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77. 誰にも何にも
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77. 誰にも何にも
ローゼリア王国を襲っていた魔物の軍勢の原因である『ゲート』を壊した私。魔王軍の幹部のシュバインは討伐できなかったけど、とりあえず危機は去ったと言っていいと思う。
そして魔王を討伐するために旅立った勇者ルイスは魔王によって殺されていた事実。もう、ここまで来たらもう隠すことは出来ない。だって私はこの人生は幸せになるためにすべてを「逆」に生きてきたはずなんだから。
でも……この人生で本当に守りたい人ができた。それは今、私の目の前にいるフレデリカ姫様。大切な友達……親友……ううん。それ以上の特別な存在。彼女だけは守れるようになりたかった。だからこそ、フレデリカ姫様には真実を知ってもらう必要がある。私は全てをフレデリカ姫様に伝える。
「驚かないで聞いてください。私は……今、人生をやり直しています。私の前世は魔王を討伐するために旅立った勇者でした。しかしその強大な力に敗れ、ある神の遺物と女神の力によって前世の記憶と、勇者として得た全ての力を受け継いで生まれたんです。」
「そ、そんなことが……」
突然前世が勇者だと言われ、更にはその記憶を持っていると言われたんだから当然の反応だと思う。
「そしてもう一つ。私はこの人生では『勇者にはならない』『魔王とは戦わない』そう決めていました。そのために幼少から剣ではなく魔法を習得し、ギルドではなく王立学園に通って、勇者になる可能性を潰しました。」
「……どうして?勇者に……なりたくなかったんですの?」
「はい……私はただ平穏に生きたかった。私にとって勇者は重荷でしかなかったんです」
私は俯くとギュッと手を握りしめ、顔を上げる。私は……勇者にはならない。フレデリカ姫様は私の言葉を聞きながら神妙な面持ちで、静かに耳を傾けてくれている。
「勇者ルイスが亡くなった今、誰かが立ち上がらないといけない。そうしないとこの世界はいずれ滅びてしまうかもしれない。私は……そんな世界を望まない。そんな事は絶対にさせない!そう思っているのに……」
「イデア……」
「ごめんなさい。ごめんなさいフレデリカ姫様。私が……私が弱いばかりに……」
私が泣き崩れると、フレデリカ姫様は優しく抱きしめてくれた。その温もりを感じて、涙はさらに溢れ出す。
「イデア……あなたが謝ることではありませんわ。あなたは今は勇者じゃありませんもの。」
「でも私……」
「いいえ……あなたは……勇者なんかよりずっと強いですわ。あなたは私を守ってくれた。命懸けで私を救ってくれた。それだけじゃない……あなたはこの国の民を救おうと戦ってくれました。ですからもう泣かないで下さいまし……」
そう言って、フレデリカ姫様も泣いていた。それからしばらくして、私たちはようやく落ち着きを取り戻した。そのあとはお互い会話もほとんどないままローゼリア王城に戻る。フレデリカ姫様も私の様子を察してか深く追及されることもなかった。
王都は魔物の軍勢を撃退したことで住民たちは安堵している状況だった。フレデリカ姫様を戦線に連れ出したことを咎められたが、とりあえず軽いお説教で終わった。色々あって疲れた。今はゆっくり休みたい。
◇◇◇
そしてその夜。私が寝ていると部屋にフレデリカ姫様がやってくる。
「イデア」
「ん?フレデリカ姫様?」
私はベッドから出て、扉を開けるとそこにはフレデリカ姫様がいた。なんだろう?何かあったのかな?不思議に思いながらも私は部屋へ招き入れる。そしてベッドにお互い寄り添うように座る。
しばらく沈黙が続き、私はどうしようかと思っていると、フレデリカ姫様は意を決したかのように口を開く。
「綺麗な満月ですわね……」
「え?あっはい。そうですね」
私は窓の外の空を見上げる。確かに今日は雲一つない快晴で、大きな満月がはっきりと見える。
するとフレデリカ姫様が私の手を握ってくる。いきなりの事に驚いていると、フレデリカ姫様はそのまま私の肩に身体ごともたれかかって来る。
「あの……フレデリカ姫様?」
「覚えてるかしら?5年前、あの時と同じ満月の夜、私が悩んでいた時あなたはこう言ってくれましたわ。『私に『勇者』になってって頼めばいいのに。別に男だけが勇者になるわけじゃないでしょ?』と」
