SSランク冒険者ですが今日も初級者用ダンジョンで大好きな人を見守ります

てへぺろ

文字の大きさ
7 / 7

07

しおりを挟む
 どんっとカウンターに置かれた採集品をみて、受付嬢のサラは目を丸くした。

「ロ、ローゼさん、これ、これって!」
「今回のクエスト完遂したわ。メインもサブもね。報酬受領手続きお願いできる?」

 クエストカードと採集品の間を、何度も目線を往復させながら、サラは手元の台帳を確認する。採集品の大きさや重さを測り、うわあと声をあげた。

「すっごおおい! ミノタウロスの角片とか、この大きさなら一ルクス金貨いくんじゃないですか。それを独り占めとか、いいなぁ。うらやましいなぁ」

 一ルクス金貨はかなりの大金だ。それだけあれば、一家族が一ヶ月、余裕で暮らせる。普通はパーティーを組み、仲間と分けるレベルの報酬である。

 サラは手をぐーにして頬にあて、しなをつくった。目の前のローゼの顔が金貨にみえる。
 
「ローゼさあん、こんど一緒にごはんいきません? もちろん、ローゼさんのお・ご・りで」
「行くわけないでしょ。これでダイブ装備一新するんだから外食する予定なんかないわよ」
「えええええ、信じられなあい! もったいなあい! なんてお金のむだづかい!」

 むきいいいっとサラがカウンターのむこうで歯噛みしている。
 ローゼがダンジョンで稼いだ金なのに、図々しいにもほどがあるサラだった。
 
 下手すれば報酬をちょろまかしそうなサラを、ローゼはきっと睨む。

「もう、ばかなこといってないでさっさと報酬渡しなさい」
「はぁい。ううっ、ソロダイブがこんなに儲かるなんて……信じられない。なんかくやしい。……ねぇ、アッシュさんもそう思いません?」
  
 ぴょこんとポニーテールがひとゆれし、サラがローゼの後ろを覗きこむ。ローゼのすぐ後ろでクエスト受付けの順番待ちをしている眠そうな男性を上目遣いにみやる。
 
「あ………………、えっと」(小声)

 目の下にクマをつくり、ぼんやりとしていたアッシュは、腕に大きな箱を抱えていた。声をかけられて、咄嗟に顔をあげ、一瞬固まり、また顔を下げる。灰青色の髪で隠れていなければ、その耳が真っ赤であることがみてとれただろう。
 
「その、ローゼさんに、これ、これを⸺」(小声)
「受付業務の邪魔になっちゃってるみたいなので、私はこれで失礼しますね」

 モゴモゴと何言ってるか聞こえないアッシュにちらりと目線をやり、ローゼはさっさとその場をあとにした。
 報酬はもう受け取った。
 どうせ昨日のような腹立たしい展開になるに決まっている。また、苛立ちを覚える前に立ち去るのが賢いというものだ。

 ローゼの背中越しに、サラのきんきん声が響く。

「あっ! アッシュさん! その箱、首都で話題のお菓子屋さんの箱じゃないですかー! 昨日、私が言ったこと覚えててくれたんですねっ!」

(私と全然住む世界が違うわね)

 ローゼは泥で汚れたブーツを見て、自嘲気味に息を吐いた。

 確か、あのアッシュという男は若くして冒険者として成功の王道ど真ん中を大手を振って歩んでいるはずだ。女性から誘いを受けているところもよくみる。なぜこんな田舎カノープスの副ギルドマスターを兼任しているのか知らないが、その華々しさはローゼには眩しすぎた。

(あの目の下のクマは、女遊びかしらね)

 抱えていた可愛らしい袋に入った箱も、あの受付嬢にでもあげるのだろう。そういうところには気が回りそうなタイプだ。

(あんなきれいで優秀な男の子が、可愛らしいお菓子を買ってきてくれるとか)

 自分の人生とは無縁すぎてため息しかでない。
 別に、うらやましくもない。
 嬉しそうにサラがお菓子をうけとるのを見たくなくて、ローゼは足早にその場をあとにした。

 
「結構、男性がはいりにくい店構えって聞いてるんですけど、大丈夫でした? って、アッシュさん、なんでそんな小声なんです?」
「はっ、もう小声じゃなくてよかったんだった!」

 はふっと息を吐いて、アッシュはお菓子の箱をカウンターにおいた。
 ほぼ貫徹のまま、朝イチで首都の冒険者ギルド本部に呼び出され、ひと仕事こなしたため、眠くて頭がうまく働かない。
 手元の菓子は、完全に寝不足でかるくラリった状態で、「ローゼさんが喜びそう」ってブツブツ言いながら、首都のおしゃれな女の子向けの菓子屋で買ったのだった。
 確かに店構えは可愛らしくて一瞬ひるんだが、アッシュよりももっと不釣り合いそうな体格の良い怪しげな男が常連風吹かせて店から出てきたので、それに背中を押される形でアッシュも店に入ることができた。
 店でも小声だった気がするが、可愛い店員さんはそういう男性客の扱いに慣れているようで、手際よく注文をとって菓子を包んでくれた。

