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9. パン屋の使命だから

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 9. パン屋の使命だから



 私たちは海沿いの街エラドールから船に乗るはずだったけど、資金が足りないので足止めを受けている。

 そして宿屋の一室。私はベッドに腰掛け目の前にはフィーナとエドを立たせている。

「私たちは東の洞窟にベルセル鳥の卵を取りに行くわ」

「えっ!?」

「あのリンネ様?東の洞窟は騎士団が調査をすることになってますし、そもそも今は立ち入り禁止になってますって……」

「お黙りエド。私たちはベルセル鳥の卵を取りに行き、その卵で卵サンドを作るわ!」

 そう言って私は2人を睨みつける。私の気迫に押されたのか、2人は顔を見合わせながら後ずさりをしている。そのまま私はフィーナに質問をする。

「フィーナ。卵サンド食べたいわよね?ね?」

「はい!食べたいです!!」

 フィーナは即答する。

「素直な子は好きよ。じゃあ行きましょうか」

「ちょっ……ちょっと待ってくださいって!いくらなんでも無謀ですよ!危険なガルーダだっているし、それに騎士団に見つかったらどうするんですか?」

「エド。あなたそのネガティブな考えをやめなさい。だとしたら何だって言うの?私たちの目的はベルセル鳥の卵を手に入れて美味しい卵サンドを作ることよ。それとも何?あんたは私と一緒に来ないっていうの?」

 私がそういうとエドは俯き、黙ってしまう。

「まぁ、いいじゃないですかエドさん。リンネ様に付いて行けばきっと美味しいこと……じゃなかった楽しいことがいっぱいありますよ!」

「フィーナさん……もう少し状況を考えてですね……」

「お黙りエド!!いいから来るのよ!明日の深夜出発以上!」

「……はい」

 こうして私たちは明日の夜中にこっそりと東の洞窟に向かうことになった。これはパン屋の使命だから仕方ない。私はそんなことを考えながら眠りについた。

 そして翌日の深夜。私たちはこっそりと宿を出て東の洞窟に向かっていた。ちなみに出発の前にエドが「やっぱりやめませんか?もし騎士団にバレたら本当にまずいことになりますし……」と言って同行を拒否してきたので、アイアンクローをかましてやった。まったく意気地がない男である。

「いつまで拗ねてるのよエド?ほら行くわよ」

「はい……。魔物が出てきたらどうしたら……ボク自信ないんですけど」

「魔女の孫でしょあなた。大魔法使いになるんじゃなかったの?だったらもっと堂々としてなさいよ。それにガルーダなんて噂でしょ?いないわよそんな凶暴な魔物。」

「それ……フラグですよリンネ様」

 私はエドに再度アイアンクローを食らわせて黙らせる。まったく。こんな調子では先が思いやられるわ。私は呆れながらも前へと進んでいく。しばらく歩くと洞窟にたどり着く、幸い騎士団の見張りはいなかった。そりゃ普通こんな真夜中に洞窟に入る人はいないだろうしね。そしてそのまま私たちは洞窟の中に入っていく。

 中に入るとひんやりとした空気が流れており、奥の方からは水の流れる音が聞こえてくる。薄暗い道を進みながら私たちは目的のものを探す。すると、フィーナが何かを見つけたようだ。

「あっ!見てください!この壁の模様!なんかありそうですよね!」

 フィーナは指をさす。確かにそこには壁画のようなものが描かれている。それは不思議な模様をしていた。見たことのない文字のような記号のようなものだ。

「これ……もしかして古代文字の類かしら?」

「へぇーこれがそうなんですか。初めて見ました。人間は面白いですね。色々な文字とか絵とか描いて」

 フィーナの反応を見る限り、あまりこういったものはエルフたちには知られていないものらしい。するとエドが私の肩を叩き話しかける。

「リンネ様。少し気になることがあって……」

「ん?何?」

「何か声が聞こえませんか?洞窟の奥の方から」

 耳を澄ませると微かにだけど物音が聞こえるような気がした。よく見ると、洞窟の壁には亀裂がありそこから光が漏れていた。

「行ってみましょう」

「あっ待ってくださいリンネ様~」

 3人で光に向かって歩いていく。するとそこに広がっていた光景を見て私は息を飲む。そこは巨大な空洞になっており、その中央に大きな石像があったのだ。私は石像を近くで見るために近づいてみる。その石像は翼を広げた鳥のような形をしており、大きさは人の5倍くらいはあるだろうか。私は石像に触れながらつぶやく。

「一体なんなのかしらこれは……」

 その時だった。急にその石像から気配を感じ私は離れる。次の瞬間、みるみるその無機質な色から身体の色が変化し、動き出した。こいつはガルーダ!?鋼体の魔法持ちなのか。本当にいたのねガルーダ……。

 ガルーダは大きな鳴き声を上げながらこちらに襲い掛かってくる。そしてその大ききな羽で羽ばたくととてつもない威力の突風が巻き起こり私たちは吹き飛ばされてしまう。

「くっ……フィーナ!エド!何とかしなさい!」

「あんな大きいの無理ですよ~!」

「だからボクは言ったじゃないですか!」

「お黙りエド!さっさと攻撃する!」

 私に叱咤されて、エドは魔法を詠唱し発動する

「アイスアロー!」

 エドの放った氷の矢はガルーダに直撃するが、全く効いている様子はない。むしろガルーダは、なぜか私に狙いを定めて突進してくる。私はギリギリで避けるがその衝撃でまた吹き飛ばされてしまった。なんで私なのよ……髪が赤くて目立つから?

「大丈夫ですか?リンネ様?」

「ええ」

「撤退しましょうリンネ様!ボクたちではガルーダは倒せませんよ!騎士団に任せましょう!」

「あのさエド。ここまできて絶品卵サンドを諦められるワケないでしょ!これはパン屋の使命なんだから!ほら文句言わずガルーダを倒すわよ!」

 こうして私たちはガルーダと対峙するのだった。
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