異世界に召喚された猫かぶりなMR、ブチ切れて本性晒しましたがイケメン薬師に溺愛されています。

日夏

文字の大きさ
196 / 198
本編

-196- 揃いのエプロン

しおりを挟む
今日は待ちに待ったソフィア監修クッキー作りだ。
明日がいよいよシリルの引っ越しだからな、予定通り、俺がソフィア監修の下、手作りクッキーに挑戦だ。

因みに、明日、アレックス様には寒天ゼリーの件も相談するつもりでいる。
特許の申請は既に届けてあるし。
直ぐに商品化は無理だろうけどな、相談するくらい良いだろ。

それはさておき。
今日はゼリーじゃなくて、クッキーだ。
まだ俺が学生だったころは、母親と一緒にケーキやクッキー、それから和菓子も作ったことがあったっけ。
茶の師範代を持っていた母親だが、料理も菓子もプロ並みの腕だったし、アイランド型のキッチンやデカいオーブンがある家だったから環境も良かったんだ。

家でもいい子ちゃんで通した俺は、母親に言われたら二つ返事で菓子作りも手伝っていた。
茶もそうだが、本当は娘が出来たらやりたかったことだったんだろう。

まあ、あれだ。
母は良いところのお嬢さんに属してたんだろう。
お茶に花に料理に英会話と結婚前は随分と色々習っていたらしいし、今でもそん時の交流がある。
そして、良いところのお嬢さんが通うような場所は、当然他の良いところのお嬢さんたちが集うわけで、そうなると良いところのお坊ちゃんとの繋ぎが出来て、結婚して良いところの奥さまになるわけだ。

弟の嫁さんは、その先生の料理教室の生徒だ。
先生が母へと縁を繋いで、お見合いとお付き合いが始まったんだよな。
良いところのお嬢さんが通う料理教室だから、嫁さんも良いところのお嬢さんなわけだ。

可愛らしいくて美人で綺麗なお嬢さんだったが、芯がしっかりしてて、言いたいことははっきりと言うような、肝が据わったお嬢さんだった。
まあ、もう、立派にお嬢さんってよりは奥さまなんだろうが、しっかりしているようでどっか抜けてる俺の弟とは気が合ったんだろう。
笑った時の目元が少し母さんに似てるというか、同じ系統の美人だからだろう、父さんは息子の嫁に甘かった。
そして母さんも、ようやく娘とやりたかったことが実現したからか、あれこれと世話を焼いていたし、彼女はそういうの面倒だとか鬱陶しいだとかは思っておらず、本気で感謝してる出来たお嬢さんだった。
常に猫を被っていた俺とは大違いだ。


脱線しちまったが、菓子を作るのは久しぶりだ。
手伝いはあるが、なんならひとりで作るのは初めてなことだ。
や、ひとりじゃなくておはぎもいるけどさ、なんだ、その、初めての体験にいい年してわくわくしてるんだ。
こういうのは楽しまなくちゃ損だし、美味いもん作りたいから心もポジティブでいたほうが良いもんは作れるはずだ。
なんら恥ずかしいことじゃない───なんて言い聞かせながらエプロンを身に着けて腰で縛る。

そう、エプロンだ。
いつもはちょっと手伝うくらいだからエプロンなんてものはつけないんだが、今日は違う。


昨夜ソフィアから直接貰ったこのエプロンは、おはぎとお揃いのエプロンでなんとソフィアの手製だ。
ソフィアは刺繍だけじゃなく衣服も作れるらしい。
『簡単なものだけよ』なんて言っていたけれど、素人の俺が見たって滅茶苦茶縫製が綺麗だ。
業務用のミシンの様にきわっきわを正確な幅で縫ってあるし、俺のは肩紐を背中で交差した後に前で結ぶタイプだが、その肩紐部分もエプロンと同じ布製だ。
少し長めのエプロンだが、足さばきが良いように中央に切れ目が入っているし、端もしっかり縫われているし、大きいポケットもついていて使い勝手がいい。
“簡単”と言えるほど簡単じゃないもんだと思う。

エプロンの色はミモザ色のような自然で柔らかな黄色で、胸当て部分に細かい蔦の刺繍が施してある。
きっと、クッキー云々の前からソフィアは少しずつ作ってくれていたのだろう。
それが、タイミングよくこのクッキーを作る前に出来上がったんだろうな。

おはぎのエプロンは、子供が着るような袖なしスモックみてえな形だ。
同じミモザ色の生地で、胸元に同じ蔦の刺繍があり、ちゃんとポケットもついている。
大きさもぴったりでめちゃくちゃ似合っているし、おはぎも嬉しそうに着せて貰っていた。

『ありがとう、ソフィア。すげー綺麗だ!え、おはぎのもあんの?』
『おはぎちゃんとお揃いにしてみたの』
『アサヒとお揃い!』
『おはぎのも可愛いな』
『ん!アサヒも似合う』
『ふたりともぴったりね』

そんなやりとりをジトっとした目で見ていたオリバーは、『お揃いにする必要はなかったのでは?』と呟いた後に、『私のは?』とソフィアに聞いていたが、そんなオリバーにソフィアは『オリバー様はお手伝いしないでしょう?』なんて言われていたっけ。

