【2部連載中】転生したら美少女冒険者に! ~おっさんの心が旅立つ異世界冒険記~

南條 綾

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4章 古代遺跡の調査?

12話 依頼?

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 ショッピングの翌朝、俺はエリシオンの大聖堂へ向かった。
通りには出勤前の人たちや荷車が行き交っていて、パンの焼ける匂いと露店の肉の匂いが、朝から遠慮なく鼻をつついてくる。

 大聖堂前の広場に足を踏み入れたところで、空気がすっと変わった。
街のざわめきは少し遠くなって、代わりに中から祈りの声がもれてくる。
高い窓から差し込んだ光がステンドグラスを通り、石壁に薄い虹色をばらまいていた。

 広場の端には、もうエレナが来ていた。
聖堂の扉の近くで手を前に組んで待っていて、俺に気づくと、ふわっと表情をゆるめる。
白いローブの裾が石畳をやさしく擦るのを見ていると、エレナにはやっぱりこういう場所が似合うなと思う。

 俺は歩きながら、腰の新しい青い革鎧を指先でこつんと叩いてみた。
まだ革の匂いも硬さも新しくて、体にきゅっと巻きついてくる感覚がある。
鏡の前で覚えた違和感は、まだどこかに残っている。
慣れるしかないのはわかってるんだけどな。

 エレナと軽くうなずき合ってから、大聖堂の中へ入る。
ひんやりした空気が肌にまとわりつき、祈りの声が石の壁に反射して耳の奥で重なった。

 司祭室の扉を、エレナがノックする。
重い金具が鈍い音を立て、中から短い返事がして、エレナがそっと取っ手を回した。
司祭は、昨日と同じ姿勢で机にかじりついていた。
机いっぱいに羊皮紙を広げて、文字の海に沈んでいる。

 蝋燭の炎がゆらぎ、古い紙とインクと、本棚のほこりっぽい匂いがまとめて鼻をくすぐった。
狭い部屋なのに、紙と本のせいでさらに狭く感じる。
司祭は顔だけこちらに向け、眼鏡を指で押し上げると、机の端に用意してあった一本の巻物を指さした。

「エレナとシビか。よく来たな。紋章の印の件だがな……王国の上層部と、魔術師ギルドの長とで話し合った結果、名も知られておらん新人に、いきなり任せるわけにはいかん、ということになっておる」

「だけど!」

 気づいたら声が出ていた。胸のあたりがカッと熱くなっていた。
無名だの新人だの、言いたいことはわかるが、面と向かって言われるとさすがにむっとする。
司祭は片手を軽く上げて、俺を制した。

「話は最後まで聞きなさい」
聞けってことは、突っぱねるだけじゃないってことか。
それとも、遠回しに断るつもりなのか。。

「お主は昨日、デュラハンの鎧の一部を、わしに見せてくれたな」

「……はい」

「新人がデュラハンを倒したという話は、上にとってはただの噂に過ぎん。
噂だけを頼りに任せるわけにはいかんからこそ、はっきりした結果が要るのじゃ。
今回の仕事は、そのための証と思うてくれればよい。
じゃが、成せなんだ以上、この件を任せるわけにはいかん」

 あれがデュラハンの鎧の一部だと言っても、確かに証拠にはならないよな。
普通は、デュラハンを倒せば跡形もなく消えるらしい。
それが残ってるのが「あり得ないから信じろ」っていうのも、無理な話か。

「そこでじゃ。お主に一つ、仕事を与えよう。その依頼を無事成し遂げたなら、その成果を題材にして、もう一度上と掛け合うことを約束しよう」

 なるほど、確かにそちらが出した仕事を成せば、実力は認められるってことか
デュラハン級の厄介ごとをぶつけられそうだな。
なぜかは分からないけど、この件に関しては、どうしても俺がやらなきゃならないっていう使命感が、体の中に宿っていた。

 司祭は巻物を広げた。
古いインクで描かれた地図が浮かび上がる。
街道が細い線で引かれ、その端から外れた森の中に、ぽつんと四角い印がある。森に飲み込まれかけた石造りの廃墟が描かれていた。
地名の上には赤い小さな印がついていて、『忘却の遺跡』と記されていた。

 俺は指先で、エリシオンからその印までの道をなぞっていく。
その途中に、この前まで世話になっていた村の名前も小さく記されていた。
川を一本渡って、丘を越えて、森の奥にその廃墟がある。
村からここまでの日数を考えると、ざっと見た感じ、ここから徒歩で二日ってところか。


「この遺跡じゃがな、これまでは地下三階までしかないと思われておった。
じゃが先日、その三階の最奥で、さらに下へ続く扉が見つかってな。扉には封印がひとつ掛かっておった。魔術師ギルドの調査隊がその封印を解除した。そうして地下四階への道が開いたのじゃ」

 要するに、地下一階から三階までは踏破済みで、問題はその下ってことか。

「地下三階までは、昔の冒険者たちがとうの昔に制覇した“終わった遺跡”じゃ。じゃが、新しく開いた階層から、不穏な気配が漏れ出しておる。ちょうど冒険者ギルドに依頼を出そうとしておってな。この調査、引き受けてはくれぬか」

