5 / 6
2章 のんびりとした日常
5話 お迎えと初めてのスーパー
しおりを挟む
学校のチャイムが鳴って、授業が終わった。冬の陽はもう傾きはじめて、教室の窓から見える空がオレンジ色に染まっている。私はカバンを肩にかけて、教室を出た。
今日一日、授業中も何度も白雪様のことを考えてしまっていた。朝の「行ってらっしゃい」の笑顔。頬に触れた軽いキス。
「早く帰ってきてね」って言われた声。それだけで胸が温かくなって、ぼーっとしちゃうんだ。
先生の声が遠く聞こえて、黒板の文字がぼやけて、白雪様の金色の瞳ばかり浮かんでくる。早く家に帰りたいと思うのはいつものことだけどさ。
今は、状況が全然違っていた。今までは、早く終わってほしい。学校という場所から、安全な部屋の中に逃げるために。でも今は、白雪様に会いたいために、嬉しさがあふれてくるから。足取りが自然と軽くなって、廊下を歩くリズムまで弾んでる気がした。学校の門を出て、いつもの道を歩き始める。
家まではバスと徒歩で二十分くらい。今日はなんだか足取りが軽い。白雪様が待ってる。それだけで、世界が少し明るく見える。
駅前のスーパーに寄ろうかな、と思った。冷蔵庫の中が、ちょっと寂しかったはず。夕飯の材料を買っておこう。また白雪様と一緒に作れたら楽しいかも。
スーパーの自動ドアが開いて、中に入る。暖房が効いていて、ほっとした。カートを取って、野菜コーナーから回り始める。白菜、にんじん、じゃがいも……カレー、また作ろうかな。それともお鍋がいい? 白雪様、あったかいもの好きそう。
カゴにいろいろ入れながら、ぼんやり白雪様の顔を思い浮かべていた。……なんか、幸せだな。
そんなことを考えながら、肉コーナーに移動した。鶏肉を見て「白雪様、唐揚げ好きかな?」って呟いていたら、突然、後ろから小さな声が聞こえた。
「……綾?」
振り返ると、そこに白雪様がいた。着物の上に私のコートを羽織っている。ちょっと大きすぎて、袖がぶかぶかだ。銀色の髪をポニーテールみたいにまとめて、金色の瞳をキラキラさせて、私を見上げていた。
「白雪様!?」
私はびっくりして、カゴを落としそうになった。
「どうしてここに!?」
白雪様は少し照れくさそうに頬を赤くして、「お迎えに来ちゃった……待っていられなくて」
「え、でも家で待ってるって言ったのに……」
「ごめん……綾のこと考えすぎて、じっとしていられなくて。学校の近くまで行こうと思ったんだけど、道に迷っちゃって……そしたら綾の匂いがして、綾がいるかも!って思ったら、本当にいた!」
白雪様は興奮して、早口になっていた。狐の耳がコートの下でぴくぴく動いているのが、ちらっと見えた。私は思わず笑ってしまった。
「もう……無茶しちゃだめだよ。寒いのに」
でも、心の底から嬉しかった。白雪様が、私を迎えに来てくれた。そんなの、家族がいなくなってから、誰もしてくれなかった。
「綾、おかえり!」
白雪様は私の腕にぎゅっと抱き付いてきた。スーパーの真ん中でちょっと恥ずかしいけど……周りのおばさんたちが「かわいいね」って微笑んでいるのが見えた。
「ただいま……」
私は小声で返して、白雪様の頭を撫でた。
「一緒に買い物しよう?」
「うん!」
白雪様は目を輝かせて、カートを押す係になった。スーパーの中を、ふたりで回り始める。
野菜コーナーで、白雪様はキャベツを手に取って、「これ、丸くてすごい! 中にいっぱい葉が入ってる!」
「お鍋にしようか」
「鍋!? みんなでつつくやつ!? 楽しそう!」
肉コーナーでは鶏肉を見て、「これ、唐揚げにできるよね!? 綾の作った唐揚げ、食べたい!」
「作ろうか」
「やったー!」
お菓子コーナーでは、白雪様がプリンの棚の前で立ち止まった。
「これ……黄金の宝石みたいだったやつ!」
「好き?」
「うん! 綾と一緒に食べたい!」
カゴにいっぱい入れて、デザートコーナーでアイスクリームを見て、「冷たいのに甘いって、魔法みたい!」って子供みたいに喜んでる。
レジで並んでいると、白雪様が私の手をそっと握ってきた。
「綾と買い物、楽しい……人間界って、すごいね。こんなにいろんなものがあるなんて」
「白雪様が一緒にいてくれるから、もっと楽しいよ」
私は小声で言った。白雪様は顔を赤くして、握る手に力を込めた。
レジでお会計を済ませた。私が払ったけど、白雪様は「次は私が!」って言ってた。重い袋をふたりで持って、スーパーを出る。外はもう暮れかけていて、街灯が灯り始めていた。
帰り道、ふたりで袋を持って歩く。白雪様が私のコートの袖をつかんでくれた。
「綾、学校どうだった?」
「普通……でも、白雪様のことばっかり考えてた」
「え!? ほんと!?」
