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【6】真相は紐解かれる
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松山の家から、このマンションに帰ってくることができた翌日。
無断欠席をしてしまったと店長に謝罪の電話をすると、むしろ心配をかけていたようだった。無事でよかったと店長は涙声で、「気にしなくていいからもう三日くらいゆっくりするように」と、これは店長命令だからと優しさをもらってしまった。これ以上休むなんてと気後れはするけれど、体も心も疲弊したのは事実で。店長の言葉に甘えさせてもらうことにした。復帰の日には、おいしいお菓子でも買っていこう。
電話を終えると、リビングにはいい香りが漂っていた。朝食は壱星が用意してくれたフレンチトーストで、彗の淹れてくれたコーヒーがお供に出てきた。四人で食卓を囲んで、銀河は楽しい話をいくつもしくてれる。
三人とも、今日は丸一日オフらしい。そうと言われなくても、あんな目にあった自分のために調整してくれたのだと分かる。申し訳ないながらも、それぞれの思いやりに杏樹が涙しそうになった時だった。
エレベーターがこの階に到着した音が鳴り響いた。おかしい。この階に上がるためにはエレベーター内に鍵をかざすか、エントランスからインターホンを押してこちらから解錠する以外に方法はないのに。
「……誰?」
杏樹は思わず体をすくめて身構えた。松山とのことがあったからか、警戒心で頭がいっぱいになる。けれどそんな杏樹の肩に、壱星がポンと両手を置いた。
「杏樹くん、不審者じゃないから安心して」
「……そう、なんですか? それじゃあ一体……」
「なんだよイチ兄、杏樹に言ってなかったん?」
「杏樹くんを癒やすことばっかり考えてたら、すっかり忘れてたみたいだ」
なんの話だか杏樹は分からないままで、ぽかんと口を開けることしかできない。杏樹の髪をくしゃっと撫でて、
「俺、出迎えてくる」
と彗が玄関のほうへ向かった。彗と誰かが話す声が聞こえてくる。それがリビングへと近づいてきて、杏樹は自ずと「この声……」と呟いた。
「杏樹!」
「え……えっ、お母さん!? どうしてここに?」
聞き覚えがあるな、と思った声の正体は、母親の律子のものだった。呆気にとられる杏樹の体を、律子はぎゅっと抱きしめる。
「壱星くんが連絡をくれて、飛んできたのよ。ごめんね、ごめんね杏樹。こんなことになるなんて……杏樹のことだけは絶対に守りたかったのに。全部、全部お母さんのせい」
「お母さん……」
大きく戸惑いながらも、杏樹はそっと母の背中に手を添えた。そこでようやく、訪問者は母ひとりではないことに杏樹は気づく。律子の背後に、男性がひとり立っていた。律子の肩に優しく手を置いて、
「律子さん、杏樹くんが困惑した顔をしているよ。まずは座って、ゆっくり話してあげたらどうかな」
と声をかける。
「あ……そうですね。杏樹、ごめんね」
「う、ううん。僕は大丈夫だけど……」
男性の声かけのおかげで、母の表情が目に見えて緩んだ。この紳士に、信頼を置いているのがよく分かる。
ああ、そうか。この人が――
「杏樹くん、初めまして。ようやく逢えたね。この子たちの父で、君のお母さんと再婚させてもらった、天羽宇京です」
大きな手が差し出され、杏樹はおずおずとそこに両手を重ねる。
さすがこの兄弟たちの父と言ったところか。歳は五十代だと聞いているが、もっと若々しく見える。美しい、という形容詞がぴったりの人だ。
「っ、初めまして! 鈴原杏樹、です。えっと、あの……お会いできて、嬉しいです」
「私もだよ。律子さんから聞いていた通り、すごく素敵な息子さんだ」
「い、いえ、そんな……」
宇京に会える日が来たら伝えたいと思っていた感謝の気持ちが、たくさんあるのに。母と一緒にいてくれることだとか、自分をこのマンションに住まわせてくれて、家具まで揃えてもらったことだとか。それなのに、突然の対面なのもあって、どれから話せばいいか混乱してしまう。
そんな杏樹の心境を知ってか知らずか、律子がまたぎゅっと抱きついてきた。よほど心配をかけたのだろう。その様子を見た彗が、
