絶体絶命ルビー・クールの逆襲<救出編>

蛇崩 通

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<第三章 第3話>

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  <第三章 第3話>
 平民区の各ブロックは、一辺約百メートルの正方形が基本区画だ。その基本区画は、片側一車線、両側で計二車線の馬車道に、囲まれている。
 現在、ルビー・クールたちの馬車は、第三ブロック最南端の馬車道にいる。
 そのため、第六ブロック北東端の敵兵三百名との距離は、第一東西大通りの幅が約三十メートルあるため、合計百三十メートルほどの距離だ。
 ギリギリで、追撃する敵を振り切れるかもしれない。二台目の馬車の速度にも、よるが。
 馬車が、走り始めた。
 最初は、ゆっくりと。徐々に、速度を上げた。
 先頭の馬車が、第三ブロックから飛び出した。
 敵兵たちが、気づいた。
 罵声を発しながら、駆け出した。馬車に向かって。
 二台目の馬車も、第三ブロックから飛び出した。
 ルビー・クールが立ち乗りしている馬車は、二台目だ。
 馬車の右側、すなわち南側のドアを開けて、立ち乗りしている。
 敵の男たちが、追いかけてきた。
 その数、およそ三百名。
 発砲した。馬車から。先頭の敵兵に向けて。一台目の馬車と、二台目の馬車から。二台目の馬車から発砲したのは、ヨハナだ。
 だが、猟銃の数が、足りない。
 三百名の敵兵が、いっせいに駆け寄ってきた。手に手に、刃物を振りかざして。
 敵兵たちとの距離が、十メートルを、切った。
 ルビー・クールが、魔法の釘を投げつけた。魔法詠唱しながら。
 絶叫した。九名の男たちが。
 魔法の釘を、投げつけた。次々と。
 ヨハナの銃撃の合間に。
 他の貴族令嬢たちが、魔法の火球を投げつけた。追いかけてくる男たちに。次々に。
 だが、多勢に無勢だ。
 魔法攻撃を受けた者たちは、走る速度が低下し、先頭集団から次々に脱落した。
 だが、先頭集団の数は、まだ五十名以上もいる。
 先頭の敵兵たちとの距離が、三メートルを切った。
 ルビー・クールが、大声で叫んだ。敵兵たちに向かって。
 「足下あしもとが、凍っているわよ!」
 すぐさま、魔法詠唱した。
 先頭の男の足下に、直径三十センチメートルほどの魔法の氷が出現した。
 先頭の男が、転倒した。
 そのすぐ後ろを走っていた男も、転倒した。倒れた先頭の男の身体に、つまずいて。
 マルガレーテが、魔法詠唱した。ルビー・クールの隣から、顔を出して。
 円形の魔法の氷が、出現した。直径は、半メートルはある。
 ヴァレンティーナも、魔法詠唱を始めた。後部座席の窓を開けて。
 直径半メートルの氷が、次々に出現した。敵兵たちの足下に。
 転倒した。次々に。敵兵たちが。
 しかも、転倒した男たちの身体につまづき、後方の男たちも次々に、転倒した。
 合計、三十名以上が転倒した。
 残りの二十名ほども、転倒した仲間に進路をさえぎられ、走る速度が大幅に低下した。
 ルビー・クールたちの馬車は、敵兵たちを引き離した。
 馬車が、中央分離帯に突入した。
 これで、逃げ切れる。
 そう、思った直後だった。
 馬車の速度が低下した。
 数秒で、馬車が停まった。
 思わず叫んだ。ルビー・クールが。
 「何が起きたのよ!」
 馭者ぎょしゃが叫んだ。情けない声で。
 「馬たちが、腹を空かせてるんです!」
 二頭の馬車馬は、中央分離帯の枯れた芝生を、むさぼり始めた。猛烈な勢いで。
 「エサを与えてないの!」
 ルビー・クールの非難の声に、馭者が答えた。申し訳なさそうに。
 「この一週間、エサの価格が高騰してるもんで、わずかな量しか……」
 たしかに、高騰してるだろう。労働者街では、人間の食料も、足りない状態だったのだから。
 無産者革命党のせいで、一週間前から、帝都平民区への食料の搬入が、停止している。そのうえ倉庫街も、無産者革命党が押さえていた。南三区の倉庫街は、木曜日に、ルビー・クールたちが奪還したが。
 南三区倉庫街の小麦粉が、南一区に運ばれたのは、金曜日の午後になってからだ。それまでは、南一区の労働者たちも、食料不足に苦しんでいた。馬のエサが足りなくても、当然だろう。
 すぐさま、気を取り直した。
 ルビー・クールが、呼びかけた。
 「みなさん、走って逃げるわよ」
 「逃げ切れないわ。女の足では」
 ヴァレンティーナが、冷静に答えた。
 「しかし……」
 途中で、さえぎった。ルビー・クールの反論を。ヴァレンティーナが。
 「全員、下車! ここで、敵を迎撃します!」
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