男装令嬢クリスティーナのお見合い結婚

日夏

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男装令嬢クリスティーナのお見合い結婚

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「クリスティーナ嬢、どうか私と婚約……いえ、結婚してほしい。今、すぐにでも」


別れ際に、そっと手をひかれて引き留められ───乞われた。

はあ?いやいや、さっき会ったばっかだぞ?
ってか、正気なのか?とすら疑っちまう。
まじまじと見合い相手、オースティン公爵令息を見上げると、必死過ぎて藁をもすがる様子さえ伺える。

「は?……や、え、えー?あー……その、本気で?」
「いたって真面目に言っている」

これは……マジっぽい。
そもそもこんな冗談を言うような奴でもないはずだ。

「ええ、まあ……その、うん。あ、家を通してもらえれば、としか」
「っ勿論、それは……そう、だな。ああ、すまない、気が早ってしまった。では、今日のところはこれで」

そうして優雅に礼をされて、従者だろう男と共に帰っていった。


「マジか……」
「夢ではなさそうですよ、クリス様」
「レヴ」

ぼけーっと馬車の窓を見ながら呟くと、俺の従者であるリーヴァイがにこやかに声を掛けてきた。
幼少期からずーっと俺についてくれている。

「あー……うん」
「良かったではないですか。気に入られて」
「や、それこそまさかっつーか、あり得ないっつーか……公爵家だぞ?」
「ですが、普段の、ありのままの格好で、さらに、人目のあるこのレストランをご指定されたことをお察しするに、女性嫌悪というより、恐怖に近かいのではないかと。お父上の言いつけであり無視できずに足を運ばれたことと思いますが、ご自身もお相手にそうとうお困りでいらっしゃったのでは?」
「かもなあ」

こんな、17にして婚約者の話も一度も上がったことのない、男装令嬢の自分に話が回ってきたのだ。
レヴの言い分はもっともな話だ。
そして、自分は、婚約者を絶賛募集中だった。
悪い話じゃない、むしろ、良すぎて怖いくらいの、いい話だろう。


◇◆◇  ◇◆◇  ◇◆◇  ◇◆◇  


見合い相手は、ブルーノ=オースティン、25歳。
古き代から築き上げられてきた由緒正しきオースティン公爵家、そのご長男であり、次期宰相候補とも呼ばれている。
銀に近いほどの薄い金髪に、透き通ったブルーサファイヤのような濃い青の瞳の持ち主で、そりゃあもう誰が見たって、十人中十人が美青年だと言うだろう。
それも、頭に超絶がつくほどの、だ。
目が合っただけで、見悶えて倒れるご令嬢が至って不思議じゃない。
なのに、今までお相手がいなかった。

それには、理由がある。
で、その理由はきちんと聞かされていなかったが、聞いたところで大差なかった。
それは、彼がゲームの攻略対象者だったからだ。

まさか自分がゲームの中の人間に転生するとは思わなかった。
それも、性別が変わって、だ。

俺───もとい、私、クリスティーナ=メイシーは、しがない伯爵家の三女だ。
モブの中のモブ、ヒロインの妹である。

17歳という若さもあるし、菫色の薄い紫色したストレートロングな髪は、まあ綺麗だし、顔も……まあ綺麗っちゃあ綺麗だ。
長い睫毛に、すっと通った鼻筋、陶器のような白い肌、薄っすら色付くピンク色の唇。
美人かと言われたら、自分でも、美人だと思う。
だが、この顔は100%父親似で、女性らしさのひとかけらもない。
身長は女性にしては高めな上に、肝心の胸がない。
や、胸はあるにはあるが、ごくごくささやかな胸で、15歳からなんのかわりもない。
2年前、初めて自分の胸を鏡で見た時には、心底がっかりしたものだ。

クリスティーナ=メイシーは、本来は作中すぐ、15歳にして亡くなるはずであった、実の母親の手によって。
亡くならずに転生したのは、神の采配か否かはわからない。

ともかく、そのクリスティーナ=メイシーに転生したのが、21歳の俺、フェンシング部の男子大学生だった。
いつどこで転生したのかは……詳しくは覚えていない。
や、試合の前日、稽古帰りに電車に乗ったところまでは覚えている。
だが、家の門をくぐったか?飯を食ったか?風呂は?───と聞かれたら、よく覚えていないんだ。
事故か事件か……まあ、今となってはどっちでもいいことだ。
ともかく、俺は、またこうして違う人生を生きている。

