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男装令嬢の専属従者リーヴァイの場合
-9- おめかしクリス様
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「奥様、このスーツ一式はもしや」
クリス様とブルーノ様のお見合いを明日に控え、珍しくも奥様に呼ばれて来てみれば、仕立ての良いカジュアルスーツが一式。
全体的には白を基調に、濃紺、サファイヤブルー、そして所々にアクセントとなっている細やかな刺繍には金糸が使われております。
この細身のシルエットは、他の誰の者でもございません。
紛れもなく、クリス様のスーツでございましょう。
白が基調のパンツは、前奥様が好きなお色でしたが、転生後のクリス様は黒や濃紺、茶系のパンツをお召しになっていました。
好みが変わったわけではなく、単に汚れが目立たない、それが理由です。
クリス様には、やはり白が一番よくお似合いだと、私もそう思います。
ですが、これは。
気合が入っていないようで入っている、とでもいいましょうか。
少量ですが、お相手の金とサファイヤブルーが使われております。
特に細身のクラバットのお色であるサファイヤブルーは、見たこともないような突き抜ける美しい青をしてございます。
このような鮮やかで濃いブルーはかなり珍しいもののように思えます。
カジュアルスーツではあるものの、仕立ては一級品でしょう。
奥様がご用意されるには、かなり攻めている色使いとお品です。
いくらなんでもお相手の許可なく、このような色使いをされる方ではないでしょう。
それと、お値段のかけかたも、大胆に思えます。
「カミラ様から───」
「やはり」
「ごめんなさい、断れなかったわ」
「まさか断れないでしょう。クリス様に、よくお似合いになると思います」
「そうね。本当に……似合うとは思うわ」
「着させますのでご安心ください」
「お願いね。……でもこんなあからさまなお色、大丈夫かしら?」
奥様が複雑そうな表情を見せます。
相手のお色をのせたスーツに身を包むことをご心配されておいでなのでしょう。
しかし、思うに。
クリス様だけでなく、相手のブルーノ様も、同じ状況ではないかとすら予想できます。
きっと、当日のスーツのどこかには、クリス様のお色である菫色、あるいは瞳のペリドット色が使われているのではないでしょうか。
「クリス様は服装に無頓着ですので大丈夫でしょう。私に任せられるはずです。カミラ様がご用意したことはお伝えせずにおきます」
「カミラ様がご用意されたけれど、ブルーノ様はそれを知らないと思うのよ」
「それも大丈夫でしょう。カミラ様がご用意されたのがクリス様だけとお思いですか?」
「あ……そう、ね。そうよね」
「お相手の服装も、楽しみですね」
「無事に済んだら、聞かせてちょうだい」
「畏まりました」
しかし、カミラ様は、ずいぶんと積極的であられますね。
クリス様とお会いすることなくそこまで決められて……もしや、この数日でどこかで実際に一度くらい接触されていらっしゃるかもしれませんね。
でなくても、影に探らせるくらいはされていそうです。
私が一緒の時は大丈夫でしょうが、学園内は四六時中一緒にいるわけにはまいりません。
良い印象をお持ちの様ですから、とりあえずはそう警戒されずともよいでしょう。
「うわー、なんか結構気合入ってないか?これ着んの?」
「普段と変わらずと言われておりますが。お見合いですよ、クリス様。お洒落しましょう」
「……ま、そっか、そうだよな。良くわかんないし、髪もレヴにまかせるわ」
「安心してお任せください」
「頼んだ」
15歳までさらしを巻かれ胸を潰されていたクリス様ですが、お目覚め以降はきちんと下着をつけておいでです。
ですが、クリス様の好むものは、着心地の良さを重視されたもので、クリス様の要望に応えて作られた特注品です。
胸を潰すことはないにしても、あまり以前と変わり映えございません。
女性用の下着ですと、レースがふんだんに使われているものが人気ですが、クリス様にとってそれは邪魔なだけのようです。
胸を潰すよりも、胸を寄せて上げる方が窮屈だとおっしゃっていましたね。
コルセットもしかり。
『世の中の女性は大変だな』と、真剣な顔をして仰っていました。
私が男性なことも、クリス様は特に気にならないのでしょうか───さすがに素肌を晒すことはないにしても、下着姿には抵抗がないようです。
お小さい頃からお傍にいたからでしょうか。
