世界中が殺しに来る

蛇崩 通

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第一章 通学路はバトル・フィールド<第1話 刺客が殺しに来た>

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 <第一章 第1話 刺客が殺しに来た>
 ミコが、サトルの手をつかんだ。
 「早く行きましょう。敵が襲ってくる前に」
 強引に手を引いて、坂道を登り始めた。
 「敵って、誰?」
 「世界中よ」
 「それって、どういうこと?」
 「あとで説明するわ。もう、時間がないから」
 「時間がないって……」
 そのときだった。
 ミコが叫んだ。声を抑えながら。
 「来たわ」
 「誰が?」
 「刺客よ。後方、六時の方角」
 振り返った。
 通学中の学生ばかりだ。
 その瞬間だった。
 振動した。周囲の空間が。一瞬だけ。
 空気の振動ではない。
 非物理現象だ。
 悲鳴が聞こえた。坂道の下のほうだ。
 たくさんの学生たちにさえぎられて、何が起きているのかは見えない。
 「早く行きましょう」
 ミコが、手を引っ張った。
 少女たちの悲鳴が聞こえる。少年たちの怒鳴り声も。
 何が、起きているのか。
 「誰かが、襲われているのでは?」
 思わず、そう口にした。
 「関係ないわ。あたしたちには」
 「助けなきゃ」
 ミコが、サトルの顔を見た。
 真剣な眼差まなざしだ。
 「もう、世界中が敵なのよ。あなたを守るのは、あたしだけ。あたしを守るのも、あなただけ。あなたは、あたしを守る最後のモノノフなのよ」
 モノノフ?
 武士のこと?
 それとも、戦う人、くらいの意味だろうか。
 「あたしは、物理的な戦闘力はゼロよ。だから、物理的な攻撃から、あたしを守って。霊的な攻撃からは、あたしが、あなたを守るから」
 霊的?
 なんの話なのか。
 少女たちの悲鳴が、大きくなった。
 立ち止まっている間に。
 「もう来たわ。最初の刺客が」
 少年たちと少女たちが、波がひくように左右に分かれた。
 一人の少年が、現れた。
 髪を金髪に染めた不良少年だ。
 バタフライ・ナイフを手にしている。
 尋常では、なかった。彼の目は。
 それに、身体の動かしかたも。
 ぎこちない感じだ。真っ直ぐに、歩けないようだ。
 まるで、違法薬物でも、やっているかのようだ。
 耳もとで、ささやいた。ミコが。
 「最初の刺客は、人形使いのようね」
 「人形使い?」
 「半径五十メートル以内の人間の意識を奪い、人形のように操ることのできる刺客よ」
 なんだよ、それ!
 思わず、心の中で叫んだ。表情には、出さないようにしたが。
 「なるべく、殺さないでね。殺すと、殺人犯として、警察に追われるわ」
 思わず、つぶやいた。
 「難しいこと言うね」
 「サトルなら、できるでしょ」
 ミコのその口調には、自信があふれていた。
 その自信、どこから来るんだよ。
 サトルは、そう思った。
 まるで、サトルのことを詳しく知っているような口ぶりだ。
 初めて会ったばかりなのに。
 目があった。ナイフを持った不良少年と。
 彼の目は、正気を失っていたが。
 殺しに来る。ナイフで。
 そう、思った。
 思わず、身構えた。
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