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第2章第十話 氷姫がご褒美をくれた
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第2章第十話 氷姫がご褒美をくれた
氷姫が、兵士たちに尋ねた。
「十三時の鐘は、鳴ったか?」
兵士たちは、押し黙った。
数秒の沈黙の後、一人の兵士が口を開いた。
「戦いに没頭していたので、分かりません」
トッキロが、左腕の腕時計を見た。デジタルではなく、アナログの時計だ。家電量販店で買った。九百八十円で。
腕時計のバンドは黒いプラスチック製で、時計の部分は左手首の内側にしている。
そのため、よく見ないと、黒いリストバンドをしているだけにしか見えない。
「もうすぐ、十三時の鐘が鳴ります」
その直後、鐘が鳴った。
兵士たちが、鐘の数を数え始めた。
七回、鳴った。十三時だ。
王都では日中、一時間おきに、「時の鐘」が鳴る。朝七時が一回で、その後、鐘の回数が増えていく。正午は六回で、十八時は十二回だ。
氷姫が、トッキロに視線を向けた。
「魔王軍の攻撃は、一日三回だ」
「知りませんでした」
「第一波は十時頃、第二波は十二時頃、第三波は十四時頃だ。いずれも二時間ほどで撤退する」
「なぜ二時間で撤退するのですか?」
「アース・ドラゴンも、疲れがたまるのだろう。あるいは、再生能力の限界に達するのか」
東城壁には、アーミアたちが残っている。東城壁に第二波攻撃があれば、彼女たちが危ない。
氷姫が、言葉を続ける。
「魔王軍との戦いは、消耗戦だ。アース・ドラゴンの再生能力は無限ではないし、魔王軍の攻撃には、制限時間がある」
「制限時間?」
思わず、聞き返した。
「そうだ。魔王軍には、いくつかの制限時間がある。一つ目は、一日の制限時間だ。攻撃は日中だけだ。しかも、早朝や夕方には、攻撃はない」
理由は、聞かなくても分かる。
アース・ドラゴンは爬虫類で変温動物だからだ。気温が高くならないと、活発に動けない。そのため、夕方になる前に撤退するのだろう。
説明を続けた。氷姫が。
「二つ目は、魔王軍の攻勢期間だ。魔王軍は八月末になれば撤退するはずだ。過去と同様に。ゆえに、我々の勝利条件は、八月末まで生き残り、戦い続けることだ」
今日は、八月十日だ。魔王軍が王都への攻撃を開始してから、まだ十日目だ。
十日しかたっていないのに、もう、学生を徴兵している。
王都を防衛する騎士団も魔法師団も、それだけ、戦力が枯渇している。
それなのに、あと、二十日間も戦い続けなければならない。
絶望的な状況に、頭が少しクラクラした。真夏の暑さのせいもあるが。
氷姫が、兵士たちに呼びかけた。
「兵士諸君、ここへ来て、両手を出せ。ちょっとした褒美をやろう」
褒美?
銀貨か銅貨でもくれるのかな、と思った。
兵士たちは、嬉々とした表情で、一列に並んだ。
氷姫が、視線を向けた。
「トッキロも、両手を出せ」
杖を右脇の下にはさんで、両手を出した。
氷姫は、右腕を上に向かって伸ばし、右人差し指で頭上に円を描いた。魔法詠唱しながら。
頭上五メートルほどの高さに、雲が出現した。
氷姫が、魔法詠唱を続けている。指で円を描きながら。
雹が降ってきた。バラバラと。
飴玉くらいの大きさだ。
兵士たちは喜びながら、顔や首筋にあてたり、口に含んだりした。
「生きかえる!」
雹を口の中に入れた兵士が、そう言って、歓喜の声をあげた。
「ありがとうございます」
そう言ってから、トッキロも雹を一つ口に含み、手にした雹を首筋にあてた。体温を冷やすために。
氷姫は、十五センチほどの氷柱を出現させ、自分の首筋を冷やし始めた。
美しい少女だ。氷姫は。
眺めながら、そう思った。
死なせるには、惜しい。
彼女を守り、自分も生き残らなければ。
あと、二十日間も。
他にも、気がかりなことがあった。