あ、ちなみに童貞だったが、元の俺がモテていなかったのか?と言ったら、嘘だぞ?そこそこに、モテていたはずだ。
そこそこ整った爽やかな顔と、フェンシングという特殊なスポーツと、そこそこの実績があったからだ。
とは言え、あれだけ人生の殆どの時間をかけていても、日本代表に選ばれることは一度とてなかった。
だから、そこそこ、どまりだったのだ。

それに、爽やかなのは顔の作りだけで、性格はかなり大雑把で適当だ。
『お前のそれは詐欺だ』と言われるくらいには。
繊細そうな顔をしてる癖に、性格は大雑把で適当すぎる、と。
せめて、大らかだと言って欲しかったよなあ。

で。
そんな男が、仮にも15歳に育った女の子に転生してみろ?
色々と混乱するだろ?
まあ、混乱した。
なぜなら、転生してすぐは、最初は男だと思ったからだ。
服装も、調度品も、全てが男物だった。
それに、家の者は皆クリスティーナ様だとかお嬢様だとかではなく『クリス様』と呼んでいたからだ。

目覚めてすぐは混乱して記憶があやふやだった俺だが、父と姉をはじめ家じゅうの使用人からも号泣されて、とにかく目が覚めたことに喜ばれた。
生きていた、それだけでいい、お前のせいではない、あんなにショックなことがあったんだ、寧ろ忘れても構わないんじゃないか……等々。
とにかく、無事で何よりだと思われたのだろう。

なので、目覚めてすぐは、状況がよくわからなかったが、どっかの貴族の“クリス坊ちゃん”に転生したのかと思ったんだ。
男じゃないと知ったのは、用を足しにトイレに入った時だ。
そこには、あるべきものが無かった。
声にならない声を上げて、その場で倒れた。

また倒れたもんだから家中大騒ぎになった。
起きたら、元のクリスティーナ=メイシーの記憶も良い感じで混ざった。
だから、二度目に目覚めた時の俺はさほど混乱せずに済んだんだが、今度は家中の者から過剰に心配されてしまった。


クリスティーナが男として育てられたのには訳がある。
クリスティーナを産んだ母は、三人目も女と知るや否や、悲鳴を上げた。
次に目覚めた時には、男だと言い張ったという。
否定しても叫び狂うので手が付けられず、仕方なく三女は長男として育てることにしたようだ。

邸の誰も止めなかったのは、跡継ぎが産めないという重圧に耐えられずにいた夫人への哀れみが大きい。
男として否定しなければ、表面上は穏やかだったのもある。

それに、いくらクリスティーナが幼き頃の当主に似ていても、所詮は女。
時が来れば女性らしくなり、妻もそのうち娘と認めるだろう。
そう楽観視したメイシー伯爵は『見守るように』と判断したからだ。

実際はそうはならず、無理心中を図られて───結局娘の俺だけが助かった。
毒を盛られ母親も毒を煽ったが、俺だけ助かったのは、幼少期に毒を慣らされていたのが原因だろう、というのが医者の見解だった。

で、冒頭に戻る。
超絶美しい顔したオースティン公爵令息、もとい、ブルーノ様だが、先ほども言ったようにゲーム中の攻略対象である。

一番上の姉であるヒロインと、よろしくなる未来もあったんだ。
姉はゲーム中だとバットエンド、しかし実はハッピーエンドの道をたどった。
思いっ切り大恋愛の末、辺境伯に押し掛け、嫁いでいった。

姉は、はっきり言って、ぼんきゅっぼーんの超絶美少女、まさしくヒロインだった。
ゲームの中では、王太子、王弟殿下、宰相の息子、騎士団長の息子、とそれぞれルートがあったが、姉は騎士団長の息子のルートに入り、婚約後、婚約破棄騒動が起こり、そして紆余曲折あったが辺境伯へ。
現実は、ゲームとは違うもんだなーと思っていて、まあ、あの姉がドストライクの筋肉隆々で男らしい辺境伯を捕まえられたのだから結果良かったんだろうな、と思っていた。
幸せなのが一番だ。

