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【6】真相は紐解かれる
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気を取り直し、全員でソファに腰を下ろす。真ん中に杏樹を挟んで宇京と律子、向かいのソファに兄弟たちが座った。なんだか不思議な座り位置だ。だが戸惑っているのは杏樹だけなのか、さっそくと言った風に律子が口を開く。
「壱星くんから無事だって聞いてるけど、本当にケガはないの?」
「うん、ないよ」
「そう、よかった。ううん、全然よくないわよね。色々とショックだったでしょう。説明させてくれる? 杏樹と、お母さんのこと」
「……うん、知りたい」
「杏樹が生まれた頃は、あの人の……松山の実家に住んでたの」
「っ、あの家に?」
「……そう。でも、すぐに杏樹とふたりで家出した。杏樹が1歳になる頃だった。あの人の金遣いの荒さと、暴力が原因よ」
「暴力……」
律子の話をまとめると、こうだ。
結婚してしばらくは、たしかに松山はいい人だった。だが、職場の業績が悪くなった頃から、問題を起こすようになった。律子の貯金に手を出してまでギャンブルにつぎこみ、それが上手くいかなければ律子に手を上げた。会社が軌道に乗ればきっと、元の松山に戻ってくれる。そう信じて律子は耐えていたが、自身をぶった手が杏樹の頬までかすめた時、目が覚めた心地がしたのだそうだ。
このまま、来るかもわからない時を待っている場合ではない。もし本当に好転したとしたって、自分が手を上げられて来たこと、お金を使いこまれたことに変わりはない。逃げよう。自分はもちろん、なにより杏樹のために、と。
幼い杏樹を抱いて夜中に家を抜け出し、通りかかった車に必死で頭を下げて、駅まで乗せてもらった。新幹線に飛び乗って、東京へと出た。もしも行き先が東京だと松山にバレても、都会の人混みの中ならそう簡単には見つからないと考えた。
「でも……ずっと怖かった。もしも松山に見つかって、杏樹を傷つけられたらって。だから……松山の存在自体、なかったことにしようって考えた。杏樹にはお父さんはもう死んだってことにして、外では杏樹と一緒にいないように徹底的に気をつけた。万が一、松山が東京に探しに来たとして……最悪お母さんは見つかっても、杏樹だけはどうしても守りたかったから」
「そっか、そういうことだったんだ」
母と一緒に出かけた記憶は、たしかに杏樹にはない。以前、壱星にも話したことがある事実だ。だが律子はいつだって、家の中でたくさん話をしてたくさん遊んでくれたから、寂しく思ったことはなかった。ただ、その真相が自分を守るためだったのだと知ると、こみ上げてくるものがある。
そっと鼻をすするとすぐにそれに気づいた律子が、ハンカチを差し出してくれた。杏樹が落ち着いたのを確認してから、話を続ける。
「天羽さんと結婚するなら、アメリカに引っ越すことになるって聞いた時……丁度いいって思ったわ。日本とアメリカで離れれば、杏樹と私がふたりでいるところを松山に見られる可能性は本当にゼロになる、って。もし杏樹だけが松山と出くわすことがあっても、あの人は赤ちゃんの時の杏樹しか知らないしね。でも……結局こんなことになっちゃった。杏樹、あなたを傷つけることになってしまって、本当にごめんなさい」
律子はそう言って、杏樹に向かって深々と頭を下げた。慌てた杏樹は、顔を上げるようにと母の肩に手を置いて促す。
「お母さんが謝ることなんて、ひとつもないよ。……だってあの人、僕が自分の息子だって分かったのは、名札をつけてたからって言ってた。それで何度も店に来て……声をかけてきたみたい。本当に、偶然だよ」
律子に似ていると思っていた――松山がそう言っていたことは、黙っていることにした。そんなことを知ったら、母は今までの努力を全部、無駄だったと後悔しかねない。
母はいつだって優しかった、愛情をたっぷり注いでもらった自信がある。だからこそ思うのだ、本当は色んな場所へ一緒に出かけたり、買い物をしたりしたかったのだろうと。それでも杏樹のために、とひたすら耐えてきた二十余年を意味がなかっただなんて、考えてほしくなかった。そんなの、深い愛情に他ならないのだから。
「壱星くんから無事だって聞いてるけど、本当にケガはないの?」
