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男装令嬢の専属従者リーヴァイの場合
-8- おめかしクリス様
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「え、えーと、父上、今聞き間違いでなければ、お相手は───」
「オースティン公爵家ご子息、ブルーノ様だ」
「うっそ……あ、その、父上、私はそこまで高望みしたわけでは」
「そうだね……うん、そうだよね、わかっているよ」
クリス様は、びっくりし過ぎて一度遠いい目をされました。
旦那様相手でなければ、『マジかー……』くらい言ってそうです。
素のままで大丈夫だとお伝えした今でも、私以外には、言葉遣いにほんの少し装いがあるように思います。
転生のことは、私とクリス様の秘密でございます。
それゆえ、無意識に、であられましょう。
同じような表情でクリス様と旦那様が顔を合せていらっしゃると、本当によく似ていらっしゃる。
ですが、そろそろ現実に戻られていただきたいところでもあります。
「……クリス、その」
小さな咳払いともつかないほどの私の声に、はっと正気を取り戻したのは旦那様の方でした。
「あーはい、大丈夫です。ちゃんとお会いします」
「いつもの装いでとあるから、あまり畏まらずに気負わずにね。
フィオリーナもお墨付きのレストランのようだから、気を楽にして、楽しんできてくれ」
「うわ、お会いしたことないのに紹介者もなしとか」
「その……閉鎖的な、畏まった形式が、苦手なのかもしれないね」
ただただ状況に驚かれているクリス様。
お嫌ではなさそうですし、疑っておいででもなさそうですね。
旦那様はクリス様の態度に随分慎重に対応されていらっしゃいますが、なかなかいいわけが苦しいように思います。
ですが、クリス様のほうは、思うところがおありなのでしょう。
旦那様のそのいいわけを聞き、『なるほど』と納得されました。
「粗相はしないようにします。けど、うまくいくかの話は別ですよ?父上も、期待はしないでください」
「ああ、うん。宰相閣下も『まずは、会って一緒に食事をするだけでいい』と仰っていたよ」
「会って一緒に食事……ああ、そっか、うん。まあ、そこからですね」
「───クリス、大丈夫かい?」
少し真剣な顔でなにやら考えに耽るクリス様。
そんなクリス様に、旦那様がおそるおそると声をおかけになりました。
「え?あーはい、大丈夫です大丈夫。『一緒に食事』出来るといいなーって思っただけです」
「うん?」
「あー……その、楽しみにしてます、と」
乾いた笑いを残しながら、旦那様の部屋を辞するクリス様。
その足取りは、決して重くはなく、楽しそうでもありました。
この分なら、そこまで心配することもないでしょう。
旦那様の胃も、さほど傷めずに済みそうです。
部屋に戻るなり、クリス様は悶えるようにベッドにダイブされ、『う゛ーあ゛ー』と、声にならない声をあげられました。
この程度のことでは驚きはいたしません。
転生された後ではこの程度、通常運転の、クリス様であられます。
「レヴー、聞いたか?ブルーノ様だって!なんかの間違いじゃない?」
「はい、間違いございません」
「うっわー……やばい。ゲームの中で、超絶美形なブルーノ様だぞ?」
枕から顔をあげられたクリス様は、実に楽しそうな笑顔をむけられました。
転生後、フィオリーナ様にはじめてお会いになった後も、『はー!眼福眼福!』などと楽しそうに口にされていましたね。
かといって、フィオリーナ様とお話しされているクリス様には、ご姉妹以上の、特別な感情は見受けられませんでした。
傍から見ていると、ご姉妹とうより、ご姉弟と言った方がしっくりくるかとは思いますが、ですがそれだけです。
「まずは、一緒に食事が目標だな」
「と、いいますと?」
「ブルーノ様って、女性と一対一での食事、もう出来んのかなーって、さ」
「……知っておいででしたか」
ゲームとやらの知識、でしょうか?
