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4章 なんでこのようなことに?
14話S 塗り替えたい世界
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今現在暮らしているマンションに帰ってきた。部屋に入ってからも倉庫の光景が、頭から離れなかった。
綾さんは押し倒されても、何も返さなかった。虚ろな目で天井を見ていて、そこに心がないみたいだった。近くで上野君の息が荒くて、熱っぽくて、空気まで息苦しいように思えた。汗で透けたユニフォームが乱れて、肌が露わになりかけた瞬間、ぞっとした。
普通なら抵抗するはずなのに、全てを諦め受け入れていた彼女が怖くて声を上げてしまった。すごく怖かった。綾さんが、壊れそうにみえたから。私は、飛び出して、気づいたら抱きしめていた。
だけど、遅かった。綾さんの目が、あの時と同じ深い諦めで染まってた。あの光景が、繰り返し浮かんで、眠れなかった。綾さんの体温が、私の腕に残ってる気がした。強く抱きしめたときの、綾さんの細い肩の感触。綾さんの髪の匂い。少し、汗と、埃の匂いが混じって、私は涙が、止まらなかった。
綾さんを、守れなかった。尾行してたのに、倉庫に入るまで、私は告白だろうと軽く思っていた。あんなことが起こるなんて夢にも思わなかった。注意深く見ていれば、もっと早く声をかけられたのに、責任が胸に刺さって、私は枕を濡らすほど泣いた。
今日は仕事がない日なので学校に行って、教室に入った。
綾さんの席を見た。綾さんは何事もなかったみたいに、いつも通りだった。無表情で、淡々と。昨日のことが、私の見た夢だったんじゃないかと思うくらい。
話しかけたかったのに、動かなかった。怖かった。綾さんが、もう私を見たくないと思ってるんじゃないかって。昨日、泣いてしまったことが、綾さんの重荷になったのではと思ってしまって。
昼休みになって上野君は来なかった。いつものメンバーが教えてくれた。
「上野君、今日、体調不良で休みらしいよ」
きっと、あの後の自己嫌悪で、顔を出せないんだろう。
上野君は綾さんのことが好きだったのかもしれない。サッカーが好きで、同じ熱でぶつかれて、昼も一緒に食べるようになって。普通なら、付き合っていた可能性だってあったと思う。
でも、綾さんは断った。上野君は、受け入れてもらえると勝手に思い込んで、断られた瞬間に頭が真っ白になったのかもしれない。
だからといって、あれが許されるわけじゃないのに。
好きだったとしても、やっていいことじゃない。そうやって分析をしてしまう自分も、嫌になってくる。
綾さんの方を向いた。
「綾さん……」
声が震えた。舞台に立っているときでも、こんな声は出したことないのに。綾さんは弁当を食べながら、ふっと顔を上げた。
「栞。何か用?」
クラスメイトの視線が、じわっと集まってくるのがわかった。私が動くと、こうなるのはわかっていた。
「昨日……大丈夫だった?」
綾さんは少しだけ間を置いた。
「別に」
それだけ。目の奥が熱くなった。こうして向かい合うと、いつもの綾さんじゃない気がした。どこが違うのか言えない。でも、胸の奥がざわついて、確信してしまった。
「……あの後、熱とか出なかった?体、痛くない?」
「ない」
言葉が短すぎて、返されるたびに喉が締まる。黙ったまま、綾さんは弁当を食べ続けた。私は小さく息を吸って、小声で言った。
「ごめんね……もっと早く、気づけなくて」
綾さんが、食べていたサンドイッチを弁当箱に戻した。
「別に、栞のせいじゃないし。その話はもうこれで終わり。興味ないから」
言葉が出なかった。断られたって思った瞬間。そこに透明な壁が、立ったみたいだった。
私は元の席に戻ってクラスメイト達が、話しかけてくる。
「栞ちゃんどうしたの?」
「ううん、昨日帰り道にあ……綾さんが体調悪そうな顔してたから気になっただけ」
「そうなんだ」
「でもさぁ。あんないい方しなくても」
「上野君とも何かあったとか?」
「でも不感症って感じじゃない?」
「サッカーはすごいらしいよ」
「でも付き合うとかはまた別じゃん」
私は、笑顔で聞き流してたけど、心の中は、ぐちゃぐちゃだった。
初めて私は綾さんに拒絶されたのかもしれない。普段と同じ感じだけどそうじゃない。綾さんは気づいていないふりをしているかもしれないけど、そのことが相当ショックだったのかもしれない。