私には、敬愛は持ち合わせていても、けして欲情することはございませんが。
とはいえ、極力そのあたりは目に入れないようにしております。
基本ご自身で服を着られるので、一式ご用意してしまえば、手を貸すことと言えばクラバットと上着程度でございます。
クラバットを抑えるピン、こちらはクリス様が良くご愛用されている細身のもので、金とペリドットの石が美しいものです。
前奥様がクリス様が15歳になられる際にお誕生日のお祝いにとお選びになったもので、亡くなられた後に届けられました。
クリス様にとっては、形見のようなものです。
『受け取るか受け取らないかは、クリスの自由だ』と仰った旦那様でしたが、クリス様は、躊躇なく受け取られました。
使うことも、特に躊躇いはないご様子。
寧ろ、大事な時に身に着けていらっしゃるように思います。
自分の手で毒殺を企てる前奥様でしたが、これをお選びになった時の気持ちは、クリス様に向いていたのでしょう。
たとえ歪だとしても、方向が違うとしても、クリス様のことを確かに愛していたのだと思われます。
クリス様にも、それが伝わっていらっしゃるご様子。
きっと、別の人格が混ざり、少し大人の他者目線から物事を考えることがお出来になるクリス様だからこそなのかもしれません。
さて、残すところは御髪のみ。
絹糸のような美しいクリス様の御髪は、ブラシを通すと艶が増します。
本日は、少し高めの位置で一つに結びあげる、ポニーテール。
この髪型が、今のクリス様に一番向いているでしょう。
お似合いなのはもちろん、お食事もしやすいはず。
「良くお似合いです」
「自分でもそう思う。ドレスよかよっぽど似合ってるよなあ」
鏡で全身を確認されるクリス様が、しみじみ呟かれました。
ですが、ドレス姿もお似合いなんですよ?
ご自身であまり気が付いていないようですが、シンプルなワンピースや、細身のロングドレス等とてもよくお似合いになります。
ただ、今の流行からはいずれも外れているのは事実。
ふんわりとしたリボンやレースをふんだんに使われているパステル調のドレスが流行です。
クリス様にはあまり向きません。
店員の勧めでご試着されたことはありますが、すぐにご自身で『ないな』等と呟かれていらっしゃいました。
そのことを、言っているのかもしれません。
「ドレスもお似合いだと思いますが?」
「よせやい」
いいえ、本心からです、クリス様。
クリス様とブルーノ様のお見合いを明日に控え、珍しくも奥様に呼ばれて来てみれば、仕立ての良いカジュアルスーツが一式。
全体的には白を基調に、濃紺、サファイヤブルー、そして所々にアクセントとなっている細やかな刺繍には金糸が使われております。
この細身のシルエットは、他の誰の者でもございません。
紛れもなく、クリス様のスーツでございましょう。
白が基調のパンツは、前奥様が好きなお色でしたが、転生後のクリス様は黒や濃紺、茶系のパンツをお召しになっていました。
好みが変わったわけではなく、単に汚れが目立たない、それが理由です。
クリス様には、やはり白が一番よくお似合いだと、私もそう思います。
ですが、これは。
気合が入っていないようで入っている、とでもいいましょうか。
少量ですが、お相手の金とサファイヤブルーが使われております。
特に細身のクラバットのお色であるサファイヤブルーは、見たこともないような突き抜ける美しい青をしてございます。
このような鮮やかで濃いブルーはかなり珍しいもののように思えます。
カジュアルスーツではあるものの、仕立ては一級品でしょう。
奥様がご用意されるには、かなり攻めている色使いとお品です。
いくらなんでもお相手の許可なく、このような色使いをされる方ではないでしょう。
それと、お値段のかけかたも、大胆に思えます。
「カミラ様から───」
「やはり」
「ごめんなさい、断れなかったわ」
「まさか断れないでしょう。クリス様に、よくお似合いになると思います」
「そうね。本当に……似合うとは思うわ」
「着させますのでご安心ください」
「お願いね。……でもこんなあからさまなお色、大丈夫かしら?」
奥様が複雑そうな表情を見せます。
相手のお色をのせたスーツに身を包むことをご心配されておいでなのでしょう。
しかし、思うに。
クリス様だけでなく、相手のブルーノ様も、同じ状況ではないかとすら予想できます。
きっと、当日のスーツのどこかには、クリス様のお色である菫色、あるいは瞳のペリドット色が使われているのではないでしょうか。
「クリス様は服装に無頓着ですので大丈夫でしょう。私に任せられるはずです。カミラ様がご用意したことはお伝えせずにおきます」
