【R18】恋を知らない令嬢と死を望む化物のはなし

てへぺろ

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26. 六日目夜③

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 魔獣の森の手前に、肉色の巨大な物体がいた。周りにはいくつも篝火が焚かれ、松明を持った人がその物体の周りをうろちょろしている。近づくほどに、怒号や叫び声、鈍く重い音が鮮明になる。

「隊長っ! もうはじまってます! |伏獣ふくじゅう型!」

 シウが飛竜の上から覗き込むと、肉色の生き物が人間と思しき足を捕食し引き千切っているところだった。肉色の生き物にはところどころ、黒色の毛が生えている。四つ足のように見えるが、足と身体の境目がぐねぐねと変わるので明確にどこが足かはわからない。身体の真ん中に、丸い口のようなものがあり、そこで人間を捕食している。妙につぶらな金の瞳が顔の横に一列に複数並び、それぞれ違う方向へぎょろりと動く。
 意外と動きは俊敏で、足らしきものを伸ばしては、近くの人間を捕まえて押しつぶす。

「あれが、魔獣……?」
「そうっすよ。魔族のなりそこないとか言われてますが、本当のところはよくわからないっすね」

 ヒバが飛竜の高度をぐっと落とす。膝立ちになったゼンが、刀を一本引き抜き、柄の端に懐から出した赤色の石をはめこむ。刃の下から上に向かって、複雑な赤い紋様が浮かび上がった。刃先まで染まると同時に、ゼンがシウの頭をぽんぽんと撫で、ちらりとヒバを見る。
 ヒバが頷くのを確認し、ひらりとゼンは飛竜から飛び降りた。真下にいた魔獣を重力に任せて一刀両断に切り裂き、返す刀でさらに細かく魔獣を刻んでいく。
 
「二刀流じゃないんだ?」
「もう一本は予備っすね。刃がだめになった時用と、魔力属性変えたい時用です」
 
 高度をあげた飛竜に腹ばいになり、シウはゼンの戦いぶりを眺める。人間相手のときとはまた違う迫力だった。唸りをあげる巨大な魔獣相手に、ひるみもせず無言で刃を振るう。ゼンが細かくした肉片に、他の人間が群がり、さらに刻んでいく。

「ああやって細かくした肉片は、薬や武具加工に使えるんすよ。うちの収入源のひとつっすね」

 魔獣が半分ほどミンチになった頃、新たな魔獣が現れた。さきほどとは形が違うものの、肉色で黒い毛がところどころ生えているのは変わらない。楕円の胴体から首のようなものが伸びており、その付け根に三つ目がついている。どれも金の瞳だ。ひょろりと伸びた首の先ががぱりと割れ、花のような口と化す。
 ゼンはどこからともなく、長い針を取り出すと、それを魔獣向けて打ち込んだ。三つ目の一つを穿つと、魔獣は苦悶の叫びをあげて首を上に伸ばしてブルブル震えながら固まる。それを、先程の魔獣と同じようにゼンが解体し、他のメンバーがミンチにするのだった。

「しっかし、隊長、今日はいつもと戦い方が違いますね。ちょっと派手でカッコイイ倒し方意識してますよ、あれ」

 シウにはよくわからなかった。淡々と作業をこなしているだけにみえる。なんの興奮も感慨もなくひたすら殺し続けている。

「隊長は、いろんな殺し方ができるんすよ。思わず拍手したくなる鮮やかなやつから、目を背けたくなるエグいやつまで。今日は、見応えがありつつ気持ち悪く見えないやり方っすね」

 シウにとっては、だいぶどうでもいい配慮だが、ヒバにとっては、違いがわかるだけに面白いのだろう。楽しそうに魔獣狩りを観戦している。
 次々と現れる魔獣を、ゼンは、ほぼ一人で倒している。他の人々は、魔獣の誘導とミンチ係だ。
 
「もしかして、ゼンさんがいないと、シルクスタって魔獣にやられちゃう?」
「んー、隊長が魔獣狩り始める前は、貴族たちの私有軍でなんとかなってましたからね。国的にはなんとかなるんじゃないすか」

 なるほど、とつぶやきながら、シウは目を細めてゼンの戦いぶりを眺める。眺めながら、飛竜の肌をそっと撫でた。

「ところでヒバさん。私とひとつ、取引しませんか?」


 
 少し遠く、魔獣の森近くで、松明を回している人がいる。飛竜を呼んでいるようだ。怪我人を街まで搬送したいらしい。

「シウさん、ほんっと、おとなしくしててくださいよ」

 ヒバに念をおされて、シウは微笑みを返した。

 飛竜を地上に降ろし、ヒバは怪我人の処置にあたっている。彼に気づかれないよう、シウはそっと飛竜の背から降りた。
 あたりには怪我をしてうめいている人、布をかけられてぴくりとも動かない人、木によっかかり、食い破られた腹を抱えながら千切れた足をぼんやり眺めている人。多くの怪我人や死人がいた。

 ゼンが来るのがもっと早ければ、彼らは怪我することも死ぬこともなかったのかもしれない。
 シウが着いてきたいとゴネなければ、彼らは今日も無傷で仕事を終えて家族の元に帰れただろう。
 
 中央医療研究所でゼンが、シウ狙いの男たちをあっさりと殺したことを思い出した。
 街でゼンが、シウのために大量に人を殺したことを思い出した。
 ゼンは、シウのために人を殺すことも見殺しにすることも厭わない。おそらく、これからもそうだろう。シウが目的を達成するまで。
 そしてシウは、シウの意思で、それを利用するのだ。
 
 シウはきゅっと唇を噛んだ。目的のためなら、何でもやると心に決めた。こういうのも、シウは呑みこまなければならない。
 
 さらに今からもうひとつ、やらねばならないことがある。手持ちのリュックを担ぎ、シウはそっとその場を離れた。みんな怪我人の治療や、魔獣の始末で、シウに気づく者はいない。向かうはシルクスタの国境のそと。魔獣の森である。
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