隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫

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23. 初めてなのに、いきなり学校でというシチュエーションは現実には起こらない

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23. 初めてなのに、いきなり学校でというシチュエーションは現実には起こらない



 外は今日も、朝からどんよりとした雲が垂れ込めていて一日中雨が降り続いていた。授業が終わり教室を出ると、廊下は帰宅する生徒たちのざわめきで満ちていた。傘を手に少し面倒くさいなと思いつつ、オレもその流れに乗って昇降口へ向かおうとしたその時だった。

「あっ、先輩!」

 後ろから聞き慣れた、そしてこの場所では絶対に聞きたくない声がした。反射的に立ち止まる。ん?白石!?なんでこいつがここにいるんだ。しかもオレに話しかけてきやがった。

「お前学校で話しかけてくるなよ!」

 周りの生徒に聞こえないように、少し小さい声で言ったつもりだったが内心は穏やかじゃない。学校では目立たないように、そして白石と関わっていることがバレないように細心の注意を払っているのだ。それなのにこいつはあっさりそのルールを破ってきた。

「傘忘れちゃいました。入れてください」

 白石は全く悪びれる様子もなく、オレの傘を指差しながらそう言った。何を当たり前のように要求してくるんだ。しかもこんなところで。

「は?お前ちょっとこっちに来い」

 これ以上、この場所でやり取りするのはまずい。誰かに見られる前に、どこか人目のつかない場所に移動しなければ。オレは白石の腕を掴み、近くにあった空き教室へと強引に引きずり込んだ。ガチャリ、と扉を閉める。廊下のざわめきが遠ざかり、教室の中はシン、と静まり返った。窓の外では雨がシトシトと降り続いている。

 空き教室は、掃除道具が隅に置かれており、古びた机と椅子がいくつか並んでいるだけでがらんとしていた。窓ガラスには雨粒がいくつも張り付いている。

「誰も来ない教室に連れ込んで、私に何する気ですか先輩?」

「黙れ。おい!お前何のつもりだよ、学校で話しかけるなよ! 変な噂がたったりしたらどうするんだよ!」

 学校で白石との関係が噂になるなんて、考えただけでもゾッとする。オレの平穏な学校生活が、白石の存在によって掻き乱されるのは御免だ。

「別にいいじゃないですか~それより、私をこんな所に閉じ込めて、どういうつもりなんですか?私初めてなんですよ?せめて学校じゃなくて、普通に家がいいんですけど。先輩エッチな本の読みすぎですよ?」

「おい黙れ。何もするつもりはない」

 白石は、オレの真剣な心配など全く意に介さないようだった。それどころか、またしても「閉じ込めて」などと妙な言葉を使ってくる。はぁ……こいつには何を言っても無駄だな。こちらの論理も常識も通用しない。

 このまま、この空き教室で、白石と二人きりという状況もまずい。早くここから出て、帰らなければ。だが、白石をこのまま傘もなしに帰すわけにもいかないし……かといって、一緒に帰るのも……しょうがないな。妥協案を出すしかない。

「わかった。じゃあ、この傘貸してやるからもう帰れ。そして、学校で二度と話しかけてくるな」

 オレは手に持っていた傘を白石に差し出した。これで、白石は濡れずに帰れるし、オレは一人で帰れる。そして、今後学校でちょっかいを出されないように釘を刺す。完璧な解決策だと思ったのだが――

「えぇ~?せっかく先輩と相合傘ができると思ったのに~」

「するわけねぇだろ。このくらいの雨なら、少しくらい濡れてもオレはいいから、だからお前は先に帰れ」

 オレはきっぱりと拒否した。多少濡れることなんて、白石と二人で一つの傘の下に入るよりずっとマシだ。特に学校でなんてな。

「嫌です!私は先輩と一緒に帰りたいんです!一緒に帰らないなら……先輩に乱暴されたって、泣きながらこの教室を出ますよ?」

 白石の言葉にオレは絶句した。何を言っているんだこいつは!?泣きながら教室を出る? そんなことをされたら、周りの生徒に何を思われるか。どんな噂が立つか。想像しただけで恐ろしい。うぜぇ……何なんだこいつ……本当に、どこまでオレを困らせれば気が済むんだ。

 仕方ないな。このままだとこいつは本当に泣き出して、とんでもない騒ぎになるかもしれない。その時、白石がハッと何かを思いついたように、窓の外に目をやった。オレも釣られて窓を見た。

「ん? あっ!先輩!見てくださいよ!雨が止んだみたい」

 確かに。さっきまで勢いよく降っていた雨が、嘘のように弱まりほとんど止んでいる。空も少しだけ明るくなってきたような気がした。

「傘使わないですむなら、一緒に帰ってくれますよね?」

 白石は、この絶好のタイミングを逃さず、すかさず言ってきた。雨が止んだという事実を、自分が一緒に帰るための理由に使う。この状況の変化を味方につける狡猾さ。そして、その後の展開を決定事項であるかのように話を進める強引さ。全く恐れ入る。

 もはや反論する気力もなかった。傘を使わなくていいなら、一緒に帰るくらい、いいか。ここでまた揉めるのも面倒だ。何より白石のあの脅し文句が頭から離れない。

「……少し離れて歩けよな」

「はーい。帰ってゲームやりましょう!」

 白石は、オレの条件をあっさり了承し嬉しそうに言った。そして、もう帰ってからのゲームの予定を立て始めている。

 こうして、土砂降りだった雨は奇跡的に止み、オレと白石は結局二人で下校することになったのだった。白石は終始楽しそうで、隣を歩きながら今日の出来事を嬉しそうに喋っている。全くこいつと一緒にいると、何が起こるか分からない。予測不能な日常は今日も続いていく。そしてオレは、そのペースに逆らえず白石の一歩後ろを少し距離を置いて歩き続けた。
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