上 下
2 / 4

お前とだから大丈夫 〜実は片想いしてる攻めvs今度こそオレも触る!な受け〜

しおりを挟む

 部活に励んでいれば夏休みなんてあっという間で、二学期はすぐにやって来た。とは言えまだまだ暑くて、秋の気配は微塵もない。部活内ではついに最上級生になって、オレたちサッカー部も凌平たちもいっそう気合に満ちた日々を送っている。


 今日も今日とて部活後の汗だくのからだで、オレは部屋へと帰ってきた。寄りかかるようにして扉を開け、ただいま~と間延びした声を明るい室内へ投げかける。けれど返事は聞こえず、オレは首を傾げながら室内を見渡した。ここ最近はオレが先に帰宅することが多くて、けれど灯された明かりに今日は越されたなと思ったのに。凌平の姿は奥の椅子にもベッドにもない。えー、いつから電気点けっぱだったんだろ。もしかして朝から? 寮長に知られたらとゾッとしていると、背後の扉が開いた。

「おー、純太。おかえり」
「あ、いた。ただいま」
「何やってんだ? こんなとこで」
「電気点いてんのに凌平いねーなと思って」
「あー、わりぃ。帰ってすぐ後輩に呼ばれてさ」

 ちょっと出てたんだわ、と言いながら凌平はオレの脇を通って床に座りこんだ。うあー、と濁点でも付いていそうな気怠い声をあげ、自分のベッドに頭をもたれかける。

「相変わらず頼りにされてんな」
「まぁなー……」

 野球部の三年生が引退した後、凌平は新キャプテンになった。同級生のみならず年下からも上からも、何なら先生からも以前から頼りにされていたから、満場一致で決定したらしい。その人望はキャプテンと名がついてより拍車が掛かっているようで、帰りが遅いのもそういうことだ。友人でルームメイトのオレとしては少しはゆっくりしてほしいくらいだが、慕う奴らの気持ちもそれを無下に出来ない凌平の性格も分かる。だから何も言えることはなくて、だからオレは何か出来ることはないかと考えている。世話を焼かれてばかりのオレにはまだそれを見つけられていないけど。


      ✩


 風呂に行こうと誘ったけど返事がなかったから、オレは五分悩んで先に入浴を済ませた。眠ってしまったのをそっとしておくのと、重たいからだを引っ張ってでも風呂に連れてくのとどっちが正解だったんだろう。オレがくたくたになる度、凌平はその判断を見事にうまくやってのける。オレもそれが出来たらいいのに。

 未だに今日の選択が正しかったのか分からないまま部屋に戻ると、凌平はまださっきの姿勢で眠っていた。せめてベッドに上がれと促すのがはなまる百点だったのかも。オレは手に持っていた洗濯物やらを自分のベッドに放って、凌平の隣に腰を下ろした。肩に掛けたタオルで髪を拭きつつオレもベッドに頭を預けると、凌平の焼けた肌やまつ毛が良く見える。


 そのまま凌平の寝顔を眺めていると、なにか夢でも見ているのか眉間がきゅっと寄って、んー……と少し唸りはじめた。悪い夢を見ているのかもしれない、起こしたほうがいいか。悩んでいる間に凌平は今度は身をよじる。うん、やっぱり起こそう、このままじゃからだを痛めるかもしれない。そう決意して肩に手を伸ばそうとしたオレは、ふと目に映ったものについ固まってしまった。妙に色っぽい声が凌平から漏れたと思ったら、そのジャージの下がゆるく勃っていることに気づいてしまったからだ。 


「……っ!」


 こんなの、あの日のことを思い出さずにいられない。あの日――凌平の手で抜かれた時のことだ。情けないことに出してすぐ寝落ちしてしまい、その話はまだ一度もしていない。忘れてくれだとかごめんだとかが何度も喉のすぐそこまで出てきたけど、とうの凌平があまりにあっけらかんとしていたからその度に飲みこんできた。動揺しているオレがおかしいのかもしれないと思った、男子校あるあるだって凌平が言ってたし。

 それでもオレにしてみればとんでもない出来事で、毎日毎日心の中に大嵐を吹かせていた。大事な友だちにあんなことをさせてしまったこと、それから、凌平だって勃ってたくせにはぐらかされてしまったこと。自分ばっかりイイ思いをしたままだなんて、と悔しさと拗ねたような気持ちがまぜこぜのままで。