全く知識がないよりは、いいことかもしれません。
「まーねー。でも、そうだな、私が男装で行ったら、食事くらい出来るかもしれない。リハビリだなリハビリ」
「リハビリ、とは?」
転生とやらになったクリス様は、偶に聞いたことのない言葉を仰います。
リハビリ、という言葉は聞いたことがありません。
私の知識がないだけ、ということもなきもしにあらずではありますが、軽く使われるご様子から察するに、専門的な言葉でもないのでしょう。
「あ、こっちにはリハビリって言葉はないのか。えーと、稽古っつーか、慣らし?」
「ああ、少しずつ慣れて貰う、と」
「そ。女が駄目なのが見た目からなら、父上そっくりな見た目の私は、なんとかいける気がするんだよ」
たしかに、きっとオースティン公爵夫人も、そこに賭けられているのだと思われます。
旦那様にそっくり、と仰いましたが、確かによく似ておいでではありますが、やはり男女の体格の差はあられます。
線の細いクリス様は、美少年と見間違われることも多いですが、男性とも女性ともつかずな美しさがあられます。
中性的、とでもいいましょうか。
クリス様ご本人は、『まあ、美形だけど、姉上たちと比べると霞むよな』なんて仰っていましたから、ご自身の魅力にはさっぱり気が付いていないご様子ですが。
そんなところは、旦那様とよく似ておいでです。
「駄目なら駄目で、次は出かけてみるとかさ。出来そうなことに挑戦すればいいんだし、うん。いけるいける」
「……!」
なんと、駄目なら駄目で別の婚約者を探すというわけではなく、次は別の方法をと仰るあたり、クリス様自身はブルーノ様に対して好意的でいらっしゃる様子です。
クリス様ご自身は気がついてはいらっしゃいませんが、なかなかそういったお考えになるのは難しいことでは?
これは、外堀を全て埋められた状態であっても、ブルーノ様次第で、相思相愛のご結婚にも発展されるのではないでしょうか。
「せめて友達くらいなら、なんとかいけるだろ」
「………」
そうですか、ご友人。
私の心が少しばかり早ってしまっただけのようですね。
舞い上がっていたのは、私の方だったようです。
恋愛とは程遠いように思われて……なんだか一瞬ですべてを納得してしまった気がしております。
ご友人ですか……嗚呼、それでも。
それでも私は、クリス様が幸せであられるならそれで良い、そう思ってはおりますが。
クリス様のこのご性格ですと、どうなられても、ご自身で幸せに暮らしていく生き方をされるのではないか、そう思ってしまうのも事実。
このリーヴァイ、どこまでもお供いたします。
「オースティン公爵家ご子息、ブルーノ様だ」
「うっそ……あ、その、父上、私はそこまで高望みしたわけでは」
「そうだね……うん、そうだよね、わかっているよ」
クリス様は、びっくりし過ぎて一度遠いい目をされました。
旦那様相手でなければ、『マジかー……』くらい言ってそうです。
素のままで大丈夫だとお伝えした今でも、私以外には、言葉遣いにほんの少し装いがあるように思います。
転生のことは、私とクリス様の秘密でございます。
それゆえ、無意識に、であられましょう。
同じような表情でクリス様と旦那様が顔を合せていらっしゃると、本当によく似ていらっしゃる。
ですが、そろそろ現実に戻られていただきたいところでもあります。
「……クリス、その」
小さな咳払いともつかないほどの私の声に、はっと正気を取り戻したのは旦那様の方でした。
「あーはい、大丈夫です。ちゃんとお会いします」
「いつもの装いでとあるから、あまり畏まらずに気負わずにね。
フィオリーナもお墨付きのレストランのようだから、気を楽にして、楽しんできてくれ」
「うわ、お会いしたことないのに紹介者もなしとか」
「その……閉鎖的な、畏まった形式が、苦手なのかもしれないね」
ただただ状況に驚かれているクリス様。
お嫌ではなさそうですし、疑っておいででもなさそうですね。
旦那様はクリス様の態度に随分慎重に対応されていらっしゃいますが、なかなかいいわけが苦しいように思います。
ですが、クリス様のほうは、思うところがおありなのでしょう。
旦那様のそのいいわけを聞き、『なるほど』と納得されました。
「粗相はしないようにします。けど、うまくいくかの話は別ですよ?父上も、期待はしないでください」
「ああ、うん。宰相閣下も『まずは、会って一緒に食事をするだけでいい』と仰っていたよ」
「会って一緒に食事……ああ、そっか、うん。まあ、そこからですね」
