転生男装令嬢クリスティーナのお見合い結婚~女性恐怖症の公爵令息に“唯一の例外”として求婚されました~

日夏

文字の大きさ
12 / 22
男装令嬢の専属従者リーヴァイの場合

-8- おめかしクリス様

しおりを挟む
「え、えーと、父上、今聞き間違いでなければ、お相手は───」
「オースティン公爵家ご子息、ブルーノ様だ」
「うっそ……あ、その、父上、私はそこまで高望みしたわけでは」
「そうだね……うん、そうだよね、わかっているよ」

クリス様は、びっくりし過ぎて一度遠いい目をされました。
旦那様相手でなければ、『マジかー……』くらい言ってそうです。
素のままで大丈夫だとお伝えした今でも、私以外には、言葉遣いにほんの少し装いがあるように思います。

転生のことは、私とクリス様の秘密でございます。
それゆえ、無意識に、であられましょう。

同じような表情でクリス様と旦那様が顔を合せていらっしゃると、本当によく似ていらっしゃる。
ですが、そろそろ現実に戻られていただきたいところでもあります。


「……クリス、その」

小さな咳払いともつかないほどの私の声に、はっと正気を取り戻したのは旦那様の方でした。

「あーはい、大丈夫です。ちゃんとお会いします」
「いつもの装いでとあるから、あまり畏まらずに気負わずにね。
フィオリーナもお墨付きのレストランのようだから、気を楽にして、楽しんできてくれ」
「うわ、お会いしたことないのに紹介者もなしとか」
「その……閉鎖的な、畏まった形式が、苦手なのかもしれないね」

ただただ状況に驚かれているクリス様。
お嫌ではなさそうですし、疑っておいででもなさそうですね。
旦那様はクリス様の態度に随分慎重に対応されていらっしゃいますが、なかなかいいわけが苦しいように思います。
ですが、クリス様のほうは、思うところがおありなのでしょう。
旦那様のそのいいわけを聞き、『なるほど』と納得されました。

「粗相はしないようにします。けど、うまくいくかの話は別ですよ?父上も、期待はしないでください」
「ああ、うん。宰相閣下も『まずは、会って一緒に食事をするだけでいい』と仰っていたよ」
「会って一緒に食事……ああ、そっか、うん。まあ、そこからですね」


「───クリス、大丈夫かい?」

少し真剣な顔でなにやら考えに耽るクリス様。
そんなクリス様に、旦那様がおそるおそると声をおかけになりました。

「え?あーはい、大丈夫です大丈夫。『一緒に食事』出来るといいなーって思っただけです」
「うん?」
「あー……その、楽しみにしてます、と」


乾いた笑いを残しながら、旦那様の部屋を辞するクリス様。
その足取りは、決して重くはなく、楽しそうでもありました。
この分なら、そこまで心配することもないでしょう。
旦那様の胃も、さほど傷めずに済みそうです。


部屋に戻るなり、クリス様は悶えるようにベッドにダイブされ、『う゛ーあ゛ー』と、声にならない声をあげられました。
この程度のことでは驚きはいたしません。
転生された後ではこの程度、通常運転の、クリス様であられます。

「レヴー、聞いたか?ブルーノ様だって!なんかの間違いじゃない?」
「はい、間違いございません」
「うっわー……やばい。ゲームの中で、超絶美形なブルーノ様だぞ?」

枕から顔をあげられたクリス様は、実に楽しそうな笑顔をむけられました。
転生後、フィオリーナ様にはじめてお会いになった後も、『はー!眼福眼福!』などと楽しそうに口にされていましたね。
かといって、フィオリーナ様とお話しされているクリス様には、ご姉妹以上の、特別な感情は見受けられませんでした。
傍から見ていると、ご姉妹とうより、ご姉弟と言った方がしっくりくるかとは思いますが、ですがそれだけです。