ゲームの中での宰相の息子、ブルーノ様は、大の女性嫌いだ。
メイドに襲われかけ、お茶会のセッティングで媚薬を盛られ、断られた腹いせに毒を盛られかけ、女性と食事ができない設定だったはずだ。
不憫過ぎて泣けてくる。
ルートから外れたから、手作りクッキーで克服イベントも起きていないはず。

そんな彼に白羽の矢が立ったのが、男装令嬢の俺だ。


15歳から始まった俺の淑女教育は、とりあえず外に出すだけの体裁は整えられた。
だが、長時間はもたないし、それで良いと家中が認めてくれた。
諦めてくれた、が正しいのかもしれない。
俺の意向で、そのまま継続して貰っている次期領主としての勉学と、剣術、乗馬なんかもそのまま許された。
父も俺と同じで、婿を取るのも良いだろう、そう思っていたんだと思う。

だが、しかし。
昨年、後妻に腹違いの弟が生まれてしまったら、そうはいかない。
そのままでいいと父も義母も言ってくれているが、早急に嫁ぎ先を探す必要があった。
義母もめちゃくちゃ良い人で、可愛らしい人であり、ちゃんと俺の母であり、あたたかい人だった。
そんなんだから、余計、だ。

『あー……じゃあもう、修道院に行くか!』

最終的にそんな風に俺が決断したもんだから、レヴも父も義母も、家中が大騒ぎした。
嫁いだ二人の姉すらも一時帰宅するほどで、全員で俺の説得にあたった。
『良い嫁ぎ先を考えるから、もう少しだけ待ちなさい!いいか、早まるな、絶対の絶対に早まらないでくれ!』
『リーヴァイ、クリスを頼みますよ』
『お任せください』

そんなこんなの修道院行き大騒動があってから、二週間。
父から紹介されたのが、なんとすっかり俺の中から忘れてさられていたヒロインの攻略対象者の一人、オースティン公爵令息のブルーノ様だった。
父が王宮勤めで、そこかしこと三女の嫁ぎ先を探している話をふれ渡った結果、宰相様直々に声がかかったという。
父も驚いていたが、男装のまま、ふだんと変わらない畏まらない様でいただきたい、是非そうして欲しいことと、指定の時間指定のレストランに行くことが決定されていた。
宰相様で公爵様だ、断れるわけがない。

普段の格好で良い、といわれて、はいそうですか、とはいかず。
格式は高すぎず、でも低くもなく、カジュアル寄りだが所詮貴族の使う高級レストラン。
男装と言えど、普段よりお洒落な服に着替え、レヴの手によって、長い髪は綺麗にとかされて艶を出され、しっかりポニーテールに結ばれた。
その出来上がりたるや。
うーん……若かりしき父に、そっくりだ。
今でこそ皺が増えて白髪交じりだが、それでもしゃんとしていたらダンディなイケメン父である。
40をゆうに過ぎても、一回りも若い後妻が相思相愛で嫁いで来られる程には、イケメンなのだ。
故に、俺もイケメン、である。

『良くお似合いです』
『自分でもそう思う。ドレスよかよっぽど似合ってるよなあ』
『ドレスもお似合いだと思いますが?』
『よせやい』

緊張をほぐされつつ、時間前ではあるが、案内された席に座る。
周りのお嬢さんたちについ笑みを浮かべて目礼をすると、黄色い声が上がる。
まあ……いつものことだ。

学校で浮いているようで浮いていない。
や、浮いているか、思いっきし。
けれど、この姿のおかげで、男連中から言い寄られることも、女性からの陰湿ないじめもない。
告白されたのは、女生徒から。

男子生徒からは、告白じゃなく決闘ならある。
受けて立ったが、勿論秒で勝った。
前世のフェンシングの感覚と、今世の剣の腕前、両方が合わさった結果、更に磨きがかかったような気がした。
おかげでますます同年代のお嫁の貰い手からは、遠ざかったと言ってもいい。



「失礼ですが、メイシー伯爵令嬢で間違いありませんか?」
「はい、間違いありません。メイシー伯爵家三女、クリスティーナ=メイシーと申します」
「……遅くなりすみません。ブルーノ=オースティンです」

そう言って困惑気味に席に着いたのは、紛れもなくブルーノ=オースティンだった。
や、ゲームで見た時よりも、男としての完成度は高く、育ちきっている。
まあ、そりゃそうだ、もう、立派に25だもんなあ。