「とりあえず座ろう」
と促してくれた。
無断欠席をしてしまったと店長に謝罪の電話をすると、むしろ心配をかけていたようだった。無事でよかったと店長は涙声で、「気にしなくていいからもう三日くらいゆっくりするように」と、これは店長命令だからと優しさをもらってしまった。これ以上休むなんてと気後れはするけれど、体も心も疲弊したのは事実で。店長の言葉に甘えさせてもらうことにした。復帰の日には、おいしいお菓子でも買っていこう。
電話を終えると、リビングにはいい香りが漂っていた。朝食は壱星が用意してくれたフレンチトーストで、彗の淹れてくれたコーヒーがお供に出てきた。四人で食卓を囲んで、銀河は楽しい話をいくつもしくてれる。
三人とも、今日は丸一日オフらしい。そうと言われなくても、あんな目にあった自分のために調整してくれたのだと分かる。申し訳ないながらも、それぞれの思いやりに杏樹が涙しそうになった時だった。
エレベーターがこの階に到着した音が鳴り響いた。おかしい。この階に上がるためにはエレベーター内に鍵をかざすか、エントランスからインターホンを押してこちらから解錠する以外に方法はないのに。
「……誰?」
杏樹は思わず体をすくめて身構えた。松山とのことがあったからか、警戒心で頭がいっぱいになる。けれどそんな杏樹の肩に、壱星がポンと両手を置いた。
「杏樹くん、不審者じゃないから安心して」
「……そう、なんですか? それじゃあ一体……」
「なんだよイチ兄、杏樹に言ってなかったん?」
「杏樹くんを癒やすことばっかり考えてたら、すっかり忘れてたみたいだ」
なんの話だか杏樹は分からないままで、ぽかんと口を開けることしかできない。杏樹の髪をくしゃっと撫でて、
「俺、出迎えてくる」
と彗が玄関のほうへ向かった。彗と誰かが話す声が聞こえてくる。それがリビングへと近づいてきて、杏樹は自ずと「この声……」と呟いた。
「杏樹!」
「え……えっ、お母さん!? どうしてここに?」
聞き覚えがあるな、と思った声の正体は、母親の律子のものだった。呆気にとられる杏樹の体を、律子はぎゅっと抱きしめる。
「壱星くんが連絡をくれて、飛んできたのよ。ごめんね、ごめんね杏樹。こんなことになるなんて……杏樹のことだけは絶対に守りたかったのに。全部、全部お母さんのせい」
「お母さん……」
大きく戸惑いながらも、杏樹はそっと母の背中に手を添えた。そこでようやく、訪問者は母ひとりではないことに杏樹は気づく。律子の背後に、男性がひとり立っていた。律子の肩に優しく手を置いて、
「律子さん、杏樹くんが困惑した顔をしているよ。まずは座って、ゆっくり話してあげたらどうかな」
と声をかける。
「あ……そうですね。杏樹、ごめんね」
「う、ううん。僕は大丈夫だけど……」
男性の声かけのおかげで、母の表情が目に見えて緩んだ。この紳士に、信頼を置いているのがよく分かる。
ああ、そうか。この人が――
「杏樹くん、初めまして。ようやく逢えたね。この子たちの父で、君のお母さんと再婚させてもらった、天羽宇京です」
大きな手が差し出され、杏樹はおずおずとそこに両手を重ねる。
さすがこの兄弟たちの父と言ったところか。歳は五十代だと聞いているが、もっと若々しく見える。美しい、という形容詞がぴったりの人だ。
「っ、初めまして! 鈴原杏樹、です。えっと、あの……お会いできて、嬉しいです」
「私もだよ。律子さんから聞いていた通り、すごく素敵な息子さんだ」
「い、いえ、そんな……」
宇京に会える日が来たら伝えたいと思っていた感謝の気持ちが、たくさんあるのに。母と一緒にいてくれることだとか、自分をこのマンションに住まわせてくれて、家具まで揃えてもらったことだとか。それなのに、突然の対面なのもあって、どれから話せばいいか混乱してしまう。
そんな杏樹の心境を知ってか知らずか、律子がまたぎゅっと抱きついてきた。よほど心配をかけたのだろう。その様子を見た彗が、
「とりあえず座ろう」
と促してくれた。
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