白雪様は飛び跳ねるみたいに喜んだ。
「私も、綾のことばっかり考えてた! 家でテレビ見てたんだけど、綾が出てこないからつまらなくて……」
「ふふ」
公園のベンチに少し寄り道して、座った。冬の空気が冷たいけど、白雪様が隣にいてくれるから、全然寒くない。
「白雪様」
「ん?」
「迎えに来てくれて、ありがとう。すごく嬉しかった」
白雪様は少し照れくさそうに笑って、「私も、綾に会えて嬉しかった……これからも、毎日迎えに来ちゃおうかな」
「学校まで来たら、先生に怒られるよ?」
「じゃあ、スーパーで待ってる!」
ふたりで笑い合った。家に着いて、玄関を開けた。
「ただいまー」
「おかえりー!」
自分が言った「ただいま」に、返事が返ってくる。それだけで胸がきゅっとなる。白雪様が笑いながら、袋をキッチンに運んでくれた。夕飯の準備を、ふたりで始めた。お鍋の材料を切って、唐揚げの下準備をして。
白雪様が「これどうやって切るの?」って聞いてくるから、手を取って一緒に包丁を持った。
「危ないよ、ゆっくりね」
「綾の手、温かい……」
また恥ずかしい事を言われて、私は顔を赤くしちゃった。
鍋が煮えて、唐揚げが揚がる。テーブルに並べて、ふたりで向かい合って座った。
「いただきます」
「いただきます!」
白雪様は鍋をつつきながら、目を輝かせていた。
「あったかくて、美味しい!! 綾と食べるご飯、ほんとに幸せ!」
私もうなずいた。この時間が、ずっと続けばいい。白雪様と過ごす、こんな普通の日々が。食事が終わって、洗い物をふたりでした。ソファに並んで座って、テレビを見る。白雪様が私の肩に頭を寄せてきて、自然と手を繋いだ。
「……綾」
「ん?」
「今日、楽しかった」
「私も」
白雪様は目を閉じて、幸せそうに微笑んだ。狐の耳がぴょこっと出てきて、私の頬をくすぐった。この家に帰るのが、本当に楽しみになった。
天国にいるみんな。心配してたよね。今私は、幸せに暮らしてるよ。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
「応援したい」と感じていただけましたら、ぜひ★応援(星)とフォローをしていただけると、とても嬉しいです。
皆さんの応援が、次の話の励みになります!
これからもよろしくお願いいたします。
今日一日、授業中も何度も白雪様のことを考えてしまっていた。朝の「行ってらっしゃい」の笑顔。頬に触れた軽いキス。
「早く帰ってきてね」って言われた声。それだけで胸が温かくなって、ぼーっとしちゃうんだ。
先生の声が遠く聞こえて、黒板の文字がぼやけて、白雪様の金色の瞳ばかり浮かんでくる。早く家に帰りたいと思うのはいつものことだけどさ。
今は、状況が全然違っていた。今までは、早く終わってほしい。学校という場所から、安全な部屋の中に逃げるために。でも今は、白雪様に会いたいために、嬉しさがあふれてくるから。足取りが自然と軽くなって、廊下を歩くリズムまで弾んでる気がした。学校の門を出て、いつもの道を歩き始める。
家まではバスと徒歩で二十分くらい。今日はなんだか足取りが軽い。白雪様が待ってる。それだけで、世界が少し明るく見える。
駅前のスーパーに寄ろうかな、と思った。冷蔵庫の中が、ちょっと寂しかったはず。夕飯の材料を買っておこう。また白雪様と一緒に作れたら楽しいかも。
スーパーの自動ドアが開いて、中に入る。暖房が効いていて、ほっとした。カートを取って、野菜コーナーから回り始める。白菜、にんじん、じゃがいも……カレー、また作ろうかな。それともお鍋がいい? 白雪様、あったかいもの好きそう。
カゴにいろいろ入れながら、ぼんやり白雪様の顔を思い浮かべていた。……なんか、幸せだな。
そんなことを考えながら、肉コーナーに移動した。鶏肉を見て「白雪様、唐揚げ好きかな?」って呟いていたら、突然、後ろから小さな声が聞こえた。
「……綾?」
振り返ると、そこに白雪様がいた。着物の上に私のコートを羽織っている。ちょっと大きすぎて、袖がぶかぶかだ。銀色の髪をポニーテールみたいにまとめて、金色の瞳をキラキラさせて、私を見上げていた。
「白雪様!?」
私はびっくりして、カゴを落としそうになった。
「どうしてここに!?」
白雪様は少し照れくさそうに頬を赤くして、「お迎えに来ちゃった……待っていられなくて」
「え、でも家で待ってるって言ったのに……」
「ごめん……綾のこと考えすぎて、じっとしていられなくて。学校の近くまで行こうと思ったんだけど、道に迷っちゃって……そしたら綾の匂いがして、綾がいるかも!って思ったら、本当にいた!」
