【R18】恋を知らない令嬢と死を望む化物のはなし

てへぺろ

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16. 五日目昼➀

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 シルクスタの首都ドーマ。その南西に位置する中央市場は、国内で最も規模が大きく、多くの人が新鮮な食材を求めて集う。広場内には露天がひしめき合い、あちらこちらで客引きが、目の肥えた客相手にあの手この手の営業トークを披露している。
 
 混み合う雑踏の中、ゼンは見上げるほどの高さの荷物を両手に抱え、バランスを取りながら、器用に人を避けていた。

「おじさん、この小麦粉、十クル分買うんでまけてください。端数はおまけしてもらえます?」
「ただでさえ、最近税金があがってひいこら言ってるんさね。悪いけど嬢ちゃん、これ以上は無理だな」

 横の露天でシウが激しく値切り交渉をするものの、露天商は渋い顔で首を振る。
 
「じゃあ、ここの木の実おまけにつけてくれません?」
「んー、まあ、それぐらいなら。ほんと、あの貴族どもは何考えてるのかね。リベリオンがうまくやってくれりゃあなあ」

 なおも食い下がるシウに根負けし、露天商が妥協した。木の実代がわりとでもいうのか愚痴りだす。
 
 自分たちの利益にしか興味のない貴族たちのこと。
 身分制度に対する不満。
 そして、革命にまたもや失敗したリベリオンのこと。
 
 ちなみに、リベリオンというのは、この国の革命家である。貴族による圧政を憂いて、何度か革命を試みた結果、今では思想犯として投獄されている。

 露天商の愚痴を手頃なところで切り、シウは露天の中からゼンを手招きした。

「ゼンさん、これも、って、両手の上には乗らないですね」

 ゼンがかがむと、子供一人分はありそうな重量の小麦粉袋が、肩にずしりと乗る。うまくバランスをとりながら立ち上がったゼンがあたりを見回すと、シウは、すでに次の露天でなにやら交渉していた。

 果てしなく積まれる荷物を見て、ゼンは思った。

(まだ下着買ってないけど大丈夫かな)

 そう、あれは、ここに来る少し前。
 婚約者が敵であると判明し、ゼンが胸をなでおろした後のこと。
 
 シウが唐突に勢い良く叫んだのだった。

「そうだ、下着、調達しなきゃ!」

 死活問題である。
 そう、シウは述べた。まともなシウの服といえば、奴隷商のところで着ていた簡素な服のみである。それ以外は、全くサイズの合わないゼンの服を折り折りして着ていた。なんなら、ワンピースよろしく羽織っていた。服はそれでいい。
 しかし、下着は流石にそんなわけには行かない。
 仕方がないので、シウは履かずに我慢することもあったらしい。さすがにそろそろ、服や下着を揃えたいとのことだった。

 ゼンとしてはあまり気にしなかったが、言われてみればシウの服を脱がす時に履いてなかった気がする。
 ためしにぴらりとシウの服をめくると、ほんとに履いてなかった。

「きゃああ! それはだめです! えっち!」

 顎にきつい衝撃をくらい、思わず蹲(うずくま)る。見事なアッパーだった。咄嗟に衝撃を逃していなければ沈んでいただろう。
 あれだけやることやってるのに、この仕打ち。不思議に思いつつ殴られた顎をなでていると、シウも一緒に顎を撫でてくれる。

「す、すみません、ゼンさんがあんなことするなんて思わなくてつい」

 一通りゼンを撫で撫でしたシウは、ぴとっと身体をくっつけてゼンを抱きしめる。シウの柔らかい圧迫感をゼンが堪能していると、耳元に軽くキスしながら、シウが囁いた。

「ゼンさん、そういうご趣味があるのですね。覚えておきます」

(どういうご趣味だ!?)

 狼狽しているうちに、シウはゼンの頬にキスして、向こうに行ってしまい、結局詳細は聞けぬまま「中央市場でお買い物ですよ!」と言われ、今に至る。

 中央市場では、ゼンはいつものようにフードで顔を隠しており、シウも同じように顔を隠している。さすがに懸賞金がかけられている顔を晒すわけにはいかない。
 といっても、ゼンがすごい量の荷物を持っているせいで目立ってしまっていることに二人は気づいていなかった。しかも、荷物は増え続ける。
 さすがにゼンもバランスをとるのが難しくなってきたころ。シウが、ぴたりと歩みを止めた。顎に手を当て、じっと真剣な表情で遠くの露天を見ている。
 視線の先には仲良さそうなカップルが、のんびりと手を繋いでショッピングを楽しんでいる。

「こういうところは初めてでしたので、はしゃぎすぎたようです」

 こほんと咳払いすると、シウは市場の一角に向かった。そこには、たくさんの荷馬車が所狭しと並んでいる。シウは馬車を眺めながらゆっくり歩き、その中のひとつの前で足を止めた。幌馬車の、本来なら馬がいる部分に二本足のトカゲみたいな生き物がいた。灰色の身体に背中から尻尾にかけて赤い背ビレが立っている。トカゲは、黄色い目をくるりとまわし、首を傾げてシウを見た。

「すみません、この跳馬はねうまで荷運びお願いします」

 幌の中から、たぷんと腹を揺らしながら中年の男が出てきた。赤ら顔だが酒臭くはない。シウを見て、ゼンを見て、荷物を幌に乗せろというように顎をしゃくった。

「国境近くか。途中までは跳馬でいけるが、魔獣の気配で怯えちまう。河馬虎カバトラに乗り換えなきゃならん。追加料金かかるぞ」

 シウが手続きしている間、荷物を乗せ終えたゼンは、跳馬の顔の横をなでる。うっとりと目を細めながら跳馬はゼンの手に顔を預け、何度も額をこすりつけた。
 
 軽快に車輪を鳴らす男と跳馬を見送ったシウは、ぴょんとゼンの横に来て、手を握る。

「おやつ、食べ歩きしちゃいましょうか」

 嬉しそうににこにこしながら、ゼンの腕に寄り添う。普通に立つと、シウの背はゼンの肩より低い。手も握っているというより、ゼンの手の端っこを持っている。ゼンは少し身体をかがめて、シウの手を包むように握った。
 
 おやつどきのせいか、いろんなところから良い匂いがしてきて、シウもゼンも匂いに誘われるままに歩いては、気になる屋台を指さす。大抵、シウが美味しそうなものを見つけ、その後をゼンが背を縮めながら屋台の中を覗き込むのだった。
 
 蜜に漬けて熟成させたフルーツを串に刺したもの。
 蒸した丸芋をスライスしてカリッとあげたもの。
 野菜ベースの温(ぬる)いジュース。
 
 あれこれと食べて飲んでは、たまにはんぶっこしてみたりする。
 
「こうやって、外で男の方とデートするの初めてなんです。楽しいものですね」

 ご機嫌なシウの話を聞きながら、ゼンは一瞬首筋がチリチリした。振り返ってみても特に不審な影は無い。

(少し、目立ちすぎたか)

 警戒度合いをあげながら、シウの話に耳をかたむけた。
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