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6章 新たな展開
68話 冒険者ギルドっていうのはいいもんだ
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四.五か月ぶりに俺たちは、首都に戻ってきた。
門をくぐった瞬間から、人の熱がぶつかってくるんだよな。
呼び込みの声が耳を突き、荷車の軋みが響き、靴底が石畳を叩く音が絶え間ない。
香辛料と汗と、焼き物の匂いが混ざって鼻に残る。
首都は相変わらず人が多すぎだろ。
この騒がしさに、正直うんざりしていた。
「おれはいったんギルドに顔を出すがエレナはどうする?」
人波を避けるように立ち止まって言うと、エレナは小さく息を整えてから頷いた。
人混みの中でも背筋がピンと伸びてるのが、いかにもエレナらしい。
「わたくしはいったん教会に戻って司祭様に報告もありますので」
「そうか。司祭様にはよろしく言っておいてくれ。また後でな」
「はい、明日宿の方にお伺いしますわ」
エレナが去っていく背中を見送って、俺は目的地の方を歩きながら頭の中で気になったことがあった。
……全く俺も疑り深くなってる感じがする。
彼女の事はもちろん信用してるんだけど、多分司祭から「俺を見張れ」みたいなこと言われてるんじゃないかと考えてしまう。
もちろん面と向かっては言ってないだろう。
どうせ「どのような事があった」って世間話で聴く感じだから気づかないだろうな。
そしてエレナは真面目もあるけど、きっと土産話みたいな感じで詳しく話すと思うんだよな。
結局カインを雇った組織もどの勢力かわかってないし、俺自身も知ってるのは、この国しか知らないから予測も立てられないんだよな。
頭の中で整理しようとしても、手がかりが少なすぎて、城塞の仲間出来たってことはまだ狙われてるってことになるから気分がいいわけがなかった。。
考え事をしながら向かっていたら、目的地の冒険者ギルド兼宿屋「癒しの炉端亭」の前に着いていた。
扉の隙間から漏れてくる灯りが、外の冷たい空気を押し返してる。
暖かな橙色の光が、足元を優しく照らして、凍えていた指先までじんわり溶かしていく。
俺は暖かい感じがする宿屋の中に入った。
中に入ると、薪の匂い。煮込みの匂い。笑い声と、グラスがぶつかる音。
炉の熱が頰を撫でて、肩の力が少しだけ抜けた。
「おひさ」
俺が声をかけると、どっといろいろな人の声が俺に向けられた。椅子が軋んで、視線が一気に集まる。
「おおっ!」とか「生きてたか!」とか、野太い歓声が飛び交う。
顔見知りの笑顔が次々浮かんで、懐かしいのに少し胸が詰まる。
「何でシビがここにいるんだ?」
「やはり中には、入りませんでしたってやつか?」
「無事だったか?」
そういえば数日だったけど、こいつらと結構飲んだり身の上話や人生相談など受けてたっけ。
あの時の軽さが、今はやけに遠い。
でも、こうやって同じノリで騒いでくるのは、ありがたく感じる。
「シビ……あんた大丈夫だったの?」
深い海みたいな青色のポニーテールをした女性が、人垣を割って近づいてきた。
この宿のオーナーでもあり、この国の多分一番大きい冒険者ギルドのマスターでもあるリリアだ。
目が笑ってない。心配の方が先に出ている。
青い瞳が、俺をまっすぐ捉えて、離さない。
「一応、戻ってきたよ」
「あの中には入ったの?」
「入ってきてその報告もかねてね」
「なら奥の部屋で話そうか?」
「そうだな」
女二人で部屋に入るなんて何を話すんだ、とかヤジが飛ぶ。いつもの連中のいつもの調子だ。
でもリリアが一度睨むだけで、「こわ~」とか言って黙りこくっていた。
いつもの光景に、思わず口元が緩む。
「怒られるのわかって何でヤジ飛ばすんだバカだろ」
「バカだから冒険者をやってるんだよ」
言い返してきたやつの顔が、堂々としてるのが腹立つ。
俺は心の中で「確かに」って思ってしまった。
こいつら、ほんとにその場の勢いだけで生きてるんだよな。
「本当にこのバカたちが、いつも通りで安心した。全員に一杯おごってやるよ」
言った瞬間、歓声が天井を揺らした。叩かれる背中。掲げられる杯。もう勝手に祝宴みたいになってる。
「俺が戻ってくるまで静かに飲んでろ」