白雪様は興奮して、早口になっていた。狐の耳がコートの下でぴくぴく動いているのが、ちらっと見えた。私は思わず笑ってしまった。
「もう……無茶しちゃだめだよ。寒いのに」
でも、心の底から嬉しかった。白雪様が、私を迎えに来てくれた。そんなの、家族がいなくなってから、誰もしてくれなかった。
「綾、おかえり!」
白雪様は私の腕にぎゅっと抱き付いてきた。スーパーの真ん中でちょっと恥ずかしいけど……周りのおばさんたちが「かわいいね」って微笑んでいるのが見えた。
「ただいま……」
私は小声で返して、白雪様の頭を撫でた。
「一緒に買い物しよう?」
「うん!」
白雪様は目を輝かせて、カートを押す係になった。スーパーの中を、ふたりで回り始める。
野菜コーナーで、白雪様はキャベツを手に取って、「これ、丸くてすごい! 中にいっぱい葉が入ってる!」
「お鍋にしようか」
「鍋!? みんなでつつくやつ!? 楽しそう!」
肉コーナーでは鶏肉を見て、「これ、唐揚げにできるよね!? 綾の作った唐揚げ、食べたい!」
「作ろうか」
「やったー!」
お菓子コーナーでは、白雪様がプリンの棚の前で立ち止まった。
「これ……黄金の宝石みたいだったやつ!」
「好き?」
「うん! 綾と一緒に食べたい!」
カゴにいっぱい入れて、デザートコーナーでアイスクリームを見て、「冷たいのに甘いって、魔法みたい!」って子供みたいに喜んでる。
レジで並んでいると、白雪様が私の手をそっと握ってきた。
「綾と買い物、楽しい……人間界って、すごいね。こんなにいろんなものがあるなんて」
「白雪様が一緒にいてくれるから、もっと楽しいよ」
私は小声で言った。白雪様は顔を赤くして、握る手に力を込めた。
レジでお会計を済ませた。私が払ったけど、白雪様は「次は私が!」って言ってた。重い袋をふたりで持って、スーパーを出る。外はもう暮れかけていて、街灯が灯り始めていた。
帰り道、ふたりで袋を持って歩く。白雪様が私のコートの袖をつかんでくれた。
「綾、学校どうだった?」
「普通……でも、白雪様のことばっかり考えてた」
「え!? ほんと!?」
白雪様は飛び跳ねるみたいに喜んだ。
「私も、綾のことばっかり考えてた! 家でテレビ見てたんだけど、綾が出てこないからつまらなくて……」
「ふふ」
公園のベンチに少し寄り道して、座った。冬の空気が冷たいけど、白雪様が隣にいてくれるから、全然寒くない。
「白雪様」
「ん?」
「迎えに来てくれて、ありがとう。すごく嬉しかった」
白雪様は少し照れくさそうに笑って、「私も、綾に会えて嬉しかった……これからも、毎日迎えに来ちゃおうかな」
「学校まで来たら、先生に怒られるよ?」
「じゃあ、スーパーで待ってる!」
ふたりで笑い合った。家に着いて、玄関を開けた。
「ただいまー」
「おかえりー!」
自分が言った「ただいま」に、返事が返ってくる。それだけで胸がきゅっとなる。白雪様が笑いながら、袋をキッチンに運んでくれた。夕飯の準備を、ふたりで始めた。お鍋の材料を切って、唐揚げの下準備をして。
白雪様が「これどうやって切るの?」って聞いてくるから、手を取って一緒に包丁を持った。
「危ないよ、ゆっくりね」
「綾の手、温かい……」
また恥ずかしい事を言われて、私は顔を赤くしちゃった。
鍋が煮えて、唐揚げが揚がる。テーブルに並べて、ふたりで向かい合って座った。
「いただきます」
「いただきます!」
白雪様は鍋をつつきながら、目を輝かせていた。
「あったかくて、美味しい!! 綾と食べるご飯、ほんとに幸せ!」
私もうなずいた。この時間が、ずっと続けばいい。白雪様と過ごす、こんな普通の日々が。食事が終わって、洗い物をふたりでした。ソファに並んで座って、テレビを見る。白雪様が私の肩に頭を寄せてきて、自然と手を繋いだ。
「……綾」
「ん?」
「今日、楽しかった」
「私も」
白雪様は目を閉じて、幸せそうに微笑んだ。狐の耳がぴょこっと出てきて、私の頬をくすぐった。この家に帰るのが、本当に楽しみになった。
天国にいるみんな。心配してたよね。今私は、幸せに暮らしてるよ。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
「応援したい」と感じていただけましたら、ぜひ★応援(星)とフォローをしていただけると、とても嬉しいです。
皆さんの応援が、次の話の励みになります!
これからもよろしくお願いいたします。
0
あなたにおすすめの小説
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話
穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる