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1章 バステルへ
25話 酒場にて
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教会の重い扉を背後に閉めた瞬間、外の冷たい風が頬を叩いた。
すぐに肌にしみ込んでくるような冷たさだった。
エレナが隣で小さく息を吐き、その白い息が朝の陽光に溶けて、すぐに消えていく。
彼女の眼差しが、少し遠くを見つめているように感じた。
「では、ギルドに向かいましょうか」
エリスがいつもの穏やかな口調で、俺に向かってそう言った。
その言葉は、まるで冷たい風の中でも温かさを感じさせるような優しさがあった。
エリスは、いつも冷静で柔らかな言葉を選んでくれる。
なんどその柔らかな口調で救われたことだろうか。
俺は静かにうなずき、並んで歩き始めた。
朝早い首都の通り、通りの先には薄い霧がかかっていた。
空気はどこかひんやりと澄んでいる。人通りはまばらで、通りに響くのは、俺たちの靴音だけ。
規則正しく、軽快に響くその音が、ひときわ静かな街の空気を一層際立たせている。
静寂の中で、頭の中は自然と悪厄の都バステルのことでいっぱいになった。
生きて帰れることの方が稀だと噂され、帰還者はほとんどいないという街。データベースの情報が、頭の中でぐるぐると回る。いくらデータとして知っていても、実際に足を踏み入れるのはまた別の話だ。
俺は行かねばならない。情報を集め、背後に潜む闇を見極めるために。
だが、そんな街にエレナを連れて行っていいのだろうか。
彼女に何かあったら、俺はきっと後悔するだろう。その不安が消えることはなかった。
俺の足元の石畳が冷たく感じられ、思わず足を速めてしまう。
思考はまとまらない。それでも、もう進むしかないという意識だけが、今の俺を突き動かしていた。
バステルは、たとえ帰ってきても何もかもが変わってしまう場所だろう。
それでも、今はただ、進むしかないとしか思えなかった。
静かな外部の状況と、内面の激しい葛藤を対比させることで、緊張感を高めます。
ギルドに向かう道はまだ静かで、誰もが慌ただしさを感じない時間帯だった。
その静寂とは裏腹に、俺の胸中ではバステルという目的地が、巨大な塊となって膨らんでいた。
それは間違いなく、エレナを危険に晒すことへの不安であり、同時に、この旅路を避けられないと知る諦めにも似た決意だった。
帰還者さえも人格が変わってしまうという、悪厄の都。
それでも、今はただ足を止めず、この道を進むしかないとしか思えなかった。
そんなことを考えてたら、癒しの炉端の看板が見えてきた。
朝なのに扉は開いていて、中から酒の匂いと男たちの笑い声が漏れてくる。
朝なのに扉は開いていて、中から酒の匂いと男たちの笑い声が漏れてくる。
昨日の劇場跡の一件で、俺たちの話がネタになってるんだろう。
注目されるの嫌いなんだけど、あきらめて中に入った。
暖炉の火がぱちぱちと音を立て、煙草と汗と酒が混じった空気が鼻を突いた。
タバコかぁ、何年吸ってなかったっけ?
受験勉強する前までは吸ってたような記憶はあった。
その匂いに、ふと思い出したように、昔のことが頭に浮かんだ。
「おう、遅いじゃないのよ。聖女様連れて、朝帰りか何か?」
カウンターの奥から、リリアがいつもの皮肉っぽい笑みを浮かべて出てきた。
彼女は長い黒髪を無造作に後ろで束ね、革のエプロンをかけている。
その姿は、まるで何も気にしていないように見えるが、その表情には確かな意志が感じられた。
二つ名持ちの冒険者だけあって、腕っ節の強さは折り紙付きだ。
口は悪いが、面倒見はいい。ただし、心配していることは決して口にしないというのが俺の評価だ。
「朝早く出たの知っててそのセリフか。ったく」
俺が言うと、リリアは軽く肩をすくめてから、カウンターの下に目を向けた。
「まぁ、仕方ないでしょ。あんたがあんな場所で大騒ぎするから、顔に似合わず暴れん坊さんだよ」
彼女はそう言いながらも、心配を口にせず、軽く笑みを浮かべた。
その態度に、リリアなりの気遣いがあることを、俺はなんとなく感じた。
店内には朝から飲んでいる冒険者たちがちらほらといた。
俺が店に足を踏み入れると、一斉に視線が集まる。その中にエレナの緊張した様子が感じられた。彼女は少しだけ後ろに下がり、俺の後ろで立ち止まる。少し気まずい空気が流れたが、俺は気にせず、リリアの元へ向かう。
「リリア、ちょっと話があってな」
カウンターに近づくと、リリアは軽く顎をしゃくって、奥のテーブルを指差した。