昼間のレストランの待ち合わせで、格式通りの貴族の挨拶とはいかないものの、十分注目の的だった。
周りの目が更に俺らに集中するが、それもしかたない。
一緒にいる俺が霞むほどの壮絶美形、しかも次期宰相様だ。
困惑した顔も、目の保養すぎる。

そういや、中身も見た目も俺は男みたいな感じだけどさ、心も身体も所詮女なんだよなあ。
可愛いと思うことはあっても、女性を恋愛対象で好きになったことはない。
好ましく思った男子生徒はいたが、彼には婚約者もいたし、特別自分から動くまででもなかった。
まさか、俺も父も、公爵令息のブルーノ=オースティンとうまくいくとは思っていない。
思っていないが、父のことを思えば、もともと断れない状況だし、失礼があってはいけない相手だ。
なら、内心は、ミーハー心むき出しでこの状況を楽しんでもいいだろう。
この超絶美形を前に美味いものが食えるなら、来たかいがあるってもんだ。

「…その、クリスティーナ嬢、とお呼びしても?」
「ええ、構いません」
「では、私のことは、ブルーノ、と。その、父が無理を言ったようで申し訳ありません」
「いいえ、ブルーノ様。私が、婚約者を絶賛募集中なのは確かですから。まあ、少し人目は気になりますが、こういうのも悪くないですね」

たぶん、周りには、俺は男と思われているだろう。
俺なんて霞むかと思ったが、ブルーノとセットで目の保養になっているっぽい。
このレストランは、商談にも使われるし、現在はランチ時だ。
休日で年配の女性が多いが、男性がいないわけではないし、そこまで不自然には感じないのだろう。
さっすが、宰相閣下はいい店を選んだなあ。
なんていうか、どっかのアイドルにでもなったような気分だ。

「悪くない……ですか」
「ええ。声を掛けて来られることもない環境ですし、話に耳をそばだてる者もいない。席も程よく離れている上に、窓側で眺めも日当たりも良好です。
従業員もよく行き届いていますし、食事も美味しそうですね。さすが宰相閣下がお選びになった店です」
「なら、気にせず頼んでいただきたい。私は……」

ブルーノが良い淀む。
口を開きかけて、また閉じた。

うーん、一緒には食えないかー……まあ、初対面だしなあ。

貴族の見合いで、この形式が普通か普通じゃないかと言われたら、普通じゃない。
けど、家に呼んでおいて食えないほうが逃げらんないし、逆はもっと無理だもんなあ。
そういう意味で、この場、なんだろうけれど。

「……知っていたのか?」
「へ?あ、いえ……失礼、なにか?」
「一緒には食えないかー……まあ、初対面だしなあ、と」
「………」

あちゃー……どうやら、声に出ていたらしい。
開始すぐに墓穴を掘ったっぽい。
まあ、でもしょうがないか。

「女性が苦手だという話は以前から聞いておりましたし───」
「普通に話してくれ、頼む」
「いえ、流石にそれは」
「身分がどうこう気にしないし、不敬だとかはない」
「あ、そう?……じゃ、遠慮なく」

そういや、地のままで良いって頼まれてたっけ。
外面良くして、万が一いい結果になったって、地を知られて白紙になったらそっちの方がダメージがデカい。

「初対面の人間と食べるの苦手な人もいるだろ?特に、ブルーノ様は公爵家のご長男だ、警戒してもしかたない」
「………」
「私は毒や薬を使う気なんてこれっぽっちもないし、私自身が慣らされてもいるし、ある程度見わけもつくから心配しなくてもいい……って言っても安心はできないか。ひとりで食べるのは気が引けるけど、腹は減ってるから頼ませてもらう」