私は、守れなかった。もうあの綾さんのギャップのある感じが見られないのかもしれないと思った。
もっと早く、気づけたはずなのに、私の行動は手遅れだったと改めて実感した。
放課後、教室から部活を見ていると、思わず驚いてしまった。
あの綾さんが、シュートを1本も決められない。すべてゴールから外れていった。それだけじゃない。普段なら、まるでダンスをしているかのように華麗にドリブルしているのに、今日は転んでばかりだった。
周囲の部員たちも動揺しているのが、こちらまで伝わってきた。
綾さんの世界に、亀裂が入っているのを、私ははっきりと感じていた。
夜はそのまま仕事に向かった。
スタジオで台本を読んで、共演者とリハーサルをしていた。でも、全然集中できない。綾さんの顔が、どうしても浮かんできてしまう。
虚ろな目、諦めたような表情が、頭から離れない。
NGを何度も出してしまった。監督が心配そうに、「栞、今日はどうしたの?」と聞いてきた。
「すみません……ちょっと、考え事をしてしまって」
みんなに迷惑をかけてしまった。みんないい人だから許してくれたけど、プライベートなことを仕事に持ち込むなんて、プロとして絶対にやってはいけないことだ。
家に帰ると、ベッドに倒れ込んだ。頭の中には、綾さんのことばかりが渦巻いている。虚ろな目、されるがままの体。あの諦めた顔が、どうしても離れない。
私は、綾さんを守れなかった。もっと強く抱きしめていれば、もっと早く倉庫に飛び込んでいればよかったのかもしれない。
枕を抱きしめて、涙が止まらなかった。私は、綾さんを守りたかった。あの、強くて弱い彼女を。でも、綾さんは、私を必要としていなかった。
「興味がない」って、はっきりと冷たく言い切ったその言葉が、胸に棘が突き刺さったような感じがした。
私は、綾さんを壊したいと思った。綾さんの孤独な世界を、ただ一人の世界を……私が、塗り替えてあげたい。誰にも触れさせないように、綾さんを私だけのものにしたい。その思いが、胸の奥で黒く、熱く膨らんでいく。でも、そんなことをしたら、この気持ちが、綾さんと私を、壊してしまう。
私は、少しだけ笑って、自分でもなんてことを考えているんだろうとダメ出しをし、久しぶりに睡眠薬を飲んで眠りについた。
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綾さんは押し倒されても、何も返さなかった。虚ろな目で天井を見ていて、そこに心がないみたいだった。近くで上野君の息が荒くて、熱っぽくて、空気まで息苦しいように思えた。汗で透けたユニフォームが乱れて、肌が露わになりかけた瞬間、ぞっとした。
普通なら抵抗するはずなのに、全てを諦め受け入れていた彼女が怖くて声を上げてしまった。すごく怖かった。綾さんが、壊れそうにみえたから。私は、飛び出して、気づいたら抱きしめていた。
だけど、遅かった。綾さんの目が、あの時と同じ深い諦めで染まってた。あの光景が、繰り返し浮かんで、眠れなかった。綾さんの体温が、私の腕に残ってる気がした。強く抱きしめたときの、綾さんの細い肩の感触。綾さんの髪の匂い。少し、汗と、埃の匂いが混じって、私は涙が、止まらなかった。
綾さんを、守れなかった。尾行してたのに、倉庫に入るまで、私は告白だろうと軽く思っていた。あんなことが起こるなんて夢にも思わなかった。注意深く見ていれば、もっと早く声をかけられたのに、責任が胸に刺さって、私は枕を濡らすほど泣いた。
今日は仕事がない日なので学校に行って、教室に入った。
綾さんの席を見た。綾さんは何事もなかったみたいに、いつも通りだった。無表情で、淡々と。昨日のことが、私の見た夢だったんじゃないかと思うくらい。
話しかけたかったのに、動かなかった。怖かった。綾さんが、もう私を見たくないと思ってるんじゃないかって。昨日、泣いてしまったことが、綾さんの重荷になったのではと思ってしまって。
昼休みになって上野君は来なかった。いつものメンバーが教えてくれた。
「上野君、今日、体調不良で休みらしいよ」
きっと、あの後の自己嫌悪で、顔を出せないんだろう。
上野君は綾さんのことが好きだったのかもしれない。サッカーが好きで、同じ熱でぶつかれて、昼も一緒に食べるようになって。普通なら、付き合っていた可能性だってあったと思う。
でも、綾さんは断った。上野君は、受け入れてもらえると勝手に思い込んで、断られた瞬間に頭が真っ白になったのかもしれない。