そう言ったら余計騒ぎ出した。
本当に冒険者というのはその場で生きてる連中なのかもしれない。
明日より今。考えるより笑う。そういう連中だ。
リリアが勧めてきた部屋に入って、俺は今までのあった事をすべて話した。
話しながら喉が乾く。途中で何度も水を飲むのに、口の中の熱が引かない。
リリアは余計な口を挟まず、最後までしっかりと聞いてくれた。
青い瞳が、俺の言葉を一つ一つ拾い上げていくみたいに、真剣で静かだった。
「あいつもよくやってくれたみたいだね」
リリアが軽く笑いながら言う。
青いポニーテールが揺れて、燭台の光が髪に反射する。
「そうそう、あっちのマスターと顔見知りなのか?」
「数年前一緒に旅をした仲間だよ。だからあんたをお願いできたってわけ」
俺はジョッキを置いて、肩をすくめた。
木のテーブルが少し湿ってる感触が、掌に残る。
「めっちゃ助かった。これが俺が経験した全てだ」
「まさかその紋章を使用したのが人間だったとはね。でもモンスターが教えてくれたんだろ?信用できるの?」
リリアの瞳が細くなる。
俺を値踏みするような視線だ。
俺は息を軽く吐いて答えた。
「信用はできると思う。あそこで嘘を言っても仕方ないし。それにあいつは褒美とも言ってたしな」
「これからあんたはどうするの?」
「紋章を追う旅は続けるつもりだ。あと俺を狙ったやつらもな。目的をもって冒険者するのもいいかもね」
「でもそれだけしか情報がないんだったらほとんど無駄足だったね」
リリアの声に、少しだけ探るような響きが混じる。
「そうはならないんじゃないのか?」
「どういう意味?」
「俺はあの町から戻ってきた。あの町には紋章の書類があると言われていた。ならどうなる」
リリアは一拍置いて、口元だけで笑った。
軽い笑いじゃない。計算の入った顔だ。
青い瞳が細くなり、俺をじっと見据える。
その視線に、さすがこの町のギルドマスターだけはある。
「動くやつが必ずいるね。入ったら出て来れる可能性がないと言われる城塞の中で五体満足で出てきたとなったら、うわさが広がる。そして何かを知ったと思ったやつらがあんたを消しに来るか、仲間にするかはわからないけど、接触はあるんだろうね」
「だからそれが出てくるまでは冒険者としてとりあえず動こうとは思う」
「仕事を受けてくれるんだったら私達も大助かりさ。でもこの一連の事件が終わったら戻るつもりだね」
「一回は戻る予定だ。町が残っていたら手伝おうと思うし、無いのなら手伝う義理もないから、その時考えてみる」
話が終わって部屋を出ると、外の喧騒が一気に押し寄せてきた。
扉を開けた瞬間、部屋の熱気が波のようにぶつかってくる。
机の上は空いたジョッキだらけで、泡の跡が残った杯が乱雑に並び、倒れた杯から酒がテーブルに染みを作っている。
沢山のジョッキがテーブルに置かれ、誰かが新しく注いだ酒が泡立って溢れ、床に垂れ落ちる音が響く。
酒の甘苦い匂いが立ち込め、煙と汗と混じって鼻を突く。
笑い声が途切れない。
誰かがジョッキを倒して、酒が床に広がる音が響く。
「もっと飲め!」って叫び声が飛び交い、肩を叩かれるたび、背中が熱くなる。
「おい、これ誰が払うんだ」
「シビィ。言ったろ。樽を一杯分飲ましてくれるって」
「誰が言ったそんなこと」
「多数決だ。それなら公平だろ」
そんな多数決あってたまるか。
絶対に負ける多数決じゃないか。不公平しかない。
俺は頭を抱えたくなって、リリアの方を見る。
彼女は苦笑いしながら、俺の視線を受け止めた。
青いポニーテールが、部屋の灯りに揺れる。
「シビ、戻ってきてくれてありがとう。こんなに売り上げに貢献してくれるなんて。シビが戻ってきたお祝いだ」
言い方が完全に商売人で、腹が立つのに笑いそうになる。
俺はやれやれって顔をして、金貨10枚ほど渡した。手のひらから重みが消えていく。
「これで足りるか?あと残りは俺の部屋代に」
「まったく。相変わらずなバカみたいな金銭感覚だね」
「もういっその事一室買い取った方がいいか?」
「金貨10万枚」
「それこそぼったくりだろ。売る気はないってことか」
「そういう事」
久しぶりに会ったこの馬鹿みたいな陽気な冒険者ギルドのメンバーと一緒に飲んで、俺はゆっくり休んだ。
