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6. 二日目夜※

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 ひととおり、やることを終えたころには、西日が窓から差しこんでいた。取りこんだマットレスの上に座って、横に縄をおき、シウはゼンの帰りを待つ。

⸺夜の相手をこなすのもメリット

 ふと、昼間打ち消した考えが時間差で舞い戻ってきた。彼と散々行為に及んだ場所にいるせいだろうか。どうにも、彼とのあれこれを思い出してしまう。無意識に手を当てた頬が熱い。
 
(念のため、ちゃんとできるように準備しておいた方が良いかも)

 そんなふうに自分を納得させて、そっと服の下に手をいれて胸を揉む。ゼンの指使いを思い出しながら揉んでみるも、なんだか少し違う。物足りない。

「ん……ふっ……もう、ちょっと」

 片手を下着の中にいれて、散々彼を受け入れたところに触れてみる。教えてもらったことを思い出しながら、おそるおそる指を挿れる。最初はうまく行かなかったが、次第に濡れてきて指が入るようになった。

「あぁ……はぁ……ゼンさん」

 彼のことを思い出しながら、指を動かしてみるも、どうも違う。彼がくれたような快楽が得られない。

「ん……なんで……」

 もどかしさに、涙がにじむ。どんなに触れても自分の指では物足りない。彼の顔を、瞳を、声を、手を、身体を思い出す。それだけで、ずくりとシウの身体の奥が熱くなった。
 
「あ……ゼンさん、ゼンさん」

 手を出してはいけないものに、不用意に手を出した気がした。彼が欲しくてたまらない。また、今朝のように、昨夜のように、さわってほしい。必死で彼のことを思い出しながら自身を刺激する。湿った水音は徐々に大きくなり、太ももを透明な愛液が伝う。
 無性に、彼に会いたくてたまらなかった。

 そんな風に、夢中でしていたせいだろう。玄関先で小さな物音がしたことに、シウは気づかなかった。そこから、近づいてくる足音にも。

 人の気配に気づいた時には、すでにガラリと部屋の扉が開いた後だった。
 扉の向こうには、シウが会うことを思い描いていた、妄想すらしまくっていた張本人がいた。

(今!?)
 
 ボタンをはだけ、思いっきり胸も腹も露出したままの姿で、シウは盛大に固まった。

「す、すみませ」
 
 慌てて服を直すも、ばっちり痴態を見られてしまった気がする。あわあわと慌てふためきながらゼンを見て、シウは気づいた。彼が異様な雰囲気をまとっていることに。

 ゼンは泥まみれ埃まみれで、服はところどころ破れている。髪が、服が、まるでかぶったように赤く染まっていた。返り血か、それとも彼自身の血か。そして、手には刀をおさめた鞘。こちらにもべったりと血がついている。
 息は荒く、前髪の合間から見える金の瞳には、いつもの優しさはない。ただひたすら、獣を思わせる剣呑さが光る。

「なぜ、まだいる」
 
 底冷えのする声だった。
 今朝とはまるで別人の様子に、シウの背中を冷たいものが流れる。声をだそうとしても、うまく出せない。

 このまま殺されそうな、そんな雰囲気すらあった。

(すごく、怒ってる……?)

 シウは、自分の見通しが甘かったことに気づいた。ゼンならなんだかんだと、受け入れてくれる甘さがあると思っていた。

 実際のところ、ゼンはシウを金で買った。シウの生殺与奪の権は、ゼンが握っているのに等しい。

「い、今、やっと縄が解けたところです」

 震える声で苦しまぎれの嘘をつく。一応、拘束されていたし、ゼンから直接どこかへいけと指示は受けていない。
 ガランと音がして、刀が床に落ちる。荒々しく部屋に入ってきたゼンに、思わずシウは後ずさる。伸ばされる太い腕を反射的にかわそうと身をかがめるも、狭い室内に逃げ場などなく、あっさりとシウはゼンに捕まった。勢い良く腕を引かれ、あおむけに押し倒され、首をつかまれる。
 息が詰まる苦しさにジタバタするシウに構わず、ゼンは彼女の服を脱がせ乱暴に下着を剥ぎとった。彼自身のズボンの前をゆるめると、前戯もせずに強引に挿入する。

「ゼンさん、待って……ああっ」
 
 幸いにも直前の自慰で濡れていたため、痛みは少ない。むしろ、求めていた刺激をいきなり与えられて、それだけでシウは達しそうになった。
 何度も妄想したゼンのもの。想像よりはるかに強烈で刺激的だった。身体の奥に力を入れてゼンをしめつけながら、恍惚のまま、ずっと欲しかったそれをシウは味わう。
 ただ、すぐにそんな余裕はシウにはなくなった。
 軽く達した奥をぐりぐりとこじあけるようにほぐしたあと、ゼンは体重をのせて激しく何度も奥をえぐる。リズミカルな水音とともに、肉を打つ音が響く。血塗れの両手で腰を掴まれて、引くことも逃げることもシウにはできない。

「あっ、ああっ、やっ、いやっ!」

 それは今朝までの行為と全く違った。シウは、ゼンがどれだけ手加減していたのか痛感した。今まで届かなかった奥深くを容赦なくえぐられる。
 おそらくゼンは、初めてのシウを気づかって、全部挿入していなかったのだろう。シウがきつくない程度に浅く埋めてくれていたのだ。加えて、体重をかけすぎないよう相当気をつけてくれていた。
 今はギリギリまで引き抜いては、体重をかけて思いっきり深く突いてくる。内臓がかき混ぜられるような衝撃に、シウは目がちかちかした。