「うん、ないよ」
「そう、よかった。ううん、全然よくないわよね。色々とショックだったでしょう。説明させてくれる? 杏樹と、お母さんのこと」
「……うん、知りたい」
「杏樹が生まれた頃は、あの人の……松山の実家に住んでたの」
「っ、あの家に?」
「……そう。でも、すぐに杏樹とふたりで家出した。杏樹が1歳になる頃だった。あの人の金遣いの荒さと、暴力が原因よ」
「暴力……」
律子の話をまとめると、こうだ。
結婚してしばらくは、たしかに松山はいい人だった。だが、職場の業績が悪くなった頃から、問題を起こすようになった。律子の貯金に手を出してまでギャンブルにつぎこみ、それが上手くいかなければ律子に手を上げた。会社が軌道に乗ればきっと、元の松山に戻ってくれる。そう信じて律子は耐えていたが、自身をぶった手が杏樹の頬までかすめた時、目が覚めた心地がしたのだそうだ。
このまま、来るかもわからない時を待っている場合ではない。もし本当に好転したとしたって、自分が手を上げられて来たこと、お金を使いこまれたことに変わりはない。逃げよう。自分はもちろん、なにより杏樹のために、と。
幼い杏樹を抱いて夜中に家を抜け出し、通りかかった車に必死で頭を下げて、駅まで乗せてもらった。新幹線に飛び乗って、東京へと出た。もしも行き先が東京だと松山にバレても、都会の人混みの中ならそう簡単には見つからないと考えた。
「でも……ずっと怖かった。もしも松山に見つかって、杏樹を傷つけられたらって。だから……松山の存在自体、なかったことにしようって考えた。杏樹にはお父さんはもう死んだってことにして、外では杏樹と一緒にいないように徹底的に気をつけた。万が一、松山が東京に探しに来たとして……最悪お母さんは見つかっても、杏樹だけはどうしても守りたかったから」
「そっか、そういうことだったんだ」
母と一緒に出かけた記憶は、たしかに杏樹にはない。以前、壱星にも話したことがある事実だ。だが律子はいつだって、家の中でたくさん話をしてたくさん遊んでくれたから、寂しく思ったことはなかった。ただ、その真相が自分を守るためだったのだと知ると、こみ上げてくるものがある。
そっと鼻をすするとすぐにそれに気づいた律子が、ハンカチを差し出してくれた。杏樹が落ち着いたのを確認してから、話を続ける。
「天羽さんと結婚するなら、アメリカに引っ越すことになるって聞いた時……丁度いいって思ったわ。日本とアメリカで離れれば、杏樹と私がふたりでいるところを松山に見られる可能性は本当にゼロになる、って。もし杏樹だけが松山と出くわすことがあっても、あの人は赤ちゃんの時の杏樹しか知らないしね。でも……結局こんなことになっちゃった。杏樹、あなたを傷つけることになってしまって、本当にごめんなさい」
律子はそう言って、杏樹に向かって深々と頭を下げた。慌てた杏樹は、顔を上げるようにと母の肩に手を置いて促す。
「お母さんが謝ることなんて、ひとつもないよ。……だってあの人、僕が自分の息子だって分かったのは、名札をつけてたからって言ってた。それで何度も店に来て……声をかけてきたみたい。本当に、偶然だよ」
律子に似ていると思っていた――松山がそう言っていたことは、黙っていることにした。そんなことを知ったら、母は今までの努力を全部、無駄だったと後悔しかねない。
母はいつだって優しかった、愛情をたっぷり注いでもらった自信がある。だからこそ思うのだ、本当は色んな場所へ一緒に出かけたり、買い物をしたりしたかったのだろうと。それでも杏樹のために、とひたすら耐えてきた二十余年を意味がなかっただなんて、考えてほしくなかった。そんなの、深い愛情に他ならないのだから。
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𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄
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𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄
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