 そう、だからこれはチャンスじゃないか。でも勝手に触るのはまずいか? 抜き合いがあるあるだと言ったって、寝込みを襲うようなのはきっと良くない。オレは馬鹿だけどそういうところは真面目なんだ、自分で言うのもなんだけど。


「凌平~。なー、凌平」
「んー……」

 厚みのある凌平の肩を軽く揺すってみる。迷惑そうに唸るけど起きてはくれない。くり返し名前を呼んで今度は脇腹をつつく。寝ているのに筋肉がしっかりついているのが分かって、指先じゃなくて手のひらを置いてみる。しっかり筋トレしてる凌平は見るからにがっしりとした体形で腹も割れている。でも触ったことはさすがになくて、筋肉を確かめるように撫でていると。んう、となんだか可愛い声を出しながら凌平のまぶたがゆっくりと開いた。

「んー……純、太」
「起きた? おはよ」
「は……うわー、俺寝てた?」
「うん。二十分くらい?」
「マジかー。とりあえず風呂に……」

 ちょっとうたた寝しただけなのに、凌平は悔しそうに顔をゆがめた。それから立ち上がろうとした腰を何故だかもう一度おろし視線を彷徨わせる。何故だか、とか言ったけどオレには分かってる。勃っていることに気づいたからだ。どうにか取り繕おうとしている凌平を、オレはまた布団に頭を預けて覗きこむ。

「なぁ凌平、今日はオレがしてやろっか」
「は? なにを」
「なにをって……抜いてやろうか、それ」
「っ、は……!? お前……馬鹿言うな」

 オレに気づかれているなんて思いもしなかったみたいだ。それ、と指差しただけで凌平はびくりとからだを跳ね上げた。それから目を大きくして、呆れたみたいなため息をつく。えー……オレが馬鹿なら凌平だって馬鹿じゃん。

「凌平だけには言われたくねー」
「なんでだよ」
「凌平がオレにしたことじゃん。だからオレもすんの」
「いや、要らない」
「イヤだ、する」
「だからいいって」
「……なんで」
「なんで、って。てか見られただけでもダメージだから。勘弁して」

 凌平が頑なに拒むから、オレは段々悲しくなってきた。オレだってお前に出来ることはしてあげたいのに。それにそんなに嫌がられたら、あの日のオレが虚しくなる。簡単に言いくるめられて、友だちに抜いてもらって、あまりの気持ちよさに寝落ちして……? 

 無理強いはよくないと分かっているけど、多分オレは受け入れられたいんだ。オレが凌平に気を許しているのと同じくらい、凌平もそうだったらいいのに、って。

「凌平はそういうのイヤってこと? 男子校あるあるなんだろ?」
「……確かにそうは言ったけどさ」
「オレは……イヤじゃなかった。今も無理して言ってるわけじゃないし」
「……っ」

 何か言いたげにむにゅむにゅと口を動かした後、凌平はそれを飲みこむようにしてベッドに突っ伏した。もうひと押ししてそれでも嫌がられたら引き際かもしれない。諦めたくないけど。オレは床の上をかかとで一歩にじり寄って小さく零す。

「てか、見られただけでって言うけど寝てる時から分かってたから」
「……マジ?」
「うん。そんで触ろうと思ったけど勝手にすんのもあれだし起こした」
「っ、マジか……」
「なあ、オレもお前の触りたい。だめ?」
「……………………」

 凌平はついに黙りこんでしまった。たまにオレの顔をチラッと見て、大きなため息をつきながらまた顔を伏せて。何かと戦っているみたいで、だけどそれが何か分からないからオレは待つことしかできない。そうしてたっぷりの時間を使った後、凌平は意を決したように顔を上げた。


 どうか頷いてくれ、そう願っていたオレに、凌平は「純太がイヤじゃないなら」と言ってくれた。

  

 じゃあ、と凌平のジャージに手を伸ばしたら、自分で脱ぐと止められてしまった。どこか残念に思いつつ凌平のベッドに上がって、オレたちは向かい合った。下だけ脱いであぐらを掻いた凌平は頭を抱え、ダメ押しのように「マジですんの?」と聞いてくる。

