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さらにおまけのこぼれ話

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以下のお話と関連した内容となっています。

冴えない社畜リーマンな俺が、秒で獣人魔王に堕とされたわけ
https://www.alphapolis.co.jp/novel/187289253/296728486/episode/6801349

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 小高い丘のてっぺんに、その洋館はあった。周りを高い針葉樹に囲まれ、煉瓦造りの赤黒い重厚な壁に、複雑な形状の瓦を敷き詰めた黒々と厚みのある屋根。館のはしっこにはドーム屋根がしつらえてあり、その反対側の屋根からは細長い煙突が突き出ている。

 その洋館は、いつのころからかこう呼ばれていた。

 魔女クロキの館。

 ここには毎日、様々な獣人が訪れる。
 彼らはみな、すっきりとした顔と、輝きを増した見た目で出てくるのだった。

 今日も一匹、いや、一人と一匹の客が来る。

「へえ、ここが噂の魔女さまとやらの本拠地か。こいつのおかげで、この帝国だけは和睦交渉するしかなかったんだよな」

 ふんっと、館を見上げて不満そうに、男が鼻を鳴らす。黒く短い髪にガッシリとした体躯。かつてはぷよぷよだったその身体は、この世界で駆けずり回るうちに、随分と逞しくなった。

「ん、油断なんてしやしませんよ。荒事もしませんって。あくまで俺たちはぶらり万国周遊旅行の身。俺はあなたと楽しく過ごせりゃそれでいい。魔女とやらがか少し気になるていどです」

 まるで、独りごとのように男が呟き、洋館の扉を押し開く。

 ちりちりんと、鈴が鳴る音がした。



「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」

 パリっとしたスーツに身を包んだハスキー犬の獣人がうやうやしく頭を下げる。
 獣人は、男を見てその鋭い青い瞳をさらに細めた。
 ピリッとした殺気を、双方綺麗に押し隠す。

「こちらへどうぞ」

 案内された部屋には、優雅に椅子に腰をおろした、長い黒髪の女性。

 この世界では珍しい、完全人間体のその姿に男は息をのむ。

「あら珍しい。完全人間形態の方がここに来たのははじめてです。その子はポメラニアン?」

 男はちらりと小脇に抱えた白いもふもふに目をやり、そしてこたえた。

「いいえ、くそかわいいアザラシです。ってか、思いっきりヒレがついてるだろ」


 おしまい
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