絶体絶命ルビー・クールの逆襲<救出編>

蛇崩 通

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<第三章 第4話>

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  <第三章 第4話>
 労農革命党の小隊長が、怒鳴った。
 「お嬢さんがた、逃げろ! ここは、オレたちが食い止める」
 一台目の馬車の馬車馬たちも、枯れた芝生を、むさぼり食っている。よほど、腹が減っていたのだろう。
 「いいえ! あなたたちこそ、先に逃げなさい!」
 ヴァレンティーナが、そう叫んだ。顔色一つ変えずに。
 小隊長が、怒鳴った。
 「女をおいて、男が逃げられるか! 野郎ども、ここで敵を阻止するぞ!」
 労農革命党の戦闘員たちが、いっせいに、ときの声をあげた。
 戦闘員五名のうち、猟銃は一挺だけ。四名は、一メートルほどの長さの角材だ。
 彼ら五名だけでは、あっという間に全滅だ。
 ルビー・クールが、叫んだ。
 「ヨハナ! 猟銃を彼らに渡して! 全員、元兵士の戦争経験者よ!」
 ヴァレンティーナが、命令を発した。力強い声で。
 「全員、一列横隊! 魔法攻撃用意!」
 貴族令嬢六名が、一列に、横に並んだ。駆け寄ってくる敵兵たちを、向かい撃つために。
 労農革命党の戦闘員たちが、貴族令嬢たちの前に立った。一列横隊で。
 ヴァレンティーナが、叫んだ。
 「あなたたちは、先に逃げなさい! 下々しもじもの者を守るのが、貴族の神聖なる責務です!」
 小隊長が、怒鳴り返した。
 「女を守るのは、男の責務だ!」
 ルビー・クールが、叫んだ。両者の論争を無視して。
 「前列は、一メートル間隔で一列横隊! 後列は、前列の隙間すきまから、魔法攻撃よ!」
 振り返った。後方を。
 馭者ぎょしゃたちが、いた。おびえた表情だ。
 彼らは労農革命党の党員だが、戦闘員ではない。
 「あなたたちは、北西エリアに走って逃げて! ただし、赤いベレー帽を、かぶってからよ!」
 小隊長と四名の部下たちは、すでに、赤いベレー帽をかぶっている。
 北西エリアの周囲には、自由革命党の狙撃手が配備されている。
 通常は、百メートルに一人の割合だ。狙撃手は、大通り沿いの五階建てビルに潜んでいる。五階の窓の奥だ。
 だが今夜だけは、ダリアに頼んで、北西エリア第一ブロックの南西端に、二十名を集中配備してもらった。敵が中央分離帯を越えると、狙撃することになっている。
 敵と味方の男とを区別する目印が、赤いベレー帽だ。
 もちろん、今夜だけだが。
 南一区では、これまで、自由革命党と、労農革命党は、共闘していなかった。ダリアとルビー・クールにより、今夜から、一時的に共闘することになったのだ。
 小隊長が、命じた。「撃て」と。
 発砲した。二名の射撃手が。
 先頭の敵兵二名が、腹を撃たれて倒れた。
 だが、他の敵兵は、走る速度を緩めることなく、駆け寄ってきた。
 小隊長の脇を通り、ルビー・クールが、前に進み出た。魔法詠唱しながら、魔法の釘を投げつけながら。
 後方からも、魔法詠唱が聞こえた。貴族令嬢たちが、次々に、魔法の火球を投げつけ始めた。
 ヴァレンティーナが、大声で命じた。
 「全員、隊形を保ったまま、後退、始め! 戦いながら、後退するわよ!」
 敵の中隊長が、怒鳴った。
 「包囲だ! 包囲せよ!」
 二十名から三十名の敵が、左右で、前進した。
 まずい。このままだと、包囲される。
 ルビー・クールは、右手に持った赤い雨傘を高くかかげた。
 傘を開いた。傘を、振った。前方と、左右に。
 その二秒か三秒後、銃声がひびいた。複数の銃声が。五月雨式に。後方、すなわち、東側から。
 二十名の敵が、倒れた。頭部を撃ち抜かれて。
 自由革命党の狙撃手だ。
 その三秒か四秒後には、ふたたび銃声が響いた。
 ふたたび、二十名の敵が、倒れた。頭部を撃ち抜かれて。
 自由革命党の狙撃手たちは皆、最高の腕前だ。そのうえ、中央分離帯は街灯があるため、敵の姿がよく見えるはずだ。
 十数秒で、百名近くの敵が、射殺された。
 ルビー・クールは、後方を振り返った。傘を閉じながら。
 後方には、すでに一個小隊十名の敵が、回り込んでいた。
 魔法詠唱しながら、魔法の釘を投げつけた。
 九名の男たちが、絶叫した。右目に、魔法の釘を突き立てられて。
 ルビー・クールが、襲いかかった。鋼鉄製の雨傘で。
 エミーリアとメラニーも、襲いかかった。後方の敵に。
 七秒か八秒で、十名全員を倒した。
 ルビー・クールが、叫んだ。
 「今が、好機よ! 北東エリアまで、走るわよ!」
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