「マジだってば。もう腹くくれ」

 そう言ってシーツの上に膝をついたオレの目に、凌平のそこがはっきりと映る。え、まだ半勃ちだよな……? 一緒に風呂に入る機会はたくさんあったけど、意識してこんなマジマジと見つめるのは初めてで。そもそも友だちが勃起してるのを見る機会なんてそうあるもんじゃないだろう。


 自分のより大きい凌平のものに圧倒されながら、オレはそろそろと手を伸ばす。まずはと人差し指を先端に当てると、凌平はちいさく息を飲んだ。

「嫌になんねぇ?」
「え?」
「男の触って気持ち悪くねぇの」
「あー……うん、全然。凌平だってオレの触ったじゃん」
「それは……」
「なあ、ここ気持ちいい?」
「っ、ああ、良い」

  あの時凌平は、触られる側のオレに気持ち悪くないかと言ったのに。今日は触っているオレに同じことを聞いてくる。

 そういう自分はオレの触って気持ち悪くなかったわけ? 今は? 

 ぬるぬるしだした先端を何度か弄ってから竿のほうに手をすべらせると、凌平は熱く息を吐く。妙に色っぽい声に、オレは思わずごくりと喉を鳴らしてしまう。それを誤魔化すように指を絡めたそこをゆるゆると扱いて、また先端を弄って。刺激を与える度にそこがぴくんと揺れては凌平が短く息を漏らす。そんな凌平の反応ひとつひとつから目が離せない。堪えるように噛まれるくちびるとか、たまにぐっと力がこもる腹筋とか。あー……こんなん駄目だ、オレまで堪らなくなってくる。オレはただ、気持ちよくしてやりたいだけなのに。

 凌平がそんなオレの変化に気づくのに時間はそうかからなかった。


「……純太、なぁお前も、」
「あー! それ以上言わないで」
「いや言うだろ。勃ってんじゃん」
「勃っ、てねーし」
「うそつけ」

 息を切らしながら伸ばされた手をオレは避けきれなかった。風呂上がりに履いた薄い短パンの上から大きな手があてがわれる。布越しなのに手の熱さが染みこんでくる気がしてやばい。あっ、なんて声が出て恥ずかしくてもオレは抵抗が出来ない。だってこのからだはもう知っているから。凌平の手がオレをどんなに気持ちよくしてくれるか。

「凌平~……」
「嫌じゃねぇ?」
「……じゃねぇ、けど、オレがしたいからダメだって」
「いいじゃん、ほら」
「う、わ、」

 くるくると撫でていた手が太もものほうに下りて裾から潜りこんできた。オレの短パンの中で凌平の手が蠢いている光景から目が離せない。どんどん中心に迫ってくるのを期待しながら、オレはなけなしの意地で凌平を見上げた。

 オレだってやられっぱなしってわけにはいかねぇの。疎かになっていた手でふたたび凌平のものに触れる。ちょっと放ったらかしにしちゃったのに、何故だか凌平のそこはさっきよりもガチガチだ。手のひらを先端に当ててくるりと撫でると、垂れ始めている先走りでくちゅくちゅと音がした。すげーえろい、と思わず熱い息がこぼれた時。

「くっそ、純太、脱がすぞ」
「う、わ」

 凌平の手がオレの背中に回って、あっという間に下着ごと引っこ抜かれてしまった。隠そうと閉じかけた足はかわされて形勢逆転。膝立ちになった凌平が覆いかぶさってオレの顔の横に手をついた。凌平を見上げる光景にまたあの日を思い出す。途端に顔が火照り始めたのが自分でもよく分かる。

「うわー……」
「純太? ……顔真っ赤だぞ」
「……分かってる」
「え、なんで?」
「なんでって……お前のせいだし」
「……俺?」
「っ! だって当たり前じゃん! 凌平にはなんてことないことかもだけどな! オレは、オレはずっと、あの日のことで頭がいっぱいだったんだからな!」
「……詳しく」

 何を言っているのか微塵も分かりませんとでも言うように、きょとんとしている凌平に急激に腹が立った。オレがどんな日々を過ごしてきたか、その元凶のコイツは知らないんだ。言わなかったんだから当たり前でも、それってすげー虚しい。オレはこんなに凌平のことで頭がいっぱいだったのに、凌平の中にはあの日のオレはちっとも、本当の本当に残っていなかったのか。