外で何が動いていようが、今夜くらいは、この熱の中に沈んでいたかった。
ジョッキの底に残った酒を眺めながら、胸の奥が少しだけ軽くなった。
門をくぐった瞬間から、人の熱がぶつかってくるんだよな。
呼び込みの声が耳を突き、荷車の軋みが響き、靴底が石畳を叩く音が絶え間ない。
香辛料と汗と、焼き物の匂いが混ざって鼻に残る。
首都は相変わらず人が多すぎだろ。
この騒がしさに、正直うんざりしていた。
「おれはいったんギルドに顔を出すがエレナはどうする?」
人波を避けるように立ち止まって言うと、エレナは小さく息を整えてから頷いた。
人混みの中でも背筋がピンと伸びてるのが、いかにもエレナらしい。
「わたくしはいったん教会に戻って司祭様に報告もありますので」
「そうか。司祭様にはよろしく言っておいてくれ。また後でな」
「はい、明日宿の方にお伺いしますわ」
エレナが去っていく背中を見送って、俺は目的地の方を歩きながら頭の中で気になったことがあった。
……全く俺も疑り深くなってる感じがする。
彼女の事はもちろん信用してるんだけど、多分司祭から「俺を見張れ」みたいなこと言われてるんじゃないかと考えてしまう。
もちろん面と向かっては言ってないだろう。
どうせ「どのような事があった」って世間話で聴く感じだから気づかないだろうな。
そしてエレナは真面目もあるけど、きっと土産話みたいな感じで詳しく話すと思うんだよな。
結局カインを雇った組織もどの勢力かわかってないし、俺自身も知ってるのは、この国しか知らないから予測も立てられないんだよな。
頭の中で整理しようとしても、手がかりが少なすぎて、城塞の仲間出来たってことはまだ狙われてるってことになるから気分がいいわけがなかった。。
考え事をしながら向かっていたら、目的地の冒険者ギルド兼宿屋「癒しの炉端亭」の前に着いていた。
扉の隙間から漏れてくる灯りが、外の冷たい空気を押し返してる。
暖かな橙色の光が、足元を優しく照らして、凍えていた指先までじんわり溶かしていく。
俺は暖かい感じがする宿屋の中に入った。
中に入ると、薪の匂い。煮込みの匂い。笑い声と、グラスがぶつかる音。
炉の熱が頰を撫でて、肩の力が少しだけ抜けた。
「おひさ」
俺が声をかけると、どっといろいろな人の声が俺に向けられた。椅子が軋んで、視線が一気に集まる。
「おおっ!」とか「生きてたか!」とか、野太い歓声が飛び交う。
顔見知りの笑顔が次々浮かんで、懐かしいのに少し胸が詰まる。
「何でシビがここにいるんだ?」
「やはり中には、入りませんでしたってやつか?」
「無事だったか?」
そういえば数日だったけど、こいつらと結構飲んだり身の上話や人生相談など受けてたっけ。
あの時の軽さが、今はやけに遠い。
でも、こうやって同じノリで騒いでくるのは、ありがたく感じる。
「シビ……あんた大丈夫だったの?」
深い海みたいな青色のポニーテールをした女性が、人垣を割って近づいてきた。
この宿のオーナーでもあり、この国の多分一番大きい冒険者ギルドのマスターでもあるリリアだ。
目が笑ってない。心配の方が先に出ている。
青い瞳が、俺をまっすぐ捉えて、離さない。
「一応、戻ってきたよ」
「あの中には入ったの?」
「入ってきてその報告もかねてね」
「なら奥の部屋で話そうか?」
「そうだな」
女二人で部屋に入るなんて何を話すんだ、とかヤジが飛ぶ。いつもの連中のいつもの調子だ。
でもリリアが一度睨むだけで、「こわ~」とか言って黙りこくっていた。
いつもの光景に、思わず口元が緩む。
「怒られるのわかって何でヤジ飛ばすんだバカだろ」
「バカだから冒険者をやってるんだよ」
言い返してきたやつの顔が、堂々としてるのが腹立つ。
俺は心の中で「確かに」って思ってしまった。
こいつら、ほんとにその場の勢いだけで生きてるんだよな。
「本当にこのバカたちが、いつも通りで安心した。全員に一杯おごってやるよ」
言った瞬間、歓声が天井を揺らした。叩かれる背中。掲げられる杯。もう勝手に祝宴みたいになってる。
「俺が戻ってくるまで静かに飲んでろ」
そう言ったら余計騒ぎ出した。
本当に冒険者というのはその場で生きてる連中なのかもしれない。
明日より今。考えるより笑う。そういう連中だ。
リリアが勧めてきた部屋に入って、俺は今までのあった事をすべて話した。