「まずは、一緒に食事が目標だな」
「と、いいますと?」
「ブルーノ様って、女性と一対一での食事、もう出来んのかなーって、さ」
「……知っておいででしたか」

ゲームとやらの知識、でしょうか?
全く知識がないよりは、いいことかもしれません。

「まーねー。でも、そうだな、私が男装で行ったら、食事くらい出来るかもしれない。リハビリだなリハビリ」
「リハビリ、とは?」

転生とやらになったクリス様は、偶に聞いたことのない言葉を仰います。
リハビリ、という言葉は聞いたことがありません。
私の知識がないだけ、ということもなきもしにあらずではありますが、軽く使われるご様子から察するに、専門的な言葉でもないのでしょう。

「あ、こっちにはリハビリって言葉はないのか。えーと、稽古っつーか、慣らし?」
「ああ、少しずつ慣れて貰う、と」
「そ。女が駄目なのが見た目からなら、父上そっくりな見た目の私は、なんとかいける気がするんだよ」

たしかに、きっとオースティン公爵夫人も、そこに賭けられているのだと思われます。
旦那様にそっくり、と仰いましたが、確かによく似ておいでではありますが、やはり男女の体格の差はあられます。
線の細いクリス様は、美少年と見間違われることも多いですが、男性とも女性ともつかずな美しさがあられます。
中性的、とでもいいましょうか。
クリス様ご本人は、『まあ、美形だけど、姉上たちと比べると霞むよな』なんて仰っていましたから、ご自身の魅力にはさっぱり気が付いていないご様子ですが。
そんなところは、旦那様とよく似ておいでです。

「駄目なら駄目で、次は出かけてみるとかさ。出来そうなことに挑戦すればいいんだし、うん。いけるいける」
「……!」

なんと、駄目なら駄目で別の婚約者を探すというわけではなく、次は別の方法をと仰るあたり、クリス様自身はブルーノ様に対して好意的でいらっしゃる様子です。
クリス様ご自身は気がついてはいらっしゃいませんが、なかなかそういったお考えになるのは難しいことでは?
これは、外堀を全て埋められた状態であっても、ブルーノ様次第で、相思相愛のご結婚にも発展されるのではないでしょうか。


「せめて友達くらいなら、なんとかいけるだろ」
「………」

そうですか、ご友人。
私の心が少しばかり早ってしまっただけのようですね。
舞い上がっていたのは、私の方だったようです。
恋愛とは程遠いように思われて……なんだか一瞬ですべてを納得してしまった気がしております。

ご友人ですか……嗚呼、それでも。
それでも私は、クリス様が幸せであられるならそれで良い、そう思ってはおりますが。
クリス様のこのご性格ですと、どうなられても、ご自身で幸せに暮らしていく生き方をされるのではないか、そう思ってしまうのも事実。

このリーヴァイ、どこまでもお供いたします。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで

ChaCha
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したことに気づいたアイナ・ネルケ。 だが彼女はヒロインではない――ただの“モブ令嬢”。 「私は観る側。恋はヒロインのもの」 そう決めて、治癒魔術科で必死に学び、気合いと根性で仲間を癒し続けていた。 筋肉とビンタと回復の日々。 それなのに―― 「大丈夫だ。俺が必ず君を守る」 野外訓練で命を救った騎士、エルンスト・トゥルぺ。 彼の瞳と声が、治癒と共に魂に触れた瞬間から、世界が静かに変わり始める。 幼馴染ヴィルの揺れる視線。 家族の温かな歓迎。 辺境伯領と学園という“日常の戦場”。 「……好き」 「これは恋だ。もう、モブではいたくない」 守られるだけの存在ではなく、選ばれる覚悟を決めたモブ令嬢と、 現実しか知らない騎士の、静かで激しい溺愛の始まり。 これは―― モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまでの物語。 ※溺愛表現は後半からです。のんびり更新します。 ※作者の好みにより筋肉と気合い…ヤンデレ落ち掛けが踊りながらやって来ます。 ※これは恋愛ファンタジーです。ヒロインと違ってモブは本当に大変なんです。みんなアイナを応援してあげて下さい!!