俺はそれに従い、勧められた場所に向かった。
席に座りながら、俺は言った。
「単刀直入で聞く。バステルについてだ」
リリアは少しだけ目を細め、驚いたような顔を浮かべた。しばらく沈黙が続く。
「……本気で? バステルに行くわけ?」
その言葉には、軽い驚きと警戒が混じっていた。
「お前らみたいな美人がバステル行ったら骨までしゃぶられるからよ、一晩くらい相手にしろって伝えてくれ!」
「ははは! せめて俺たちに一晩くらいお祈りさせてくれってよ!」
下品なヤジが次々と飛んでくる。顔なじみの連中が、酒の勢いで調子に乗っているのが見て取れる。
エレナの顔がみるみる赤くなっていくのがわかる。
耳まで真っ赤だ。彼女の手が小さく震えているのを見て、俺は少しだけ心が痛んだ。
「まったく。……ねえ、みんな! 朝からジロジロ見るんじゃないのよ。聖女様が怯えちまうでしょ」
リリアはそう言いながら、カウンターから立ち上がり、周囲を鋭い目で見回した。
その一言で、店内の騒がしい空気が一瞬で静まり返る。
笑い声が広がり、ヤジを飛ばしていた連中が少し収まる。
しかし、調子に乗った連中はやめる様子もなく、さらに声を大きくした。
「おいおい、マスター庇いすぎだろ! シスターちゃん、こっち来な、俺が優しく守ってやるぜ!」
リリアはその言葉に、少しだけ目を細めてからジョッキを片手に立ち上がり、無言で威圧的に周囲を見回した。
瞬間、男たちが静まり返る。
「うるさいね! 次に変なこと言う奴は、このジョッキで頭かち割るわよ!」
店内は一瞬の静寂が訪れ、誰もが沈黙した。
その一歩を踏み出すリリアの圧力に、誰もが従った。
エレナは少し安堵したように息を吐いたけど顔はまだ赤いままだった。
エレナにとってはこれだけでも刺激が強いんだろうな。
リリアがそう言ってくれて、俺も心の中でほっとした。
すぐに肌にしみ込んでくるような冷たさだった。
エレナが隣で小さく息を吐き、その白い息が朝の陽光に溶けて、すぐに消えていく。
彼女の眼差しが、少し遠くを見つめているように感じた。
「では、ギルドに向かいましょうか」
エリスがいつもの穏やかな口調で、俺に向かってそう言った。
その言葉は、まるで冷たい風の中でも温かさを感じさせるような優しさがあった。
エリスは、いつも冷静で柔らかな言葉を選んでくれる。
なんどその柔らかな口調で救われたことだろうか。
俺は静かにうなずき、並んで歩き始めた。
朝早い首都の通り、通りの先には薄い霧がかかっていた。
空気はどこかひんやりと澄んでいる。人通りはまばらで、通りに響くのは、俺たちの靴音だけ。
規則正しく、軽快に響くその音が、ひときわ静かな街の空気を一層際立たせている。
静寂の中で、頭の中は自然と悪厄の都バステルのことでいっぱいになった。
生きて帰れることの方が稀だと噂され、帰還者はほとんどいないという街。データベースの情報が、頭の中でぐるぐると回る。いくらデータとして知っていても、実際に足を踏み入れるのはまた別の話だ。
俺は行かねばならない。情報を集め、背後に潜む闇を見極めるために。
だが、そんな街にエレナを連れて行っていいのだろうか。
彼女に何かあったら、俺はきっと後悔するだろう。その不安が消えることはなかった。
俺の足元の石畳が冷たく感じられ、思わず足を速めてしまう。
思考はまとまらない。それでも、もう進むしかないという意識だけが、今の俺を突き動かしていた。
バステルは、たとえ帰ってきても何もかもが変わってしまう場所だろう。
それでも、今はただ、進むしかないとしか思えなかった。
静かな外部の状況と、内面の激しい葛藤を対比させることで、緊張感を高めます。
ギルドに向かう道はまだ静かで、誰もが慌ただしさを感じない時間帯だった。
その静寂とは裏腹に、俺の胸中ではバステルという目的地が、巨大な塊となって膨らんでいた。
それは間違いなく、エレナを危険に晒すことへの不安であり、同時に、この旅路を避けられないと知る諦めにも似た決意だった。
帰還者さえも人格が変わってしまうという、悪厄の都。
それでも、今はただ足を止めず、この道を進むしかないとしか思えなかった。
そんなことを考えてたら、癒しの炉端の看板が見えてきた。
朝なのに扉は開いていて、中から酒の匂いと男たちの笑い声が漏れてくる。
朝なのに扉は開いていて、中から酒の匂いと男たちの笑い声が漏れてくる。
昨日の劇場跡の一件で、俺たちの話がネタになってるんだろう。
注目されるの嫌いなんだけど、あきらめて中に入った。
暖炉の火がぱちぱちと音を立て、煙草と汗と酒が混じった空気が鼻を突いた。
タバコかぁ、何年吸ってなかったっけ?