話しながら喉が乾く。途中で何度も水を飲むのに、口の中の熱が引かない。
リリアは余計な口を挟まず、最後までしっかりと聞いてくれた。
青い瞳が、俺の言葉を一つ一つ拾い上げていくみたいに、真剣で静かだった。
「あいつもよくやってくれたみたいだね」
リリアが軽く笑いながら言う。
青いポニーテールが揺れて、燭台の光が髪に反射する。
「そうそう、あっちのマスターと顔見知りなのか?」
「数年前一緒に旅をした仲間だよ。だからあんたをお願いできたってわけ」
俺はジョッキを置いて、肩をすくめた。
木のテーブルが少し湿ってる感触が、掌に残る。
「めっちゃ助かった。これが俺が経験した全てだ」
「まさかその紋章を使用したのが人間だったとはね。でもモンスターが教えてくれたんだろ?信用できるの?」
リリアの瞳が細くなる。
俺を値踏みするような視線だ。
俺は息を軽く吐いて答えた。
「信用はできると思う。あそこで嘘を言っても仕方ないし。それにあいつは褒美とも言ってたしな」
「これからあんたはどうするの?」
「紋章を追う旅は続けるつもりだ。あと俺を狙ったやつらもな。目的をもって冒険者するのもいいかもね」
「でもそれだけしか情報がないんだったらほとんど無駄足だったね」
リリアの声に、少しだけ探るような響きが混じる。
「そうはならないんじゃないのか?」
「どういう意味?」
「俺はあの町から戻ってきた。あの町には紋章の書類があると言われていた。ならどうなる」
リリアは一拍置いて、口元だけで笑った。
軽い笑いじゃない。計算の入った顔だ。
青い瞳が細くなり、俺をじっと見据える。
その視線に、さすがこの町のギルドマスターだけはある。
「動くやつが必ずいるね。入ったら出て来れる可能性がないと言われる城塞の中で五体満足で出てきたとなったら、うわさが広がる。そして何かを知ったと思ったやつらがあんたを消しに来るか、仲間にするかはわからないけど、接触はあるんだろうね」
「だからそれが出てくるまでは冒険者としてとりあえず動こうとは思う」
「仕事を受けてくれるんだったら私達も大助かりさ。でもこの一連の事件が終わったら戻るつもりだね」
「一回は戻る予定だ。町が残っていたら手伝おうと思うし、無いのなら手伝う義理もないから、その時考えてみる」
話が終わって部屋を出ると、外の喧騒が一気に押し寄せてきた。
扉を開けた瞬間、部屋の熱気が波のようにぶつかってくる。
机の上は空いたジョッキだらけで、泡の跡が残った杯が乱雑に並び、倒れた杯から酒がテーブルに染みを作っている。
沢山のジョッキがテーブルに置かれ、誰かが新しく注いだ酒が泡立って溢れ、床に垂れ落ちる音が響く。
酒の甘苦い匂いが立ち込め、煙と汗と混じって鼻を突く。
笑い声が途切れない。
誰かがジョッキを倒して、酒が床に広がる音が響く。
「もっと飲め!」って叫び声が飛び交い、肩を叩かれるたび、背中が熱くなる。
「おい、これ誰が払うんだ」
「シビィ。言ったろ。樽を一杯分飲ましてくれるって」
「誰が言ったそんなこと」
「多数決だ。それなら公平だろ」
そんな多数決あってたまるか。
絶対に負ける多数決じゃないか。不公平しかない。
俺は頭を抱えたくなって、リリアの方を見る。
彼女は苦笑いしながら、俺の視線を受け止めた。
青いポニーテールが、部屋の灯りに揺れる。
「シビ、戻ってきてくれてありがとう。こんなに売り上げに貢献してくれるなんて。シビが戻ってきたお祝いだ」
言い方が完全に商売人で、腹が立つのに笑いそうになる。
俺はやれやれって顔をして、金貨10枚ほど渡した。手のひらから重みが消えていく。
「これで足りるか?あと残りは俺の部屋代に」
「まったく。相変わらずなバカみたいな金銭感覚だね」
「もういっその事一室買い取った方がいいか?」
「金貨10万枚」
「それこそぼったくりだろ。売る気はないってことか」
「そういう事」
久しぶりに会ったこの馬鹿みたいな陽気な冒険者ギルドのメンバーと一緒に飲んで、俺はゆっくり休んだ。
外で何が動いていようが、今夜くらいは、この熱の中に沈んでいたかった。
ジョッキの底に残った酒を眺めながら、胸の奥が少しだけ軽くなった。
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