司祭は地図から目を離さないまま、続けた。

「期限は一週間。成したなら、印の件は上へ取り次ぎ、推薦状を出そう。報酬もギルド規定どおりに支払う。悪い話ではあるまい」

 俺は眉を寄せ、地図の余白を親指でなぞった。
封印されていた地下迷宮か。拍子抜けするくらい簡単かもしれないし、想像以上に手強いかもしれない。
わざわざ魔術師ギルドの調査隊が出ているくらいなら、封印もそれなりに厄介だったはずだ。
実力テストには、ちょうどいいお題ってわけか。

「なるほど、紋章の件は、それくらい大事だって判断したってわけか。それに、どこの馬の骨とも知れない新人には任せられない……ってことだろ。しいて言えば、俺の腕試しってわけだな。まあ、仕事って言うからには、きっちり報酬さえ出るならやるさ」

 司祭はそこで初めて少しだけ笑い、眼鏡の位置を指で直した。

「概ね、その理解でよかろう。噂というものは、ふくらむものじゃ。新人がデュラハンを倒したなど、口で聞くだけでは信じきれん。だからこそ、はっきりした結果が要るのじゃ。今回の仕事は、そのための証と思うてくれればよい。じゃが、成せなんだ以上、この件を任せるわけにはいかん。その方がお互いのためにもよかろう」

「司祭様、それではあまりにも……!」
エレナが、珍しく声を張った。

抗議したい気持ちはわかるが、ここで言い合っても仕方がない。
エレナは教会の人間で、司祭も教会の人間だ。
あいつらの、さらに上にいる連中を説得するには、今のところ見せられる材料が少なすぎる。
これでも、かなり司祭は譲歩してくれている方なんだと思う。

どこの馬の骨とも知れない奴に任せられないってことだな。
あの紋章は、ただのゴブリンですら手がつけられないくらいに強化していた。
あれが他のモンスターにまで広がるなら、王都が兵を動かす話になっても、おかしくない。
司祭は、眉をわずかに上げただけで黙っている。蝋燭の芯がぱち、と鳴って、部屋の影が揺れた。
俺は深く息を吐く。

 エレナはともかく、冒険者としてのシビは、これまで数回の依頼をどうにか終わらせただけの新人パーティだった。
影狼を倒したって噂はあるが、噂なんてものはすぐ尾ひれがつく。
王都の目から見れば、俺なんてまだ名もない一人にすぎない。

「司祭様……わたくしたちで務まるでしょうか。封印の奥など、様子も分からない場所ですのに」
エレナの青い瞳が不安そうに揺れ、胸もとで聖印をきゅっと握りしめた。

「エレナ、お主がなぜシビと共に行くのかは問わぬ。これもアウリス様の導きであろう。じゃが、本当に共に行くのなら、お主の力も見せてもらわねばならん」

「お任せください、司祭様。この試練、必ず果たしてみせますわ」 

 エレナはやっぱり俺と一緒に行くつもりらしい。
神聖魔法が使えない俺にとっては心強いけど、本来の仕事をほっぽり出して大丈夫なのか、と一瞬だけ頭をよぎった。
それでも、エレナは迷っていない顔をしている。

「明日から向かう。それでいいか?」
俺は司祭にそう伝えた。

「よかろう。なら、明日から一週間のうちに報告してもらう。結果を出せたとしても、期日を超えたら推薦は無しじゃ」

「了解。遺跡で見つけた宝は、基本、俺たちのものでいいんだな?」

「むろん、と言いたいところじゃが、一応は報告してもらう。渡せぬ物があれば、その品は教会か王国が買い取ろう」

 封印を解いたのがこの国の連中だしな。そのくらいは仕方ない。


「エレナ、頼むぞ」

「はい、シビさん。一緒にこの試練を突破してみせますわ」
エレナの言葉を聞きながら、司祭と地図、それからエレナの横顔を見た。

「……わかった。その依頼、受けよう。エレナ、よろしくな」

「はい」

 エレナは、迷いのない声でうなずいた。その声を聞いて、腹の中のぐらつきが、少しだけ落ち着いた気がした。
司祭は巻物を丁寧に巻き戻し、俺たちに手渡した。

「馬車の手配は教会でしておこう。封印が解けた地下は、いまだ誰も踏み入れておらぬ。十分に用心なされ」

 扉を出ると、回廊の蝋燭が風に揺れて、俺たちの影が長く伸びた。
祈りの声が遠くで重なり、石壁に波のように返ってくる。
エレナが小さく息を吐き、俺の袖をそっとつまんだ。

「司祭様の試練……まさかこんな大事になるなんて」

「それでも、やるしかないしな。一週間で終わらせよう。俺たちなら、まあ何とかなるさ」

 口ではそう言ったものの、本当に大丈夫なのかどうか、心のどこかではまだ不安の方が強かった。
聖堂を出ると、昼の光が一段と強くなっていた。
教会の塔の影が石畳に濃く落ち、鳩がその上をかすめるように低く舞っていく。
門を抜ける手前で、俺は革紐を締め直し、指先に革の感触を刻みつけた。

 宿に戻って装備をざっと確認し、やれる準備を一通り済ませる。
明日からの一週間のことを考えると、胸の奥が少しざわついたが、ベッドに横になれば、思ったより早く眠りに落ちた。
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