だからといって、あれが許されるわけじゃないのに。
好きだったとしても、やっていいことじゃない。そうやって分析をしてしまう自分も、嫌になってくる。
綾さんの方を向いた。
「綾さん……」
声が震えた。舞台に立っているときでも、こんな声は出したことないのに。綾さんは弁当を食べながら、ふっと顔を上げた。
「栞。何か用?」
クラスメイトの視線が、じわっと集まってくるのがわかった。私が動くと、こうなるのはわかっていた。
「昨日……大丈夫だった?」
綾さんは少しだけ間を置いた。
「別に」
それだけ。目の奥が熱くなった。こうして向かい合うと、いつもの綾さんじゃない気がした。どこが違うのか言えない。でも、胸の奥がざわついて、確信してしまった。
「……あの後、熱とか出なかった?体、痛くない?」
「ない」
言葉が短すぎて、返されるたびに喉が締まる。黙ったまま、綾さんは弁当を食べ続けた。私は小さく息を吸って、小声で言った。
「ごめんね……もっと早く、気づけなくて」
綾さんが、食べていたサンドイッチを弁当箱に戻した。
「別に、栞のせいじゃないし。その話はもうこれで終わり。興味ないから」
言葉が出なかった。断られたって思った瞬間。そこに透明な壁が、立ったみたいだった。
私は元の席に戻ってクラスメイト達が、話しかけてくる。
「栞ちゃんどうしたの?」
「ううん、昨日帰り道にあ……綾さんが体調悪そうな顔してたから気になっただけ」
「そうなんだ」
「でもさぁ。あんないい方しなくても」
「上野君とも何かあったとか?」
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「サッカーはすごいらしいよ」
「でも付き合うとかはまた別じゃん」
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初めて私は綾さんに拒絶されたのかもしれない。普段と同じ感じだけどそうじゃない。綾さんは気づいていないふりをしているかもしれないけど、そのことが相当ショックだったのかもしれない。
私は、守れなかった。もうあの綾さんのギャップのある感じが見られないのかもしれないと思った。
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放課後、教室から部活を見ていると、思わず驚いてしまった。
あの綾さんが、シュートを1本も決められない。すべてゴールから外れていった。それだけじゃない。普段なら、まるでダンスをしているかのように華麗にドリブルしているのに、今日は転んでばかりだった。
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綾さんの世界に、亀裂が入っているのを、私ははっきりと感じていた。
夜はそのまま仕事に向かった。
スタジオで台本を読んで、共演者とリハーサルをしていた。でも、全然集中できない。綾さんの顔が、どうしても浮かんできてしまう。
虚ろな目、諦めたような表情が、頭から離れない。
NGを何度も出してしまった。監督が心配そうに、「栞、今日はどうしたの?」と聞いてきた。
「すみません……ちょっと、考え事をしてしまって」
みんなに迷惑をかけてしまった。みんないい人だから許してくれたけど、プライベートなことを仕事に持ち込むなんて、プロとして絶対にやってはいけないことだ。
家に帰ると、ベッドに倒れ込んだ。頭の中には、綾さんのことばかりが渦巻いている。虚ろな目、されるがままの体。あの諦めた顔が、どうしても離れない。
私は、綾さんを守れなかった。もっと強く抱きしめていれば、もっと早く倉庫に飛び込んでいればよかったのかもしれない。
枕を抱きしめて、涙が止まらなかった。私は、綾さんを守りたかった。あの、強くて弱い彼女を。でも、綾さんは、私を必要としていなかった。
「興味がない」って、はっきりと冷たく言い切ったその言葉が、胸に棘が突き刺さったような感じがした。
私は、綾さんを壊したいと思った。綾さんの孤独な世界を、ただ一人の世界を……私が、塗り替えてあげたい。誰にも触れさせないように、綾さんを私だけのものにしたい。その思いが、胸の奥で黒く、熱く膨らんでいく。でも、そんなことをしたら、この気持ちが、綾さんと私を、壊してしまう。
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