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63. ごめんなさい

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63. ごめんなさい



 夏の夜空を彩る花火。それをオレは聖菜さんと一緒に見ている。本当に幸せだ。そう思っていると、まだ花火の途中ではあるけど、聖菜さんがオレに提案する。

「さて。それじゃ行こうか彩音ちゃんと関原君のところへ」

「え?覗くってこと」

「そのくらいの権利はあるでしょ。それに最後まで見届けてあげないとさ」

「その前にどこにいるか知ってるの?」

「もちろん『タイムリープ』してるんだよ私。ほら急いで」

 聖菜さんはそう言うと歩き出す。オレもその後に続く。まぁ2人が上手くいくように願うだけだが。

 聖菜さんの後について行くと、少し離れた場所にある高台の神社に2人はいた。そのまま木陰に隠れて様子を伺う。……というか本当にいたよ。別に疑ってたわけじゃないけど。

「あの聖菜さん?」

「しーっ。見つかっちゃうよ」

「やっぱり覗くのやめたほうが……」

「……ダメ。優斗君は見届けてほしいから」

 そんなことを言われても……。そんなことを考えている間に西城さんと関原は話し始める。

「つーか。神坂とか聖菜とか舞子とか妹ちゃんはなんで遅刻するかな?もう花火終わっちゃうけど」

「あの西城さん」

「どした?」

「その……」

「あー……そういうことか。」

 西城さんは何かを察したのか、浴衣の襟をなおして、真面目な顔に変わっていた。そしてしばらく沈黙の時間が続く。

 すると、突然花火が打ち上げられた。大きな音が鳴り響き、夜空に綺麗な花火が咲き乱れる。それと同時に関原は口を開く。

「西城さん。ずっと好きでした!オレと付き合ってください!」

 花火の色鮮やかな光が西城さんと関原を照らしていた。とても幻想的な光景にオレと聖菜さんは息を飲む。そして西城さんは言った。

「ごめんなさい。あたし今は誰とも付き合う気ないんだ」

 オレは思わず目を背ける。隣を見ると聖菜さんは涙を浮かべながら、ただじっと目の前の光景を眺めている。

「少し前のあたしなら……オーケーしてたかもね」

「そうなの?」

「あたしさ。付き合うなら聖菜と神坂みたいな関係になりたいんだ。本当に2人は幸せそうじゃん?理想が高くなったんだよ」

「そっか。じゃあしょうがないか」

「うん。でもありがとう。告白されたの初めてだったから少し嬉しかった」

 そう言って2人の会話は終わった。きっとこれで良かったのだろう。花火が終わり、オレたちはそのまま家路に帰ることにする。

「残念だったな。さっき関原から連絡きて、聖菜さんにありがとうって伝えてほしいってさ」

「……ねぇ優斗君」

「ん?なに?」

 オレがそのまま振り向くと聖菜さんは目に涙を浮かべていた。それは今まで見せたことのない表情で、どこか寂しそうな顔をしていた。そして聖菜さんは涙を流しながら呟いた。

「ごめんなさい……」

「聖菜さん?一体どうしたの?」

「……『タイムリープ』をしてない世界線は彩音ちゃんと関原君はここで付き合うの」

「え……?」

 西城さんと関原が?聖菜さんは何を言って……

「さっきの彩音ちゃんを見て確信したよ。私が……私のワガママで彩音ちゃんと……きっと優斗君の未来までも変えちゃったんだよ!」

 聖菜さんは泣きながらそう叫んだ。『タイムリープ』の記憶。それが聖菜さんを不安や恐怖に駆り立てられていたのかもしれない。

「その記憶を思い出してから今日まで不安だった。告白が上手くいかないと困る。でも上手くいかなかった。今までのことが溢れて……高校生で優斗君と付き合えた、初めても優斗君に……すごく幸せ……そう思っていたのに……」

「落ち着いて聖菜さん。オレが好きなのは聖菜さんだし、それは変わらない!」

 オレがそう言うと聖菜さんは不安を取り除きたい気持ちからか心から吐き出すようにオレに言った。それは、そうしないと壊れてしまうから……。

「じゃあ!……私が『タイムリープ』してなかったら、優斗君はこうやって……私のこと好きでいてくれたの!?25歳まで私のことを思ってくれてたの!?こんな思いをするなら……『タイムリープ』なんかしなきゃ良かった!」

「聖菜さん……」

「……ごめんなさい。今は1人にして」

 オレが今の聖菜さんと出会えなかったら……。聖菜さんのその言葉にオレは答えることが出来なかった。花火大会の余韻に酔いしれるなか、オレの未来の奥様は1人歩いていく。その後ろ姿をオレは見送ることしか出来なかった。

 そして長かったような短かった夏休みが終わり2学期が始まる。

 オレは隣の席を見る。オレの未来の奥様はその日から学校にくることはなかった……
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