「───クリス、大丈夫かい?」
少し真剣な顔でなにやら考えに耽るクリス様。
そんなクリス様に、旦那様がおそるおそると声をおかけになりました。
「え?あーはい、大丈夫です大丈夫。『一緒に食事』出来るといいなーって思っただけです」
「うん?」
「あー……その、楽しみにしてます、と」
乾いた笑いを残しながら、旦那様の部屋を辞するクリス様。
その足取りは、決して重くはなく、楽しそうでもありました。
この分なら、そこまで心配することもないでしょう。
旦那様の胃も、さほど傷めずに済みそうです。
部屋に戻るなり、クリス様は悶えるようにベッドにダイブされ、『う゛ーあ゛ー』と、声にならない声をあげられました。
この程度のことでは驚きはいたしません。
転生された後ではこの程度、通常運転の、クリス様であられます。
「レヴー、聞いたか?ブルーノ様だって!なんかの間違いじゃない?」
「はい、間違いございません」
「うっわー……やばい。ゲームの中で、超絶美形なブルーノ様だぞ?」
枕から顔をあげられたクリス様は、実に楽しそうな笑顔をむけられました。
転生後、フィオリーナ様にはじめてお会いになった後も、『はー!眼福眼福!』などと楽しそうに口にされていましたね。
かといって、フィオリーナ様とお話しされているクリス様には、ご姉妹以上の、特別な感情は見受けられませんでした。
傍から見ていると、ご姉妹とうより、ご姉弟と言った方がしっくりくるかとは思いますが、ですがそれだけです。
「まずは、一緒に食事が目標だな」
「と、いいますと?」
「ブルーノ様って、女性と一対一での食事、もう出来んのかなーって、さ」
「……知っておいででしたか」
ゲームとやらの知識、でしょうか?
全く知識がないよりは、いいことかもしれません。
「まーねー。でも、そうだな、私が男装で行ったら、食事くらい出来るかもしれない。リハビリだなリハビリ」
「リハビリ、とは?」
転生とやらになったクリス様は、偶に聞いたことのない言葉を仰います。
リハビリ、という言葉は聞いたことがありません。
私の知識がないだけ、ということもなきもしにあらずではありますが、軽く使われるご様子から察するに、専門的な言葉でもないのでしょう。
「あ、こっちにはリハビリって言葉はないのか。えーと、稽古っつーか、慣らし?」
「ああ、少しずつ慣れて貰う、と」
「そ。女が駄目なのが見た目からなら、父上そっくりな見た目の私は、なんとかいける気がするんだよ」
たしかに、きっとオースティン公爵夫人も、そこに賭けられているのだと思われます。
旦那様にそっくり、と仰いましたが、確かによく似ておいでではありますが、やはり男女の体格の差はあられます。
線の細いクリス様は、美少年と見間違われることも多いですが、男性とも女性ともつかずな美しさがあられます。
中性的、とでもいいましょうか。
クリス様ご本人は、『まあ、美形だけど、姉上たちと比べると霞むよな』なんて仰っていましたから、ご自身の魅力にはさっぱり気が付いていないご様子ですが。
そんなところは、旦那様とよく似ておいでです。
「駄目なら駄目で、次は出かけてみるとかさ。出来そうなことに挑戦すればいいんだし、うん。いけるいける」
「……!」
なんと、駄目なら駄目で別の婚約者を探すというわけではなく、次は別の方法をと仰るあたり、クリス様自身はブルーノ様に対して好意的でいらっしゃる様子です。
クリス様ご自身は気がついてはいらっしゃいませんが、なかなかそういったお考えになるのは難しいことでは?
これは、外堀を全て埋められた状態であっても、ブルーノ様次第で、相思相愛のご結婚にも発展されるのではないでしょうか。
「せめて友達くらいなら、なんとかいけるだろ」
「………」
そうですか、ご友人。
私の心が少しばかり早ってしまっただけのようですね。
舞い上がっていたのは、私の方だったようです。
恋愛とは程遠いように思われて……なんだか一瞬ですべてを納得してしまった気がしております。
ご友人ですか……嗚呼、それでも。
それでも私は、クリス様が幸せであられるならそれで良い、そう思ってはおりますが。
クリス様のこのご性格ですと、どうなられても、ご自身で幸せに暮らしていく生き方をされるのではないか、そう思ってしまうのも事実。
このリーヴァイ、どこまでもお供いたします。
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