言いたい放題かもしれないが、本心からそう言って、店員を呼び寄せ、折角なのでおすすめのコースを頼む。

「私にも同じものを」

すると、目の前でブルーノが店員に告げる。
おお、一緒のものを頼むだけ、一歩前進じゃね?
少し声は硬かったが、良い傾向だ。


「あなたのことは、予め聞いていた」
「ん?」
「あ、いや……その、15まで男として育てられた、と。普段も男性の格好をしているようだから、女性を毛嫌いしている私でも一緒に食事くらいは出来るだろうと、父が」
「ああ、そういう。で?どう?出来そう?」
「確かに男性の格好をしているからか、思った以上に安心している。あなたからの女性特有の嫌な視線もない。香水臭くもないし、胸がないから吐き気もしない」
「胸がないは誉め言葉じゃないな!まあ、吐き気がしないなら良かったよ。でも、そっか…胸があるだけで吐き気がすんのか」
「正しくは、目に入ってしまうと、腕を取られた時の感触を思い出し、薬を盛られた時を思い出す」
「あーなるほど…それは辛いな。フラッシュバックか」
「フラッシュバック?」
「嫌な経験をすると、ちょっとしたきっかけで思い出すってこと。小さい時に暗いところに閉じ込められたことのある奴が、今も暗闇が苦手だとか、そういう感じ」
「ああ。それに近いのかもしれない」

それから、ぽつりぽつりと自分の身の内を話しだしたブルーノ様は、最初の一口こそ勇気がいったようだが、その後はスムーズに食を楽しんでいるように見えた。
何より、俺が『あ、美味いなこれ!』というと、楽しそうに笑う。

うんうん、笑顔が自然に出てくるのは良いことだ。
男として育てられた俺は、食事のマナーは厳しかったわけで、そうすると、お手本の様なナイフとフォークの捌き方と姿勢だ。
身に着けられた習性は、ちょっとやそっとで変わることなく、今日も今日とて、それは変わらない。
それに、領地経営や、国内政治、はたまた外交について意見を聞かれたら、話せる。
それも、結構相手の的を得ているようで、話が広がった。
俺からも色々と気になったことを聞いたが、ブルーノ様の話はためになったし、話題が豊富で面白かった。
さすが、公爵家の長男であり、次期宰相と名高いだけある。

互いに打って響く、そんな感じだ。
この国の貴族で、二ヶ国語はともかく五ヶ国語話せて、領地経営や政治の話、はたまた外交についても話が出来る令嬢なんぞ、珍しいだろう。
随分驚かれたが、だからこそ会話は弾んだ。
まあ、ドレスだとか流行だとかを聞かれたら、これっぽっちもわからないけどな。
おかげで、コース料理の全てを互いに胃に収めることに成功したんだ。



「まさか、一日で攻略しちゃうとは」
「これからでございましょう」

レヴにこれからだと言われたら、それもそうだな、と呑気に思った。



◇◆◇  ◇◆◇  ◇◆◇  ◇◆◇ 



見合いは無事に成功し、互いの家中に喜ばれた。
もう、これは本当に、手放しといって良い程に。

あれからブルーノ様は早かった。
流石、次期宰相様だ。
あれよあれよと婚約、そして結婚まで進んで、公爵夫人になり、二児の母になってしまった。

引っ越した先でも、家中から大歓迎された。
どうやら家の使用人たちですら、絶望的で、すでに諦めていたらしかった。
吐くほど女性が駄目なんだったら、そうなっても不思議じゃないだろう。

男装令嬢とはいえ、伯爵家の血を引く令嬢で、誰かのお手付きになったわけでも悪い噂があったわけでもない。
外交として通訳補佐が出来るほどには語学が堪能で、領地の経営をも学んでいたほどの頭脳を持ち、更に剣も扱える。
自分の身だけでなく夫をも守れるとくれば、それも良かろうということらしい。
ま、ブルーノ様は、剣術が苦手だもんな。
それに、着飾れば美しいご夫人の出来上がりだから、飾りがいがあるようだ。

宰相閣下が無理矢理どこぞのご令嬢と結婚させることにならずにすんでよかったと思う。
若いメイドを取らず、男性が多いのもブルーノ様のためだろう。

正式な場ではドレスの着用も余儀なくされたが、ブルーノ様は、腕を組んでも大丈夫だった。
どうやら俺が相手なら、女の格好で着飾っても大丈夫なようだ。
おかげできちんとした花嫁衣装で式をあげることができた。


胸は、育たなかったけれどな、結局。

それはそれで、よかったっぽい。
肝心の初夜も、自分の身体のことより、ブルーノ様のあっちが機能するのかが心配だったが、それも杞憂に終わった。


ふたりの息子にも恵まれて、結果オーライだ。

めでたしめでたし。
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