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30. 妹ちゃんの悩み事

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30. 妹ちゃんの悩み事



 梅雨。それは心まで憂鬱にさせる。雨のせいで外に出たくないという気持ちになる。それでも学校には行かなくてはならない。

「はぁ~……」

 ふとため息が出る。しかし、それはオレではなく目の前にいる。妹の怜奈からだった。

「うーん……」

「なんだよ。ウザいんだが?女の子の日か?」

「違うよ!デリカシーないねおにぃは!」

「悪いな。生まれてこの方モテたためしがないんでね」

「……そんなんで良く聖菜さんと仲良くできるね?」

「深い関係だからな」

「やっぱりセフレなんだ。ヤるならホテルに行ってよね」

「おい。お前こそデリカシーねぇよ。てか、なんでオレが聖菜さんとヤったことになってんだよ!」

「はぁ!?まだなの!?おにぃは一回死んだ方がいいよ」

 こらこら。実の兄にそんなことを言うなよ。それにしてもどうしたんだ?中学校三年生という難しい年頃だが、こいつは一応オレには懐いているほうだと思ってたんだが……

「なぁ怜奈。悩みがあるなら相談してくれよ。オレにできることがあれば何でもするからさ」

「なんでも?」

「あ、ああ」

「じゃあ……明日聖菜さんを呼んで欲しい」

「は?なんで?」

「……じゃあいい」

「いや……理由言えよ」

「やだ」

 なんだこいつ……。オレは怜奈との会話を終え、支度をして学校に向かう。それにしても一体なんだと言うんだ。

 まさか男が出来たとか!?いやいや。あいつに限ってそんなことはないだろう。とりあえず聖菜さんに相談してみるか。するとタイミング良く聖菜さんが登校してくる。

「おはよう優斗君」

「おはよう聖菜さん。少しいい?」

「熱烈な愛の言葉をくれるのかな」

「それはまた今度ね。明日予定ある?良かったらオレの家に来てくれない?」

「デリバリーかな」

「常連なのでサービスしてね」

「無償の愛をあげてるんだけどな?足りないかなぁ?」

「人間とは欲深い生き物だからさ」

 とかふざけるのもほどほどにして、オレは今朝の怜奈との話を聖菜さんにする。

「というわけなんだよ」

「うん。明日でしょ?私も優斗君に会いたかったから良かった」

 可愛いすぎる。抱きしめたい。もう怜奈とか放っておきたい……。

「心当たりがないんだよな。一応家族だし心配だよな」

「心当たりがない?本当に?」

「ないよ。本当に」

「優斗君は私がおあずけしたから、我慢できなくなって怜奈ちゃんのことイヤらしい目で見たとか?」

「聖菜さん。ドラマとか漫画とか見すぎだよ。妹だよ?」

「妹だね」

「あり得ないぞ」

「私。信じてるからね」

 それは疑ってる人の言葉なんだよな……。まぁとりあえず聖菜さんが来てくれるみたいだし。良かった。

 そして学校が終わり、家に帰る。怜奈は友達と遊びに行くみたいで、まだ帰ってきてなかった。そのままオレはリビングのソファで横になると、うとうととしてしまう。

「おにぃ」

「……ん……んん……?」

 オレは誰かの声を聞き、目が覚める。時計を見ると1時間くらい寝ていたようだ。

「こんなところで寝たら風邪引くよ」

「……あ、ああ。ありがとう……」

 オレは体を起こしながら、隣にいる怜奈を見る。

「……あ、あれ?なんか用事があったんじゃ……」

「ないよ」

「そ、そうか……」

 沈黙が流れる。いつもならここで『じゃ、じゃあオレ部屋に戻るわ』と言って立ち去るのだが、今日はなぜかそれができない。

「お、お茶でも飲むか?それともコーヒーとか……」

「いらない」

「じ、じゃあオレの部屋行くか?」

「なんで?」

「えっと……ほら。ゲームでもするか?」

「しない」

「ええと……明日聖菜さん来てくれるってさ」

「……分かった」

 そう言うと怜奈は自分の部屋に戻っていく。ダメだ。どうしたらいいんだ?怜奈の考えていることがわからない。オレはそのまま何もできずに呆然としていたのだった。
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