婚約破棄までの168時間 悪役令嬢は断罪を回避したいだけなのに、無関心王子が突然溺愛してきて困惑しています

みゅー
恋愛
アレクサンドラ・デュカス公爵令嬢は舞踏会で、ある男爵令嬢から突然『悪役令嬢』として断罪されてしまう。 そして身に覚えのない罪を着せられ、婚約者である王太子殿下には婚約の破棄を言い渡された。 それでもアレクサンドラは、いつか無実を証明できる日が来ると信じて屈辱に耐えていた。 だが、無情にもそれを証明するまもなく男爵令嬢の手にかかり最悪の最期を迎えることになった。 ところが目覚めると自室のベッドの上におり、断罪されたはずの舞踏会から1週間前に戻っていた。 アレクサンドラにとって断罪される日まではたったの一週間しか残されていない。   こうして、その一週間でアレクサンドラは自身の身の潔白を証明するため奮闘することになるのだが……。 甘めな話になるのは20話以降です。

私と義弟の安全は確保出来たので、ゆっくり恋人を探そうと思います

織り子
恋愛
18歳で処刑された大公家の令嬢、セレノア・グレイス。 目を覚ますと――あの日の6年前に戻っていた。 まだ無邪気な弟ルシアン、笑う両親。 再び訪れる“反逆の運命”を知るのは、彼女だけ。 ――大公家に産まれた時点で、自由な恋愛は諦めていた。だが、本当は他の令嬢達の話を聞くたびにうらやましかった。人生1度きり。もう少し花のある人生を送りたかった。一度でいいから、恋愛をしてみたい。 限られた6年の中で、セレノアは動き出す。 愛する家族を守るため、未来を変えるために。 そして本当の願い(恋愛)を叶えるために。

妾に恋をした

はなまる
恋愛
 ミーシャは22歳の子爵令嬢。でも結婚歴がある。夫との結婚生活は半年。おまけに相手は子持ちの再婚。  そして前妻を愛するあまり不能だった。実家に出戻って来たミーシャは再婚も考えたが何しろ子爵領は超貧乏、それに弟と妹の学費もかさむ。ある日妾の応募を目にしてこれだと思ってしまう。  早速面接に行って経験者だと思われて採用決定。  実際は純潔の乙女なのだがそこは何とかなるだろうと。  だが実際のお相手ネイトは妻とうまくいっておらずその日のうちに純潔を散らされる。ネイトはそれを知って狼狽える。そしてミーシャに好意を寄せてしまい話はおかしな方向に動き始める。  ミーシャは無事ミッションを成せるのか?  それとも玉砕されて追い出されるのか?  ネイトの恋心はどうなってしまうのか?  カオスなガストン侯爵家は一体どうなるのか?  

【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです

果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。 幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。 ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。 月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。 パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。 これでは、結婚した後は別居かしら。 お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。 だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

政略結婚の指南書

編端みどり
恋愛
【完結しました。ありがとうございました】 貴族なのだから、政略結婚は当たり前。両親のように愛がなくても仕方ないと諦めて結婚式に臨んだマリア。母が持たせてくれたのは、政略結婚の指南書。夫に愛されなかった母は、指南書を頼りに自分の役目を果たし、マリア達を立派に育ててくれた。 母の背中を見て育ったマリアは、愛されなくても自分の役目を果たそうと覚悟を決めて嫁いだ。お相手は、女嫌いで有名な辺境伯。 愛されなくても良いと思っていたのに、マリアは結婚式で初めて会った夫に一目惚れしてしまう。 屈強な見た目で女性に怖がられる辺境伯も、小動物のようなマリアに一目惚れ。 惹かれ合うふたりを引き裂くように、結婚式直後に辺境伯は出陣する事になってしまう。 戻ってきた辺境伯は、上手く妻と距離を縮められない。みかねた使用人達の手配で、ふたりは視察という名のデートに赴く事に。そこで、事件に巻き込まれてしまい…… ※R15は保険です ※別サイトにも掲載しています

処理中です...