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第4章 使用人とメイドさんと天才魔法士令嬢(後編)

34. メイドさんと感謝

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34. メイドさんと感謝



 部屋にはお風呂場からシャワーの音が聞こえてくる。私はそんな静寂が流れる部屋のソファーに座っている。私もほんの少しくらいは覚悟はある。いくらカイル君でも男の子だから。

「……」

 でも、いざその場面を想像すると顔が熱くなってくる。恥ずかしくて思わず顔を両手で覆ってしまう。

 ないない!だってカイル君だよ!?あのカイル君が……?いや、まぁ見た目は別に悪くはないと思うけど……。それに不思議ってだけで悪い人じゃないし、面白いし、一緒にいて嫌な気分にはならない……って何考えてるんだろ。

「ふぅ……」

 一度深呼吸をして心を落ち着かせる。ダメよマリア。この2人きりの状況が思考をおかしくさせるだけなんだから。冷静にならなくては。私は自分の頬を軽く叩いて気合を入れる。するとカイル君がお風呂から出てくる。

「あっ、おかえりなさい……」

「た、ただいまです……あの……隣いいですか?」

「うん。どうぞ……」

 私がそう言うとカイル君はゆっくりと私の横に座った。そしてしばらく沈黙が続く。カイル君の熱が伝わってくる。馬車の御者台と変わらないのに、今の方が緊張してしまう。

「あっあのマリアさん!」

 先に口を開いたのはカイル君だった。私はビクッとして体を硬直させてしまう。

「うん!?なにかな!?」

「その……エルナリア様!そうエルナリア様と話したことありますか!?オレは話したことがないんですけど?」

「え?あー……エルナリア様とは挨拶くらいで私も話したことないかな?」

 そして再び沈黙が流れる。カイル君はおどおどしている。その姿を見て、私は緊張がどこかにいってしまった。自然と笑みが浮かぶ。

「ふふ。カイル君。エルナリア様と会って何か粗相しないか心配なんでしょ?」

「え?まぁそうですね。まだクビになりたくないですからね」

「カイル君はエルナリア様も怒らせそうだよね?イライザ様の時みたいに。なんかあの時のこと思いだしちゃった。おかしい」

「笑わないでくださいよマリアさん……」

 バカらしい。カイル君はカイル君だよね。お財布は忘れるし、約束の時間は守らないし、仕事は怒られてばかりだし、あと私の胸を見てばかりだし。男として良いところなんて何もない。

 その後は、初めてお互いにプライベートのことや好きなものとか色々話した。やっぱりカイル君は普通の男の子だ。ちょっと抜けてるけどね。

「あのそろそろ寝ますか?」

「うん。そうだね」

 でも、私の中でカイル君に対する印象が変わった気がする。

「カイル君」

「はい?」

 それは……カイル君が不思議で面白くて……優しくて素直な男の子だって思ったことだ。もしかしたらこの先……

「……ありがとう。」

「いえ……こちらこそありがとうございます」

「……お休みなさい」

「お休みなさい」

 お互いにそれだけ言うと、いつもとは違う夜なのに、安心してぐっすり眠ることが出来たのだった。
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