異世界に召喚された猫かぶりなMR、ブチ切れて本性晒しましたがイケメン薬師に溺愛されています。

日夏

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本編

-197- クッキー作りには根気がいるらしい

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「お、意外といけるっぽい!」
「でしょう?」
「うん、ソフィアの言った通りだ」

冷蔵庫、もとい、貯蔵庫からボウルと取り出して中身を覗いて驚いた。
固まりに、しっとり艶が出ているように思う。
寝かせる前はあんなにぼそっとしていて、心配になるほどだったのに、だ。
クッキー生地も、人間と同じく寝かせることは大事らしい。
一時間ほどだが、見てわかるくらいに違いがある。

「この生地を伸ばしたら、型抜きの出番だ」
「おはぎもやる」
「おう」

おはぎも型を抜きたいらしい。
混ぜるだけの作業では、おはぎの出番はなかったもんな。



遡ること、約一時間。
ソフィアの言いつけ通り、俺は、卵黄とバターと砂糖をよくよく混ぜた。
や、よくよくだけじゃ足りねえな、よくよくのよく、くらい言ってもいい。
とにかく根気がいる作業だった。

『白っぽくなるまで頑張って』と言われたが、『このくらい?』と聞いても『まだまだ』と返ってくる。
「まだかな?」
「もっともっと」

ソフィアから、楽しそうな返事が返ってくるが俺は早くも根を上げそうになっちまう。
もっともっとか。
男の俺ですら腕が疲れてきたが、ソフィアはこれを難なくやってるんだよなあ。
すげーとしか言いようがない。

こっちには、自動ミキサーなんつーものはない。
や、もしかしたらあるのかもしれないが、少なくとも家にはない。
実家で母と作った時は、勿論自動ミキサーで作ったわけで、こんな力仕事をした覚えはない。
こんな根性がいるとは思わなかったぜ。

「アサヒ、頑張って」
「おー」

おはぎの可愛い応援に俺の心も腕もやる気を取り戻す。
『そろそろかしら』と言われたところで混ぜるのをやめた。
やめると同時に、ほっと溜息まで漏れちまったが、そんな俺を見てソフィアはまた楽しそうに笑った。
案外、ソフィアには隠れたSっ気があるかもしれない……なんて思いつつ、ソフィアに言われて干乾びた黒い紐が入ってる瓶を手に取る。

「ソフィアこれ何?」
「バニラビーンズのさやよ」
「これが?へー!」

なんと、この干乾びた黒い紐、これがバニラビーンズのさやなんだとか。
知らなかったぜ。
確かに瓶の蓋を開けただけでバニラの香りが漂ってくる。

「入れなくても良いんだけれど、入れたほうが美味しいの」
「コレ、高いんじゃ?」
「そうね。でも、美味しいから入れましょう?」
「そっか」

ソフィアが入れていいっつーなら入れちまおう。
入れたほうが美味しいのは香りだけでわかる。

元の世界のように安いバニラエッセンスなんていう人工香料はない。
そもそもこんだけ砂糖を使ってる時点で高価なんだよな。
そこに、バニラビーンズを加えたからと言ってたかが知れているのかも知んねえなあ。

こっちの世界だと、バターより白砂糖が高価だ。
元の世界じゃ白砂糖なんて袋で安く手に入ったが、こっちの世界だと何でも精製されてるほうが高い。

特に砂糖は特別だ。
蜂蜜もだが、こっちの世界じゃ薬屋で売ってる。
家は、こういった調味料は直接商会から買い取ってるから薬屋で買ったことはないが、一般的には食品の扱いじゃないようだ。

それでも、少しずつ普及し始めている。
プリンやらカップケーキの店が富裕層だとしても庶民街にある。
昔は貴族しか口に出来なかったものが、庶民に広がってきた。
甘い菓子が庶民に買えるようになったのも、ここ数年のことらしいが豊かにはなってきているようだ。

そう考えると、鎖国状態だという今も悪いことだけじゃないのかもしれない。
戦争がないだけ、他国に比べたら平和だと言えるんじゃねえだろうか。

開国派と鎖国派があって、現在は鎖国派の方が圧倒的に多いってのもわかる。
上も、好き好んで、負けるとわかっていながらどんぱちやらかしたくないだろう。
この国、帝国と言いながら隣国に比べたら大分領地が狭いもんな。

それに、200年国を閉ざしていたら、今更戦争なんていきなりは出来ないだろう。
いくら備えていたところで、経験者がいねえ上に、そもそもの倫理がない。
騎士だからと言って、人の殺し合いは出来ない者が多いだろう。
動物や魔物を相手にするのと、人間を相手にするのは大分違うはずだ。


「アサヒ」
「おう、大丈夫だ」
「ん」

包丁を持ってるのに心あらずになっちまったところで、おはぎから声がかかる。
バニラビーンズのさやを包丁で割ったら、スプーンでこそぎだして生地に加え、またよくよくかき混ぜる作業の始まりだ。
ちなみに残ったさやの方も、香りづけに使えるのでこのまま取っておくらしい。

「さあ、あと少しだから頑張って。粉を入れて、さっくり混ぜましょう。
こねちゃ駄目よ、切るように混ぜるの」
「わかった」

ソフィアの言う通り、切るように振るった粉を混ぜる。
さっくり、切るように……と言い聞かせながら混ぜていくが、本当にこれで良いんだろうか?ってくらいまとまらない。


「ソフィア、なんか全然まとまってくんないんだけど」
「大丈夫よ。もう少し混ぜたら、一つにしてそのまま寝かせましょう」
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