「言いましたね……すいません。勝手なこと言ってしまって」
「謝らないでイデア。私はその言葉がとても嬉しくて、救われた気がしましたの。私は私らしく最後まで自分を貫く。そう思えたんですの」
最後まで自分を貫く……今の私はそれが出来ているだろうか……。そんなことを考えているとフレデリカ姫様は真っ直ぐ私を見て話す。その瞳は決意に満ち溢れているように見えた。
「ねぇイデア?あなたは私の姫騎士ですわよね?」
「え?」
「私を守ってくれるんですわよね?」
「うん。もちろん」
「なら……今度は私が勇者になって魔王倒しますわ!」
はい?今なんて言ったのこの人!?私は突然の発言に呆然とする。勇者……魔王と戦う……そんな危険すぎることさせる訳にはいかない。私は慌てて否定しようとすると、それを察してか、さらにフレデリカ姫様は続ける。
「……あなた1人じゃ勝てなかった。でも今回は私がいますわ!だから今度は負けません。私はイデアが居てくれるなら誰にも何にも負けませんわ」
「フレデリカ姫様……」
フレデリカ姫様の真剣な眼差しに、私は思わず息を飲む。そして同時に、彼女の想いの強さを実感した。
フレデリカ姫様はいつも私の為に行動してくれている。そして、その姿は私が憧れた強さそのもの……自分の信じた道を貫き通す。
だから私も……
私は立ち上がり、その『深紅のマント』を羽織る。満月に照らされたそのマントは焔のごとく赤く煌めいていた。
これは私の意思。この人生では勇者にはならない。それは変わらない。だけど、目の前にいるこの大切な人だけは守れるようになりたい。
そしてフレデリカ姫様の目の前で片膝をつき、微笑みかける。
「フレデリカ姫様。……私イデア=ライオットはあなたの姫騎士として、どこまでもあなたと共に歩み、共に戦いましょう」
「イデア。よろしく頼みますわ。私の姫騎士さん?」
そう言ってお互いそのまま笑い合う。真夜中に輝く満月の明かりが私とフレデリカ姫様を照らしている。でもあの時とは違う覚悟がここにはある。
これが私の選択。これから先、どんな困難が立ち塞がろうと、私はあなたを守る。今の私は勇者ではなく、勇者の力を持った姫騎士なのだから。
ローゼリア王国を襲っていた魔物の軍勢の原因である『ゲート』を壊した私。魔王軍の幹部のシュバインは討伐できなかったけど、とりあえず危機は去ったと言っていいと思う。
そして魔王を討伐するために旅立った勇者ルイスは魔王によって殺されていた事実。もう、ここまで来たらもう隠すことは出来ない。だって私はこの人生は幸せになるためにすべてを「逆」に生きてきたはずなんだから。
でも……この人生で本当に守りたい人ができた。それは今、私の目の前にいるフレデリカ姫様。大切な友達……親友……ううん。それ以上の特別な存在。彼女だけは守れるようになりたかった。だからこそ、フレデリカ姫様には真実を知ってもらう必要がある。私は全てをフレデリカ姫様に伝える。
「驚かないで聞いてください。私は……今、人生をやり直しています。私の前世は魔王を討伐するために旅立った勇者でした。しかしその強大な力に敗れ、ある神の遺物と女神の力によって前世の記憶と、勇者として得た全ての力を受け継いで生まれたんです。」
「そ、そんなことが……」
突然前世が勇者だと言われ、更にはその記憶を持っていると言われたんだから当然の反応だと思う。
「そしてもう一つ。私はこの人生では『勇者にはならない』『魔王とは戦わない』そう決めていました。そのために幼少から剣ではなく魔法を習得し、ギルドではなく王立学園に通って、勇者になる可能性を潰しました。」
「……どうして?勇者に……なりたくなかったんですの?」
「はい……私はただ平穏に生きたかった。私にとって勇者は重荷でしかなかったんです」
私は俯くとギュッと手を握りしめ、顔を上げる。私は……勇者にはならない。フレデリカ姫様は私の言葉を聞きながら神妙な面持ちで、静かに耳を傾けてくれている。
「勇者ルイスが亡くなった今、誰かが立ち上がらないといけない。そうしないとこの世界はいずれ滅びてしまうかもしれない。私は……そんな世界を望まない。そんな事は絶対にさせない!そう思っているのに……」
「イデア……」
「ごめんなさい。ごめんなさいフレデリカ姫様。私が……私が弱いばかりに……」