「カミラ様がご用意されたけれど、ブルーノ様はそれを知らないと思うのよ」
「それも大丈夫でしょう。カミラ様がご用意されたのがクリス様だけとお思いですか?」
「あ……そう、ね。そうよね」
「お相手の服装も、楽しみですね」
「無事に済んだら、聞かせてちょうだい」
「畏まりました」
しかし、カミラ様は、ずいぶんと積極的であられますね。
クリス様とお会いすることなくそこまで決められて……もしや、この数日でどこかで実際に一度くらい接触されていらっしゃるかもしれませんね。
でなくても、影に探らせるくらいはされていそうです。
私が一緒の時は大丈夫でしょうが、学園内は四六時中一緒にいるわけにはまいりません。
良い印象をお持ちの様ですから、とりあえずはそう警戒されずともよいでしょう。
「うわー、なんか結構気合入ってないか?これ着んの?」
「普段と変わらずと言われておりますが。お見合いですよ、クリス様。お洒落しましょう」
「……ま、そっか、そうだよな。良くわかんないし、髪もレヴにまかせるわ」
「安心してお任せください」
「頼んだ」
15歳までさらしを巻かれ胸を潰されていたクリス様ですが、お目覚め以降はきちんと下着をつけておいでです。
ですが、クリス様の好むものは、着心地の良さを重視されたもので、クリス様の要望に応えて作られた特注品です。
胸を潰すことはないにしても、あまり以前と変わり映えございません。
女性用の下着ですと、レースがふんだんに使われているものが人気ですが、クリス様にとってそれは邪魔なだけのようです。
胸を潰すよりも、胸を寄せて上げる方が窮屈だとおっしゃっていましたね。
コルセットもしかり。
『世の中の女性は大変だな』と、真剣な顔をして仰っていました。
私が男性なことも、クリス様は特に気にならないのでしょうか───さすがに素肌を晒すことはないにしても、下着姿には抵抗がないようです。
お小さい頃からお傍にいたからでしょうか。
私には、敬愛は持ち合わせていても、けして欲情することはございませんが。
とはいえ、極力そのあたりは目に入れないようにしております。
基本ご自身で服を着られるので、一式ご用意してしまえば、手を貸すことと言えばクラバットと上着程度でございます。
クラバットを抑えるピン、こちらはクリス様が良くご愛用されている細身のもので、金とペリドットの石が美しいものです。
前奥様がクリス様が15歳になられる際にお誕生日のお祝いにとお選びになったもので、亡くなられた後に届けられました。
クリス様にとっては、形見のようなものです。
『受け取るか受け取らないかは、クリスの自由だ』と仰った旦那様でしたが、クリス様は、躊躇なく受け取られました。
使うことも、特に躊躇いはないご様子。
寧ろ、大事な時に身に着けていらっしゃるように思います。
自分の手で毒殺を企てる前奥様でしたが、これをお選びになった時の気持ちは、クリス様に向いていたのでしょう。
たとえ歪だとしても、方向が違うとしても、クリス様のことを確かに愛していたのだと思われます。
クリス様にも、それが伝わっていらっしゃるご様子。
きっと、別の人格が混ざり、少し大人の他者目線から物事を考えることがお出来になるクリス様だからこそなのかもしれません。
さて、残すところは御髪のみ。
絹糸のような美しいクリス様の御髪は、ブラシを通すと艶が増します。
本日は、少し高めの位置で一つに結びあげる、ポニーテール。
この髪型が、今のクリス様に一番向いているでしょう。
お似合いなのはもちろん、お食事もしやすいはず。
「良くお似合いです」
「自分でもそう思う。ドレスよかよっぽど似合ってるよなあ」
鏡で全身を確認されるクリス様が、しみじみ呟かれました。
ですが、ドレス姿もお似合いなんですよ?
ご自身であまり気が付いていないようですが、シンプルなワンピースや、細身のロングドレス等とてもよくお似合いになります。
ただ、今の流行からはいずれも外れているのは事実。
ふんわりとしたリボンやレースをふんだんに使われているパステル調のドレスが流行です。
クリス様にはあまり向きません。
店員の勧めでご試着されたことはありますが、すぐにご自身で『ないな』等と呟かれていらっしゃいました。
そのことを、言っているのかもしれません。
「ドレスもお似合いだと思いますが?」
「よせやい」
いいえ、本心からです、クリス様。
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