「あっあっ、ゼン、さっ、はあっ、いやっ、痛っ」

 奥を執拗にえぐられる痛みが、少しずつ違うものに変わっていくのが、シウはおそろしかった。今朝感じたふわふわした甘い気持ちよさ。それよりはるかに強い快楽が忍びよる。

 どんなにもがいてもガッチリと組み伏せられて身動きできない。できることといえば、声を出すくらいだ。それもゼンの激しさの前に、まともな言葉は出せず、揺さぶられるままに叫ぶことしかできない。
 
「あんっ、やめ、ああっ、んああっ」

 やめてと言っても、肩を叩いても、ゼンは構わずシウの身体をむさぼる。間近で見つめてくる金の瞳に宿る熱は、触れれば火傷しそうだ。執拗に奥を攻められて、シウはあたまがぼんやりしてきた。痛みすらも、気持ちよく、快楽のうねりは次第に膨らんで弾ける。
 がくがくと震えながら背を弓なりに反らすシウに対して、ゼンは動きを止めず、ひたすら彼女の中を求めた。

「や、こんな、またっ、ああっ」

 震える襞を容赦なく攻められて、シウは再びのぼりつめる。息をつく間もなく、連続して快楽が与えられつづけ、どうにかなりそうだった。シウの意志とは関係なく、涙がにじみ、こめかみを伝う。何度も身体がふるえ、そのたびに身体の中で動き続けるゼンをきつく絞める。
 何度目かのシウの絶頂時に、ようやくゼンが動きを止めた。一番奥までうめたまま、絶息状態のシウに唇を重ねる。むせ返る汗の臭いとともに、血の臭いがするキスだった。
 ゼンが小さく震えるとともに、お腹の奥が熱くなり、今までとは比べ物にならないほどの快楽がシウを襲う。ゼンは噛み付くように何度もキスをしながら、緩慢に腰を何度か打ちつけて、ずるりと引き抜く。
 あふれる白濁液の熱さに、なかで射精されたのだとシウは知った。

 こんなふうに有無を言わさず中にだされるのは、すごくショックだった。孕むかもしれないということより、あれだけ頑なにシウを気遣っていたゼンが、容赦なく射精した事実がショックだった。

(ほんとに嫌われちゃった……?)
 
 その考えに思い至った途端、シウの鼻の奥がつんと痛くなる。

「やだ、やだぁ、ゼンさん」

 ぐすぐす泣きだしたシウに構わず、ゼンは胸のふくらみに吸いつく。きつく揉まれながら舐められ、吸われて、泣いているシウの息があがる。白いふくらみに、いくつも紅い花が咲いた。
 噛まれる痛みすらも気持ち良い。その感覚がこわくて、シウは無意識に身体をよじる。腰をひねったはずみに、横向きに固定され、足の間に無理やりゼンの身体が割り込む。ゼンは、抱えるようにシウの足を大きく開くと、また入り口に硬くて熱いものを押し当て、一気に深く貫いた。圧迫感にシウの息がつまり、頭の芯がぼうっと白く塗りつぶされる。

 射精したばかりなのに、さきほどと変わらぬ硬さ、大きさで、さっきとは違う場所を激しくえぐられて、たまらずシウは泣きながらあえいだ。揺さぶられるたびに、身体の奥に快楽が降りつもり、たまらず逃げようともがく。そんなシウをがっちりと掴み、ゼンは斜め上からねじ込むように激しく打ちつけた。
 あまりに強く掴むものだから、二の腕に、腰に、赤く手の跡や指の跡がくっきりと浮かぶ。

「あっ、やっ、もう、こんなの、やぁっ」

 ゼンが触れるところ全て、痛いくらいに強い刺激なのに、それにすら昂り、シウは無意識に身体の奥を引き絞る。何度も与えられる快楽に、連続した絶頂に、シウが意識を飛ばしかけると、態勢を変えてまた違うところを激しく抉られた。

 気づけば四つん這いで尻を高く持ち上げられていた。足の長さが違いすぎるのだろう、軽くシウの膝が浮く。その状態で抱え込むように何度も揺さぶられて、また快楽の波に呑まれ、意識がおぼつかなくなる。
 後ろからの挿入は、シウの感じやすい場所に的確に当たり、飛びかけたシウの意識を戻すには効果的だった。ゼンはさらに足を抱え込むように掴み、より深く強く、反応が良いところを抉る。
 勢いよく一番奥までうちこまれると同時に、ゼンが動きを止め、シウの中で少し震える。

(また、なかにだされちゃう)

 覚悟したシウのうなじに強い痛みが走った。ゼンが噛んだのだ。細いうなじに歯型がつくほど強く噛みながら、シウの中に欲望を吐き出す。熱い体液が結合部の隙間から溢れ、ぱたぱたとシーツを汚した。
 痛くて息ができないくらい苦しいのに、またも強烈な快感がシウを襲い、意識が飛びかける。
 ぎゅっと胸を掴まれる刺激にシウの意識が引き戻された。変わらず背後から貫かれ、うなじを噛まれたまま、胸の膨らみを武骨な両手が強く握る。痣になるほど強くつかみ、爪をたてて力を込めて揉みしだかれる。
 シウの中の圧迫感は、いつの間にか復活しており、変わらぬ存在感で、さきほどより激しくシウの奥を求めてくる。その痛みを、刺激を、首の後ろの荒い息づかいを意識するたびに、シウは身体の奥に埋め込まれた男性の欲望を締めつけてしまう。
 
「んっ、ああっ、いやっ、もう、ゆるして」
 
 シウは泣きながら、ゼンが与える快楽を明け方近くまで受け止め続けた。
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