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19. 五日目夜➀
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暗がりにまぎれ、屋根伝いに移動する。ゼンは図体の割に身が軽い。シウを抱き上げたまま、造作もなく屋根から屋根へと渡っていく。
前方には、巨大な邸宅。高い柵にぐるりと囲まれ、中にはコの字型をした洋風の建物が屹立する。邸宅に灯りはついておらず、不気味に闇に沈むばかりだ。
シウが邸宅をピシッと迷い無く指した。
「あそこに忍び込んで、下着を調達します!」
ゼンは目を剥いた。
どう見ても他人の家だ。今から、そこに忍びこんで下着泥棒をするとシウは言ったのだ。
ゼンは狼狽した。
狼狽しながら思い出した。
朝のシウとのやり取りを。
⸺ゼンさん、そういうご趣味があるのですね
「違うんだ、シウ」
「早く行きますよ」
無情にも襟をくいくいと引っ張られる。
たとえ人は殺しまくっても、女性の下着泥棒には抵抗があるゼンだった。尻込みしまくるゼンに、シウは首を傾げる。
「何、気にしているんですか? 遠慮することないですよ。あそこは私の家なんですから」
◇
シウの手引きにより、首尾よくズコット邸に侵入した二人は、屋根裏部屋に忍びこんでいた。
バツが悪そうな顔であぐらをかいているゼンの横で、シウが声を殺して笑っている。目尻を指で拭いながら、シウは座っているゼンの肩に手を乗せ、寄りかかりながらさらに身体を震わす。ひとしきり笑ったあと、大きく深呼吸した。
「下着泥棒って……勘違いさせてしまってすみません。普通に、うちに取りに行くって言えばよかったですね。かっこつけて調達とか言ってしまいました」
月明かりが差し込むなか、うつむくゼンの髪をシウは何度も撫でる。
「ゼンさんは、やっぱりすごく紳士ですよね。そういうところも、大好きです」
ゼンのうつむく顔を持ち上げると、シウはその頬に、顎にキスを落とす。ひとしきり抱きしめたあとに、ぐるりと周りを見まわした。
こじんまりとした屋根裏部屋は、幼いころからシウの遊び場だった。すみっこには、本やぬいぐるみがうず高く積まれており、埃をかぶっている。全体的にあまり掃除されておらず、ところどころゴミも落ちている。
「ここは、基本、誰も入らない場所なんです」
立ち上がったシウの頭すれすれに屋根がくる。シウが立ち上がるだけで細かな埃がそよりと巻き上がる。ゼンの大きさでは、膝立ちがやっとくらいだ。
「邸宅内の人の気配わかりますか」
「上にはあまりいない。下の方、地下か?とにかく下にばかりいる」
シウは大きくうなずいた。予想通り、とでもいうように。
「ここの地下は、ズコット家のコレクション置き場になっているんです。世界中から集めた珍しいものや価値のあるものを置いています。時価総額は、小国をひとつ、余裕で買えるレベル。我々を陥れた方の狙いの一つはそれでしょう」
ぬいぐるみの山から、シウは一匹のウサギをとりだした。褪せたピンク色で、目は片方外れかけている。ぼろぼろだが、シウが抱っこするのにちょうどよい大きさだ。
「コレクション置き場に入るには、鍵がいるんです。鍵は、私と、お父様と、弟の血液。採取して一分以内に同時に鍵穴に垂らすことで、扉が開くのです。リガロの職人に頼んで作ってもらった特別仕様の生体認証なんですよ」
ウサギを抱えてゼンの元に戻ったシウは、あぐらの中にちょんと座った。静かに話を聞くゼンを、シウは見あげる。なんだか悪戯っ子みたいな顔をして見つめてくるシウに、ゼンは落ち着かない気持ちになった。