私が泣き崩れると、フレデリカ姫様は優しく抱きしめてくれた。その温もりを感じて、涙はさらに溢れ出す。
「イデア……あなたが謝ることではありませんわ。あなたは今は勇者じゃありませんもの。」
「でも私……」
「いいえ……あなたは……勇者なんかよりずっと強いですわ。あなたは私を守ってくれた。命懸けで私を救ってくれた。それだけじゃない……あなたはこの国の民を救おうと戦ってくれました。ですからもう泣かないで下さいまし……」
そう言って、フレデリカ姫様も泣いていた。それからしばらくして、私たちはようやく落ち着きを取り戻した。そのあとはお互い会話もほとんどないままローゼリア王城に戻る。フレデリカ姫様も私の様子を察してか深く追及されることもなかった。
王都は魔物の軍勢を撃退したことで住民たちは安堵している状況だった。フレデリカ姫様を戦線に連れ出したことを咎められたが、とりあえず軽いお説教で終わった。色々あって疲れた。今はゆっくり休みたい。
◇◇◇
そしてその夜。私が寝ていると部屋にフレデリカ姫様がやってくる。
「イデア」
「ん?フレデリカ姫様?」
私はベッドから出て、扉を開けるとそこにはフレデリカ姫様がいた。なんだろう?何かあったのかな?不思議に思いながらも私は部屋へ招き入れる。そしてベッドにお互い寄り添うように座る。
しばらく沈黙が続き、私はどうしようかと思っていると、フレデリカ姫様は意を決したかのように口を開く。
「綺麗な満月ですわね……」
「え?あっはい。そうですね」
私は窓の外の空を見上げる。確かに今日は雲一つない快晴で、大きな満月がはっきりと見える。
するとフレデリカ姫様が私の手を握ってくる。いきなりの事に驚いていると、フレデリカ姫様はそのまま私の肩に身体ごともたれかかって来る。
「あの……フレデリカ姫様?」
「覚えてるかしら?5年前、あの時と同じ満月の夜、私が悩んでいた時あなたはこう言ってくれましたわ。『私に『勇者』になってって頼めばいいのに。別に男だけが勇者になるわけじゃないでしょ?』と」
「言いましたね……すいません。勝手なこと言ってしまって」
「謝らないでイデア。私はその言葉がとても嬉しくて、救われた気がしましたの。私は私らしく最後まで自分を貫く。そう思えたんですの」
最後まで自分を貫く……今の私はそれが出来ているだろうか……。そんなことを考えているとフレデリカ姫様は真っ直ぐ私を見て話す。その瞳は決意に満ち溢れているように見えた。
「ねぇイデア?あなたは私の姫騎士ですわよね?」
「え?」
「私を守ってくれるんですわよね?」
「うん。もちろん」
「なら……今度は私が勇者になって魔王倒しますわ!」
はい?今なんて言ったのこの人!?私は突然の発言に呆然とする。勇者……魔王と戦う……そんな危険すぎることさせる訳にはいかない。私は慌てて否定しようとすると、それを察してか、さらにフレデリカ姫様は続ける。
「……あなた1人じゃ勝てなかった。でも今回は私がいますわ!だから今度は負けません。私はイデアが居てくれるなら誰にも何にも負けませんわ」
「フレデリカ姫様……」
フレデリカ姫様の真剣な眼差しに、私は思わず息を飲む。そして同時に、彼女の想いの強さを実感した。
フレデリカ姫様はいつも私の為に行動してくれている。そして、その姿は私が憧れた強さそのもの……自分の信じた道を貫き通す。
だから私も……
私は立ち上がり、その『深紅のマント』を羽織る。満月に照らされたそのマントは焔のごとく赤く煌めいていた。
これは私の意思。この人生では勇者にはならない。それは変わらない。だけど、目の前にいるこの大切な人だけは守れるようになりたい。
そしてフレデリカ姫様の目の前で片膝をつき、微笑みかける。
「フレデリカ姫様。……私イデア=ライオットはあなたの姫騎士として、どこまでもあなたと共に歩み、共に戦いましょう」
「イデア。よろしく頼みますわ。私の姫騎士さん?」
そう言ってお互いそのまま笑い合う。真夜中に輝く満月の明かりが私とフレデリカ姫様を照らしている。でもあの時とは違う覚悟がここにはある。
これが私の選択。これから先、どんな困難が立ち塞がろうと、私はあなたを守る。今の私は勇者ではなく、勇者の力を持った姫騎士なのだから。
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