 それなら一から百まで教えてやろうとオレは腹を括った。恥ずかしいだとか、男子校あるあるだもんなとかオレがおかしいのかも、とか。そういうのはもうどうでもいい。


「あの時さ、おかずとかないって言ったじゃん」
「うん」
「今は違う。もうずっと、凌平にされたあの時のことばっか考えて抜いてる」
「…………」
「てかさ、たまった時に抜くだけでよかったのに……思い出したら勃つし。すげー困ってる」
「っ、」

 引いてんのか知らないけど、凌平は慌てたように口元に手を当ててオレから目を逸らした。むかつく、すげーむかつく。だから言うのやめてやんない。

「それに何回も思い出して抜いてたら、お前が触らせてくれなかったのやっぱり腹立つなっつうか、悔しい? っつうか。凌平の触りたかったなって、だんだんそういう妄想になって。なんかこの体勢、それ思い出して……それで赤くなった、そんだけ! な? お前のせい! だから……なあ凌平、引くなよぉ……」

 勢いがよかったのは途中までで、オレの言葉は次第に尻すぼみになった。鼻の奥がツンと痛んで、慌てて顔を背けた。下半身裸で何を今さらと思わなくもないが、恥ずかしいものは恥ずかしい。だけどオレはすぐにそれどころではなくなってしまう。凌平がオレの頭のすぐ横にぼすんとおでこを置いたからだ。抱きしめられてるみたいで、なんだろう、もっと泣きたくなってしまった。

「なんてことないわけねーじゃん」
「……え?」
「あるあるっつったけど、俺だって誰ともしたことねーし」
「え……え! あれ嘘!?」
「いや、嘘じゃねぇよ。俺はないってだけ。ダチとそういうことするとかムリだし」
「えー……オレってなんなん?」
「純太が気まずくないように普通のふりしてただけ」
「おい無視すんなー?」

 シーツに沈んだままの凌平の髪をぽんぽんと撫でてみる。するとゆっくりと頭を上げた凌平がすぐ近くでオレを見つめてきた。

「俺、純太のおかずだったんだ?」
「……うん」
「何回も?」
「ん、そう」
「……っ」

 あ……あの顔だ。眉間がくしゅっと寄って、目元がうっすら赤い。凌平のこの顔を見ると無性に胸が疼いて堪らなくなる。からだの中が、またふつふつと熱くなりはじめた。


「なあ凌平、もっかい触らして?」
「……あぁ」

 凌平のそこはガチガチのまんまだった。少しこするだけで凌平は小さな声で堪んねぇ、と零す。なんだろ、凌平の反応が可愛く思えて、オレも堪んない。もっと気持ちよくしてやりたい、先走りでぬるつく亀頭をぐちゅぐちゅ撫でるとまた一段と凌平のそこは大きくなった。オレの手で確かに気持ちよくなってるのが嬉しくて、また竿のほうに手を動かした時。凌平の大きな手がオレの腰を掴んだ。

「純太……腰揺れてる」
「へ?」
「俺の触ってるだけなのに? 気持ちいの? ほら」
「うぁっ、まだ、触んな、って」

 オレの先端にちょんと軽く触られただけなのに、その感覚で先走りで濡れてることがすぐに分かった。まだ触んなって言ったのに、人差し指をちゅぷちゅぷ埋めるみたいに弄ってくる。凌平が起き上がったからオレの手から凌平のちんこは逃げてしまって、オレだけが触られてる状態になる。

 だから、違うって。オレが触りたいって言ったのに。そう言いたいのに、本当はやめてほしくなくて静止の言葉はどこかに消えてしまう。

「凌平、やば、あ、」
「気持ちいい?」
「ん、すげー気持ちいい、りょーへい、」
「ん……」

 オレの竿をゆるく扱きながら、もう片手が亀頭を揉みこむように弄ってくる。そのえろい光景の向こうから、凌平がオレの顔をジッと見下ろしている。オレが息を飲んだり声を漏らすと、あのえろい顔をしてそこを重点的に刺激してくる。こんな時にも凌平のあの優しさが向けられてるのだと思うと、何だかまた泣きそうになった。だってそんなの、どうしたって嬉しい。他の奴らとはこんなのムリだと言った凌平の、この優しさも表情もオレだけのものってことだ。