「私はコレクション部屋の話を聞いたときに思ったんです。結局、どんなにセキュリティかけても、場所がわかってたらだめなんじゃないかって。ここにありますって言いながら、別の場所に置いたほうがいいんじゃないかって」
シウはウサギの腹を縫いつけている紐を、指で解きだした。器用に解くと中から綿がはみでてくる。その腹の中に指をつっこむ。
「コレクションの中で最も価値あるのは、宝石の類です。その中で、最も価値があるのが」
絢爛に輝く首飾りを、シウはウサギの中からずるりと引きずり出した。その先端には重そうな宝石がぶらさがっている。月の光を受けて、七色に輝いた。
「これです。数億ダルクはくだりません」
首飾りの光が、シウの瞳にうつってきらきらと輝く。シウは、はいどうぞとばかりに、それをゼンに差し出す。眉をひそめて宝石をみつめるゼンの手をとり、握らせた。
ゼンは、シウがやったように首飾りを広げて月明かりに透かしてみている。キラキラしすぎて、めまいがした。おもわず何度かまばたきする。
「本物ですよ。美しいでしょう」
シウは次々とぬいぐるみの腹の中から、宝石をとりだす。積まれていた絵本の間からは、権利書や鑑定書などといったものが大量にでてきた。
「実はコレクション部屋にあるもののいくつかはイミテーションで、こっちが本物なんです。私がすり替えておきました」
シウは他のぬいぐるみも解体しはじめた。
ふるびた床に、大量の宝石や金塊がみるみる積みあがる。その横には、腹や頭を裂かれたぬいぐるみたちが無残に転がった。
「ちょっと不穏な空気は感じていたんですよ。念のため、こちらに移しておいて正解でした」
布袋に、雑に宝石を詰めていく。高価そうなものは、別に布にくるむ。ずっしりと重い布袋を、ゼンに持つよう促し、シウはにっこり微笑んだ。
「さて、ゼンさん。ここにはズコット家の財産と、百ダルクの懸賞金がかけられた私がいます。やりようによっては、一生遊んで暮らせるわけです。どうしますか」
シウの言葉の意味がわからず、ゼンは首をかしげる。どうしますかと言われても、この後も引き続き、シウの指示に従うしかない。下着の場所も知らないし。
「今、ゼンさんはどうしたいですか」
ゼンはちょっと考えて、とりあえずシウの頬にキスしておいた。
前方には、巨大な邸宅。高い柵にぐるりと囲まれ、中にはコの字型をした洋風の建物が屹立する。邸宅に灯りはついておらず、不気味に闇に沈むばかりだ。
シウが邸宅をピシッと迷い無く指した。
「あそこに忍び込んで、下着を調達します!」
ゼンは目を剥いた。
どう見ても他人の家だ。今から、そこに忍びこんで下着泥棒をするとシウは言ったのだ。
ゼンは狼狽した。
狼狽しながら思い出した。
朝のシウとのやり取りを。
⸺ゼンさん、そういうご趣味があるのですね
「違うんだ、シウ」
「早く行きますよ」
無情にも襟をくいくいと引っ張られる。
たとえ人は殺しまくっても、女性の下着泥棒には抵抗があるゼンだった。尻込みしまくるゼンに、シウは首を傾げる。
「何、気にしているんですか? 遠慮することないですよ。あそこは私の家なんですから」
◇
シウの手引きにより、首尾よくズコット邸に侵入した二人は、屋根裏部屋に忍びこんでいた。
バツが悪そうな顔であぐらをかいているゼンの横で、シウが声を殺して笑っている。目尻を指で拭いながら、シウは座っているゼンの肩に手を乗せ、寄りかかりながらさらに身体を震わす。ひとしきり笑ったあと、大きく深呼吸した。
「下着泥棒って……勘違いさせてしまってすみません。普通に、うちに取りに行くって言えばよかったですね。かっこつけて調達とか言ってしまいました」
月明かりが差し込むなか、うつむくゼンの髪をシウは何度も撫でる。
「ゼンさんは、やっぱりすごく紳士ですよね。そういうところも、大好きです」
ゼンのうつむく顔を持ち上げると、シウはその頬に、顎にキスを落とす。ひとしきり抱きしめたあとに、ぐるりと周りを見まわした。
