天使のお迎え〜転生BLに憧れる僕の、美しい義兄弟から愛される生活〜

星寝むぎ

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今日は休ませてください

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「もしもし」
『ん? 誰だ?』
「鈴原杏樹の家族のものですが。高熱が出ているので今日は休ませていただきたくその連絡だったのですが……今、休むのは許さない、とおっしゃったのでしょうか」

 広田が言った言葉を広田自身に認識させるように、あえてゆっくりとくり返したように聞こえた。先ほどまでの威勢のいい声はもう聞こえてこず、かえって不安になる。壱星に対してなにか失礼なことを言っているかもしれない。思わず手をぎゅっと握りしめる。すると、杏樹の髪に壱星が触れてきた。ぽんぽんと撫で、それから強張った手を解くように握られてしまった。

 こんな時なのに、そのあたたかさに救われる心地がする。縋りたくなって、思わずもう片手も壱星の大きな手に添えた。

「はい、それではそういうことで。体調が戻ったらまたご連絡します」

 電話を切った壱星の言葉に、杏樹はハッと顔を上げた。この一瞬で眠ってしまったのか、途中の会話を聞けていなかったことに気づく。

「あ、あの、壱星さん。ごめんなさい、迷惑をおかけしてしまって」
「どうして杏樹くんが謝るんだ? なにも迷惑なんてかけられてないよ」

 壱星はそう言いながら杏樹の背中に手を添えて、再び横になるように促してくる。大人しく従えばふとんをかけられ、その上からトントンとゆっくりとしたリズムを刻まれる。まるで小さな子をあやしているみたいだ。

「広田さん、壱星さんに失礼なことを言ったんじゃないですか?」
「もしそうだとしても、杏樹くんは悪くないだろ」
「僕が自分でちゃんと休むって言えてれば、壱星さんに汚い言葉を聞かせずに済みました」
「俺のことは気にしなくていいんだよ。なあ杏樹くん、熱があるんだから寝たほうがいい」
「でも……」
「もしかして、眠れそうにない? だったら俺が添い寝でもしようか?」
「っ、添い寝!? いえ、ちゃんと寝られます!」
「はは、分かった。じゃあほら、おやすみ」

 もっときちんと謝りたいのに。前髪に潜るようにして、杏樹の額に壱星の指が触れてきた。そっと何度も往復して、それが妙に心地よくて。まぶたが重たくなってきて、抗うことができない。

 まどろんでいると、部屋のドアが開く気配がした。続いて誰かの声がする。

「ん? どうした?」
「兄貴の声がすると思って。なんでここにいんの?」
「杏樹くん、体調が悪かったみたいでさっき倒れかけたんだ」
「は!? マジ? 大丈夫なのかよ」
「多分、過労じゃないかな。ひと眠りしたら、病院に行ったほうがいいだろうな。なあ、ちょっとここ代わってくれるか? 水とか持ってきたいから」

 半分夢の中にいるような心地だから、聞こえてくる会話も現実のものだかもう判別がつかない。額に触れていた手は離れて、だけどすぐに今度は髪が撫でられた。大きな手。ああ、この感触好きだな。嬉しいと壱星に伝えたいけれど、どうにもまぶたが重い。声も出ない。すると、枕の周りのベッドが沈んだ気配がする。目は開けられなくても、目の前がふっと暗くなったのが分かる。

(壱星、さん?)

 ああ、名前を呼んだつもりでもやっぱり声が出ない。そうこうしている内に、前髪越しに額になにかが触れた。さっきまで撫でてくれていた指とは違う気がする。くちびる? いや、まさか。

「鈴原、はやく元気になるといいな。おやすみ」

 確認する間もそうするだけの気力もなく、沈んだベッドも触れていたなにかも一瞬で戻っていってしまった。

 ぼんやりとした意識の中で、今起きたことを反芻する。もしもあれが本当にくちびるだったのなら、キスをされたということだろうか。この家の兄弟にとっては、普通のやり取りなのかもしれない。壱星はさっき、子どもをあやすみたいにして寝かしつけようとしてきた。兄弟の一員になれたなんて思ってはいないけれど、そう考えるとしっくりくる。

 ただ――突然“鈴原”と呼ばれたことだけは不思議だった。壱星は最初からずっと、杏樹くんと呼んでくれていたのに。なんだか、寂しいな。

 そう感じたのを最後に、今度こそ杏樹は落ちるようにして眠りについた。
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