「りょーへい、も、出そう、だから」
「ん、いいぞ」
「や、だめだって。オレはお前を気持ちよくしたいの」
「それは俺もだな」
「オレが、するのが先!」
「ふは、意地っ張りかよ」
「っ、」
「純太、なんか今おっきくなったけど」
「だ、って……あー! もう!」

 凌平の笑った顔を見たからだ、なんて言えるはずもない。だってそんなのまるで凌平のこと好きみたいじゃん? いや好きだけどさ、友だちとして、ルームメイトとして?

 妙な気配が心臓のところをかすめたけど、オレはそれよりも凌平をよくしたい気持ちを優先した。ここで踏ん張らないとオレはもうイくまで凌平のされるがままになると思ったから。


 腹筋に力をこめて起き上がる。また凌平に触ろうとした、それなのに。オレの筋力はあっけなく凌平の手に押し負けてしまった。さっきみたいに覆いかぶさって、なあ、と低い声と一緒に凌平の目がオレだけを見ている。

「俺に触る妄想して抜いてたんだっけ?」
「えー……それ蒸し返す?」
「うん。で、詳しくはどんな妄想?」
「は? いや言わないし!」
「なんで? それって純太の願望じゃねーの?」
「え……?」

 願望じゃねーの。たったそれだけの言葉に、オレはハッとした。妄想なんて自由なんだから、それは確かに願望が反映されるものなのかもしれない。凌平に自分も触りたい、そう思った知識の浅いオレの妄想は、馬鹿の一つ覚えみたいに同じシーンをくり返していた。あれがオレの願望?

「こんなやって押し倒されて? そんで?」
「……っ」
「俺にどう触って、純太はどうやって気持ちよくなんの?」
「あ……そ、れは……」
「なあ純太、全部同じようにするから。そうしたい。純太」

 多分とんでもないことを言われている、分かっているけど凌平があのえろい目で優しく笑ってみせるから、オレの頭は混乱しているんだと思う。恥ずかしいくせに、オレの口からは引きずり出されるみたいに凌平にしたいされたいと願ってしまったことが零れてゆく。嬉しい、と思ってしまっている。

「……凌平、が、前みたいに抜いてやろうかって、触ってきて」
「うん。抜いてやろうか?」
「あ……っ、」
「ん。それで?」
「それ、で、オレも触りたいって言ったら、いいよって、触らしてくれる。りょ、へい、こっち」
「うお」

 凌平の背中を引き寄せる。近づいた分だけ触りやすくなるからこのくらいがちょうどいい、妄想の通りだ。凌平のかたくて大きくて、ぬるついたそこに触れながらオレは自分のシャツを胸元まで捲くった。そのままだと汚れてしまうと思ったからなんだけど、凌平は目を丸くしてお前なぁ、と呆れたような顔を見せた。

「純太お前、前も思ったけどさ、チョロすぎ。心配なんだけど」
「なにが? 意味わかんない」
「はぁ……それになんつうか、近すぎる」
「なんだよイヤかよ」
「いや、イヤじゃねぇ。じゃねぇけど……」
「だってオレ、そういうのしか知らねぇもん」
「そういうの?」
「こんなえろいことみんながしてると思わねぇじゃん。普通、付き合ってるヤツらがすることだろ?」
「まぁそうだな」
「だからその、甘ったるいもんだと思ってんだよ、恋人? だろ。こういうことすんのは」
「……俺らがそういう風にしてる妄想してたってこと?」
「うん」
「それで抜けんだ?」
「うん……だから、もっと、こっち」

 さらに凌平のからだを引き寄せて、オレは片方の腕を凌平の首に巻きつけた。ああ、そう言えばあの時もこうしたな。そんで、この熱い肌に口をくっつけて。

 妄想の中のオレも、こうやっていつもかじりつく。凌平の手の中でぬるぬるに濡れてしまうのが恥ずかしくて、堪んなくて。首筋に歯を滑らせて、ぐずぐずに崩れた声で凌平の名前をうわ言みたいにくり返すんだ。

