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11. 時は金なりだったのに

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 11. 時は金なりだったのに



 私たちはベルセル鳥の卵を無事に手に入れ、卵サンドを作るために東の洞窟から帰還する。ああ。本当にあの絶品卵サンドを作って食べれるなんて最高ね!

「フィーナ。絶対卵割るんじゃないわよ!?割ったら承知しないんだから!」

「分かってますってば。そんなに怒らなくても私なら大丈夫ですよぉ。」

 いやフィーナだから心配してんのよ。このおとぼけエルフは天然でドジっ子なんだから……!私は何度も後ろを振り向きながら洞窟内を歩いていく。うーん。やっぱり不安だなぁ……。

 そうしてやっとの思いで洞窟から出ると日はもう昇り始めており辺りが明るくなっていた。そして目の前にいるある軍勢も視界に入ることになる。

「止まれ!」

 その声と共に私達を取り囲むように槍を構えた兵士達が現れたのだ。ヤバ……騎士団じゃない。そして兵士の中から強そうなガタいのいい人物が姿を現した。まるでゴリラみたい。

「貴様らは一体ここで何をしている?ここは立ち入り禁止区域に指定されているはずだぞ?」

「あら?そうなの。ちょっとキャンプしてたら道に迷っちゃって」

 私は頭をかきながら答えた。すると男は目を細め私達の顔を見る。

「キャンプだと?こんなところでか?」

「ええ。食料が尽きて困っていたところだったのよ。ねえフィーナ?エド?」

 私が同意を求めるとフィーナとエドはうんうんと首を縦に振る。すると男は何やら怪しい目つきで私たちの顔を見つめていた。見るんじゃないわよゴリラ。

「街の住人からガルーダが空を飛んでると報告を受けたんだが……お前たちは知らないんだな?」

「さぁ?知らないわね」

 面倒なことに巻き込まれるのは困るし、ここは適当にしらばっくれるしかない。というか早く帰してくれないかしら、私は卵サンド作りたいんだから。

 そんなことを考えていると洞窟を調査していた兵士が慌てて戻ってくる。

「バルゴ副隊長!大変です!ガルーダが焼け焦げてます!」

「何だと?本当なのか?」

「はい。どうやら何者かによって倒されたようです……」

 それを聞くとバルゴと呼ばれた男はニヤリと笑みを浮かべた。

「おい。本当に知らないのか?貴様らがやったんじゃないのか?」

「違うわよ。私はただパンを焼いていただけだもの。ねぇフィーナ?エド?」

「そ、そうですね。」

「はい。確かにボクたちは火を使っていましたけど……ガルーダ?なんですかそれ?」

 するとバルゴ副隊長はいきなり大きな声で怒鳴り始める。

「ふざけるな!あの凶暴と言われてるガルーダを仕留められる冒険者はこの街にはいねぇはずだ。それに焼け焦げてるだと?そんな強力な炎魔法が使えるなんて、お前たち何者だ!」

「私はただのパン屋よ!」

「嘘をつけ!!絶対に何か隠してるだろう!」

 あーもううるさいわねこのゴリラ。せっかく手に入れた貴重な食材を無駄にしたくはないんだけどなぁ……。でも下手したらこのまま拘束されて尋問とかされちゃうかもだし……。よし。ここは一発かまして逃げるしかないわね。

「あのさ。私たちを拘束するなら理由を出しなさい」

「理由?そんなのあるわけないだろ!お前らが勝手にこの立ち入り禁止区間に入ったことが悪いだろ!」

「頭の悪いゴリラね。私は何を聞かれてるのかしら?もし仮にガルーダを倒したのが私だとしたら、感謝されることはあってもそんな威圧的に問い詰められたりする筋合いはないと思うんだけど?立ち入り禁止区間?だから私はキャンプしてただけよ。あなたじゃ話にならないわ。隊長を出しなさい。話くらい聞いてあげるから」

「うぐっ……」

 私の言葉にバルゴは怯む。そして悔しそうに歯ぎしりをしていた。ふふっ。いい気味だわ!

「そういうことだから。帰らせてもらうわね?卵サンド作らないといけないから」

 私は背を向けそのままフィーナとエドを連れて宿屋に帰る。まったく時間をロスしたわ、でもこれでベルセル鳥の卵サンドを作れる!ああ楽しみすぎるわ!!


 ◇◇◇


 私たちは何とか頼み込んで、宿屋の厨房を借り、卵サンドを作ることにした。そしてパンを石窯に入れて焼き、いよいよ卵を割る時が来たのである。

「いい?フィーナ。絶対卵を割らないでよね!?」

「分かってますってばぁ~。もうしつこいですよ~」

 そう言いながらも彼女は慎重に卵を手に取り調理台に置く。うん。大丈夫そうね。私は安堵しながらフライパンを取り出し油を引いて温め始めた。そしてバターを入れ溶かす。ああ美味しそうな匂い。もう待ちきれないわ!私は卵を取ろうと手を伸ばすと

「待ってください!リンネ様!」

 突然エドの声が響く。え?どうしたのかしら?

「な、何?」

「今……動きませんでしたかその卵」

「まさかぁ~。卵が動くわけないでしょ?もういい加減にしてよエド。」

 私は呆れながら笑い飛ばした。だけどエドは真剣な表情のまま私の顔をじっと見つめてくる。

「本当ですってば!ほらまた少しだけ……」

「はいはい。分かったってば。もう変なこと言わ……」

 その時、卵からピキッという音が聞こえヒビが入る。そして中から掌に乗るくらいの小さな青い鳥が生まれてくる。

「は?」

「わぁ~可愛い鳥!」

「ベルセル鳥の子どもですかね?」

「あぁ~……私の卵サンドがぁ~……。」

 無情にも私の絶品卵サンドは夢に消えてしまう。しかも、その鳥は私とフィーナの胸を交互に見てフィーナの方に飛んでいく。

「あっこら!ダメですよそんなところ入っちゃ。くすぐったいです~」

 その鳥はフィーナの谷間が気に入ったのかそこに陣取ってピヨピヨ鳴いている。燃やしてやろうか?このピー助。うん。一口サイズのスコーンしてやるわ。私が拳を握りしめているとエドが話しかけてくる。

「まぁリンネ様のパンはどれでも美味しいので、卵サンドじゃなくてもいいですよボクは。」

「私もですよリンネ様!お肉のバーガーとかバーガーとかバーガーとかがいいです!」

「ったく。仕方ないわね、パンが焼き上がるわ。予定変更。野菜サンドにするわよ!」

 こうして私たちは卵サンドを作ることは出来なかったけど、一つの大きな目標として全員で取り組むことができたのだった。
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