受験勉強する前までは吸ってたような記憶はあった。
その匂いに、ふと思い出したように、昔のことが頭に浮かんだ。
「おう、遅いじゃないのよ。聖女様連れて、朝帰りか何か?」
カウンターの奥から、リリアがいつもの皮肉っぽい笑みを浮かべて出てきた。
彼女は長い黒髪を無造作に後ろで束ね、革のエプロンをかけている。
その姿は、まるで何も気にしていないように見えるが、その表情には確かな意志が感じられた。
二つ名持ちの冒険者だけあって、腕っ節の強さは折り紙付きだ。
口は悪いが、面倒見はいい。ただし、心配していることは決して口にしないというのが俺の評価だ。
「朝早く出たの知っててそのセリフか。ったく」
俺が言うと、リリアは軽く肩をすくめてから、カウンターの下に目を向けた。
「まぁ、仕方ないでしょ。あんたがあんな場所で大騒ぎするから、顔に似合わず暴れん坊さんだよ」
彼女はそう言いながらも、心配を口にせず、軽く笑みを浮かべた。
その態度に、リリアなりの気遣いがあることを、俺はなんとなく感じた。
店内には朝から飲んでいる冒険者たちがちらほらといた。
俺が店に足を踏み入れると、一斉に視線が集まる。その中にエレナの緊張した様子が感じられた。彼女は少しだけ後ろに下がり、俺の後ろで立ち止まる。少し気まずい空気が流れたが、俺は気にせず、リリアの元へ向かう。
「リリア、ちょっと話があってな」
カウンターに近づくと、リリアは軽く顎をしゃくって、奥のテーブルを指差した。
俺はそれに従い、勧められた場所に向かった。
席に座りながら、俺は言った。
「単刀直入で聞く。バステルについてだ」
リリアは少しだけ目を細め、驚いたような顔を浮かべた。しばらく沈黙が続く。
「……本気で? バステルに行くわけ?」
その言葉には、軽い驚きと警戒が混じっていた。
「お前らみたいな美人がバステル行ったら骨までしゃぶられるからよ、一晩くらい相手にしろって伝えてくれ!」
「ははは! せめて俺たちに一晩くらいお祈りさせてくれってよ!」
下品なヤジが次々と飛んでくる。顔なじみの連中が、酒の勢いで調子に乗っているのが見て取れる。
エレナの顔がみるみる赤くなっていくのがわかる。
耳まで真っ赤だ。彼女の手が小さく震えているのを見て、俺は少しだけ心が痛んだ。
「まったく。……ねえ、みんな! 朝からジロジロ見るんじゃないのよ。聖女様が怯えちまうでしょ」
リリアはそう言いながら、カウンターから立ち上がり、周囲を鋭い目で見回した。
その一言で、店内の騒がしい空気が一瞬で静まり返る。
笑い声が広がり、ヤジを飛ばしていた連中が少し収まる。
しかし、調子に乗った連中はやめる様子もなく、さらに声を大きくした。
「おいおい、マスター庇いすぎだろ! シスターちゃん、こっち来な、俺が優しく守ってやるぜ!」
リリアはその言葉に、少しだけ目を細めてからジョッキを片手に立ち上がり、無言で威圧的に周囲を見回した。
瞬間、男たちが静まり返る。
「うるさいね! 次に変なこと言う奴は、このジョッキで頭かち割るわよ!」
店内は一瞬の静寂が訪れ、誰もが沈黙した。
その一歩を踏み出すリリアの圧力に、誰もが従った。
エレナは少し安堵したように息を吐いたけど顔はまだ赤いままだった。
エレナにとってはこれだけでも刺激が強いんだろうな。
リリアがそう言ってくれて、俺も心の中でほっとした。
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