「りょーへい、りょーへ、あ、あ、すげ、きもちい、」
「ん……」

 そんなことなにも言わずしがみついてしまったのに、凌平は妄想の通りに続きをしてくれた。下のほうからぐちゅぐちゅ音がして、耳からも気持ちいいのが入ってくる。腰が揺れるのを止められなくて、凌平のを握っている手は動かせなくなってしまう。それなのに凌平はいつも、そう、こんな風に気持ちよさそうにオレの名前を呼ぶんだ。

「純太」
「あ、は、ぁ、りょーへ、なぁ、りょーへい」
「ん、どした?」
「妄想、まだ、ある」
「なに?」
「オレ、いつも、りょうへい、と」
「うん」
「キス、してる」
「っ、キス?」
「ん……」
「そ、れは……」
「イヤ? でもオレいつも、お前と……してる」

 そう言うと凌平は下くちびるをぎゅっと噛んで、凌平のちんこを握るだけになっていたオレの手を放させた。熱いおでこをオレの胸に乗っけて、なにかを堪えるみたいに小さく唸っている。

「りょーへい? えっと、」
「勘違い、したくないんだよ。怖ぇ」
「へ? どういう、うあっ」

 どういう意味だと問いたかったのに、疑問の言葉はひゅっと喉を鳴らしてオレの体内へと戻ってしまった。凌平がオレの肌に吸いついたからだ。心臓のところ、乳首のすぐ横。きつく吸われて、それから齧りながら多分舐められてて、あっつい息がオレの名前と一緒に途切れ途切れにそこにかかる。あーなんで、なんでそんなところが気持ちいいんだ。キスが欲しいのはそこじゃなくてはぐらかされたみたいで寂しいのに、オレは凌平の手に慌てて手を重ねた。

「は、あ、純太?」
「だ、め、イきそう」
「ん、イッていいぞ」
「だめ、まだやだ、りょーへいが、まだだろ」
「俺はいいから」
「よ、くない!」

 みっともなく息を乱れさせながら、オレはまた手を伸ばした。逞しい腹筋を撫でてから触ると、またさらにかたくなっている気がする。それでももう垂れるくらいに先走りに濡れていて、オレは堪らず喉を鳴らした。漠然と"欲しい"と思ってしまう自分に気がついている。

「純太、イヤだったら言えよ」
「へ? なにが、って、……あ」

 うっとりと触れていた手に凌平の手が重なったかと思うと、次の瞬間にはオレのものも一緒に握りこまれていた。ふたりの手の中で、凌平とオレのちんこが重なっている。それに気がついた時、背中がぞくぞくと震えたのが分かった。だってこんなの、今までのえろさの比じゃない。目を離せなくなるほど卑猥で、ガチガチにかたくてだけどぬるついて熱い、凌平の感触がちんこから伝ってくるんだから。

 頭の中がぼやけるほどの快感を止めたくて思わず握りこむと、凌平が唸りながら腰を揺らしてオレの首元に倒れこんできた。

「あ、っぶねー……」
「ご、ごめん……でも凌平、これ、えろすぎるって」
「ん……イヤ?」
「イヤ、じゃない……はぁ、りょーへいのちんこ当たってんの、やばい」
「お前マジ……はぁ」

 困ったみたいに口を歪ませながらそれでもあの優しい顔で凌平が笑う。その笑うの禁止、と言いたくなったけどすぐにやめた。凌平のこの顔がオレはずいぶん好きらしい。妄想の中でも現実でも、凌平はそうやっていつもオレを大切にするんだ。


 胸が甘く疼くのと一緒にオレは腰を揺らしていたらしい。凌平はオレの頭を撫でながら――白状すればこれも好き――またイヤなら言ってと念押ししてふたり分一緒に扱き始めた。ぬちぬちとえろい音を立てているのはオレも凌平もどっちもなんだと思うと堪んなくて、オレはされるがままになってしまう。貪欲な腰はその間も揺れてしまって、恥ずかしさに視界が潤みはじめた。

