異世界ハードモード!〜持ってるチートスキルが使えなくても強くなれる剣士として努力を続けようと思います!〜

ちょっと黒い筆箱

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第1章 魔法使いしかいない世界

第2話 悪夢と転移と大恩人②

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 女の子との出会いの無い異世界での生活にもほんの少しだけ慣れた頃、俺は壊れた農具を修理して貰いにグレンの所へと向かった。

 グレンは壮年のこの島唯一の鍛冶師で、村で使う道具全般の制作・修理を一人で担っている。

「グレンさーん! クワが壊れちゃって! 修理お願いできますか?」

グレンは赤熱した鉄を打ち、なにやら形を作っていた。あの形状は……日本刀!?

「グレンさんこれ……なんで刀が……」

「これか……これは昔“ガルディア”って国で作られてた刀剣でな、この村ではデカい魚を捌いたりするだけだが……ごく稀にこの村に訪れる大陸のギルドなる所の商人が買って行くのよ……ま、何に使うかは知らんがな」

 待て待て待て情報が多いぞ!? 刀そっくりのこの刃物は刀じゃなくて、大陸にはギルドがある!? おお! なんか急に異世界っぽくなってきたぞ!

「なあマツル……お前俺の弟子にならねぇか?」

 グレンはニヤリと笑いそう告げた。

「弟子? 鍛冶師の? それまたどうしてですか?」

「鍛冶師は生憎間に合ってる……お前……この刀剣の事を刀とか言ったよな? お前さん、好きだろう? あーそうだ。ちょうど、ついさっきその商人に卸す用に打ってた一振りにキャンセルが出てなァ、勿体無いから誰かに使って欲しかったんだ。どうだ? この一振りに似合う男になって大陸で冒険者として名を上げる為にここで五年! 五年間俺の元で修行しねェか?」

「嫌です」

「即答だなおい......だが、強くなることが元の世界とやらに帰れる近道......と言ったらどうする?」

 グレンはそう言ってニヤリと笑った。

「それはどういう......」

「俺も伊達に長生きしてねぇからな。今まで何人か見た訳よ、元の世界に帰った奴を」

「どうやって帰るんですか!!?」

「いや、それは知らん。なんかすっごい強くなったら出来る方法らしいたァ聞いてるんだが」

 ざっくりしすぎだろ......

 だが、強くなるで元の世界へ帰れるかもしれないって?

 上等じゃねぇか。やってやるよ。
 
 俺には待っている人がいる。帰らなきゃいけない理由があるんだ。

「グレンさん……いや、師匠! これからよろしくお願いします!」

「早速弟子としての初仕事だ。まずは掃除! 洗濯!」

「はい!」

――――俺はグレン師匠の元で強い男になる為の修行を始めた。

「マツル、魚に火が通ってないぞ」

「師匠! すぐに焼き直します!」

「マツル! 工房の掃除は終わったか?」

「師匠。 今すぐに!」

「マツルお前コラァ! 昨日の服まだ乾いてねぇのか!」

「それぐらいテメェでやれやバカ師匠コラァァァ!!」

 家事しかやらせて貰えなかったので何度かキレて殴りかかった事があるが――

「俺に勝とうなんざ8年は早いわ」

「ずびばぜんでちだ......」

 グレン師匠はそれはもうガサツであった。てかガサツなんて言葉で片付けてもいいのか疑うレベルで酷かった。

 工房兼住居は一日三回掃除しないと強盗が入ったみたいになるし、基本食事摂らないし食べたと思えば野菜残すし米ばっか食うし怪我をするといい大人の癖に大騒ぎするし......

 こんなコドモオトナみたいな感じなのにそれはそれは、それはそれは超強かった。

 俺は勝負を仕掛ける度にボコボコに、それはもうボッコボコに負けた。

――――

「9万9千998......9万9千999......10万...よし、今日の日課終了っと。後は師匠の朝飯だけど、今日も魚で良いか」

 弟子入りして大体半年が過ぎた頃、遂に何もしてくれないと悟った俺は自力で強くなる為に自己の鍛錬を始めた。

 朝、島の誰よりも早く起きて1週5km程の海岸線を100週。その後の俺特製の大木を丸々一本余す所なく使った木刀で素振りを10万回。これを毎日繰り返した。

 最初は普通の大きさの木刀で、一晩中やっていたこの鍛錬も、徐々に木刀は巨大化して大木の幹を余す所なく使ったただの加工していない丸太に、海岸100周もいつからか日の出の少し前から始めても終わるようになっていた。

 それでも結局師匠には勝てた事無かったけど、最後の方ではボコボコのボッコボコではなくボコボコに怪我を軽減できるくらいにはなっていた。

 まぁ、特に何か大事件が起きる訳でもなく、あっと言う間に時間は過ぎていったのだった。
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