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60. 熟練カップルのなせる技

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60. 熟練カップルのなせる技



 そして花火大会当日。時間は夕刻。オレは怜奈と共に会場に向かう。すると待ち合わせ場所に関原がすでにいた。

「あ。神坂君!こっち」

「おう」

「こんにちは。私は妹の怜奈です」

「あっうん。ボクは関原拓也。よろしくね。神坂君。妹さん可愛いね」

 そう言われて怜奈は少し顔を赤くさせる。おい。お前は西城さんに告白するんだろうが。オレの妹に色目をつかってんじゃねぇよ。

 するとそこに聖菜さんたちがやってくる。

「よっ!神坂!妹ちゃん!あと関原!」

「待ったかな?」

「いや今来たところだから大丈夫だぞ聖菜さん。その浴衣似合うね」

 聖菜さんは黒を基調とした浴衣を着ている。めちゃくちゃ可愛いし、その中にさらに大人っぽい雰囲気が漂っている。そしてエロいし、とても似合っていた。

「おや?褒めてくれるとは成長しましたな優斗君?」

「これでも人生で1人だけ取れる高宮聖菜検定に合格してるからね」

「ギリギリだけどね?」

「合格は合格だからさ」

「ちょっとこんなところでイチャつかないでくれない?はしたない」

「あはは。舞子嫉妬すんなし!可愛い浴衣が台無しになるじゃん」

「浴衣に可愛いなんてないでしょ。着る人が可愛いから可愛くなるのよ。聖菜とか聖菜とか聖菜とか。」

 西城さんはその大きい胸が強調するように胸元が開いた……というより、閉まらないのかもしれないけど、可愛いらしいデザインの赤い浴衣を着ていて、東雲さんは藍色の落ち着いた浴衣を着ている。浴衣美人だよな。喋らなければ。

「あれ妹ちゃんの浴衣超可愛いじゃん!オレンジとかイメージぴったり!」

「これはおにぃが選んでくれて……」

「マジ?神坂センスあんじゃん」

「オレはセンスの塊だからさ」

「あはは。そんなこと言って、初めて聖菜とデートする前にあたしと舞子に色々聞いてめっちゃ細かくメモってたじゃん!」

 それは言わない約束だろ姉貴。まぁあの時はかなり緊張してたので、2人に聞くことでデートは上手く行ったけどさ。すると今までおとなしかった関原が西城さんに話しかける。

「あのさ無理に参加しちゃってゴメン西城さん」

「え?なにが?別に人数多いほうが楽しいし。関原のこと良く分かんないけど楽しんだもん勝ちっしょ!」

「……そっか。ありがとう」

「なんで感謝すんの?あたし何かしたっけ?」

 不思議そうな顔をしている西城さん。そして聖菜さんが提案をし始める。これが作戦の合図だ。ちなみに東雲さんと怜奈には今回のことは言ってあるので問題ない。

「とりあえず。花火までは時間あるから屋台でも回らない?」

「おお!そうしよそうしよ!」

「みんなで回るより別々に回って、花火の時間になったら集合しようか。それでいいよね舞子ちゃん」

「まぁいいんじゃない」

「え?みんなで回ったほうが楽しくね?」

「彩音。聖菜のこと考えてあげなさいよ」

「あっそっか。神坂!変なことすんなよ」

「するかよ!」

 というわけでそれぞれバラバラになって行動することになるのだが、問題は組み合わせだ。西城さんと関原はいいとして、オレが聖菜さんと東雲さんと怜奈がベストだろ。オレがそう考えていると聖菜さんから目で合図がくる。

(優斗君は怜奈ちゃんとでいいよね?)

(え?いやいや。なぜ妹と夏祭りを楽しむんだ?)

(なら舞子ちゃんでいいの?)

(それはもっとない。聖菜さんとじゃダメなのか?)

(うーん……それはつまらないかな)

(なんですかつまらないとは?)

(とにかく怜奈ちゃんで決まりね!優斗君からお願い)

(オレから!?)

(早くしないと彩音ちゃんが誰か選んじゃうよ)

 と、目と少しのジェスチャーのみで意志疎通を図ることができるオレと聖菜さん。これはもう熟練カップルのなせる技だろ。

「こほん。よし!一緒に回るか怜奈!」

「え?」

「久しぶりだもんな夏祭り!なっ?なっ?なっ?」

「あ。……うん!おにぃと回るの楽しみにしてたの!早く回りたいなぁ」

「うわ。めちゃ仲いいじゃん神坂!そこ禁断の関係とかじゃないよね?」

 怜奈は微笑みながらもオレの脇腹を肘で小突いてくる。我慢しよう……これは関原のためなんだ。

「じゃああたしは……」

「舞子ちゃん一緒に回る?」

「聖菜~!私を選んでくれたのね!やっぱり神坂君より私。私が一生養うわ。もう……涙で前が見えない……今日は記念日よ~!」

「ふふ。大袈裟だなぁ舞子ちゃんは」

 こらこら。今回の件知ってるはずだよな東雲さんは。これは絶対演技じゃないだろ?

「ならあたしは関原か。オッケー。よし!行くぞ関原!あたしのスーパーボールすくい見せてやんよ!」

 こうして、作戦通りに西城さんと関原を2人きりにすることができた。ただオレは聖菜さんじゃなく怜奈と屋台を回ることになるというある意味罰ゲームのような仕打ちを受けるのだった。
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