植物の研究をするとき、手入れをするとき、オリバーは大抵白衣だ。
学生時代からずっと白衣だったようだし、オリバーの白衣は見た目は至って普通だが実は高級品で、防汚や防炎の魔法付与がなされているものだ。
布自体は綿で出来ているようだが、縫製の糸は魔蚕っつー魔物が使われていて、だから魔法の付与が効くようだ。
俺はオリバーの手伝いをするときに白衣なんて着ちゃいないし、特別欲しいと思ったことも必要性も感じない。

『アサヒの白衣も作りましょう』と言われたが、『いーよ、別に』と返したらすげーしゅんとした顔をされたっけ。
おはぎとお揃いのエプロンに対抗して、普段着るもんを自分とお揃いにしたいらしい。
特別着る服は、対になったもんばかりじゃねえか、何言ってんだって思うんだけれど、『普段身に着ける服』が良いらしい。

他にも色々揃いのもんを持ってるしさ、髪紐やら、ペンやらさ。
この間貰った栞も、お揃いのもんが出来上がったらしいし?
俺はそこまで揃いに拘りはない。
ないが、まあ……貰ったら貰ったで嬉しいだけだ。

流石に毎日全身ペアルック出来るほどの強い精神は持ち合わせちゃいないけど、オリバーのことだ、何か俺に聞かずに買うとなったら必ずタイラーに相談するだろう。
ってことは、まあ、よっぽどじゃないかぎり変な揃いのもんは買われないはずだ。
昨夜はごにょごにょなにか言っていたが、寝て起きたら機嫌は直ってたしな、大丈夫だろ。

寝て……ってただ、寝たわけじゃない。
多少ねちっこかったって、別にどうともない。
相変わらず馬鹿丁寧に扱ってくるから、気分は爆上がりだ。

なんだか知らないが、オリバーはゆっくり丁寧なのが続いていた。
ただ単に毎回そういう気分なのか、それともマイブームなのかは知らないし、理由は聞いてもいない。
もう最初の頃の罪悪感からじゃなさそうだし、不安も不満もないからだ。
俺が満足してるし、オリバーもなんだか嬉しそうにしてるからそれでいいかと思っている。

余裕があるかといったらそうでもないっぽいし。
そういう我慢してるような雄じみた顔を見るのもまんざらじゃないっつーか、あれはあれですげーときめく。

オリバー以外とじゃ、終ってポイっと放置なセックスしかしてこなかったから、終わってからも色々と世話を焼いて労わってくるのがこれまた気分が良いんだよな。
欲を言えば、第二ラウンドまでしかしなくなったことと、夜更かししなくなったことくらいか。
けど、それでも不満に感じないのは、これでもかと言葉と態度と愛情を惜しみなく注いでくれるからだ。

最近、精液注がれた後毎回腹の心配してくるけど、それがさ、なんかすげー気分いいわけ。
満たされてるっていう、いわゆる多幸感ってやつだ。
そういう感じにしてくれるんだ。

別に腹はなんともない。
まあ、注がれた感じはあるし、あったけー感じはするし、精液と一緒にオリバーの魔力が腹ん中広がってる感じがするけど、それが良いわけで。
そんなふうに下腹部をそっと撫でられるとまた勃ちそうにもなっちまったり、実際勃てて口で扱かれたりとか手でイかされたりとかもあって、アフターケアも十分でさ。

けど、ほら、朝に響かないから最近タイラーの目も優しいわけ。
俺にはともかく、色々言われ慣れてるオリバーも、ここ数日は小言を言われる回数が減ったっぽいしな、良いことだ。

平和なのが一番だろ。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

過労死で異世界転生したら、勇者の魂を持つ僕が魔王の城で目覚めた。なぜか「魂の半身」と呼ばれ異常なまでに溺愛されてる件

水凪しおん
BL
ブラック企業で過労死した俺、雪斗(ユキト)が次に目覚めたのは、なんと異世界の魔王の城だった。 赤ん坊の姿で転生した俺は、自分がこの世界を滅ぼす魔王を討つための「勇者の魂」を持つと知る。 目の前にいるのは、冷酷非情と噂の魔王ゼノン。 「ああ、終わった……食べられるんだ」 絶望する俺を前に、しかし魔王はうっとりと目を細め、こう囁いた。 「ようやく会えた、我が魂の半身よ」 それから始まったのは、地獄のような日々――ではなく、至れり尽くせりの甘やかし生活!? 最高級の食事、ふわふわの寝具、傅役(もりやく)までつけられ、魔王自らが甲斐甲斐しくお菓子を食べさせてくる始末。 この溺愛は、俺を油断させて力を奪うための罠に違いない! そう信じて疑わない俺の勘違いをよそに、魔王の独占欲と愛情はどんどんエスカレートしていき……。 永い孤独を生きてきた最強魔王と、自己肯定感ゼロの元社畜勇者。 敵対するはずの運命が交わる時、世界を揺るがす壮大な愛の物語が始まる。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

処理中です...