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37. 十一日目昼②
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憂う。
私はすべてを憂う。
この国を。
この世界の片隅を。
人間の本質を。
「えーと、このあと、何書こうとしたんだっけな」
筆と思考が止まり、顔をあげて、私は自分が牢獄の中にいることに気づいた。
そうだった。
すでに私の翼はもがれ、地に伏したのだった。
読み手のいないポエムをしたためている時が、唯一自分の心が自由だと感じる。虚しい。
ため息は、硬質な檻の鉄に音もなく吸い込まれる。
そんな時だった。ふと檻の前に足を止める者があったのは。
それは白衣を身に着け、中央研究所の入監証を胸にぶら下げていた。帽子を目深にかぶり、顔は見えないが、ずいぶんと小柄に感じる。帽子からはみでた栗色の髪は、監獄の硬質な灯りに照らされ、ところどころキラキラ輝いているのは錯覚だろうか。
その背後には検体箱。そして護衛なのだろう、大柄な男が一人。こちらも顔を隠している。しかし、どこかでみたような背格好の男だった。
どうやら監獄内で死人がでたようだ。死んだ囚人を、検体として中央医療研究所が運び出していくのはよくあることだった。都合のいいことに監獄のすぐ上が、その研究所だ。
「ご機嫌よう、リベリオン。まだ、あなたの熾火は燻っていらっしゃいますか」
それは意外にも、女性の声だった。
しかも若い。
そして、なにより驚いたのは、私をまだその名で呼ぶ者があったことだ。
リベリオン。無能な貴族が謳歌するこの現体制を、何度も変えようとして投獄される私につけられた異名だ。
半分嘲笑も含まれてる気がする。虚しい。
私は無言で、先程まで書いていたポエムを檻の隙間から差し出した。
「今夜、あなたのためにチャンスを作りましょう。取扱にはご注意を。願わくば、この国の不均衡を正していただけますよう」
女性は、檻の隙間から紙袋を渡すと、そのまま足音を響かせて遠ざかる。
私はその紙袋の中をのぞいて、また驚いた。
まず、高額の金貨。それに、宝石。小さな黒い靄が中に封じられた石の欠片もあった。厳重に布にくるまれている。
そして、牢獄の鍵。
最後に、ピンク色の液体が入ったガラス瓶。中には小さな肉片が浮いている。
「なんだ、これは」
顔を上げたときには、もう檻の前には誰もいなかった。
改めて、ガラスの小瓶を灯りに透かしてみる。
瓶の中の肉片が、どくりと脈打った気がした。
私はすべてを憂う。
この国を。
この世界の片隅を。
人間の本質を。
「えーと、このあと、何書こうとしたんだっけな」
筆と思考が止まり、顔をあげて、私は自分が牢獄の中にいることに気づいた。
そうだった。
すでに私の翼はもがれ、地に伏したのだった。
読み手のいないポエムをしたためている時が、唯一自分の心が自由だと感じる。虚しい。
ため息は、硬質な檻の鉄に音もなく吸い込まれる。
そんな時だった。ふと檻の前に足を止める者があったのは。
それは白衣を身に着け、中央研究所の入監証を胸にぶら下げていた。帽子を目深にかぶり、顔は見えないが、ずいぶんと小柄に感じる。帽子からはみでた栗色の髪は、監獄の硬質な灯りに照らされ、ところどころキラキラ輝いているのは錯覚だろうか。
その背後には検体箱。そして護衛なのだろう、大柄な男が一人。こちらも顔を隠している。しかし、どこかでみたような背格好の男だった。
どうやら監獄内で死人がでたようだ。死んだ囚人を、検体として中央医療研究所が運び出していくのはよくあることだった。都合のいいことに監獄のすぐ上が、その研究所だ。
「ご機嫌よう、リベリオン。まだ、あなたの熾火は燻っていらっしゃいますか」
それは意外にも、女性の声だった。
しかも若い。
そして、なにより驚いたのは、私をまだその名で呼ぶ者があったことだ。
リベリオン。無能な貴族が謳歌するこの現体制を、何度も変えようとして投獄される私につけられた異名だ。
半分嘲笑も含まれてる気がする。虚しい。
私は無言で、先程まで書いていたポエムを檻の隙間から差し出した。
「今夜、あなたのためにチャンスを作りましょう。取扱にはご注意を。願わくば、この国の不均衡を正していただけますよう」
女性は、檻の隙間から紙袋を渡すと、そのまま足音を響かせて遠ざかる。
私はその紙袋の中をのぞいて、また驚いた。
まず、高額の金貨。それに、宝石。小さな黒い靄が中に封じられた石の欠片もあった。厳重に布にくるまれている。
そして、牢獄の鍵。
最後に、ピンク色の液体が入ったガラス瓶。中には小さな肉片が浮いている。
「なんだ、これは」
顔を上げたときには、もう檻の前には誰もいなかった。
改めて、ガラスの小瓶を灯りに透かしてみる。
瓶の中の肉片が、どくりと脈打った気がした。
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