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54. 真夏の太陽のように

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54. 真夏の太陽のように



 そして翌日。真夏の太陽が照りつける中、オレは遅く起きる。時間はちょうど11時を回ったところだ。

「……筋肉痛だ」

 普段運動しないから昨日のボウリングで体が悲鳴を上げていた。オレはそのままリビングに向かい扉を開ける。

「怜奈おはよう。朝飯……は?」

「あっおはよう。そこに作ってあるから勝手に食べて」

「あのお邪魔してます。怜奈さんと同じクラスの本田陸と言います」

「おっおお」

「本田君いいよお兄ちゃんに挨拶しなくても。自由研究の続きやろう」

 お兄ちゃん?気持ち悪い。おいおい、いつもの『おにぃ』はどこ行ったんだ?まさかこの本田君は怜奈の彼氏か?いやいや怜奈に限ってそんなことは……。というか怜奈さんて名前呼びかよ。

「怜奈ちょっといいか?」

オレは怜奈を廊下に呼び出す。

「どうかしたのおにぃ」

「あいつ誰だ」

「同じクラスの子だよ」

「……彼氏か?」

「違うよ!もうくだらないこと言うのやめてよ!グループで夏休みの自由研究やってるだけじゃん!」

「じゃあなんでお兄ちゃんなんだよ?気持ち悪いぞお前」

「それは恥ずかしいからじゃん……察してよ。女心分からないんだから!」

 怪しい。そもそも、なんかいつもより可愛い格好していないかコイツ?

 そんなことを考えているとインターホンが鳴る。するとそこにはまた男子が1人。

「お邪魔します。はじめまして。怜奈さんと同じクラスの沖野康平です」

「こんにちは沖野君。本田君も来てるからどうぞ」

 何なんだこの状況。オレは一体どんな顔をすれば良いのか分からないぞ。こいつも怜奈さんて名前呼びだしよ。とりあえず部屋に戻って、1人考える。

 1度冷静になろう。深呼吸だ。良く考えろ、妹が男を連れ込んでいるだけで大騒ぎなんて、まるでオレがシスコンみたいじゃないか。

 しばらくして、落ち着きを取り戻しそのままリビングに戻ろうとすると、3人は楽しそうに話をしていた。そして誰かと電話しているようだった。

「うん。分かった。ごめんね」

「日柳なんだって?」

「今。近くの駅に着いたって」

「日柳さんは方向音痴って聞いたことあるんだけど」

「確かに来るの遅いしな」

 そんな会話が聞こえる。『日柳』また新しい人物が出てきたぞ。コイツも男なのか?そしたらさすがに怜奈を叱らなくてはいけない気がするぞ。

『お前。同性の女の子を呼べ』ってな。比率がおかしいぞって。この世は平均が何事も良いのだから。そんなことを考えていると廊下に怜奈が来る。

「ん?あっおにぃ。今暇だよね?」

「ああ?喧嘩売ってんのか?買うぞ?いくらだ?」

「駅に私の友達迎えに行ってほしいんだけど、今。手が離せなくてさ。お願い!」

 両手をパンッと叩いて少し上目遣いでオレにお願いする怜奈。そんな女の子の武器なんて使うな。

「そんなこと言ってお前あの2人と……」

 なるほど。何かに理由をつけてオレを遠ざけたいのか。大人になったな怜奈。ハンカチ取ってこないと。

「分かった。行ってやるよ」

「ありがと!さすがはおにぃ!」

「ふっ。上手くやれよ怜奈」

「なにが?」

「皆まで言うな。で。その友達ってのは?」

「えっと名前は日柳花音さん。私と同じクラスのおとなしくて少し変わった女の子。麦わら帽子と白いワンピースを着てるみたいだからすぐに分かると思うから!」

 いや女の子ならお前が迎えに行って欲しかったんだが。まぁいいか。オレはそのまま駅に向かう。すると駅の広場のベンチに座っている麦わら帽子を被った女の子がいた。オレはその子に話しかけた。

「あの……怜奈のクラスメイトの日柳さんですか?」

「えっ?はい。はい?」

「あー良かった。合ってたか」

「えっと……あー。もしかしてナンパと言うものをされているのでしょうか?」

「いや違うぞ」

「申し訳ありません。私は今まで男性とお付き合いしたことがなくて、きっとあなた様を楽しませることは出来ません」

「だから違うんだが。オレは怜奈の兄の神坂優斗。怜奈に頼まれて君を迎えに来たんだけ……ど……」

 その時、夏の風が吹き抜けていく。彼女はワンピースの裾を押さえながら立ち上がり、こちらを向いて微笑む。

「そうでしたか。とんだ勘違いを。お初にお目にかかります。日柳花音と申します。この度はお誘いいただきありがとうございます」

 ペコリと頭を下げる彼女。彼女の声はとても透き通っていて、推しとやかな雰囲気がある。でも、オレを見つめるその瞳は真夏の太陽のように輝いていた。
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