 はずかしい、きもちいい、もっと、りょーへい、きもちいい――

「りょーへ、なぁ、あ、りょーへい」
「ん、イきそ?」
「ちが、いや、それもだけど、なぁりょーへい、キス、したいってば」
「…………」

 多分またはぐらかされるんだろう。そう思いながらもねだってみると、ため息を吐いた凌平の顔がだんだん近づいてきた。あ、してくれんのかな。自分でねだったくせに途端に心臓がバクバク言い始めて、ぎゅっと目を瞑る。

 そんなオレに贈られたのは、なんとも幼いほっぺへのちゅーだった。躊躇いながらのキスが頬の上で瞬く。嬉しいけどなんだ、口じゃないのかよ。半べそになりながら抗議しようとしたけど、やっぱりまたそれは叶わなかった。甘ったるい声が文句を追い越して腹の奥から出てきたからだ。こんなのむりだって――だって、凌平が汗を散らしながら腰を振り始めたんだもん。凌平が手に力を込めるから、オレの手とそれからちんこにその律動が響く。たっぷり質量のあるかたいそこを、どろどろに濡らして絡ませながら、必死な顔をした凌平がオレの名前をくり返す。


 これはもう、あれだ――セックス、みたいだ。


 えろすぎる、でもきもちいい、凌平、りょーへい、もっとしてほしい。

 もうそれしか考えられなくて、オレの口からはみっともない声しか出てこない。絶頂はもうすぐそこだ。

「りょーへい、りょーへい! も、出るっ」
「ん……純太、声もう少し抑えろ。しー、な?」
「っは、あ、りょーへい、やばい、ってぇ、あ、りょーへいの声、も、すき、りょーへい、イく、あ、イ、んぁぁっ」
「っ、! くそっ、俺も、くっ……!」

 からだをぎゅっと縮こませてオレたちはほぼ同時にイッた。オレの腹の上に垂れてくる精液がえげつない量で、朧げになった頭ながらオレはまたすげーことしちゃったな、と思った。激しく胸を上下させながらすぐ横にある凌平の顔を見ると、ちょうど凌平もこっちを見ていたみたいで目が合う。何だかおかしくなって吹き出すと、凌平も眉を下げながら笑ってくれた。



「純太……大丈夫か?」
「うん。あー、いや、大丈夫じゃないかも?」
「え」

 一度出してしまえばスっとからだは冷める――はずなのにバクバクと心臓は騒がしいままで、オレはぽろりとそんなことを零した。だけど自分でもこの鼓動の説明が出来るはずもなく。慌てて起き上がって離れた凌平に寂しく思いながら、オレはおどけてみせた。

「凌平くんは妄想よりえろかったな~。一緒にこすんのは考えたこともなかったし」
「っ、お前なぁ……なぁ純太、俺とこんなことして、気持ち悪く、」
「ないよ」

 だけどちゃんと伝えておくべきことがあるって分かる。仕掛けたのはオレなんだからそんなこと言わせたくない。出来れば今後も。今後ってなんだよって胸の内でつっこみながら。

「ん……そっか」
「イヤだったら言ってるし」
「おう」
「こんなすげーこと、凌平としかムリ」
「お前……マジしばらく喋んな」
「え! なんで!?」


 凌平ひでー! と泣き真似をしているオレはまだ知らない。胸んとこについたキスマークに数分後大慌てする羽目になることとか。それから――胸を打ちっぱなしの鼓動の意味も、むくれた凌平がなんでそんなことを言ったのかも。今はただ、凌平も……という気持ちが叶って喜びでいっぱいだったから。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

没落貴族の愛され方

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:453

可愛いは正義

BL / 連載中 24h.ポイント:333pt お気に入り:2

最強で美人なお飾り嫁(♂)は無自覚に無双する

BL / 完結 24h.ポイント:113pt お気に入り:1,847

恋人契約~愛を知らないΩがαの愛に気づくまで~

BL / 連載中 24h.ポイント:1,838pt お気に入り:787

翔ちゃん、僕のお嫁さんになって下さい!!

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:537

【完結】聖獣人アルファは事務官オメガに溺れる

BL / 完結 24h.ポイント:11,644pt お気に入り:1,649

十和田くんはセフレだから。

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:92

トライアングル△ オフィスラブ

BL / 連載中 24h.ポイント:299pt お気に入り:2

【完結】偽りの宿命~運命の番~

BL / 完結 24h.ポイント:333pt お気に入り:982

処理中です...