 そして、ローゼのダンジョンからの帰還に間に合うよう、大急ぎで帰ってきたのだが。
 
 すでに目当てのローゼの姿はどこにもなく。
 アッシュはうなだれながら、箱をサラの方に押しやった。
 
食べてください」
「きゃーん!に買ってきてくださったんですね! ありがとうございますうぅ!」
「じゃ、僕はもうこれで」
「ああん、アッシュさんも一緒に食べましょうよう! なんなら、今夜、一緒に食べません? お菓子じゃなくてもいいんですけどぉ。あぁん、つれない」

 熱烈にサラが目配せするものの、アッシュは、眠そうに首を振り、とぼとぼとその場をあとにするのだった。
 

 それから数日後。
 冒険者ギルドのはり紙をみて、ローゼは唖然とした。

”ダンジョン内で臭いの強い食べ物禁止(例:カノップスープ)”

「ええっ、なんで!?」

 どうやら、においの強い食べ物をダンジョン内でとると、魔物たちへの飯テロ状態となり生態バランスに悪影響を及ぼす可能性があるらしい。
 ミノタウロスの子供の夜泣きが止まらなくなるといった具体例がそこには書かれていた。

(しかたないかー。じゃあ、匂いが少なくて美味しいものつくろ!)

 あきらめずに、ローゼはあらたなレシピへのチャレンジに意欲を燃やすのだった。

 
 そんなローゼを柱の影から見つめるものがあった。

(ローゼさん、すみません、こればっかりは対処せざるを得ず)

 アッシュである。
 明け方までミノタウロスと死闘っぽいものを繰りひろげ、最後、負けを認めたミノタウロスからよくよく話を聞いたところ、カノップスープが原因で困っているということだった。そのため、冒険者ギルドに注意喚起することをミノタウロスと約束した。

(それにしても、ちゃんと魔物の事情まで配慮できるなんて、誰かしら? 素敵ね)

 などとローゼの中で、ひそかにアッシュの株があがりかけているのだが、見守っているだけのアッシュに、それを知る術はまだない。

 さて。
 このあとも変わらずローゼを見守り続けるアッシュの運命が変わるのは、ここから約三ヶ月後。
 ダンジョンでスライムに襲われたローゼを助けて治療したことをきっかけに、二人の仲は大きく進展するのだが、それはまた別のお話。

【完】
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

二年後、可愛かった彼の変貌に興ざめ(偽者でしょう?)

岬 空弥
恋愛
二歳年下のユーレットに人目惚れした侯爵家の一人娘エリシア。自分の気持ちを素直に伝えてくる彼女に戸惑いながらも、次第に彼女に好意を持つようになって行くユーレット。しかし大人になりきれない不器用な彼の言動は周りに誤解を与えるようなものばかりだった。ある日、そんなユーレットの態度を誤解した幼馴染のリーシャによって二人の関係は壊されてしまう。 エリシアの卒業式の日、意を決したユーレットは言った。「俺が卒業したら絶対迎えに行く。だから待っていてほしい」 二年の時は、彼らを成長させたはずなのだが・・・。

【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました

雨宮羽那
恋愛
 結婚して5年。リディアは悩んでいた。  夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。  ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。  どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。  そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。  すると、あら不思議。  いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。 「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」 (誰ですかあなた) ◇◇◇◇ ※全3話。 ※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

分厚いメガネを外した令嬢は美人?

しゃーりん
恋愛
極度の近視で分厚いメガネをかけている子爵令嬢のミーシャは家族から嫌われている。 学園にも行かせてもらえず、居場所がないミーシャは教会と孤児院に通うようになる。 そこで知り合ったおじいさんと仲良くなって、話をするのが楽しみになっていた。 しかし、おじいさんが急に来なくなって心配していたところにミーシャの縁談話がきた。 会えないまま嫁いだ先にいたのは病に倒れたおじいさんで…介護要員としての縁談だった? この結婚をきっかけに、将来やりたいことを考え始める。 一人で寂しかったミーシャに、いつの間にか大切な人ができていくお話です。

噂(うわさ)―誰よりも近くにいるのは私だと思ってたのに―

日室千種・ちぐ
恋愛
身に覚えのない噂で、知らぬ間に婚約者を失いそうになった男が挽回するお話。男主人公です。

【完結】いつも私をバカにしてくる彼女が恋をしたようです。〜お相手は私の旦那様のようですが間違いはございませんでしょうか?〜

珊瑚
恋愛
「ねぇセシル。私、好きな人が出来たの。」 「……え?」 幼い頃から何かにつけてセシリアを馬鹿にしていたモニカ。そんな彼女が一目惚れをしたようだ。 うっとりと相手について語るモニカ。 でもちょっと待って、それって私の旦那様じゃない……? ざまぁというか、微ざまぁくらいかもしれないです

【完結】小さなマリーは僕の物

miniko
恋愛
マリーは小柄で胸元も寂しい自分の容姿にコンプレックスを抱いていた。 彼女の子供の頃からの婚約者は、容姿端麗、性格も良く、とても大事にしてくれる完璧な人。 しかし、周囲からの圧力もあり、自分は彼に不釣り合いだと感じて、婚約解消を目指す。 ※マリー視点とアラン視点、同じ内容を交互に書く予定です。(最終話はマリー視点のみ)

図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました

鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。 素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。 とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。 「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」

処理中です...