梟の雛鳥~私立渋谷明応学園~

日夏

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【本編】五章 examination (2年次11月・the pastより1週間後)

examination -7-

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「そういやさ、優成は射撃がS判定なんだろ?なのにBグループなの?」
オムライスを食べながら綾瀬は疑問に思ったことをそのまま口にした。

「そりゃ健の野郎が総合D判定だからだ。俺と足したら能力的にBってことだろうな」
王寺の言葉にガツンとスプーンで皿に音を立てたのは澤邑である。
綾瀬はなるほどーとそこで納得しているが、鷹司は逆に疑問に思った。

なぜそこまで能力が離れているものとがパートナーになったのか。
通常、あまりにかけ離れている場合、パートナーになることはない。
能力別にグループに分けられているからだ。
当然、仕事の難易度も変わってくる。

「うっせぇ、俺だってBグループになるなんて思わなかったんだぜ?
あんだけやっちまったのに…なのに上が勝手にグループ上げて―――…」

(コンビを組んでけっこう経つころやし、もう何を言っても時候やな。
優成とよろしく出来る人間はそうそうおらんし……)

「あー、そりゃ俺が上にかけあったからや。
優成に澤邑をって押したんよ」
「げ、うっそ、桜介そんなことまでしてたの!?」

このことは秋元にも言っていなかったことだった。
なんとなく熊田の相方、ということで口に出来なかったのである。
熊田は元澤邑のパートナーで、秋元と仲が良かったのだが、仕事でミスを犯し亡くなってしまった。
今はふっきれているので言ってもどうとも思わないだろうが、 ようは春名自身、重要でもなかったため言い忘れていたのだ。

「そうやで?
優成の我儘プーに耐えられる相方探したんよ、 フリーで、鈍感、マイペース、従順、もしくは阿呆が付くほどのお人よしおるかーって。
そしたらDグループの救護班が澤邑がおる言うてな?
あんとき俺と澤邑同じクラスやったから、ある程度人間わかってたし。
おまけに優成とある意味同類やったから、なら上手くいく思ってな?
結果良かったと違う?」

まぁ、飯のことは考え付かなかったと付け足した春名は全く悪びれていない。

「オイ、我儘プーってなんだ、桜介」
王寺のにらみにまぁまぁと笑う春名。
しかし答えは春名ではなく、澤邑からだ。

「け、そのまんまじゃねぇか。我儘プーだんもんなぁ?お前」
「うっせぇぞ、馬鹿な野郎にいわれたかねぇな。
毎回毎回テスト範囲やら宿題やら手伝ってやってるのは誰だよ?」
「だからかわりに掃除洗濯ゴミだし全部やってるだろーが!」
「中途半端なんだ、てめぇはっ!自分の下着くらい覚えとけ」
「だったら自分の下着くらい自分で洗えよ!」
「あー?」

また始まった言い争いはとても低レベルなものだ。
毎回こんな会話ばかりである。
仲が良いのか悪いのか。

しかし仕事中には意見が割れないのだから不思議なコンビだ。
単に澤邑が自分の能力を知って王寺の意見を優先しているのだが、 それこそが続いている理由なのである。

「澤邑ってさー、本っ当お人よしなんだな?」
「は?んだソレ?」
「だって、王寺の前も掃除洗濯全部やってたんだろ?
熊田の奴が言ってたぜ?」
「え………」

動きが止まったのは澤邑だ。
吹っ切れたとはいえ、澤邑はまだ熊田の死を引きずっているのである。
王寺に言った最初の言葉は『お前は死ぬなよ』だったくらいだ。

「“俺より仕事上先輩なのに全部家事を引き受けて、自分より俺の怪我心配して、仕事後も隠れて泣いてるくらいお人よしな相方だ”って」

「お前今でも泣いてるもんな?」
「うるせぇよ、熱出す奴に言われたかねぇ!
……熊田の奴がそう言ってたのか?」
「そ。あの仕事もさ、敵討ちだって言って。
本当のこと言ったら自分がやるって言い出すに決まってるって。
人が良いからそう言うだろうって。
だから1人でやるって言ってた。
失敗はしないって言って―――…」

「俺は生きてくれたら失敗しても良かったんだっ!
一言も言わずに逝かれて残された身にもなってみろっ…」
「熊田馬鹿だからさ、突っ走っちゃったんだよなー。
それ止めなかった俺も悪いんだ。
だからさ、澤邑は悪くないんだぜ?」

綾瀬は澤邑に目を向けてぽかんとしていた。
鷹司はいろいろあるんだろうとあえて触れはしなかった。
王寺は呆れたように澤邑に目を向ける。
澤邑は今でも悔やんでいるのだ。
涙が、溢れる。

「んとに、てめぇは泣き虫だな」
「うるせぇよ、これは悔し泣きだ!」
「こすると赤くなるで?」
澤邑の腕を取り、上から覗き込むように見下ろしたのは春名だ。
それだけで終わらず涙を親指の腹で拭う。
澤邑は驚きぎょっとして腰を引いた。

「桜介っ!なに澤邑に手出してんだよ!
立川にけられても助けてあげないからなっ!?」
「はい?なんや腕掴んだくらい、何もしてないて、なぁ?」
「………」

澤邑からの返事は無い。
かわりに王寺からの返事があった。

「桜介、今から半径3メートル以上近づくんじゃねぇ。
近づいたらぶっ殺す」
「な、なんや、それ?!なんでそうなるん?」
「知るか」

漫才のような会話が繰り広げられる中、電話が鳴る。
その電話を秋元がとった。
「はい、Aグループ救護班!」

まだまだ騒がしい夜であった。
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