そこで、尋ねた。氷姫に。トッキロが。
「南城壁を越えて、王都内に侵入したアース・ドラゴンは、いますか?」
氷姫が、兵士たちに尋ねた。
「十三時の鐘は、鳴ったか?」
兵士たちは、押し黙った。
数秒の沈黙の後、一人の兵士が口を開いた。
「戦いに没頭していたので、分かりません」
トッキロが、左腕の腕時計を見た。デジタルではなく、アナログの時計だ。家電量販店で買った。九百八十円で。
腕時計のバンドは黒いプラスチック製で、時計の部分は左手首の内側にしている。
そのため、よく見ないと、黒いリストバンドをしているだけにしか見えない。
「もうすぐ、十三時の鐘が鳴ります」
その直後、鐘が鳴った。
兵士たちが、鐘の数を数え始めた。
七回、鳴った。十三時だ。
王都では日中、一時間おきに、「時の鐘」が鳴る。朝七時が一回で、その後、鐘の回数が増えていく。正午は六回で、十八時は十二回だ。
氷姫が、トッキロに視線を向けた。
「魔王軍の攻撃は、一日三回だ」
「知りませんでした」
「第一波は十時頃、第二波は十二時頃、第三波は十四時頃だ。いずれも二時間ほどで撤退する」
「なぜ二時間で撤退するのですか?」
「アース・ドラゴンも、疲れがたまるのだろう。あるいは、再生能力の限界に達するのか」
東城壁には、アーミアたちが残っている。東城壁に第二波攻撃があれば、彼女たちが危ない。
氷姫が、言葉を続ける。
「魔王軍との戦いは、消耗戦だ。アース・ドラゴンの再生能力は無限ではないし、魔王軍の攻撃には、制限時間がある」
「制限時間?」
思わず、聞き返した。
「そうだ。魔王軍には、いくつかの制限時間がある。一つ目は、一日の制限時間だ。攻撃は日中だけだ。しかも、早朝や夕方には、攻撃はない」
理由は、聞かなくても分かる。
アース・ドラゴンは爬虫類で変温動物だからだ。気温が高くならないと、活発に動けない。そのため、夕方になる前に撤退するのだろう。
説明を続けた。氷姫が。
「二つ目は、魔王軍の攻勢期間だ。魔王軍は八月末になれば撤退するはずだ。過去と同様に。ゆえに、我々の勝利条件は、八月末まで生き残り、戦い続けることだ」
今日は、八月十日だ。魔王軍が王都への攻撃を開始してから、まだ十日目だ。
十日しかたっていないのに、もう、学生を徴兵している。
王都を防衛する騎士団も魔法師団も、それだけ、戦力が枯渇している。
それなのに、あと、二十日間も戦い続けなければならない。
絶望的な状況に、頭が少しクラクラした。真夏の暑さのせいもあるが。
氷姫が、兵士たちに呼びかけた。
「兵士諸君、ここへ来て、両手を出せ。ちょっとした褒美をやろう」
褒美?
銀貨か銅貨でもくれるのかな、と思った。
兵士たちは、嬉々とした表情で、一列に並んだ。
氷姫が、視線を向けた。
「トッキロも、両手を出せ」
杖を右脇の下にはさんで、両手を出した。
氷姫は、右腕を上に向かって伸ばし、右人差し指で頭上に円を描いた。魔法詠唱しながら。
頭上五メートルほどの高さに、雲が出現した。
氷姫が、魔法詠唱を続けている。指で円を描きながら。
雹が降ってきた。バラバラと。
飴玉くらいの大きさだ。
兵士たちは喜びながら、顔や首筋にあてたり、口に含んだりした。
「生きかえる!」
雹を口の中に入れた兵士が、そう言って、歓喜の声をあげた。
「ありがとうございます」
そう言ってから、トッキロも雹を一つ口に含み、手にした雹を首筋にあてた。体温を冷やすために。
氷姫は、十五センチほどの氷柱を出現させ、自分の首筋を冷やし始めた。
美しい少女だ。氷姫は。
眺めながら、そう思った。
死なせるには、惜しい。
彼女を守り、自分も生き残らなければ。
あと、二十日間も。
他にも、気がかりなことがあった。
そこで、尋ねた。氷姫に。トッキロが。
「南城壁を越えて、王都内に侵入したアース・ドラゴンは、いますか?」
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