こじんまりとした屋根裏部屋は、幼いころからシウの遊び場だった。すみっこには、本やぬいぐるみがうず高く積まれており、埃をかぶっている。全体的にあまり掃除されておらず、ところどころゴミも落ちている。
「ここは、基本、誰も入らない場所なんです」
立ち上がったシウの頭すれすれに屋根がくる。シウが立ち上がるだけで細かな埃がそよりと巻き上がる。ゼンの大きさでは、膝立ちがやっとくらいだ。
「邸宅内の人の気配わかりますか」
「上にはあまりいない。下の方、地下か?とにかく下にばかりいる」
シウは大きくうなずいた。予想通り、とでもいうように。
「ここの地下は、ズコット家のコレクション置き場になっているんです。世界中から集めた珍しいものや価値のあるものを置いています。時価総額は、小国をひとつ、余裕で買えるレベル。我々を陥れた方の狙いの一つはそれでしょう」
ぬいぐるみの山から、シウは一匹のウサギをとりだした。褪せたピンク色で、目は片方外れかけている。ぼろぼろだが、シウが抱っこするのにちょうどよい大きさだ。
「コレクション置き場に入るには、鍵がいるんです。鍵は、私と、お父様と、弟の血液。採取して一分以内に同時に鍵穴に垂らすことで、扉が開くのです。リガロの職人に頼んで作ってもらった特別仕様の生体認証なんですよ」
ウサギを抱えてゼンの元に戻ったシウは、あぐらの中にちょんと座った。静かに話を聞くゼンを、シウは見あげる。なんだか悪戯っ子みたいな顔をして見つめてくるシウに、ゼンは落ち着かない気持ちになった。
「私はコレクション部屋の話を聞いたときに思ったんです。結局、どんなにセキュリティかけても、場所がわかってたらだめなんじゃないかって。ここにありますって言いながら、別の場所に置いたほうがいいんじゃないかって」
シウはウサギの腹を縫いつけている紐を、指で解きだした。器用に解くと中から綿がはみでてくる。その腹の中に指をつっこむ。
「コレクションの中で最も価値あるのは、宝石の類です。その中で、最も価値があるのが」
絢爛に輝く首飾りを、シウはウサギの中からずるりと引きずり出した。その先端には重そうな宝石がぶらさがっている。月の光を受けて、七色に輝いた。
「これです。数億ダルクはくだりません」
首飾りの光が、シウの瞳にうつってきらきらと輝く。シウは、はいどうぞとばかりに、それをゼンに差し出す。眉をひそめて宝石をみつめるゼンの手をとり、握らせた。
ゼンは、シウがやったように首飾りを広げて月明かりに透かしてみている。キラキラしすぎて、めまいがした。おもわず何度かまばたきする。
「本物ですよ。美しいでしょう」
シウは次々とぬいぐるみの腹の中から、宝石をとりだす。積まれていた絵本の間からは、権利書や鑑定書などといったものが大量にでてきた。
「実はコレクション部屋にあるもののいくつかはイミテーションで、こっちが本物なんです。私がすり替えておきました」
シウは他のぬいぐるみも解体しはじめた。
ふるびた床に、大量の宝石や金塊がみるみる積みあがる。その横には、腹や頭を裂かれたぬいぐるみたちが無残に転がった。
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「さて、ゼンさん。ここにはズコット家の財産と、百ダルクの懸賞金がかけられた私がいます。やりようによっては、一生遊んで暮らせるわけです。どうしますか」
シウの言葉の意味がわからず、ゼンは首をかしげる。どうしますかと言われても、この後も引き続き、シウの指示に従うしかない。下着の場所も知らないし。
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