーの話になった。男子部の弱点、レギュラー陣の評価、そういったこと。
私は、前回の練習と試合を思い出しながら、はっきりと言った。

「このままでは、地区大会突破は難しいと思う」

 上野君は、少し驚いた顔で箸を止めた。

「どうしてだ。俺が言うのも何だが、春の時よりはうまくなってるぜ」

「多分、あなたへのマークは増える。そうしたら一気に潰れる。あなたが凄すぎるから、あなたを止められたら烏合の衆。そしたらチーム総合力で上のチームの方が、確率的に勝つと思う」

 上野君は、少し黙って、私を見つめた。

「うちのチーム力は?」

「あなたがいれば、優勝できるポテンシャルはあると思う。あなたがいないと、地区の中位ぐらい。地区突破できても、あなた一人だけで県大会優勝は難しいと思う。あと、最低一人、二人はできる人がほしい」

「はっきり言うなぁ」

「女の私のパスを取れないのは致命的」

 上野君は、苦笑した。

「綿津見のパスは、男子でも厳しいパスだぞ」

「そんなことはない。朝倉翔太選手とかは、もっと速いよ」

「お前、それ日本代表だろうが」

「そうだけど、何かおかしい?」

 上野君は目を見開いた。

「お前、誰をイメージしてやってるんだ」

 私は、少し考えて、答えた。

「現役選手だと、レオン・メッサーさんやクリス・ロナウドさん、堂本律さんや伊藤輝さん。引退した人だと、ガウジーニョさんやロベルト・バッジーニさんなど、もっといるけど」

上野君の目が、さらに丸くなった。

「イメージだけど、登美とみ健介さんは抜けなかった。どれだけ振っても、重心が変わらなかったし、抜けるイメージが全くなかったよ」

 上野君は呆然とした顔で私を見ている。

「長谷部結さんと対峙したときは、全く守れなかったよね。ボールもイメージなのに、全部あざ笑うかのように抜かれたから、すごく楽しそうに。彼女は本当にすごいよね」

「ちょい待て。一流アスリートと比べられてたら、そりゃ無理だわ」

「そうなの?」

 上野君は大きく息を吐いた。

「なんでお前が厳しいパスとかするのか、少しわかる気がしたわ。そりゃ、見ている景色が違うんだから、テンポが遅れるのがわかる」

 毎日のお昼には上野君が来ることが日課になっていた。ご飯が食べ終わったらサッカー談義が始まっていた。高校レベルの話、サッカーの戦術の話、いろんな話題が広がった。

 上野君の話は、面白かった。男子部の内情、相手チームの分析、自分のプレーの悩み、将来の進路のことまで。やはり将来プロになることを考えてるようだった。

 私は、ただ事実を言っているだけなのに、上野君は真剣に聞いて、時には反論し、時にはうなずく。「それ、試してみる価値ありそうだな」とか、「でも、高校レベルじゃそこまで通用しないかもな」とか、議論がどんどん深くなっていく。

 クラスメイトたちの視線は、最初は好奇心満々だったけど、話が専門的になるにつれて、だんだん遠巻きに見るだけになった。昼休みのチャイムが鳴るまで、サッカーの話は続いた。

 上野君が立ち上がって、教室を出ていくとき、私はふと思った。お昼のサッカー話を、楽しみにしている自分がいるなんて、思わなかった。

 サッカーの話をする相手が、こんなに近くにいるなんて、少し、不思議な気分だった。

 最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

 第9回キャラ文芸大賞 参加中!なので投票してくれると嬉しいです

「応援したい」と感じていただけましたら、ぜひ♡とフォローをしていただけると、とても嬉しいです。

 皆さんの応援が、次の話の励みになります!これからもよろしくお願いいたします。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

【完結】【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて

千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、夫・拓馬と娘の結と共に平穏な暮らしを送っていた。 そんな彼女の前に現れた、カフェ店員の千春。 夫婦仲は良好。別れる理由なんてどこにもない。 それでも――千春との時間は、日常の中でそっと息を潜め、やがて大きな存在へと変わっていく。 ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。 ハッピーエンドになるのでご安心ください。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

処理中です...